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序章 狩人の孫
第33話 紅の光
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「グギィイイッ!!」
「があああっ!?」
「や、止めろぉっ!!レノを離せ!!」
苦しむレノの姿を見てゴーマンはボーガンを構えた。彼のボーガンは元々はアルが作った物であり、アルに祈りながら矢を撃ちこむ。
(アル爺さん!!レノを助けてくれよ!!)
ゴーマンが撃ち込んだ矢はホブゴブリンの頭に目掛けて突っ込むが、迫りくる矢を視界の端に捕らえたホブゴブリンは反対の腕を伸ばして空中で矢を掴み取る。
「グギィッ!?」
「そ、そんな……」
ボーガンの矢さえも掴み取ったホブゴブリンにゴーマンは絶望するが、彼のお陰で一瞬だけホブゴブリンに隙が生まれた。レノの頭を掴む力が弱まり、その隙を逃さずにレノは右手に魔力を集中させて詠唱を行う。
「ファイアボール!!」
「グギャッ!?」
一瞬だけゴーマンに注意を向けたせいでホブゴブリンは反応が遅れ、その間にレノは自分の頭を掴む腕に火球を叩き込む。先ほどよりも強烈な爆炎がホブゴブリンの右腕を吹き飛ばす。
「グギャアアアッ!?」
「うわぁっ!?」
爆発の影響でレノも吹き飛び、ホブゴブリンは右腕を失った。赤毛熊のマントを包んでいなければ爆炎を防ぐ事はできず、生身の部分を攻撃されたら無事では済まない。ホブゴブリンの悲鳴が聞こえた武装ゴブリンは動きを止めた。
右腕が吹き飛んだホブゴブリンは激痛のあまりに苦しみもがき、一方で爆発の衝撃で吹き飛んだレノは痛みを堪えながら再生術を発動させる。どうにか動けるぐらいに身体を回復させると、気力を振り絞って立ち上がる。
「はあっ、はあっ……」
「グギギッ……!!」
レノもホブゴブリンも互いに満身創痍であり、次の攻撃で仕留めなければどちらも跡がなかった。村人も兵士も武装ゴブリンさえも二人の戦闘に夢中で動きを止めた。
(なんだ、効くじゃないか俺の魔法……だったら勝ち目はある)
赤毛熊の毛皮で作られたと思われるマントで最初に魔法を防がれた時は焦ったレノだが、右腕が吹き飛んだホブゴブリンを見て笑みを浮かべる。一方でホブゴブリンは右腕を吹き飛ばされたことに怒りを抱き、凄まじい雄叫びをあげた。
――グギィイイイッ!!
狂ったように叫び声をあげるホブゴブリンに対してレノは取り乱さず、むしろこのような状況は慣れていた。これまでも魔物との戦闘で命の危機に陥ったことは何度もあり、一度戦うと決めた以上はどんな相手でも恐れはしない。
(体力も魔力も殆ど残っていない。多分、次の攻撃が最後になる)
体力的に魔法を投擲しての攻撃はできず、だからといって敵に近付いて直接に攻撃を仕掛けるのも無理があった。流石のホブゴブリンも右腕を吹き飛ばされたせいでレノの右手を警戒するはずであり、二度も同じ攻撃が通じるとは思えない。
今まで編み出した攻撃法ではホブゴブリンを仕留めきれないと判断したレノはどうすればいいのか考えていると、無意識に自分が右手を握りしめていることに気が付く。
(なんだ!?右手が開かない!?)
最初にホブゴブリンを殴りつけた際に右手が痺れ、先ほどホブゴブリンの右腕を吹き飛ばした際の爆発の衝撃で身体を痛めたせいか、右手が言うことを聞かなかった。
(腕は動かせるけど右手が開かない……これじゃあ、魔法が使えない!?)
こんな状況で右手だけが動かせないことにレノは焦り、右の掌に刻まれた魔術痕からしか魔法を使えないレノはもう駄目か思った。だが、ここであることを思いつく。
(待てよ、本当に使えないのか?)
