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入学試験編

第48話 砲火

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「もっとしっかり支えて!!次の魔法を撃ったら逃げるぞ!!」
「な、何なんだよ!?」
「本当に大丈夫なのか!?」
「だ、大丈夫!!レノ君を信じて!!」
「ぷるるるんっ!!」


ダインとネココは困惑する中、ハルナだけはレノを信じていた。自分を救うためにミノタウロスと戦ってくれた彼を疑わずに背中を支える。三人に支えられた状態でレノは右手を翳す。


「黒焦げにしてやる!!」
「ブモォッ!?」


右手を構えたレノを見てミノタウロスは火球が放たれると警戒心を高め、これまで何度も喰らったので学習したのか不用意には近づかない。しかし、それがレノにとっては幸運だった。


(よし!!やっぱり警戒して近付いてこない……今ならあれを試せる!!)


一か月前にレノはホブゴブリンを倒した魔法攻撃を試そうと考えていた。右手を握りしめて掌の魔術痕を抑えた状態で火球を繰り出そうとした場合、右手に魔力が蓄積されて通常以上の威力の爆炎を生み出せることは把握していた。

しかし、ホブゴブリンとの戦闘の後に何度かレノは同じ方法を試してみた。だが、最初の時のように上手くいかずに失敗してしまう。右手で握りしめた状態で魔法を発動させようとすると、魔術痕から生み出される火球に指が押し返されてしまう。


『う~ん、上手くいかないな……前の時は偶然だったのか?』


中途半端な力では魔術痕から生成される火球を抑え込むことができず、前回の時は強化術の反動で腕の筋肉を酷使し過ぎて右手が握り拳の状態で硬直していたからこそ成功した。しかし、強化術発動する前のレノの腕力では火球を抑え込むことができない。

強化術を発動した後に魔法を発動することはできず、無詠唱ならば小さな火球を生み出せるがそれさえも抑えつけることができなかった。前回は偶然にも拳が硬直していた事で上手くいったが、ホブゴブリンを倒した時と同じ威力の爆炎を生み出すにはレノの腕力が足りなかった。


『あの攻撃を自由に出せるようになれば魔物との戦闘でも役立つと思ったのに……待てよ、右手だけでやろうとするから駄目なのか?』


片手だけでは抑えきれないと判断したレノは両手を利用すればできるのではないかと考えた。だが、試す前にある実験を行う。


『大丈夫かな……まあ、何とかなるか』


右手に小さめの火球を生み出したレノはで火球に触れてみる。魔法で生み出す火球は衝撃を与えると爆発するが、レノが左手で触れても特に変化は起きない。


『おお、やっぱり触れる!!』


自分が生み出した魔法ならば肉体を傷つけないことは把握済みであり、これまで火球を爆発させた時もレノは一度たりとも火傷を負ったこともない。それならば右手以外でも火球に触れても問題ないのではないかと考え、予想通りに左手で火球に触れても問題なかった。

右手から火球を引き離すと10秒程度で火球は消えてしまうが、消えるまでの間は左手で扱うこともできる。改めて判明した火球の性質を生かしてレノは新しい攻撃法を完成させる。



(――好機チャンスは一度切りだ!!)



残された体力と魔力を考えれば次の攻撃が最後であり、ミノタウロスが接近してくる前に両手を握り合わせて前に突き出す。レノが火球を繰り出してくると思い込んでいたミノタウロスは彼の奇妙な行動に疑問を抱くが、野生の勘で危険を感じ取った。


「ブモォオオオッ!!」
「ひいいっ!?」
「こ、こっちに来るぞぉっ!?」
「いいから支えてろ!!」
「わ、分かった!!」
「ぷるんっ!?」


魔法を警戒して近付かなかったミノタウロスだったが、怪しい行動を取ったレノを見て即座に始末しようと迫る。それを見てレノは好都合だと判断し、両手を握り合わせった状態で魔法を唱えた。


「ファイアボール!!」
「ッ―――!?」


レノが呪文を口にした瞬間に握りしめた両手の指の隙間から赤色の光が漏れる。それを目にしたミノタウロスの本能が危険を知らせ、近づくのは危険だと判断して反射的に斧を投げ飛ばす。


