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序章 狩人の孫

第24話 襲撃

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「ありがとう」
「いいよ、そういうのは……僕も今まで悪かった。たくさん迷惑をかけて本当にに……すまなかった」
「もういいよ」


ゴーマンは涙目でレノに頭を下げ、心の底から謝罪した。それを見てレノは笑顔を浮かべて彼に手を差し伸べた。ゴーマンは差し出された手を見て一瞬驚くが、涙と鼻水を垂らしながらもその手を握る。


「これで仲直りだね」
「う、ううっ……本当にごめんよ」
「もういいって」


ゴーマンの手を握ったレノは彼を立ち上がらせようとすると、部屋の外から足音が聞えてきた。そして部屋の中に入ってきたのは療養中のはずのゴーマンの母親だった。


「あ、貴方!!大変です!!」
「母ちゃん!?」
「ど、どうしてここに!?隣の家に居たんじゃ……」
「そんなことよりも外が大変なことになってます!!警備隊長さんはどこにいるんですか!?」
「う、ううっ……」


警備隊長は村長に殴られた際に鼻血を出して意識を失っており、それを見かねてレノは代わりに尋ねた。


「おばさん!!落ち着いて下さい、何があったんですか?」
「レノ君!?良かった、戻ってきていたのね!!実は大変なことが起きているの!!」
「いったい何があったんだよ!?」
「む、村の外に魔物が集まってるそうです!!」
「魔物じゃと!?」


魔物が現れたと聞いてレノ達は驚き、気絶している警備隊長を置いて全員が屋敷の外に出た。話を聞いたところ村の北側の見張り台から見張っていた兵士が魔物の群れを発見し、この村に向けて近付いているのを確認した。

見張りの兵士は村人に急いで警備隊長に報告に向かうように伝え、現在は村の出入口は全て閉じて魔物が入り込めないようにした。レノ達が北門に辿り着くと見張り台の上から兵士が声をかける


「村長!!警備隊長はどうしたんですか!?」
「い、いやその……実は酒に酔いつぶれておってな。連れて来ることができんかった」
「酒!?あの人また飲んでたんですか!!」
「くそっ、あのオーク野郎!!街に戻ったらあいつの悪事を全部訴えてやる!!」
「……あの人、部下からも嫌われてたみたいだね」
「そ、そうみたいだな……」


警備隊長の部下の兵士達はまともな人ばかりらしく、この肝心な時に酔いつぶれている(実際は気絶)警備隊長に怒りを抱く。だが、今は魔物の対処に専念しなければならず、兵士は見張り台の上に村長を招く。


「あれを見てください。こちらに近付いているのが分かりますか?」
「どれどれ……な、なんじゃあれは!?」
「うわっ!?」
「これは……」


見張り台に上がったレノ達は兵士が指し示す方向に視線を向けると、村の方に接近するゴブリンの集団を発見した。数は30匹近く存在し、更にゴブリンの中には異様に背丈の大きい個体が率いていた。


(なんだあいつ!?普通のゴブリンの倍ぐらいは大きいぞ……あんなの山でも見たことがない)


山に暮らしている時に外から迷い込んだゴブリンを何度か始末したことはあったが、村に近付いている背丈の大きいゴブリンはレノは初めて見た。大きいのは身長だけではなく、体つきも普通のゴブリンと比べて筋骨隆々だった。

通常のゴブリンは身長は1メートル程度で痩せ細った体型をしているが、並の人間では敵わないほどに力も強く、獣のような牙と爪を生やしている。しかも村に近付いてくるゴブリンの集団は山で見かけたゴブリンと大きく違う点があった。


「な、なんだあいつら……武器を持ってるぞ!?」
「あれはまさか……間違いない!!噂の武装ゴブリンだ!!」
「武装……?」
「ど、どういうことだ?何か知っておるのか!?」


