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闘技祭 決戦編

予選開始前

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「君の事は色々な人から話を聞いているよ」
「そうなんですか。良い噂だと良いんですけど……」
「はははっ」


晴れやかな笑顔を浮かべながらミドルはレナの掌を握りしめ、その握力の強さにレナは眉を顰める。やがて手を離すとミドルは真剣な表情を浮かべ、レナに宣言した。


「僕は王国の盾だ。だから王国の敵となる人間には容赦しないよ」
「それは……王妃様に言うべき言葉では?」
「……あの御方は素晴らしい方だよ。王国の事を誰よりも想っている」


レナの言葉にミドルは顔を顰め、その態度から彼が王妃側の人間である事が判明する。レナの周囲に存在した人間も雰囲気が変わった事に気付き、警戒心を露わにする。


「おい、用事が済んだのなら部屋にでも戻れよ」
「そういうわけにはいかないね。君達の行為に他の人間から苦情が来てるんだよ。すぐに机と椅子を撤収し、個室に待機して欲しいな」
「なら、最初からそう言えばいいじゃない。回りくどいやり方をするのね」
「……忠告はしたよ」


ミドルはシズネの言葉に苦笑すると、その場を立ち去る。レナは自分の掌に視線を向け、握りしめられた跡が残っており、あのまま掌を握りしめられていたら指の骨が折れていただろう。


『あの男、相当な強者だぞ。外見は平凡を装っているがな』
「厄介な奴に目を付けられたな坊主」
「今更だよ……いてて」
「だ、大丈夫?」


掌を抑えたレナにミナが心配そうに声を掛け、シズネは立ち去っていくミドルを睨みつける。一見は平凡な男性にしか見えないが、大将軍に相応しい力量を持っているのは間違いない。


「……ああいうタイプは苦手だわ。何を考えているのか分からないもの」
「そうだね」


シズネの言葉に同意しながらレナは回復魔法を施して右手を治そうとした時、階段から試合の係員と思われる兵士達が姿を現した。


「お待たせしました。間もなく予選開始20分前になります。選手の皆様は試合場へ移動してください」


その言葉を聞いた通路側の選手達は全員が表情を引き締め、レナは右手を治療しながらも全員に視線を向けて頷く。予選がどのような形式で行われるのかは不明だが、この中の全員が無事に突破する事を祈り、係員の元へ集う。


「試合場までは我々がご案内します。準備が整い次第、兵士に声を掛けて下さい」
「おい、予選はどうやって行われるんだ?」
「私達は試合場まで案内する役目しか命じられていません。予選の内容は試合場にて説明されます」
「ちっ」


シュンの質問に対して兵士は淡々と説明を返し、試合場まで付いてくるように促す。ここで彼等を脅しても意味はなく、レナ達は係員の指示に従って試合場まで移動を行う――





――同時刻、新闘技場の観客席には既に大勢の観衆が集まっており、観客席の最前列には各国の重要人物が集まっていた。人魚族と小髭族を除く王族が集まっており、バルトロス王国、ヨツバ王国、ビスト王国(獣人族の国家)、巨人国の4つの大国の代表が並んでいた。


「いや、本当に久しぶりだなバルトロス13世よ!!以前と会ったときより大分老けたのではないか?」
「はははっ……それはお互い様だろう。ビスト国王よ」


レナの父親であり、バルトロス王国の国王であるバルトロス13世の隣には獅子型の獣人族の男性が存在した。年代は50代程だが、その肉体は筋骨隆々であり、歴戦の戦士のような威厳を纏っていた。その隣にはティナの父親であり、氷雨のギルドと協力関係を結んだヨツバ王国の国王のデブリも存在する。


「ビストよ。お主は相変わらずだな……外見は変わっても中身は子供の頃から変わらんのう」
「がはははっ!!貴様から見れば誰もが子供に見えるだろう森人族の王よ!!そういうお主は儂の子供の頃から全く姿が変わらんな!!なあ、巨人の王よ!!」


デブリの隣には座っていても身長が4メートルを超える巨人族の老人が存在し、髪の毛は白髪が目立つが顎に生やしている髭は黒く、小髭族のように顎を覆い尽くす程に伸ばしている。この老人こそが巨人国の国王グガンであり、ビストに話しかけられた老人は一瞬だけ瞼を開き、すぐに閉じてしまう。


「ぬうっ?すまんがもう少し大きい声で喋ってくれんか。年齢を重ねると耳が遠くなってな……」
「おいおい、大丈夫か巨人の王よ。いい加減に子供に王位を譲って隠居したらどうだ?」
「かっかっかっ……まだまだ若い者には負けていられんわい」
「なんだ、ちゃんと聞こえているじゃないか。がははははっ!!」
「相変わらずだのうお主等は……あっはっはっはっ!!」
「…………」


呑気に笑い声をあげる3人の国王にデブリは溜息を吐き出し、彼はこれまでに歴代の各国の国王と顔合わせしているが、この3人程の問題児は知らない。


(全く……ビストとグガンはともかく、バルトロスよ。お主は自分の立場を理解しているのか?)


王妃がこの闘技場を利用して自分の子供を王位に継がせる目論見を抱いているのはデブリも承知済みであり、何も知らずに呑気に雑談を楽しむバルトロス13世の姿に頭を悩ませる。


(それにしても王妃の姿が見えない事が気になる……一体何を考えている?)


この場に集まっているのは各国の国王だけであり、王妃の姿は存在しない。予選が間もなく行われるにも関わらずに王妃が姿を見せない事にデブリは疑問を抱く。
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