投擲魔導士 ~杖より投げる方が強い~

カタナヅキ

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入学試験編

第43話 スライムの川渡り

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「うわっ!?な、なんだ!?」
「ちょ、眩しいだろっ!?」


スライムが輝く姿を見てダインとネココは驚くが、数秒ほどで光は収まる。ハルナが手を離すとスライムの頭にハルナが左手に刻んだ魔術痕と同じ紋様が浮かんでいた。


「ふうっ、契約完了……今日から君の名前はスラミン君だよ」
「ぷる~んっ♪」
「い、今のが契約魔法か?」
「スラミン……安直な名前だな」


スラミンと名付けられたスライムはハルナの頭の上に飛び移り、嬉しそうに彼女の頭の上で弾む。契約魔法が成功すると魔物の身体には契約紋が刻まれ、契約が解除されるまでは消えることはない。

契約獣と化したスラミンを頭に乗せてハルナは川へ近づき、反対側の川岸を指差してスラミンに尋ねる。


「スラミン君、あそこまで私達を運べる?」
「ぷるんっ?」
「いや、運ぶって……そんな小さいのに僕達を運べるわけないだろ?」
「だいたいどうやって運ぶんだよ?」


スラミンの大きさは両手で抱えられるほどであり、とてもではないが三人の人間を運べるとは思わなかった。だが、ダインとネココの言葉を聞いてスラミンは怒った風に二人の頭を跳ねてから地面に下りる。


「ぷるんっ!!」
「あいてっ!?」
「いたっ!?何すんだ!?」
「もう、二人ともスラミン君をからかっちゃ駄目だよ。ほら、あれを見て」


地面に下りたスラミンは川へ移動すると口を大きく開けて大量の水を吸い込む。するとスラミンの身体が風船のように膨れ初め、元の何十倍の大きさに膨れ上がった。


『ぷる~んっ』
「うわっ!?急にデカくなった!?」
「な、なんだこれ!?」
「これがスラミン君の能力だよ。水をたくさん飲むと身体が膨れるんだよ」


巨大化したスラミンにダインとネココは驚き、一方でハルナはスラミンに抱きついて自慢そうに語る。彼女はスライムにも詳しいらしく、巨大化したスラミンを見ても驚かなかった。


「それじゃあ、二人ともスラミン君を川の中まで運ぶの手伝って!!」
「ええっ!?何でそんなことを……」
「いいから早く!!」
「押せばいいのか?でも沈んだりしないのか?」
『ぷるんっ(問題ない)』


三人がかりで巨大化したスラミンを川へと押し込むと、スラミンは浮袋のように浮かんだ。その上にハルナは乗り込み、二人も乗るように伝える。


「ほら、二人とも早く乗って!!」
「乗れって……大丈夫なのかそれ!?」
「大丈夫!!これだけ大きければ三人とも乗れるよ!!」
「凄いなスライム!!よし、早くダインの兄ちゃんも乗れよ!!」
『ぷっつぁんっ(おいてくぞ)』


力士のように大きくなったスラミンに三人は乗り込むと、反対側の川岸まで移動を行う。巨大化したスラミンは三人を乗せても問題なく浮かび、ゆっくりとだが移動を行う。

スライムは擬態能力以外にも大量の水を吸い込むと身体が膨れ上がり、水に沈まないように浮かぶこともできる。川や湖を渡る際はスライムがいれば楽に荷物を運ぶこともできた。


「よし、あと少しで辿り着けるよ!!」
「おお、凄いぞ!!」
「と、途中で沈んだりしないよな?」
『ぷっつぁんっ(大丈夫)』


三人を乗せたスラミンは川の中腹まで移動すると、途中でハルナが先ほど指差した岩を通り過ぎようとした。この時にハルナは岩に視線を向けると、彼女は驚くべきものを発見した。


「あれ!?」
「うわ、どうしたハルナの姉ちゃん!?」
「い、いきなり大声上げるなよ!?驚いて落ちたらどうすんだ!?」


急に大声をあげたハルナにダインとネココは驚くが、彼女は通り過ぎようとしている岩を指差す。


「あ、あれ見て!!やっぱり誰かが岩の上にいたんだよ!!」
「はあ?そんなわけないだろ?」
「いくらなんでもあの岩に飛び移るのは無理だって……」
「でも、足跡があったんだよ!!」
「「えっ!?」」
『ぷるんっ?』


