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剣鬼 闘技祭準備編

祖母と孫

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「ふむ……噂の事は気になるが、ハヅキよ。儂の質問に正直に答えてくれ。お主は本当に二人の娘を和解するつもりはないのか?」
「それは……」
「ここにいる少年、いやレナ殿はお主の孫であろう?この際に二人切りで話し合ってみてはどうだ?」


ハヅキはレナに視線を向け、お互いに顔を合わせるのは初めてのため、どのように接すれば良いのか分からない。そんな二人の気持ちを察したように国王は溜息を吐きだし、命令を下す。


「ハヅキよ、今からしばらくの間、お主の業務を禁じる。二人でゆっくりと話し合うがいい」
「国王様……」
「誰か宿の人間を呼んできてくれ。誰も邪魔の入らない部屋を用意しろ」
「はっ!!」


国王の言葉にハヅキは戸惑いの表情を浮かべるが、そんな彼女を後押しするように国王は騎士に命じ、レナとハヅキを別の部屋に移動させる。外見はともかく、初めて出会う祖母と孫の会話に誰も邪魔をする事は出来ず、二人は別室に移動してお互いに向かい合う形で椅子に座る。


『…………』


最初に何を話せばいいのか分からず、レナとハヅキは黙り込む。祖母と孫の間柄と言っても出会ったのは今日が初めであり、しかもお互いの立場は複雑である。もしもこの光景をアイラとマリアが見たらどのような反応をするのか気にかかるが、最初に話を切り出したのはレナの方だった。


「えっと……初めまして」
「……他にいう言葉はなかったのですか?」


とりあえずは挨拶を行うレナに対し、ハヅキは苦笑いを浮かべる。そんな彼女の表情を見てレナは不思議と安心してしまい、少なくとも彼女から敵意は感じられなかった。だが、それだけにレナの家やアイラに送り付けられたハヅキ家からの手紙の件が気にかかり、この際にレナは彼女に質問する。


「あの、お祖母ちゃん」
「おばっ……!?」
「あ、すいません!!」
「……ま、まあ、いいでしょう」


外見が似ているせいかマリアに語り掛ける要領でレナは話しかけてしまい、慌てて謝罪する。そんな彼にハヅキは複雑な表情を浮かべるが、特に咎める事はなく、彼の話を聞く。


「何か私に聞きたいことがあるのですか?」
「あっ……えっと、手紙の事なんですけど……」
「手紙……貴方とマリアの元に送り付けられた手紙の事ですか」


ハヅキの表情が一変し、雰囲気が変化する程に真剣な顔つきに変わり、腕を組む。その威厳はマリアにも劣らず、レナは気後れしてしまうが、どうしてもハヅキ家の当主である彼女には色々と聞きたいことがあった。


「あの……本当にハヅキさんは手紙の事を知らないんですか」
「ハヅキ、と呼ぶのは止めなさい。貴方が私の孫である以上、他人行儀は不要です。私の事は御祖母様と呼びなさい」
「あ、はい」


一応はレナが孫である事を認めたのか、ハヅキは溜息を吐きながらも彼に「御祖母様」と呼ぶことを許す。アイラとマリアとは外見は似ているが性格面は異なり、レナは相手の気分を害さないように言葉を選ぶ。


「えっと……御祖母様は本当に手紙の事を知らなかったんですか?」
「何度も言いますが、私は貴方達に家に帰るように強要する内容の手紙は送って等いません。第一に私は貴方がこの都市に居る事を知ったのはつい最近の話です」
「最近……でも、俺の事を知っていたんですね?」
「マリアの元にいるハヤテから度々連絡は届いていました。最近、マリアがある人間の少年と親しい間柄になったと報告を受けた時から察しはついていました」
「ハヤテ?」
「マリアから聞いていないのですか?氷雨のギルドに所属するハヤテは我がハヅキ家と縁が深いミドリ家の人間エルフです」
「ミドリ家……」


レナは直接の面識はないが氷雨に所属する剣聖の一人である「ハヤテ」の名前は耳にしたことがあり、ハヅキの話によると彼女はマリアに仕えているわけではなく、ハヅキ家がミドリ家に協力して貰い、送り込んだ見張り役という。


「マリアが冒険者ギルドを創立する際、私はハヤテをマリアの元に送りました。表向きはハヤテはマリアに従っているように行動させていますが、裏ではハヅキ家とマリアの連絡役を任せているのです。最も連絡と言っても年に一度の報告しか行ってはいませんが……」
「どうして連絡役を?母上アイラ叔母様マリアの事を怒っていたんじゃないんですか?」
「……今でも許したわけではありません。ですが、それでも二人の事を忘れたわけではないのです。もしもあの娘達が戻ってきてくれるのなら……その時は私も謝る覚悟は出来ています」


ハヅキは二人が家を出ると言い出した時は怒りを抱いたが、年月が経過するにつれて自分の行動にも非があり、もっと娘たちと向き合うべきではなかったのかと考えるようになった。実際、父親の死亡の件に関しては冷静さを失って娘たちを責め立てた事に関してはハヅキも反省しており、幼い娘たちに父親の死亡の責任を押し付けた事は今でも悔いていた。
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