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序章 狩人の孫
第2話 祖父の正体
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「――全く、心配かけさせおって……儂等がどれだけ探したと思ってる!?お前を死なせたら死んだ婆さんやお前の両親に合わせる顔がないわ!!」
「ううっ……ごめんなさい」
レノはアルに背負わってもらいながら山を下りていた。アルによればレノのお陰で村まで逃げ切れた子供が山で起きた出来事を村人に話し、山に孫が取り残されたことを知ったアルが駆けつけてくれたらしい。
実はレノの両親は彼が生まれたばかりの頃に事故で亡くなり、祖母はレノが生まれる前に病気で亡くなってしまった。だからレノは現在はアルと二人切りで暮らしており、彼が亡き両親の代わりに育て親となった。普段のアルは狩人として生活しており、この山にもよく訪れていたのでレノを見つけ出すことができた。
「子供達からお前がオークの注意を引いて逃げ出したと聞いていたからな。だからオークの痕跡を辿ればお前の元へ辿り着けると思っていたが、こんな山奥まで逃げていたとは……」
「前に爺ちゃんが何度か山に一緒に連れて行ってくれたお陰で助かったよ……でも、山の中にあんな化物がいるなんて知らなかった」
子供であるレノがオークを一度振り切れたのはアルのお陰であり、彼だけは子供の中で何度か山に登ったことがあるので逃げる際も焦らずに落ち着いて対処できた。だが、前に登った時はオークとは一度も遭遇していなかったので初めて見た猪の化物に動揺してしまった。
「あのオークは最近にこの山に住み着いた魔物だ。近いうちに始末するつもりだったが、まさかこんな形で仕留めることになるとは……惜しいことをした」
「惜しいって……どういう意味?」
「オークの肉は普通の猪や豚よりも栄養価も高くて味も美味い。できる限り傷つけずに仕留めることができれば高く売れたが……あの様では売り物にもならんな」
レノは先ほどアルが燃やしたオークの存在を思い出し、今までは聞きそびれていたが彼がどうやってオークを仕留めたのかを尋ねる。
「爺ちゃん……さっき、何をしたの?」
「……忘れろ、と言っても忘れられんか」
「まさか爺ちゃんは……魔法使いだったの?」
今よりも小さい頃にレノは絵本で魔法使いという存在を知り、彼等は魔法という不思議な力で炎や水を生み出す力を持っていることは知っていた。だが、実際に魔法使いが存在するなど夢にも思わなかった。
おとぎ話に出てくる魔法使いが本当に実在することに驚き、しかもそれが自分の祖父だと知ってレノは尋ねずにはいられなかった。アルは魔法を使った場面を見られた以上は惚けるのは無理だと判断し、彼は自分の正体を明かす。
「レノ……儂は魔術師だ」
「魔術師?」
「魔法使いの別の呼び方と考えればいい」
「じゃあ……やっぱり爺ちゃんは魔法が使えたの!?何で今まで黙っていたのさ!!」
アルが魔法を使えたことを初めて知り、どうして今まで自分に隠していたのかとレノは興奮気味に尋ねると、アルは困った表情を浮かべた。
「お前に儂が魔法を使えることを知られれば必ずこう言うだろう……魔法を教えてくれとな」
「そんなの……当たり前だよ!!」
祖父が魔術師だと知るとレノは自分も魔法が使えるのか気になるのは当たり前だった。だが、アルはレノに魔法を使えることを知られたくはなかったらしく、彼は魔法の力がどれほど危険なのかを話す。
「お前に魔法を教えなかったのはまだ子供だからだ。もしも下手にお前に魔法の力を教えて問題を起こしてしまったら……儂等はこの村で暮らせなくなる」
「え?」
「例えば他の子供と喧嘩をした時、魔法の力を使えばどうなると思う?喧嘩相手の子供を大怪我させるどころか死なせてしまうかもしれない」
「そ、それは……」