ハルナが指差す方向にダインとネココは顔を向けるが、既にスラミンは岩から離れていた。夜なので視界も悪く、ハルナが見つけた足跡は二人には見えなかった。


「本当に足跡があったのか?ただの見間違いじゃ……」
「そんなことないよ!!ちゃんと見えたもん!!スラミンちゃん、ちょっと戻って!!」
『ぷるんっ!?』
「わわっ!?暴れるなよ姉ちゃん……分かったよ、信じるから一先ずは向こう岸に渡ろうぜ!?」


自分の話を信じようとしない二人に怒ってハルナはスラミンに戻るように命じるが、慌ててネココが彼女を説得する。既に川を渡り切ろうとしていたため、スラミンも停まらずに三人を川岸に運び込む。


『ぷっつぁんっ!!』
「つ、着いた……まさかスライムに乗って川を渡る日が来るなんて夢にも思わなかったよ」
「そんなことよりもあそこを見てよ!!絶対に足跡があったんだから!!」
「いや、だから暗くて見えないって……」


川岸に辿り着いてもハルナは川の中腹に浮かぶ岩を指差す。ネココとダインはハルナの見間違いだと思うが、ここは話を合わせて先に進むことにした。


「い、言われてみれば足跡があるような……ないような」
「足跡がある気がしてきた……気がする」
「でしょ!?やっぱり誰かが川を跳び越えたんだよ!!」
『ぷるっしゃああっ……』


ハルナは興奮した様子で二人に話しかける中、スラミンは余分に吸収した水分を川の中に吐き出す。スライムは汚染された水を浄化する能力を持っているので吐き出される水は吸い込まれる前よりも綺麗だった。

元に戻ったスラミンはハルナの元に戻り、当たり前の様に彼女の頭の上に移動した。契約紋を解除しない限りはスラミンはハルナに従い、帰りに川を渡るためにはスラミンの力を借りる必要があるのでハルナは連れて行く事にした。


「スラミン君も一緒に行こうね。でも、もしも危険な目に遭いそうになったら逃げていいからね」
「ぷるんっ?」
「いや、何でだよ……契約獣は魔物使いの僕だろ?だったら主人を守るのが契約獣の使命じゃないのか?」
「え~?私は魔物さんとは友達になりたいから僕なんていらないよ~」
「友達って……変わった奴だな」
「まあ、ハルナの姉ちゃんの好きにさせたらどうだ?それにそいつを連れて行ったら色々と便利そうだしな」


スラミンを同行させる事にネココも賛成し、こうして三人と一匹で赤毛熊の追跡を開始することにした。川岸を調べるとすぐに赤毛熊と思われる足跡が見つかり、森の奥へと進んでいた。


「足跡はこっちに続いてるけど……本当にこのまま進んで大丈夫か?」
「何だかどんどん奥へと進んでる気がするね」
「それってまずくないのか?森の奥に行くほど危険な魔獣が生息してるんだろ?」
「ぷるぷるっ……」


赤毛熊の足跡がある方向を見てスラミンは震え始め、それに気づいたハルナはあることを思い出す。


「そういえばスライムは他の生き物の居場所を感知する能力を持っているらしいから、もしかしたらスラミンちゃんなら遠くにいる魔獣さんも見つけられるんじゃないの?」
「ぷるんっ!?」
「そ、そうか……なら移動中はスラミンに魔獣の気配を探らせておけばいざという時にすぐに隠れられるな」
「あれ、姉ちゃんもさっき赤毛熊が近付いているの気付いてなかったか?」
「私の場合はすっごく集中しないと分からないんだよ。でも、スラミンちゃんなら私よりも遠くにいる魔獣さんの位置も分かるよね?」
「ぷるぷるっ……」


ハルナの期待するような声にスラミンは困った表情を浮かべるが、契約獣として主人の願いを叶えるために頭から飛び降りる。地上に降りたスラミンは形を変形させて二つの触角を作り出し、それを動物の耳の様に見立てて動かす。
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