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序章 狩人の孫
第15話 馬鹿息子
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「止めておいた方がいいよ。最近、山の動物を見かけなくなった……もしかしたら魔物がまた迷い込んだのかもしれない」
「な、何だと!?それは本当か!?」
「ゴーマンちゃん!!山に登っては駄目よ!!魔物に襲われたら……」
「ふんっ、そんなの信じられるかよ!!どうせ自分一人で山の食べ物を独り占めするつもりだろ!?」
「はあっ……お前は魔物の恐ろしさを何も知らない」
子供の頃にオークに襲われたというのにゴーマンは魔物の危険性を理解しておらず、そんな彼と付き合うのも馬鹿馬鹿しく思ったレノは食事を途中で辞めて帰ることにした。
「帰ります。これ以上に子供と付き合ってられないので」
「こ、子供だと!?お前、僕よりも年下の癖に!!」
「よさんか!!レノ、本当にすまん……この馬鹿は儂がしっかりと説教しておく」
「本当にごめんなさい……気を悪くしないでね」
ゴーマンはレノに怒りを抱くが両親に抑えられ、そんな彼を見てレノは不機嫌そうに去っていく。自分は家族が全員いなくなったのにゴーマンには優しい両親がいることに嫉妬し、いつも以上に辛く当たってしまった。
(……少し言い過ぎたかな。明日、謝りに行こう)
屋敷を出た後にレノは食事を食べ終えずに出て行ったことに罪悪感を抱き、せめて村長と奥さんには謝ろうと考えて自分の家へ戻った。だが、この後にゴーマンはとんでもないことを仕出かしてしまう――
――時刻は深夜を迎え、レノが自分の部屋で眠っていると玄関の扉が叩かれる音が聞こえた。何事かと思ったレノは慌てて起きて扉を開くと、酷く焦った様子の村長が居た。
「レノ!!頼む、助けてくれ!!」
「村長!?どうしたんですかこんな時間に……」
扉を開けた途端に村長はレノの両肩を強く握りしめ、彼の行動にただ事ではないと察したレノは用件を尋ねる。
「落ち着いて下さい!!いったいなにがあったんですか?」
「あ、あの馬鹿が……ゴーマンが家出しおった!!」
「…………はあっ?」
ゴーマンが家出したと聞かされたレノは心底呆れた表情を浮かべ、こんな夜中にわざわざ来るぐらいだから、とんでもない事件が起きたのかと身構えた自分が馬鹿馬鹿しく思えた。だが、村長は真剣に悩んだ様子でレノに頭を下げる。
「お主が帰った後に儂が説教したのだが、ゴーマンの奴は部屋にこもって出て来なくなってしまってな。心配した妻が様子を見に行ったら、あの子の部屋に書置きだけ残されておった」
「書置きですか……どんな内容ですか?」
「そ、それが……自分一人で山に生えている果物を採りに行くとだけ書いておった」
「えっ!?」
ゴーマンが残した手紙には山に一人で向かうと記され、それを見たアルは慌ててレノの元へ訪れた。山に一番詳しいのはレノなので村長は一緒にゴーマンを探して欲しいと伝えた。
「頼む!!あの馬鹿を連れ戻すのに協力してくれ!!勿論、見つけ出したら相応の礼はする!!」
「ちょっと待ってください。本当にゴーマンは山に向かったんですか!?」
「う、うむ……恐らくは1時間ほど前に家を抜け出して向かったと思う」
「1時間……まずい!?」
あれほど山が危険だと忠告したのにゴーマンが一人で向かったと知り、レノは急いで追いかけなければまずいと判断した。山には魔物が迷い込んでいる可能性もあり、もしも魔物に見つかったらゴーマンは殺されてしまう。
正直に言ってレノはゴーマンを嫌ってはいるが彼の両親には色々と世話になっており、もしもゴーマンが死ねば一人息子を失う悲しみを二人は一生背負って生きていく。家族を失う悲しみはレノも理解しており、仕方なくゴーマンを捜しに向かうことにした。
「村長は家に戻っててください!!俺が連れ戻しますから!!」
「いや、しかしお主だけに頼るわけには……」
「いいから家で待っててください!!はっきり言って付いて来られても足手纏いなんです!!」
「す、すまん……」
他の人間を連れて行く余裕などなく、もしも魔物が現れたら確実に足手纏いになるのでレノは村長の同行を断固拒否した。急いで準備を整えてレノは山へ向かう。
(あの馬鹿!!見つけたら絶対殴ってやる!!)