「魔法は便利な力だが、使い道を謝れば恐ろしい事態を引き起こす。だから儂はお主が大人になるまで魔法を使えることは隠そうと思っていた」
レノはアルに言われて黙り込み、確かに自分が魔法の力を覚えていたら他の子供と喧嘩する時に魔法を使わずにいられる自信はなかった。頭に血が上って魔法の力で他の子供を傷つけてしまうかもしれず、そんなことをすれば村から追い出されてしまう。
しかし、アルがオークに繰り出した魔法の光景をレノは鮮明に思い出す。アルが持っていた杖から炎の塊が出現し、オークを火達磨にした光景が忘れられず、あんなに凄い魔法を自分も扱いたいと考える。
「爺ちゃん!!俺にも魔法を教えてよ!!」
「駄目だ!!お前には魔法まだ早すぎる!!」
「俺だって爺ちゃんみたいな格好いい魔術師になりたいんだ!!だから教えてよ!!絶対に悪いことには使わないって約束するから!!」
「儂が……格好いいだと?そんなことをお前に言われたのは初めてだな……何時の間にお世辞を覚えた」
自分のことを格好いいと言われてアルは機嫌を良くするが、まだ小さいレノに魔法を教えることに躊躇する。魔法の力は本当に危険なため、もしもレノが魔法の力を悪用すれば取り返しがつかない事態に陥る。だが、村に逃げ帰ってきた子供の話では彼は自分を犠牲にしてまで他の子供達を助けようとしたことを思い出す。
(レノは自分を囮にして子供達を逃がした。そんな子が私利私欲のために魔法を悪用するのか?正義感の強さは親譲りというわけか……)
アルの息子も正義感が強く、他人が困っていれば自分を犠牲にしてでも助けようとする性格の持ち主だった。それにレノの場合は諦めが悪く、一度自分が決めたことは最後までやり遂げようとする。アルは仕方なく彼の覚悟を見込んで魔法を教えることにした。
「はあっ……絶対に魔法の力を悪用しないと約束できるか?」
「爺ちゃん!?じゃあ……」
「……魔法の修業は厳しいぞ」
「やった!!」
魔法を悪用しないことを条件にアルはレノに魔法の使い方を教えてくれることを約束した。この日以降からレノは魔術師になるための修業を受ける――
「ううっ……ごめんなさい」
レノはアルに背負わってもらいながら山を下りていた。アルによればレノのお陰で村まで逃げ切れた子供が山で起きた出来事を村人に話し、山に孫が取り残されたことを知ったアルが駆けつけてくれたらしい。
実はレノの両親は彼が生まれたばかりの頃に事故で亡くなり、祖母はレノが生まれる前に病気で亡くなってしまった。だからレノは現在はアルと二人切りで暮らしており、彼が亡き両親の代わりに育て親となった。普段のアルは狩人として生活しており、この山にもよく訪れていたのでレノを見つけ出すことができた。
「子供達からお前がオークの注意を引いて逃げ出したと聞いていたからな。だからオークの痕跡を辿ればお前の元へ辿り着けると思っていたが、こんな山奥まで逃げていたとは……」
「前に爺ちゃんが何度か山に一緒に連れて行ってくれたお陰で助かったよ……でも、山の中にあんな化物がいるなんて知らなかった」
子供であるレノがオークを一度振り切れたのはアルのお陰であり、彼だけは子供の中で何度か山に登ったことがあるので逃げる際も焦らずに落ち着いて対処できた。だが、前に登った時はオークとは一度も遭遇していなかったので初めて見た猪の化物に動揺してしまった。
「あのオークは最近にこの山に住み着いた魔物だ。近いうちに始末するつもりだったが、まさかこんな形で仕留めることになるとは……惜しいことをした」
「惜しいって……どういう意味?」
「オークの肉は普通の猪や豚よりも栄養価も高くて味も美味い。できる限り傷つけずに仕留めることができれば高く売れたが……あの様では売り物にもならんな」
レノは先ほどアルが燃やしたオークの存在を思い出し、今までは聞きそびれていたが彼がどうやってオークを仕留めたのかを尋ねる。
