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序章 狩人の孫

第22話 村の変化

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――ボアの討伐を果たしてから一か月後、久々に村に戻ったレノは自分が住んでいた時と比べての変わりように驚く。村を取り囲む堀が新たに造られており、しかも見覚えのない人間が見張りを行っていた。


「止まれ!!何者だ!?」
「え?あの……俺はこの村の人間なんですけど」
「何だと?ちょっと待て、村の奴を呼んでくる」


山から下りてきたレノに対して兵士は警戒するが、すぐに村長が駆けつけてくれた。


「おお、レノではないか!!ずっと戻ってこないから心配しておったぞ!!」
「本当にこの村の人間だったか……失礼した」
「あの、村長……この人は?」


村長の知り合いだと知ると兵士は村に入れてくれたが、レノはどうして村に兵士がいるのかを尋ねる。村長は難しい表情を浮かべて事情を説明してくれた。


「彼はこの村の警備のために派遣された兵士じゃ。」
「兵士?」
「お前は山に暮らしていたから知らないかもしれんが、少し前から世界各地で魔物の被害が多発しておる。そこで税を収めている村や街には兵士が派遣されて警護を行うことが決まったんじゃ」


村を警護していた兵士は別の街から派遣された兵士だと判明し、彼の役目は村を魔物から守ることだった。彼以外にも村には数名の兵士が配備されており、今の所は門番を任せている。

兵士が急に来たせいで彼等が住める場所を用意することになり、今現在は村長の屋敷に泊めている。来年までには兵士の宿舎を建てる予定で今後は村の警備は兵士に任せることになった。


「兵士の方々が我々を守ってくれるお陰で見張りを行う必要もなくなったが、彼等の食事や寝床を用意するのも一苦労でな……」
「そうだったんですか……」
「だが、税を払わずに兵士が派遣されなかった村は魔物に襲われて滅びたという噂も流れておる。生活は苦しくなるが、この村を守るためには致し方あるまい」


国が決めたこととは言え、いきなり兵士が派遣されて彼等の面倒を見ることになった村長は気苦労が絶えないらしく、前に会った時よりも心無しか痩せていた。レノはそんな村長のために手土産を渡す。


「あの、これどうぞ。鹿の肉です」
「おお、これはすまんな!!鹿の肉など久しぶりだ!!」


背負っていた籠からレノは山で狩った鹿の肉を渡すと村長は喜び、お礼も兼ねて村長はレノを自分の屋敷に連れて行く。


「ゴーマンの奴もずっと会いたがっていたぞ。何度か山に登ろうとしたこともあったが、魔物に襲われた時のことを思い出したのか諦めていたがな……」
「ゴーマンが俺に会いに?」
「うむ、あいつも15才だからな。いつまでも遊んでばかりはいさせられん。今は大人と一緒に働いておるよ」


ゴーマンは前回の事件があってから人が変わったように真面目に働くようになり、他の子供達を引き連れて悪さをすることもなくなった。レノとは仲が良い間柄とは言えなかったが、命を助けられたことに恩を感じているのかレノが山に暮らし始めてから心配していたらしい。


(あのゴーマンが俺を心配するなんて……春を迎えたばかりなのにまた雪が降りそうだな)


自分を見下していた相手が今度は逆に心配していると聞いてレノは複雑な気持ちを抱き、今度会った時はどんな風に話しかければいいのかと悩んでいると、いつのまにか村長の屋敷の前まで辿り着いていた。


「さあ、上がってくれ。遠慮することはないぞ、自分の家の様にくつろいでくれ」
「お邪魔しま……」
「いい加減にしろよ!!このくそ野郎!!」


玄関の扉を開けた途端、家の中からゴーマンの怒声が響き渡る。屋敷に入ろうとした自分を怒鳴ったのかとレノは焦ったが、どうやらゴーマンは奥の部屋で誰かと言い争いをしている様子だった。