不本意だがゴーマンを助けるためにレノは全速力で向かい、村の外に出ると強化術を発動させて更に移動速度をあげた――
――山に到着したレノはまずはゴーマンが行きそうな場所を探すことにした。ゴーマンは肉が大好きだが狩猟技術を持ち合わせていない彼が動物を捕まえるために山に入ったとは考えにくく、それならば以前にオークの縄張りに生えていた大樹の果物が目当てで入った可能性が高い。
前に山に入った時もゴーマンは誰よりも果物を美味しそうに頬張っていたため、今回も果物が目当てで山に入ったのかもしれない。今日の食事の時もレノが持って来た果物を夢中で食しており、それを思い出したレノは大樹へと向かう。
「暗いな……灯りを付けるか」
山に入る前にレノはランタンを取り出して火を灯す。ファイアボールの魔法を使えば火球を生み出して照らすこともできるのだが、こんなところで無駄に魔力を消費するわけにはいかなかった。
「ゴーマン!!何処にいるんだ!!いるのなら返事しろ!!」
ゴーマンを呼びかけながらレノは山の中を歩き、彼が通った痕跡がないのかを探す。もしも魔物が山の中に迷い込んでいた場合、一般人のゴーマンが遭遇したら抵抗する暇もなく殺されてしまう。
魔物の恐ろしさは実際に戦った人間にしか理解されておらず、一角兎のように見た目は小さくて可愛らしい生物でも油断すれば命を落としかねない力を持っている。一応はゴーマンはオークに襲われた経験があるので彼も魔物の恐ろしさを理解していると思っていたが、まさか一人で山に登るなど思わなかった
(あの馬鹿、本当に何を考えてるんだ……見つけた!!)
歩いている途中でレノはゴーマンの足跡を発見し、予想通りに大樹がある方向へ足跡が続いていることに気が付く。今日のレノが採ってきた果物だけでは満足できないのか自分で採りに行こうとしているらしい。
「食い意地の張った奴だな……まあいい、これならすぐに追いつけそうだな」
足跡を見つけたレノは強化術を発動させて移動を行い、果物が生えている大樹へと向かう。だが、移動中にレノはとんでもない物を発見した。
「ん?何だこの臭い……うわっ!?」
悪臭を感じ取ったレノは足を止めると、大きな糞が落ちていることに気が付いた。山に暮らす動物の糞など偶に見かけるが、レノが見つけた糞はとんでもなく大きかった。
「何だこの馬鹿でかい糞は……しかもさっき出したばかりみたいだ。まさかゴーマンのじゃないよな」
嫌な予感を抱きながらもレノは糞を素通りしてゴーマンの後を追いかけ、もう少しで大樹に辿り着けるというところで悲鳴を耳にした。
「ひぎゃああああっ!?」
「ゴーマン!?」
大樹がある方角から聞き覚えのある声を耳にしたレノは急いで向かう。そして木々を潜り抜けて遂に大樹に辿り着くと、そこには大量の果物を手に持ったゴーマンが大樹に駆け抜ける姿があった。
ゴーマンの姿を見てレノは彼が生きていたことに安堵するが、ゴーマンの後方から巨大な赤色の生物が迫っていることに気が付く。ゴーマンを追いかけてくるのは全身が赤色の毛皮で覆われた巨大熊だと判明した。
「ガアアアッ!!」
「た、助けてくれぇっ!?」
「なんだ!?」
これまで山の中では見たことがない赤毛熊の登場にレノは驚き、ゴーマンは持っていた果物を手放して逃げ出す。
「な、何だと!?それは本当か!?」
「ゴーマンちゃん!!山に登っては駄目よ!!魔物に襲われたら……」
「ふんっ、そんなの信じられるかよ!!どうせ自分一人で山の食べ物を独り占めするつもりだろ!?」
「はあっ……お前は魔物の恐ろしさを何も知らない」