これまでは魔法を使う時は必ず掌を開いた状態で扱っていたが、右手を握りしめた状態で魔法を使ったことは一度も試したことがなかった。今から右手が治るまで再生術を使用する余裕もなく、一か八かの賭けになるが拳を握りしめた状態で攻撃を仕掛ける。
「うおおおおっ!!」
「レノ!?」
「無茶じゃっ!?」
「死ぬ気か!?」
レノが雄叫びを上げながらホブゴブリンに突っ込む姿を見てゴーマン達は叫ぶが、ホブゴブリンは迫りくるレノに対して残された左腕を振りかざす。
「グギィイイッ!!」
「うあっ!?」
これまでの攻防でホブゴブリンはレノが右手からしか魔法を発動できないことを見抜き、彼の右腕を左手で掴み取る。腕を掴まれた状態では火球を投げることも押し当てることもできず、さらに無防備な腹部に膝蹴りを叩き込むのも容易かった。
「グギィイッ!!」
「ぐはぁっ!?」
右手に意識を集中していたレノは強化術が間に合わずにホブゴブリンに腹部を蹴りつけられ、先ほどの怪我も治り切っていない状態で蹴りつけられたことで意識が跳びそうになる。鋤骨の何本かは確実に折れたが、それでもレノは諦めない。
抗わなければ死ぬと考えればどんな痛みにも耐えられた。ここまで来て諦めるつもりはないレノは最後の力を振り絞って大声をあげる。
「ファイアボォオル!!」
「グギィッ!?」
「な、何だ!?」
「この光は……まさか!?」
レノが叫んだ途端に右拳の隙間から赤色の光が漏れた。それを見た兵士と村人は何が起きているのか分からず、一方でゴブリンは拳から放たれる光に目を奪われる。
(これは……そういうことか!!)
右手を握りしめた状態で魔法を発動した瞬間、拳の内側から熱い物が膨らんでいく感覚を抱く。その正体は拳の中で圧縮された火属性の魔力であり、指を押し退けて圧縮された魔力がホブゴブリンに放たれる。
「うおおおおっ!!」
「グギャアアアアッ!?」
拳が開かれた瞬間に今まで一番強烈な爆炎が解き放たれ、ホブゴブリンの上半身を飲み込む。その威力は赤毛熊やボアを倒した時よりも遥かに凄まじい火力を誇り、ホブゴブリンの上半身を消し飛ばした。
レノの目の前に残ったのはホブゴブリンの下半身だけであり、上半身が吹き飛んだ際に赤毛のマントは遥か上空に吹き飛んでしまう。レノが右手を確認すると魔術痕が輝いており、やがて光が収まると魔術痕も消えてしまう。
(なんだ今の威力……いつもと全然違う)
火球を投げつけたり、相手に押し当てて爆発させるよりも凄まじい威力の爆炎にレノは戸惑う。その一方で群れの長を倒されたゴブリンの群れはレノを見て震え上がり、悲鳴をあげながら駆け出す。
――ギィイイイッ!?
統率者を失ったゴブリンの行動は一つだけであり、大混乱を引き起こしたゴブリン達は北門を抜けて逃げ出す。それを見送った兵士と村人はしばらくは黙っていたが、ゴーマンが両腕を上げて喜ぶ。
「や、やった……あいつら逃げていくぞ!!」
「勝ったのか?あんな化物共に儂等が……」
「そ、そうですよ!!もう村は大丈夫だ!!」
「うおおおおっ!!生き残ったんだ!!」
ゴブリンの群れが去ったことで村人達は狂喜乱舞し、兵士も同様に生き抜いたことを喜んだ。犠牲者は奇跡的に一人もおらず、しいて言えばカマセイが亡くなったが彼の場合は自業自得だった。
しかし、村に魔物が去ったのに一人だけ喜んでいない人間が居た。それは魔物を追い払ったレノ本人であり、右手を見つめながら考え込む。
(まだ右手が痺れてる……けど、あの力を自由に使いこなせれば俺はもっと強くなれる)
ホブゴブリンを吹き飛ばした時の感覚を忘れられず、初めて魔法を使った時以来の高揚感を感じていた。魔物の群れを負い返したことよりも新しい魔法の力を手に入れたことの方がレノは嬉しかった――
「があああっ!?」
「や、止めろぉっ!!レノを離せ!!」
苦しむレノの姿を見てゴーマンはボーガンを構えた。彼のボーガンは元々はアルが作った物であり、アルに祈りながら矢を撃ちこむ。
(アル爺さん!!レノを助けてくれよ!!)