「ひっくっ……なんだくそガキ!!てめえ、誰に口を利いてるのか分かってるのか!?」
「お前こそいい加減にしろよ!!それは父さんの酒だぞ!!また勝手に盗んで飲んでたな!!」
「うるせえっ!!酒でも飲んでなきゃっ……やってられるかこんな仕事!!」
「うわっ!?」


硝子が割れる音が家に響き渡り、それを聞いたレノと村長は慌てて部屋へ向かう。


「ゴーマン!?何をしておる!?」
「大丈夫!?」
「ちっ、もう帰ってきやがったか」
「うぐぐっ……」


部屋の中には頭から血を流して倒れているゴーマンと中年の男が立っており、男の手には割れた酒瓶が握りしめられていた。どうやらゴーマンの頭を酒瓶で叩いたらしく、酒と破片が床に散らばっていた。


「ゴ、ゴーマン!?大丈夫か!?」
「う、ううっ……」
「ふん、ガキの癖に大人に逆らうからだ」
「お、おのれ!!よくも儂の息子を!!」


ゴーマンを殴り倒しておきながら男は悪びれもせず、そんな彼に村長は詰め寄る。男は大分酔っている様子で村長を突き飛ばす。


「邪魔だ爺さん!!」
「ぬあっ!?」
「村長!?」


村長が倒れそうになったのを見てレノは後ろから支えると、男は椅子に座り込んで机の上の酒を手にする。空の瓶がいくつも並んでおり、昼間だというのにかなりの量の酒を飲んでいる様子だった。

レノはこの男が何者なのかは知らないが、ゴーマンを傷つけて村長を突き飛ばした相手に怒りを抱く。何度も喧嘩してきたがゴーマンとは小さい頃からの付き合いであり、村長には色々と世話になっていた。そんな二人を傷つけた男にレノは拳を握りしめる。


「おい、お前誰だよ!!」
「あっ?なんだまだ居たのか……とっとと出て行け、俺は飲むのに忙しいんだよ」
「ふざけんなっ!!」
「ぐあっ!?」
「レノ!?」


男が座っている椅子をレノは力尽くで蹴飛ばすと、男が転んだ拍子に先ほど自分が割った酒瓶の欠片の上に倒れて悲鳴をあげる。


「いででででっ!?」
「うるさいっ!!」
「ふぎゃっ!?」
「い、いかんレノ!?それ以上は駄目だ!!」


情けなく悲鳴をあげる男の尻をレノは蹴飛ばすと、それを見た村長が慌てて止める。一方で倒れていたゴーマンも頭を抑えながら立ち上がった。


「いてててっ……あ、あれ!?お前レノか?どうしてここに……うっ!?」
「おお、ゴーマン!!頭は大丈夫か?」
「……村長、早くゴーマンの治療をしてください」


ゴーマンが目を覚ますと村長は彼の怪我を確認して痛々しい表情を浮かべる。一方でレノは蹴飛ばした男に近付き、頭を鷲掴みにして無理やり立ち上がらせる。


「おいこら、何してくれたんだお前?」
「あいだだだっ!?て、てめえ……俺を誰だと思ってやがる!?」
「知るかボケ!!」
「ぎゃああっ!?」
「レノ!?」
「す、すげぇっ……流石はアル爺さんの孫だ」


自分の倍近くの年の差があると思われる男を一方的に痛めつけるレノにゴーマンはアルの姿を重ねる。昔にゴーマンがレノと喧嘩して彼に怪我させたところをアルに見られ、激怒したアルはゴーマンに拳骨を喰らわせた。今のレノはアルと同じぐらい怖かった。


「こ、このガキ……いい加減にしろ!!俺を誰だと思って嫌がる!?警備隊長だぞ!!」
「警備隊長?」
「そうだ!!誰のお陰でお前等が魔物に怯えずに生きていられると思ってんだ!?俺達がいなければこんな村なんかあっという間に魔物に滅ぼされるんだぞ!!」


男の言葉にレノは村長を振り返ると、苦々しい表情を浮かべながら頷く。村長は自分の屋敷で好き勝手にするこの男が兵士の中で一番偉い立場だと教えた。
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