上 下
6 / 36
エルフ王国

能力値 オール1

しおりを挟む
「攻撃力、防御力、移動速度、魔法威力、魔法耐性、魔力容量……全て1です」
「何っ!?」
「そ、そんな馬鹿なっ!?」
「ええっ!?」


リンの言葉に玉座の間に存在した人間(エルフだが)全員が驚愕し、ナオ自身も慌てて水晶玉に表示されたステータス画面を確認すると、何故かアイリスと相対していた時とステータスの数値が変更されている事に気付く。少なくとも彼女に見せてもらった画面の能力値の数値は最低値でも「20」は存在したはずだが、即座にアイリスとのやり取りを思い出す。


『貧弱……なんだこりゃ?これが能力なの?』
『それは初期ステータスと能力の成長率が最低値になる代わりにレベルの制限と新しいスキルを覚えるときのSPの消費量が固定化します』
「あれかぁっ!!」
「ど、どうされました勇者様!?」


ナオはアイリスの言葉を思い出し、自分の初期ステータスが低い理由が「貧弱」の異能を身に着けた事が原因だと悟る。レベルの制限とSPの消費量が固定化される能力を身に着けた事になるが、その反面に初期ステータスが大幅に低下しているのだ。そんな事情を知らない森人族達はナオの能力値の異様な低さに疑問を抱く。


「何かの間違いではないのか?」
「い、いえ……鑑定の水晶玉は正常に作動しています。しかし、この数値は……」
「能力値が全て1だと……生まれてきた赤子でさえも2か3は存在するはずだぞ!?」
「ええっ……」


イヤンの言葉にナオは自分がこの世界の赤子よりも能力が低い事を知り、その割には普通に動ける事に不思議に思うが、画面に表示されている能力以外は普通の人間と同程度は存在するのかも知れない(体力など)。


「国王様、どうされますか?」
「ううむ……他に特筆した能力はないのか?」
「いえ、翻訳の技能スキル以外は彼は何も覚えていません」
「翻訳?」


リンの言葉にナオは水晶玉に視線を向けると、いつの間にか技能スキルの項目に「翻訳――あらゆる言語・文字を理解できる」と表示されており、恐らくはこの世界に訪れる際に覚えた能力だろう。だが、それ以外の能力は何も身に着けていなかった。


「父上!!やはり召喚の儀式は失敗していたのです!!こいつは勇者ではなく、只の一般人です!!」
「うっ……」


イヤンの言葉にナオは表情が引きつり、あながち彼の言葉は間違ってはいない。本来は召喚される勇者の代わりにナオはこの世界に送り込まれたため、彼自身も自分が勇者とは言い切れない。しかし、そんな王子の言葉に国王は慌てて宥める。


「まあ、待て……まだ彼が勇者ではないと確定したわけではない。もうしばらくの間は様子を見ようではないか」
「ですが父上!!」
「ともかく勇者殿……いや、ナオ殿と言ったな。しばらくはこの城の中で過ごすと良い。色々とこの世界の事を教えなければならんからな。リン将軍、悪いが世話役を頼むぞ」
「は、はい!!」


国王の言葉にリンは頷き、王子がこれ以上に何かを言い出す前に彼を外に連れ出す。その様子を王子は忌々しそうに見つめ、そんな彼の視線を感じながらもナオは玉座の間から抜け出した――




――その後、ナオはリンに連れられるままに通路を進み、今更ながらに自分が巨大な建造物に存在する事に気付く。但し、国王は「城」と言っていたが実際は巨大な大樹の内部を削り取って作り出された建造物である事に気付き、全長が300メートルを超える巨大な大樹の中に自分が存在する事を知る。


「うわぁっ……凄い景色だな」
「ここは勇者様のために用意したお部屋です。どうぞご自由にお使いください」
「あ、はい」


ナオが案内されたのは大樹の頂上付近に存在する部屋であり、窓の外の光景を見ると大樹の根本の方に木造性の建物が幾つも並んでいた。リンの話によるとここがエルフ王国の王都らしく、人口は数万人存在するという。