「ブモォオオオオオッ!!」
砲火ファイア!!」


斧が投げつけられたの同時にレノは両手を開いて前に突き出した瞬間、魔術痕から凄まじい爆炎が解き放たれる。ホブゴブリンを倒した時以上の火力の爆炎がに放出され、ミノタウロスが投げつけた斧を吹き飛ばす。

爆炎を纏いながら吹っ飛んできた斧を見てミノタウロスは両腕を交差して防御態勢に入るが、炎をまとった斧は高速回転しながらミノタウロスの頭部に生えている大きな角の一本を切り落とす。



――ブモォオオオオオッ!?



角が折れた途端にミノタウロスの絶叫が森の中に響き渡り、吹き飛ばされた斧は大きな岩に衝突してめり込む。ミノタウロスは直撃を避けられたが大切な角が折れて泣き叫ぶ。

魔人族のミノタウロスは自分の角を何よりも大事にしており、彼等にとっては角こそが自分の誇りだった。そんな大切な角を折られたミノタウロスは涙を流し、自分の角を折ったレノ達を殺そうとした。


「ブフゥッ……!?」


しかし、先ほどまで川原に存在したはずのレノ達の姿は消えていた。先の攻撃で爆炎が放たれた瞬間、ミノタウロスはレノ達を一瞬だけ見失う。その間に彼等は完全に川原から消えていた。


「ブモォオオッ!!」


非力な人間が一瞬で消えるはずがないと思ったミノタウロスはレノ達が居た場所に向かい、鼻を鳴らして彼等の臭いを探った。だが、臭いを辿っていくと水の流れが激しい川に続いていること気が付く。


「ブフゥッ……!?」


臭いが川で途切れていることからミノタウロスはレノ達が川に跳びこんだことに気が付き、信じられないことに攻撃を仕掛けた瞬間にレノ達は川に逃げたことが判明した。

自分が何よりも大切にしていた角を折られたミノタウロスは逃げたレノ達を追うために駆け出す。川下を移動すればレノ達が見つかるかもしれないと判断して斧を放っておいて川原を走り出す。


「ブモォオオオオッ――!!」


身の毛のよだつ鳴き声を上げながらミノタウロスは川下の方角へ移動すると、川の中腹にある大きな岩の近くで巨大化したスラミンが飛び出す。


『ぷっつぁんっ!!』
「「「ぷはぁっ!?」」」
「うぇっぷ……死ぬかと思った」


スラミンの頭の上にはダイン、ネココ、ハルナが乗り込んでおり、レノは水中から自力で泳いで大岩に辿り着く。スラミンは岩の上に飛び乗ると吸収した水分を吐き出して小さくなる。彼に助けられた他の三人も激しく咳き込み、一方でレノだけは岩をよじ登ってくる。


「はあっ……皆、生きてる?」
「げほっ、げほっ……」
「ひいっ……死ぬかと思った」
「ううっ……寒いよぉっ」
「ぷるしゃあっ(←放水中)」


川の中腹に存在する大岩の上に無事に避難したレノ達は座り込み、体力が戻るまで四人は大岩の上に横になる。やがてうつ伏せに倒れた状態のダインがレノに文句を告げる。


「お、お前無茶苦茶な奴だな!?危うく死にかけたぞ!!」
「そうだぞ!!あんな馬鹿げた魔法を使うなら事前に言えよ!?」
「で、でもお陰で助かったよ~……」
「どういたしまして……スライム君も三人を助けてくれてありがとう」
「ぷるんっ(←照れる)」


レノが繰り出した「砲火」の衝撃に巻き込まれて全員一緒に川に落ちた。だが、スラミンが水中で巨大化したお陰でハルナ達は流されずに済み、ミノタウロスが去った後に浮上できた。

砲火は凄まじい威力を誇る反面に身体の反動も大きく、強化術を使用しても耐え切れない程の衝撃に襲われる。しかし、今回はそれを逆手に取ってレノは三人を巻き込んで川まで吹き飛ばされる。ミノタウロスから逃れるには川に落ちなければ助からないと判断し、最初から全員を巻き込んで川に落ちるつもりだった。
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