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入学試験編

第45話 絶体絶命

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「嘘だろ……な、なんでミノタウロスがこんなところに!?」
「何だよ、この化物は!?」
「だ、駄目……この子は私にもどうしようもできないよ」
「ぷるんっ!?」


ミノタウロスを前にした三人は背筋が凍り付き、魔物使いであるハルナは一目見ただけで自分の力ではどうすることもできない相手だと察した。契約魔法を仕掛けた所でミノタウロスを服従することはできないと本能が訴える。


(こ、怖い……逃げなきゃいけないのに身体が言うこと聞いてくれないよ)


ハルナは必死に足を動かそうとするがぴくりともせず、それは他の二人も同じだった。金縛りにあったかのようにダインとネココも動けず、魔物であるスラミンさえも怯えた表情を浮かべたまま震えていた。

ミノタウロスの圧倒的な威圧感の前に三人は大型の肉食獣を前にした小動物の気分を味わう。恐怖のあまりに肉体が言うことを聞かず、その間にミノタウロスは三人を通り過ぎて自分が投げ飛ばした斧の回収を行う。


「ブモォッ!!」
「ひいっ!?」
「や、やべぇっ……二人とも、早く逃げろ!!」
「ネココちゃん!?」


武器を手にしたミノタウロスを見てダインは悲鳴をあげてへたり込み、一方でネココは恐怖を押し殺してミノタウロスと向かい合う。見た目は小さな子供のように見えてもドワーフである彼女は負けん気が強く、土槌を振りかざして突進する。


「おらぁあああっ!!」
「駄目!?」
「ネココ、止めろ!!」
「……ブモォッ」


ネココが振り翳した土槌に対してミノタウロスは斧を握りしめていない方の腕を差し出し、正面から彼女の振り下ろした土槌を受け止めた。土砂を練り固めた土塊は岩波の強度を誇るはずだが、ミノタウロスは片腕で抑え込むと土塊に罅が入った。


「う、嘘だろ!?あたしの一撃を片手で受けるなんて……」
「ネココちゃん!!早く離れて!?」
「馬鹿!!逃げろ!!」
「ぷるるんっ!?」


自分の渾身の一撃を片腕で受け止められたことにネココはショックを隠し切れなかったが、ミノタウロスは自分に攻撃を仕掛けてきた彼女に対して目つきを鋭くさせる。それを見たハルナ達は助けに向かおうとしたが、次の瞬間に土槌が砕けてネココの身体に衝撃が走る。


「フゥンッ!!」
「うわぁあああっ!?」
「ぷぎゅんっ!?」
「ネココ!?」
「スラミン君!?」


ミノタウロスが斧を振り払うと土槌を粉々に吹き飛ばし、その衝撃でネココは吹き飛んだ。この際にハルナの頭を離れてネココの元に向かっていたスラミンも巻き込まれて川へ放り出される。二人は派手な水飛沫を上げて川の中に沈み、それを見たハルナとダインは絶望した。


「そ、そんな……嘘だろおい!?」
「ダイン君!!ネココちゃんとスラミン君が……」
「くそぉっ……シャドウバインド!!」


川に落ちたネココとスラミンが浮き上がる様子もなく、自棄になったダインはミノタウロスに影魔法を繰り出す。影に杖を突き刺した瞬間にダインの影がミノタウロスの元に迫り、足元から拘束しようとした。


「二人の仇だ!!」
「ッ――!?」


ダインの影がミノタウロスの片足に纏わりつき、得体のしれない力で抑えられたミノタウロスは動揺する。影はまるで蛇のように絡まりながらミノタウロスの全身を拘束しようとするが、完全に動けなくなる前にミノタウロスはダインの影に斧を振り下ろす。


「フゥンッ!!」
「無駄だ!!僕の影にそんな物が通じるか!!」
「ブモォッ!?」


影に斧を叩きつけても奇妙な力で弾かれてしまい、その間にもダインの影はミノタウロスを拘束する。影魔法で実体化させた影は物理攻撃を無効にするため、どれほどの怪力の持ち主だろうと傷つけることも振りほどくこともできない。

肉体を拘束されたミノタウロスは最初の内はもがくがどれほど力を込めても影は振りほどけなかった。ダインは拘束したミノタウロスに笑みを浮かべるが、自分が重大な失敗ミスを犯したことに気が付く。


(だ、駄目だ……いくらこいつを捕まえることができても僕には攻撃手段がない!?)