「それでは早速ですが世話役を任された私がこの世界の情勢や常識を教えます。よろしいでしょうか?」
「あ、えっと……」
「お疲れのようでしたら後で説明しますが、どうしますか?」


リンの言葉にナオは考え込み、まだ少し頭が混乱しているので休みたい気持ちはあったが、出来るだけ早くこの世界の事を知りたいと考えた彼は構わずにリンに情報を教えてもらう。


「説明をお願いします」
「分かりました。では、まずはこの世界に存在する種族の国家からお教えしましょう――」




――そこから先はリンの説明が延々と続き、ナオはこの世界には「森人族」の他に「人間」「獣人族」「巨人族」「小髭族」「魔人族」の六種族が存在する事を知る。そして魔人族以外の種族は国家を築いており、人間に至っては「バルトロス帝国」と「和国」の2つの国家を築いていた。

森人族が築いた国家の名前は「エルフ王国」であり、六種族の中でも最も歴史が深い王国だという。しかも驚くべきことに現在の国王は百年以上前から王位を引き継いでおり、実年齢は300才を超えているらしい。森人族は他の種族と比べて長命で魔法の能力に優れた種族だと判明した。
しおりを挟む
感想 60

あなたにおすすめの小説

【完結】ガラクタゴミしか召喚出来ないへっぽこ聖女、ゴミを糧にする大精霊達とのんびりスローライフを送る〜追放した王族なんて知らんぷりです!〜

櫛田こころ
ファンタジー
お前なんか、ガラクタ当然だ。 はじめの頃は……依頼者の望み通りのものを召喚出来た、召喚魔法を得意とする聖女・ミラジェーンは……ついに王族から追放を命じられた。 役立たずの聖女の代わりなど、いくらでもいると。 ミラジェーンの召喚魔法では、いつからか依頼の品どころか本当にガラクタもだが『ゴミ』しか召喚出来なくなってしまった。 なので、大人しく城から立ち去る時に……一匹の精霊と出会った。餌を与えようにも、相変わらずゴミしか召喚出来ずに泣いてしまうと……その精霊は、なんとゴミを『食べて』しまった。 美味しい美味しいと絶賛してくれた精霊は……ただの精霊ではなく、精霊王に次ぐ強力な大精霊だとわかり。ミラジェーンを精霊の里に来て欲しいと頼んできたのだ。 追放された聖女の召喚魔法は、実は精霊達には美味しい美味しいご飯だとわかり、のんびり楽しく過ごしていくスローライフストーリーを目指します!!

身代わり婚~暴君と呼ばれた辺境伯に拒絶された仮初の花嫁<外伝>

結城芙由奈 
恋愛
【前作の登場人物たちのもう一つの物語】 アイゼンシュタット城の人々のそれぞれの物語 ※他サイトでも投稿中

婚約破棄された検品令嬢ですが、冷酷辺境伯の子を身籠りました。 でも本当はお優しい方で毎日幸せです

青空あかな
恋愛
旧題:「荷物検査など誰でもできる」と婚約破棄された検品令嬢ですが、極悪非道な辺境伯の子を身籠りました。でも本当はお優しい方で毎日心が癒されています チェック男爵家長女のキュリティは、貴重な闇魔法の解呪師として王宮で荷物検査の仕事をしていた。 しかし、ある日突然婚約破棄されてしまう。 婚約者である伯爵家嫡男から、キュリティの義妹が好きになったと言われたのだ。 さらには、婚約者の権力によって検査係の仕事まで義妹に奪われる。 失意の中、キュリティは辺境へ向かうと、極悪非道と噂される辺境伯が魔法実験を行っていた。 目立たず通り過ぎようとしたが、魔法事故が起きて辺境伯の子を身ごもってしまう。 二人は形式上の夫婦となるが、辺境伯は存外優しい人でキュリティは温かい日々に心を癒されていく。 一方、義妹は仕事でミスばかり。 闇魔法を解呪することはおろか見破ることさえできない。 挙句の果てには、闇魔法に呪われた荷物を王宮内に入れてしまう――。 ※おかげさまでHOTランキング1位になりました! ありがとうございます! ※ノベマ!様で短編版を掲載中でございます。

