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入学試験編

第57話 初めての杖魔法

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「名前はあるんですか?」
「旋斧だ。誰が何の目的でこんなもんを作ったのかは知らないが、こっちは扱いに困ってるんだ。形が不気味過ぎるせいで誰も買ってくれないから仕方なくここに飾ってあるんだ」
「へえ……」


旋斧と言う名前の剣と言うべきか斧と言うべきか分からぬ武器にレノは不思議と興味を惹かれる。しかし、ガルルから出ていくように怒鳴られる。


「仕事に集中できないだろうが!!さっさと出て行け!!」
「す、すいません!!」
「ああ、それと杖ができあがるのは明後日だ。ちゃんと取りに来いよ」
「はい……えっ!?明後日!?」


杖が完成する日を聞かされてレノは驚いた。明日には魔法学園に通う予定なので杖がないと困るのだが、ガルルによれば杖は簡単に作れる代物ではないという。


「杖を作るには色々と手順を踏まないといけないんだよ!!お前の血を世界樹に馴染ませるだけでも半日は掛かるんだ!!」
「そ、そんなに時間が掛かるんですか!?明日には杖が必要なんですけど……」
「たくっ、しょうがねえ奴だな……それならこいつを持っていけ」


ガルルは面倒くさそうな表情を浮かべて棚の中から木箱を取り出し、中には真っ白な杖が大量に入っていた。


「こいつは魔術師の練習用の杖だ。これなら誰でも魔法を使うことができるが、その代わりに性能は期待するな」
「え!?そんなのがあるんですか?」
「本来なら子供の魔術師が練習するために作り出された杖だ。言っておくが過度な期待をするなよ、こいつはあくまでも訓練するために開発された杖だ。いくらでもあるから好きなだけ持っていけ」
「あ、ありがとうございます!!」


意外にも親切なことにガルルはレノに練習用の杖を渡してくれた。念のためにレノは2本ほど杖を受け取ると、今度こそ追い出された――





――店の外にはダイン達が待機しており、レノが戻ってくるまで待っていてくれた。彼が戻ってくるとハルナが心配そうに尋ねる。


「レノ君!!どうだった?杖は作って貰えるの?」
「それが完成するのに明後日まで掛かるらしくて……」
「明後日か、まあ早い方だと思うぞ」
「そうだな。普通の店だったら一週間かかることもあるらしいし……」


ダイン達によれば杖を二日で完成させるだけでも十分凄いらしく、ガルルの鍛冶師としての腕前が優れていることが分かる。しかし、問題なのは杖が完成するまでの間はレノは練習用の杖で過ごさなければならない。


「この杖を代わりに貰ったんだけど、大丈夫かな?」
「それ、練習用の杖だろ?それぐらいなら僕も持ってるよ」
「あたしも杖を貰う前はそれで練習してたぞ」
「へえ、こんなのがあるんだ」


練習用の杖はネココとダインも今よりも小さいころに扱っていたらしく、二人の場合はレノが魔法を覚えた頃よりも早くから魔法の練習をしていた。そんな二人にレノは杖で魔法を使う方法を尋ねる。


「杖で魔法を使うのはどうやればいいの?」
「別に難しいことじゃないよ。杖を手にした状態で魔法を唱えるだけでいいんだ」
「そうそう、でも練習用の杖だから大した魔法は使えないと思うけどな」
「なるほど……じゃあ、試してみようかな」
「ねえ、そろそろ暗くなるから先に帰ろうよ。練習するなら宿屋の方がいいと思うよ?」
「ぷるん(賛成)」


ハルナの提案を聞いてレノは何時の間にか夕暮れを迎えていることに気が付き、魔法の練習をするにしても人通りが多い場所よりも、一人で落ち着ける部屋の方が良いと判断して一旦引き返すことにした――