兵士の一人が接近してくるゴブリンの集団を見て顔色を変え、彼は警備隊長の命令で先日にイチノの街へ戻り、上司に警備状況を報告した兵士だった。村に戻る前に兵士はとある噂を同僚の兵士から聞いていた。


「う、噂によれば最近になって人間の武器と防具を扱うゴブリンの集団が現れたとか……そいつらのことを武装ゴブリンと呼んでいるそうです」
「な、なんじゃと!?」
「ど、どうしてそんな奴等を放っておいたんだよ!?何で早く退治しなかったんだ!!」
「噂が流れ始めてからすぐに調査隊は送り込まれたんだ!!だけど、俺が街に戻った時は調査に向かった兵士は一人も帰ってこないらしくて……」
「ねえ、皆あれを見てよ!!」


レノは村に接近してくるゴブリンの集団を指差し、全員が視線を向ける。村との距離が縮まるにつれてゴブリンの姿が良く見えた。


「あいつら、ここにいる兵士の人たちと同じ兜を被っているよ」
「な、何だって!?そんな馬鹿な!!」
「本当なのかそれ!?ていうか、よくこの距離で分かったな……」


山暮らしのレノは村に暮らす人間の誰よりも視力が優れており、狩猟で培われた鋭い観察眼も相まって、ゴブリンの群れが装着している兜が村を警護する兵士と全く同じ形していることに気が付く。


「やっぱりそうだ。あいつらの兜は兵士さんのと同じ物で間違いないよ」
「そんな馬鹿な!?我々の兜はイチノの兵士しか身に着けることが許されていないんだぞ!?」
「何故、ゴブリンが我々と同じ兜を……ま、まさか!?」
「……もしかして調査隊の人たちのの兜じゃないかな?」


武装ゴブリンがイチノの兵士しか装備できないはずの兜を被っている理由、それは兵士から奪ったとしか考えられない。そうなると武装ゴブリンが装備を奪った相手は調の可能性が極めて高い。

イチノは武装ゴブリンの存在を確かめるために調査隊を編成して送り込んだが、調査の途中で武装ゴブリンに襲われて兵士は装備を奪われた可能性が高い。街に戻った兵士の話によれば調査隊が戻ってこないことから全滅している可能性もあった。


「有り得ん!!調査のために派遣されたのはイチノの精鋭だと聞いてるんだぞ!?ゴブリン如きに敗れるはずがない!!」
「でも、見た所あいつらは普通のゴブリンには見えません。特に一番大きいゴブリン……あんなの見たことがない」


レノの推測を兵士は否定するが、武装ゴブリンの中で一番大きなゴブリンだけが異様な雰囲気を醸し出していた。こちらのゴブリンは他の仲間と比べて色違いの鎧兜を身に着けており、赤色の毛皮のマントを身に着けていた。


「馬鹿な!?あの装備はまさか!?」
「うわっ!?な、何だよ急に大声をあげて!?」
「何か知ってるのか?」
「ま、間違いない……あのゴブリンが装備しているのはイチノの警備副隊長を任されているエンカ様の装備だ!!」


兵士によれば武装ゴブリンを率いる背丈が大きいゴブリンが装備しているのは彼等の上官であり、イチノの街では警備兵の副隊長を任せられている「エンカ」と言う名の男だった。

ちなみにレノ達が暮らしている村の警備を任されているカマセイはあくまでもレノの村の警備隊長を任せられているだけであり、イチノの副隊長よりも偉いわけではない。彼が警備隊長を任されたのは村に派遣された兵士の中で一番の年長者という理由だけで特別にイチノの中でも偉い立場の人間ではない。


「どうしてゴブリンが副隊長の鎧兜を身に着けている!?」
「まさか……エンカ様が殺されたのか!?」
「そんな馬鹿な!!絶対に有り得ん、あの方は魔法使いだぞ!?」
「……えっ?」


混乱している兵士達の会話を聞いてレノは呆気にとられる。まさかイチノの街に魔法使いがいるなど夢にも思わなかった。
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