ゴーマンが撃ち込んだ矢はホブゴブリンの頭に目掛けて突っ込むが、迫りくる矢を視界の端に捕らえたホブゴブリンは反対の腕を伸ばして空中で矢を掴み取る。
「グギィッ!?」
「そ、そんな……」
ボーガンの矢さえも掴み取ったホブゴブリンにゴーマンは絶望するが、彼のお陰で一瞬だけホブゴブリンに隙が生まれた。レノの頭を掴む力が弱まり、その隙を逃さずにレノは右手に魔力を集中させて詠唱を行う。
「ファイアボール!!」
「グギャッ!?」
一瞬だけゴーマンに注意を向けたせいでホブゴブリンは反応が遅れ、その間にレノは自分の頭を掴む腕に火球を叩き込む。先ほどよりも強烈な爆炎がホブゴブリンの右腕を吹き飛ばす。
「グギャアアアッ!?」
「うわぁっ!?」
爆発の影響でレノも吹き飛び、ホブゴブリンは右腕を失った。赤毛熊のマントを包んでいなければ爆炎を防ぐ事はできず、生身の部分を攻撃されたら無事では済まない。ホブゴブリンの悲鳴が聞こえた武装ゴブリンは動きを止めた。
右腕が吹き飛んだホブゴブリンは激痛のあまりに苦しみもがき、一方で爆発の衝撃で吹き飛んだレノは痛みを堪えながら再生術を発動させる。どうにか動けるぐらいに身体を回復させると、気力を振り絞って立ち上がる。
「はあっ、はあっ……」
「グギギッ……!!」
レノもホブゴブリンも互いに満身創痍であり、次の攻撃で仕留めなければどちらも跡がなかった。村人も兵士も武装ゴブリンさえも二人の戦闘に夢中で動きを止めた。
(なんだ、効くじゃないか俺の魔法……だったら勝ち目はある)
赤毛熊の毛皮で作られたと思われるマントで最初に魔法を防がれた時は焦ったレノだが、右腕が吹き飛んだホブゴブリンを見て笑みを浮かべる。一方でホブゴブリンは右腕を吹き飛ばされたことに怒りを抱き、凄まじい雄叫びをあげた。
――グギィイイイッ!!
狂ったように叫び声をあげるホブゴブリンに対してレノは取り乱さず、むしろこのような状況は慣れていた。これまでも魔物との戦闘で命の危機に陥ったことは何度もあり、一度戦うと決めた以上はどんな相手でも恐れはしない。
(体力も魔力も殆ど残っていない。多分、次の攻撃が最後になる)
体力的に魔法を投擲しての攻撃はできず、だからといって敵に近付いて直接に攻撃を仕掛けるのも無理があった。流石のホブゴブリンも右腕を吹き飛ばされたせいでレノの右手を警戒するはずであり、二度も同じ攻撃が通じるとは思えない。
今まで編み出した攻撃法ではホブゴブリンを仕留めきれないと判断したレノはどうすればいいのか考えていると、無意識に自分が右手を握りしめていることに気が付く。
(なんだ!?右手が開かない!?)
最初にホブゴブリンを殴りつけた際に右手が痺れ、先ほどホブゴブリンの右腕を吹き飛ばした際の爆発の衝撃で身体を痛めたせいか、右手が言うことを聞かなかった。
(腕は動かせるけど右手が開かない……これじゃあ、魔法が使えない!?)
こんな状況で右手だけが動かせないことにレノは焦り、右の掌に刻まれた魔術痕からしか魔法を使えないレノはもう駄目か思った。だが、ここであることを思いつく。
(待てよ、本当に使えないのか?)