――宿屋へ戻るとレノは早速自室に戻って杖を利用した魔法の練習を行う。ダイン達によれば練習用の杖ならば簡単に魔法が使えるらしく、試しに呪文を唱えた。


「ファイアボール……おおっ!?」


杖を右手に持った状態で魔法を唱えると、吸魔石に触れた時のように魔力が杖に吸い込まれる感覚に襲われ、杖の先端に小さな火球が誕生した。


「成功した!!でも、やたら小さいな……」


火球の大きさは通常時の十分の一程度であり、とてもではないか魔物との戦闘では役立ちそうにない。練習用の杖なので本来の魔法の効果が発揮できないとは聞いていたが、想像以上に魔法の効果が制限されていた。

試しに杖を動かすと火球も同時に動き、激しく杖を振っても火球が消える様子はない。見た目は小さな火にしか見えないが、魔力を送り続けている限りは消えないのかもしれない。


「なんか変な感覚だな。ずっと魔力を吸われているというか……」


自分で魔法を発動させるのとは違い、杖で魔法を維持する場合は常に魔力を杖に送り続けなければならなかった。尤も火球が小さいせいか吸われる魔力は大したことはないが、それでも慣れるのに時間が掛かりそうだった。


「さてと、今度は飛ばしてみるか……」


アルが魔法を使った時の出来事を思い出しながらレノは練習を行う。アルの場合は杖を繰り出した方向に魔法を飛ばしていたが、レノが杖を突き出しても火球は動かない。


「あれ?おかしいな……行け!!」


今度は火球を前方に飛ばすように念じて見ると、徐々に火球が杖から離れていく。それを見たレノは火球を飛ばすには強く念じる必要があると気付く。


「……遅い」


杖から離れた火球は亀の様な移動速度でゆっくりと進み、しかみ1メートルも移動しない内に消えてしまう。それを見たレノは何とも言えない表情を浮かべ、これならば杖など使わずに火球を直接投げた方が楽だった。


「一応、もうちょっとだけ練習してみるか……慣れればもっと早く飛ばせるようになるかもしれないし」


アルのように火球を射出できるようにレノは練習を続けるが、思うように上手くいかなかった――





――翌日の朝、レノは両目に隈ができた状態でハルナ達と食事を行う。酷く疲れた様子のレノを見てハルナ達は心配する。


「だ、大丈夫?何だか凄く眠そうだけど……」
「え?ああ、平気だよ……徹夜は慣れてるから」
「お前、まさか夜通し魔法の練習してたのか!?今日は魔法学園に行くんだぞ!?」
「レノの兄ちゃん、無茶は駄目だぞ」
「ぷるんっ(←水が入ったコップを差し出す)」


徹夜して魔法の練習をしたせいでレノの体調は万全とは言い難いが、もう休んでいる暇はない。食事を終えたら魔法学園からの迎えの馬車がくる予定だった。


(ちょっと張り切りすぎたかな……けど、結局は爺ちゃんみたいに上手く飛ばせなかったな)


夜通し練習を続けたアルのように火球を素早く撃ち込むことはできなかった。それでも練習を重ねていくうちに火球を少しずつ早く遠くに飛ばせるようになった。


(多分、爺ちゃんはあんなに早く火球を飛ばせるのは凄く練習してたからなんだろうな……でも、この調子だと追いつくのにどれだけかかるんだろう)


結局は練習用の杖でさえもレノが火球を飛ばせた距離は1メートル程度であり、練習を繰り返せば少しずつではあるが飛距離と速度を伸ばせたとは考えられた。しかし、アルのように火球を射出させるまでに至るには何か月、あるいは何年も練習しなければならない。

恐らくは他の子供達は杖を使って小さい頃から毎日練習してきており、レノは他の子と経験の差が大き過ぎた。せめてアルの杖が無事ならば練習できたが、ここまで来た以上は泣き言を言ってられない。


(とにかく、毎日練習して他の子に追いつけるように頑張らないと……でも、これ本当に必要なのかな?)


杖を使って練習している時、とある疑問を抱く。魔術師が杖を使って戦うのが常識だが、レノは自分には杖で魔法を使うのが合っていない気がした――
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