子供の頃にオークに襲われたというのにゴーマンは魔物の危険性を理解しておらず、そんな彼と付き合うのも馬鹿馬鹿しく思ったレノは食事を途中で辞めて帰ることにした。
「帰ります。これ以上に子供と付き合ってられないので」
「こ、子供だと!?お前、僕よりも年下の癖に!!」
「よさんか!!レノ、本当にすまん……この馬鹿は儂がしっかりと説教しておく」
「本当にごめんなさい……気を悪くしないでね」
ゴーマンはレノに怒りを抱くが両親に抑えられ、そんな彼を見てレノは不機嫌そうに去っていく。自分は家族が全員いなくなったのにゴーマンには優しい両親がいることに嫉妬し、いつも以上に辛く当たってしまった。
(……少し言い過ぎたかな。明日、謝りに行こう)
屋敷を出た後にレノは食事を食べ終えずに出て行ったことに罪悪感を抱き、せめて村長と奥さんには謝ろうと考えて自分の家へ戻った。だが、この後にゴーマンはとんでもないことを仕出かしてしまう――
――時刻は深夜を迎え、レノが自分の部屋で眠っていると玄関の扉が叩かれる音が聞こえた。何事かと思ったレノは慌てて起きて扉を開くと、酷く焦った様子の村長が居た。
「レノ!!頼む、助けてくれ!!」
「村長!?どうしたんですかこんな時間に……」
扉を開けた途端に村長はレノの両肩を強く握りしめ、彼の行動にただ事ではないと察したレノは用件を尋ねる。
「落ち着いて下さい!!いったいなにがあったんですか?」
「あ、あの馬鹿が……ゴーマンが家出しおった!!」
「…………はあっ?」
ゴーマンが家出したと聞かされたレノは心底呆れた表情を浮かべ、こんな夜中にわざわざ来るぐらいだから、とんでもない事件が起きたのかと身構えた自分が馬鹿馬鹿しく思えた。だが、村長は真剣に悩んだ様子でレノに頭を下げる。
「お主が帰った後に儂が説教したのだが、ゴーマンの奴は部屋にこもって出て来なくなってしまってな。心配した妻が様子を見に行ったら、あの子の部屋に書置きだけ残されておった」
「書置きですか……どんな内容ですか?」
「そ、それが……自分一人で山に生えている果物を採りに行くとだけ書いておった」
「えっ!?」
ゴーマンが残した手紙には山に一人で向かうと記され、それを見たアルは慌ててレノの元へ訪れた。山に一番詳しいのはレノなので村長は一緒にゴーマンを探して欲しいと伝えた。
「頼む!!あの馬鹿を連れ戻すのに協力してくれ!!勿論、見つけ出したら相応の礼はする!!」
「ちょっと待ってください。本当にゴーマンは山に向かったんですか!?」
「う、うむ……恐らくは1時間ほど前に家を抜け出して向かったと思う」
「1時間……まずい!?」
あれほど山が危険だと忠告したのにゴーマンが一人で向かったと知り、レノは急いで追いかけなければまずいと判断した。山には魔物が迷い込んでいる可能性もあり、もしも魔物に見つかったらゴーマンは殺されてしまう。
正直に言ってレノはゴーマンを嫌ってはいるが彼の両親には色々と世話になっており、もしもゴーマンが死ねば一人息子を失う悲しみを二人は一生背負って生きていく。家族を失う悲しみはレノも理解しており、仕方なくゴーマンを捜しに向かうことにした。
「村長は家に戻っててください!!俺が連れ戻しますから!!」
「いや、しかしお主だけに頼るわけには……」
「いいから家で待っててください!!はっきり言って付いて来られても足手纏いなんです!!」
「す、すまん……」
他の人間を連れて行く余裕などなく、もしも魔物が現れたら確実に足手纏いになるのでレノは村長の同行を断固拒否した。急いで準備を整えてレノは山へ向かう。
(あの馬鹿!!見つけたら絶対殴ってやる!!)