これまでは魔法を使う時は必ず掌を開いた状態で扱っていたが、右手を握りしめた状態で魔法を使ったことは一度も試したことがなかった。今から右手が治るまで再生術を使用する余裕もなく、一か八かの賭けになるが拳を握りしめた状態で攻撃を仕掛ける。
「うおおおおっ!!」
「レノ!?」
「無茶じゃっ!?」
「死ぬ気か!?」
レノが雄叫びを上げながらホブゴブリンに突っ込む姿を見てゴーマン達は叫ぶが、ホブゴブリンは迫りくるレノに対して残された左腕を振りかざす。
「グギィイイッ!!」
「うあっ!?」
これまでの攻防でホブゴブリンはレノが右手からしか魔法を発動できないことを見抜き、彼の右腕を左手で掴み取る。腕を掴まれた状態では火球を投げることも押し当てることもできず、さらに無防備な腹部に膝蹴りを叩き込むのも容易かった。
「グギィイッ!!」
「ぐはぁっ!?」
右手に意識を集中していたレノは強化術が間に合わずにホブゴブリンに腹部を蹴りつけられ、先ほどの怪我も治り切っていない状態で蹴りつけられたことで意識が跳びそうになる。鋤骨の何本かは確実に折れたが、それでもレノは諦めない。
抗わなければ死ぬと考えればどんな痛みにも耐えられた。ここまで来て諦めるつもりはないレノは最後の力を振り絞って大声をあげる。
「ファイアボォオル!!」
「グギィッ!?」
「な、何だ!?」
「この光は……まさか!?」
レノが叫んだ途端に右拳の隙間から赤色の光が漏れた。それを見た兵士と村人は何が起きているのか分からず、一方でゴブリンは拳から放たれる光に目を奪われる。
(これは……そういうことか!!)
右手を握りしめた状態で魔法を発動した瞬間、拳の内側から熱い物が膨らんでいく感覚を抱く。その正体は拳の中で圧縮された火属性の魔力であり、指を押し退けて圧縮された魔力がホブゴブリンに放たれる。
「うおおおおっ!!」
「グギャアアアアッ!?」
拳が開かれた瞬間に今まで一番強烈な爆炎が解き放たれ、ホブゴブリンの上半身を飲み込む。その威力は赤毛熊やボアを倒した時よりも遥かに凄まじい火力を誇り、ホブゴブリンの上半身を消し飛ばした。
レノの目の前に残ったのはホブゴブリンの下半身だけであり、上半身が吹き飛んだ際に赤毛のマントは遥か上空に吹き飛んでしまう。レノが右手を確認すると魔術痕が輝いており、やがて光が収まると魔術痕も消えてしまう。
(なんだ今の威力……いつもと全然違う)
火球を投げつけたり、相手に押し当てて爆発させるよりも凄まじい威力の爆炎にレノは戸惑う。その一方で群れの長を倒されたゴブリンの群れはレノを見て震え上がり、悲鳴をあげながら駆け出す。
――ギィイイイッ!?
統率者を失ったゴブリンの行動は一つだけであり、大混乱を引き起こしたゴブリン達は北門を抜けて逃げ出す。それを見送った兵士と村人はしばらくは黙っていたが、ゴーマンが両腕を上げて喜ぶ。
「や、やった……あいつら逃げていくぞ!!」
「勝ったのか?あんな化物共に儂等が……」
「そ、そうですよ!!もう村は大丈夫だ!!」
「うおおおおっ!!生き残ったんだ!!」
ゴブリンの群れが去ったことで村人達は狂喜乱舞し、兵士も同様に生き抜いたことを喜んだ。犠牲者は奇跡的に一人もおらず、しいて言えばカマセイが亡くなったが彼の場合は自業自得だった。
しかし、村に魔物が去ったのに一人だけ喜んでいない人間が居た。それは魔物を追い払ったレノ本人であり、右手を見つめながら考え込む。
(まだ右手が痺れてる……けど、あの力を自由に使いこなせれば俺はもっと強くなれる)
ホブゴブリンを吹き飛ばした時の感覚を忘れられず、初めて魔法を使った時以来の高揚感を感じていた。魔物の群れを負い返したことよりも新しい魔法の力を手に入れたことの方がレノは嬉しかった――
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