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入学試験編

第54話 魔術師の常識《杖と魔石》

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――王都へ帰還した子供達は本日は解散となった。今日の所は帰って身体を休ませ、明日の朝に魔法学園に集まるように伝えられた。試験を受けるために他の街から来た子供達は学園側が指定した宿屋に泊まり、偶然にもレノが宿泊していた宿屋にはダイン達も泊まっていた


「何だよ、皆同じ宿屋に泊まってたのか」
「私達以外の子は他の宿屋に泊まってるみたいだね」
「こんな偶然もあるんだな……」
「というかこの子も連れて帰ってきたんだ」
「ぷるんっ(よろしく)」


宿屋の食堂にてレノ達は一緒に食事を取り、昨日から何も食べていなかったので机の上には大量の料理が並べられていた。ちなみに宿代と食事代も学園側が支払うらしく、ダイン以外は遠慮せずに次々と料理を頼む。


「なあなあ、このボアの生姜焼きを三つください!!」
「私もオークのステーキをおかわり!!」
「俺も二人と同じの下さい!!」
「お前等……無料だからって食べ過ぎじゃないのか?」
「ぷるぷるっ(←ジュースをストローで吸う)」


大量の料理を注文するレノ達にダインは若干引くが、昨日から動きっぱなしだったせいで空腹だった三人は次々と料理を喰らう。


「う~ん、凄く美味しいよ!!」
「ははは、気に入ってくれたかい?うちの料理は材料が新鮮な物ばっかりだからね」
「新鮮?」
「最近、魔物がやたらと増え始めただろ?そのお陰で魔物の肉が簡単に手に入るようになったのさ。少し前まではボアもオークも滅多に食べられなかったんだけどね……」


食堂の料理人のおばちゃんの話によると最近は王都付近でも魔物の数が増え始めているらしく、食用となる魔物も大量に狩れるようになったお陰でどこの店でも魔物の肉を取り扱う料理が増え始めている。

数年前までは山奥でしか発見されなかったボアやオークも最近では草原地帯にまで出没するようになり、そのお陰で魔物の肉には困らなくなったが、反面に人々の魔物の被害は増え始めていた。


「そこのガリガリの坊主も遠慮せずに食べな。こんな時でもないとうちの料理なんて腹いっぱい食べられないからね」
「ど、どうも……じゃあ、美味しい魚料理とかありますか?」
「うちの名物は魚人の丸焼きだけど残さず食べきれるのかい?」
「食べないよ!!誰が喜ぶんだその料理!?」
「ははは、冗談さ。すぐに用意してやるから待ってな」


おばちゃんが去るとレノは机の上に並べられた料理を見て殆どが魔物の素材を使われていることに気が付く。最近は何処の街でも魔物の肉を食材として取り扱っており、普通の動物の料理が減ったような気がする。


(旅をする間もよく魔物に襲われたな……村の皆は平気かな?)


故郷の村のことを思い出してレノは心配するが、自分が飼っていたペットのビャクを思い出す。村を出る前にレノは調べたところビャクは白狼種と呼ばれる魔獣だと判明し、狼ではあるが群れを作らずに行動するので有名な魔獣だった。

白狼種は狼の魔獣の中でも珍しい存在であり、本来ならば北の寒い地方にしか生息しない種である。一定の時期までは普通の狼のように成長するが、成長期を迎えると一気に身体が大きくなる。ビャクが急激に大きくなったのは成長期を迎えたからだと思われた。


(今度会う時は山みたいに大きくなってたらどうしよう……俺一人で養えるかな?)