ダインの影魔法は相手を拘束することができても傷つけることはできず、影で縛り付けても敵を倒す手段がなければ何の役にも立たない。ネココが無事ならば影で敵を拘束している間に彼女に攻撃してもらうこともできたが、川に落ちたまま浮かんでこない。


「ハ、ハルナ!!僕が抑えている間にこいつを僕にしろよ!!」
「む、無理だよ!!こんなに力が強い子には魔法なんて通じないよ!?」
「そ、そんな……」
「ブモォオオッ……!!」


駄目元でハルナにミノタウロスを契約魔法で従えるように訴えるが、彼女の力量では魔人族のような存在はまだ従えることはできない。話している間にもダインの影の拘束が徐々に解け始め、ミノタウロスは怒りに打ち震える。


(やばい!?魔法を発動している間は僕も動けないのに……くそぉっ!?)


影魔法の弱点は使用中は術者も身動きが取れず、もしも魔法が解ければミノタウロスは確実にダインかハルナのどちらかを殺しに向かう。ダインの影魔法は連発はできないため、ミノタウロスが影から解放された瞬間に二人のどちらかは確実に死ぬ。


(このままだと殺される……嫌だ、死にたくない!!あいつらを見返すまで僕は死ねないんだ!!)


死を意識した瞬間にダインの精神が乱れてしまい、赤毛熊を拘束した時よりも早くに魔法が解除された。影の拘束が解かれた瞬間、ミノタウロスは目を見開いて手に持っていた斧をダインに目掛けて投げ飛ばす。


「ブモォオオッ!!」
「ぎゃあああっ!?」
「ダイン君!?」


斧が投げつけられた瞬間、ダインは背中越しに倒れて動かなくなった。ミノタウロスが投げつけた斧はダインの後方にあった大きな岩にめり込み、それを見てハルナは腰を抜かす。


「そ、そんな……ダイン君まで」
「ブモォッ!!」
「ひうっ!?」


最後に残ったハルナにミノタウロスは血走った目を向け、尋常ではない殺気を感じ取ったハルナは漏らしてしまう。身体の震えが止まらず、逃げることもできなかった。


(こ、怖い……私、死んじゃうの?)


魔物使いとしてハルナはどんな魔物とも友達になれると信じていた。だが、迫りくるミノタウロスに対して心の底から恐怖を抱き、自分の死を覚悟した。

ミノタウロスはへたり込んだまま動かないハルナの元へ迫り、彼女の首をへし折るつもりなのかゆっくりと手を伸ばす。ハルナは涙と鼻水を垂らしながら悲鳴をあげることもできず、ミノタウロスの手が触れる寸前に森の中から赤色の閃光が迸る。


「伏せろ!!」
「えっ!?」
「ブモォッ!?」


何処からか聞こえてきた声にハルナは驚き、ミノタウロスは後方を振りかえると森の奥から木々をすり抜けて迫る火球を捕らえた。正確に自分の頭に目掛けて突っ込んでくる火球に対してミノタウロスは反射的に斧を振る。


「ブモォッ!!」
「わああっ!?」


火球に目掛けてミノタウロスが斧を叩きつけた瞬間、爆発が生じてミノタウロスの身体が吹き飛ばされる。ハルナは身体を伏せていたお陰で助かったが、ミノタウロスは彼女を頭上を越えて川原に転がり込む。


「ブフゥッ!?」
「な、何……誰!?」
「走れ!!こっちに来い!!」


森の方から男の子の声が聞こえ、それを耳にしたハルナは誰かが助けてくれたことをようやく理解した。彼女は言われた通りに森に目掛けて駆け込む。


「ブモォオオッ!!」
「わああっ!?」


逃げ出そうとしたハルナを見てミノタウロスは駆け出し、巨大な斧を振りかざす。だが、ミノタウロスが斧を振り下ろす前に再び火球が放たれた。
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