「爺ちゃん……さっき、何をしたの?」
「……忘れろ、と言っても忘れられんか」
「まさか爺ちゃんは……魔法使いだったの?」
今よりも小さい頃にレノは絵本で魔法使いという存在を知り、彼等は魔法という不思議な力で炎や水を生み出す力を持っていることは知っていた。だが、実際に魔法使いが存在するなど夢にも思わなかった。
おとぎ話に出てくる魔法使いが本当に実在することに驚き、しかもそれが自分の祖父だと知ってレノは尋ねずにはいられなかった。アルは魔法を使った場面を見られた以上は惚けるのは無理だと判断し、彼は自分の正体を明かす。
「レノ……儂は魔術師だ」
「魔術師?」
「魔法使いの別の呼び方と考えればいい」
「じゃあ……やっぱり爺ちゃんは魔法が使えたの!?何で今まで黙っていたのさ!!」
アルが魔法を使えたことを初めて知り、どうして今まで自分に隠していたのかとレノは興奮気味に尋ねると、アルは困った表情を浮かべた。
「お前に儂が魔法を使えることを知られれば必ずこう言うだろう……魔法を教えてくれとな」
「そんなの……当たり前だよ!!」
祖父が魔術師だと知るとレノは自分も魔法が使えるのか気になるのは当たり前だった。だが、アルはレノに魔法を使えることを知られたくはなかったらしく、彼は魔法の力がどれほど危険なのかを話す。
「お前に魔法を教えなかったのはまだ子供だからだ。もしも下手にお前に魔法の力を教えて問題を起こしてしまったら……儂等はこの村で暮らせなくなる」
「え?」
「例えば他の子供と喧嘩をした時、魔法の力を使えばどうなると思う?喧嘩相手の子供を大怪我させるどころか死なせてしまうかもしれない」
「そ、それは……」
「魔法は便利な力だが、使い道を謝れば恐ろしい事態を引き起こす。だから儂はお主が大人になるまで魔法を使えることは隠そうと思っていた」
レノはアルに言われて黙り込み、確かに自分が魔法の力を覚えていたら他の子供と喧嘩する時に魔法を使わずにいられる自信はなかった。頭に血が上って魔法の力で他の子供を傷つけてしまうかもしれず、そんなことをすれば村から追い出されてしまう。
しかし、アルがオークに繰り出した魔法の光景をレノは鮮明に思い出す。アルが持っていた杖から炎の塊が出現し、オークを火達磨にした光景が忘れられず、あんなに凄い魔法を自分も扱いたいと考える。
「爺ちゃん!!俺にも魔法を教えてよ!!」
「駄目だ!!お前には魔法まだ早すぎる!!」
「俺だって爺ちゃんみたいな格好いい魔術師になりたいんだ!!だから教えてよ!!絶対に悪いことには使わないって約束するから!!」
「儂が……格好いいだと?そんなことをお前に言われたのは初めてだな……何時の間にお世辞を覚えた」
自分のことを格好いいと言われてアルは機嫌を良くするが、まだ小さいレノに魔法を教えることに躊躇する。魔法の力は本当に危険なため、もしもレノが魔法の力を悪用すれば取り返しがつかない事態に陥る。だが、村に逃げ帰ってきた子供の話では彼は自分を犠牲にしてまで他の子供達を助けようとしたことを思い出す。
(レノは自分を囮にして子供達を逃がした。そんな子が私利私欲のために魔法を悪用するのか?正義感の強さは親譲りというわけか……)
アルの息子も正義感が強く、他人が困っていれば自分を犠牲にしてでも助けようとする性格の持ち主だった。それにレノの場合は諦めが悪く、一度自分が決めたことは最後までやり遂げようとする。アルは仕方なく彼の覚悟を見込んで魔法を教えることにした。
「はあっ……絶対に魔法の力を悪用しないと約束できるか?」
「爺ちゃん!?じゃあ……」
「……魔法の修業は厳しいぞ」
「やった!!」
魔法を悪用しないことを条件にアルはレノに魔法の使い方を教えてくれることを約束した。この日以降からレノは魔術師になるための修業を受ける――
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