最強騎士は料理が作りたい

菁 犬兎
ファンタジー
こんにちわ!!私はティファ。18歳。 ある国で軽い気持ちで兵士になったら気付いたら最強騎士になってしまいました!でも私、本当は小さな料理店を開くのが夢なんです。そ・れ・な・の・に!!私、仲間に裏切られて敵国に捕まってしまいました!!あわわどうしましょ!でも、何だか王様の様子がおかしいのです。私、一体どうなってしまうんでしょうか? *小説家になろう様にも掲載されております。

【取り下げ予定】愛されない妃ですので。

ごろごろみかん。
恋愛
王妃になんて、望んでなったわけではない。 国王夫妻のリュシアンとミレーゼの関係は冷えきっていた。 「僕はきみを愛していない」 はっきりそう告げた彼は、ミレーゼ以外の女性を抱き、愛を囁いた。 『お飾り王妃』の名を戴くミレーゼだが、ある日彼女は側妃たちの諍いに巻き込まれ、命を落としてしまう。 (ああ、私の人生ってなんだったんだろう──?) そう思って人生に終止符を打ったミレーゼだったが、気がつくと結婚前に戻っていた。 しかも、別の人間になっている? なぜか見知らぬ伯爵令嬢になってしまったミレーゼだが、彼女は決意する。新たな人生、今度はリュシアンに関わることなく、平凡で優しい幸せを掴もう、と。 *年齢制限を18→15に変更しました。

やり直し令嬢は本当にやり直す

お好み焼き
恋愛
やり直しにも色々あるものです。婚約者に若い令嬢に乗り換えられ婚約解消されてしまったので、本来なら婚約する前に時を巻き戻すことが出来ればそれが一番よかったのですけれど、そんな事は神ではないわたくしには不可能です。けれどわたくしの場合は、寿命は変えられないけど見た目年齢は変えられる不老のエルフの血を引いていたお陰で、本当にやり直すことができました。一方わたくしから若いご令嬢に乗り換えた元婚約者は……。

エリクサーは不老不死の薬ではありません。~完成したエリクサーのせいで追放されましたが、隣国で色々助けてたら聖人に……ただの草使いですよ~

シロ鼬
ファンタジー
エリクサー……それは生命あるものすべてを癒し、治す薬――そう、それだけだ。 主人公、リッツはスキル『草』と持ち前の知識でついにエリクサーを完成させるが、なぜか王様に偽物と判断されてしまう。 追放され行く当てもなくなったリッツは、とりあえず大好きな草を集めていると怪我をした神獣の子に出会う。 さらには倒れた少女と出会い、疫病が発生したという隣国へ向かった。 疫病? これ飲めば治りますよ? これは自前の薬とエリクサーを使い、聖人と呼ばれてしまった男の物語。

【12/29にて公開終了】愛するつもりなぞないんでしょうから

真朱
恋愛
この国の姫は公爵令息と婚約していたが、隣国との和睦のため、一転して隣国の王子の許へ嫁ぐことになった。余計ないざこざを防ぐべく、姫の元婚約者の公爵令息は王命でさくっと婚姻させられることになり、その相手として白羽の矢が立ったのは辺境伯家の二女・ディアナだった。「可憐な姫の後が、脳筋な辺境伯んとこの娘って、公爵令息かわいそうに…。これはあれでしょ?『お前を愛するつもりはない!』ってやつでしょ?」  期待も遠慮も捨ててる新妻ディアナと、好青年の仮面をひっ剥がされていく旦那様ラキルスの、『明日はどっちだ』な夫婦のお話。    ※なんちゃって異世界です。なんでもあり、ご都合主義をご容赦ください。  ※新婚夫婦のお話ですが色っぽさゼロです。Rは物騒な方です。  ※ざまあのお話ではありません。軽い読み物とご理解いただけると幸いです。 ※コミカライズにより12/29にて公開を終了させていただきます。

処理中です...