ビャクのことを思い出したレノは懐かしく感じ、まだ村を離れてから一か月しか経過していないが恋しく思う。しかし、立派な魔術師になるために王都まで遥々来た事を想い出して気を引き締め直す。


「ねえ、皆に聞きたいことがあるんだけど……」
「ふがっ?」
「ひひふぁいこふぉっ?」
「ふぁんだっ?」
「……とりあえず、口の中の物は全部食べてからでいいよ」
「ぷるんっ(行儀悪い)」


口の中にいっぱい食べ物を詰め込んだ三人にレノは苦笑いを浮かべ、全員が食べ終わるまで待つと改めて尋ねた。


「ダインとネココが使っている杖は何処で手に入れたのか教えて欲しいんだけど」
「杖?これのことか?こいつは親父が作ってくれたんだよ」
「僕のは……か、買ったんだよ」


ネココは父親から制作してもらい、ダインは何故か口ごもる。改めてそれぞれの杖をみると特徴があることに気付く。


「ダイン君の杖は黒いんだね」
「ああ、僕は影魔導士だからな。それと呼び捨てでいいよ」
「分かった。影魔導士の人は黒い杖を使うのが当たり前なの?」
「お前、本当に何も知らないんだな……闇属性の魔法の使い手の杖は自然と黒くなるんだよ」
「そうそう、杖で魔法を使うと術者の魔力の影響を受けて色が変わるんだよ。レノの兄ちゃんはそんなことも知らなかったのか?」
「なんかごめん……」
「き、気にしなくていいよ。私も知らなかったもん」
「ハルナの姉ちゃんは魔物使いだからそもそも杖なんて使わないもんな」


ダインの杖は元から黒かったわけではないらしく、魔法を使い続けるうちに変色した。闇属性の魔法を使い続けた杖は自然と黒くなるらしく、ネココの杖も元々は別の色合いだったことが判明する。


「あたしの杖も最初はこんな色じゃなかったけど、魔法を使い続けるうちに変わったんだ」
「闇属性なら黒、地属性なら赤茶色に変色するんだ。ちなみに風属性は緑、火属性は赤、水属性は青、雷属性は黄、聖属性は白に変わる。魔術師の間では常識だぞ?」
「そうなのか……あれ?でも爺ちゃんの杖は別に赤くなかったような……」


レノの記憶が確かならばアルが所為していた杖は赤色ではなく、先端の部分に火属性の魔石が取り付けられただけだった。そのことをダインに話すと彼は心当たりがあった。


「レノの祖父さんが使っていた杖は多分だけど戦争していた時に作られた杖じゃないのかな?戦争が起きていた時代の杖は誰でも扱えるように加工されてたって聞いたことがあるよ」
「え?どういうこと?」
「今の時代の魔術師の杖は持ち主以外だと魔法を発動できないんだよ。だから僕の杖を他の魔術師が使おうとしても反応しないんだ」
「杖を作る時に持ち主の髪の毛や血を混ぜ合わせるんだ。そうすることで魔法の効果を高められるって親父が言ってた」
「そうだったんだ……」


今更ながらにレノは自分が魔術師に関する知識がないことを思い知り、こんな事ならば自分自身を鍛えるだけではなく、もっと魔術師の勉強をしておけば良かったと後悔する。

50年前までは魔術師が扱う杖は誰もが魔法を使えるように設計されていたが、現代の時代では杖を製作する際に持ち主の血などを素材に組み合わせることで魔法の効果を上げ、更に他の人間に魔法が使えない仕組みになった。アルが所持していた杖は恐らくは戦争の時に利用していた物だと思われ、杖が無事ならばレノも扱えたかもしれない。


「そういえば皆の杖には魔石は付いてないの?うちの爺ちゃんの杖には付いてたけど……」
「魔石は値段が高いから簡単には手に入らないんだよ。それに持っていたとしても僕は魔石付きの杖を使ったことがないから扱える自信はないし……」
「そもそも魔石を装着した杖を扱えるのなんて大人の魔術師ぐらいだぞ。魔石の制御に失敗したらとんでもないことが怒るらしいからな」
「私は杖を持ってないから魔石も必要ないし……」


魔石は取り扱いが難しく、子供の魔術師の中で魔石を完璧に制御できる人間は滅多にいない。魔石は魔力が蓄積された特殊な鉱石であるため、制御するには特別な訓練を受けなければならない。それ以前に魔石は高級品なので金にあまり余裕がないレノの手が出せる代物ではない。
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