不本意だがゴーマンを助けるためにレノは全速力で向かい、村の外に出ると強化術を発動させて更に移動速度をあげた――
――山に到着したレノはまずはゴーマンが行きそうな場所を探すことにした。ゴーマンは肉が大好きだが狩猟技術を持ち合わせていない彼が動物を捕まえるために山に入ったとは考えにくく、それならば以前にオークの縄張りに生えていた大樹の果物が目当てで入った可能性が高い。
前に山に入った時もゴーマンは誰よりも果物を美味しそうに頬張っていたため、今回も果物が目当てで山に入ったのかもしれない。今日の食事の時もレノが持って来た果物を夢中で食しており、それを思い出したレノは大樹へと向かう。
「暗いな……灯りを付けるか」
山に入る前にレノはランタンを取り出して火を灯す。ファイアボールの魔法を使えば火球を生み出して照らすこともできるのだが、こんなところで無駄に魔力を消費するわけにはいかなかった。
「ゴーマン!!何処にいるんだ!!いるのなら返事しろ!!」
ゴーマンを呼びかけながらレノは山の中を歩き、彼が通った痕跡がないのかを探す。もしも魔物が山の中に迷い込んでいた場合、一般人のゴーマンが遭遇したら抵抗する暇もなく殺されてしまう。
魔物の恐ろしさは実際に戦った人間にしか理解されておらず、一角兎のように見た目は小さくて可愛らしい生物でも油断すれば命を落としかねない力を持っている。一応はゴーマンはオークに襲われた経験があるので彼も魔物の恐ろしさを理解していると思っていたが、まさか一人で山に登るなど思わなかった
(あの馬鹿、本当に何を考えてるんだ……見つけた!!)
歩いている途中でレノはゴーマンの足跡を発見し、予想通りに大樹がある方向へ足跡が続いていることに気が付く。今日のレノが採ってきた果物だけでは満足できないのか自分で採りに行こうとしているらしい。
「食い意地の張った奴だな……まあいい、これならすぐに追いつけそうだな」
足跡を見つけたレノは強化術を発動させて移動を行い、果物が生えている大樹へと向かう。だが、移動中にレノはとんでもない物を発見した。
「ん?何だこの臭い……うわっ!?」
悪臭を感じ取ったレノは足を止めると、大きな糞が落ちていることに気が付いた。山に暮らす動物の糞など偶に見かけるが、レノが見つけた糞はとんでもなく大きかった。
「何だこの馬鹿でかい糞は……しかもさっき出したばかりみたいだ。まさかゴーマンのじゃないよな」
嫌な予感を抱きながらもレノは糞を素通りしてゴーマンの後を追いかけ、もう少しで大樹に辿り着けるというところで悲鳴を耳にした。
「ひぎゃああああっ!?」
「ゴーマン!?」
大樹がある方角から聞き覚えのある声を耳にしたレノは急いで向かう。そして木々を潜り抜けて遂に大樹に辿り着くと、そこには大量の果物を手に持ったゴーマンが大樹に駆け抜ける姿があった。
ゴーマンの姿を見てレノは彼が生きていたことに安堵するが、ゴーマンの後方から巨大な赤色の生物が迫っていることに気が付く。ゴーマンを追いかけてくるのは全身が赤色の毛皮で覆われた巨大熊だと判明した。
「ガアアアッ!!」
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