上 下
64 / 65

衝撃は突然に ※ある貴族令嬢

しおりを挟む
その光景を目にした時、わたくしは雷に撃たれたような衝撃でしたわ。

周りの皆様もその様だったはず。
だって、どなたも私と同じ顔をしていたのですもの。







私は、とある貴族の次女としてこのフェリトリンド王国に生を受けました。

家名は明かしませんことよ?
何故かと言いますと、私が今日、騎士団寮を訪れたのは両親には絶対に秘密だからなのです。

だってそうでしょう?
いくら幼馴染(こちらも貴族令嬢なので名前は伏せますわ)の頼みとは言え、市民に混ざって騎士団を見に行くなんて。

お父様が知ったら、私も幼馴染も領地の自室に閉じ込められてしまいます。

あぁ、誤解の無い様に申しておきますが、決して市民を下に見ている訳ではこざいません。

ただ、私達は貴族である以上、市民が幸せに生活できるように導く使命がございます。

そのように立場が違いますので、市民と一緒になって騒ぐ等と言う事は言語道断なのです。
ええ、そうなのです。

お父様的には。。。


私も概ねその意見には賛成でしたが、つい魔が差したとでも言いますかーー。

幼馴染に誘われた時、心が大きく動いてしまったのです。

『貴女、王国騎士団のリフエール様を見た事がある⁉︎それはそれは素敵なのよ!!』


私と幼馴染は貴族学院の生徒でありますから、当然リフエール様のお噂は知っておりました。

美しく男らしい外見。
均整の取れた素晴らしい体躯。
優しく親しみやすいお心。

貴族としては下位ながら、彼と結婚したいと願う貴族令嬢のなんと多いことか。

彼のお写真を密かに持ち歩いている生徒が大多数を占めるのも、無理からぬ事なのです。

「リフエール様?一度お見かけした事はあるけれど。」

『騎士団の任務中の所を遠くから、と言うことでしょう⁉︎私が言ってるのは違うのよ!間近で、何だったらお話しもできるんだから!』

大興奮の友人が言うには、リフエール様は騎士団の寮にお住まいなのだそうです。
そして、その寮があるのは王宮の隣、一般に開放されている公園の敷地内。

『つまり!寮にお帰りになるリフエール様を誰に咎められる事もなく見られるのよ!!』

まぁ。それは凄い事ですわね。
友人が興奮するのも分かる気がします。

ですが、次の台詞には言葉を失いました。

『行くわよ!ヴィオラ!!』

行くって…私達は貴族令嬢ですわよ⁉︎
そんな風に騎士様を待ち伏せなんて大変はしたない事はできません。

お父様に知られたら、罰として何週間も邸宅に閉じ込められてしまいます。

ああ、『ヴィオラ』と言うのは私の愛称です。
それ位なら明かしても差し障りありません。
因みに友人の愛称は『リア』と言います。

「リア、そんな事ができるはずないでしょう?」

『それが、できるのよ!これを使えばね!!』

高らかに宣言したリアが鞄から取り出したのは、ワンピース。
ですが、普段私達が着る物と生地や縫製が違います。

「これは…市民の服⁉︎」

『ご名答よ!手に入れるのに苦労したんだから!これを着ていけば私達が貴族だなんてバレないわ!』

靴と帽子までセットになったそれは、ご丁寧に私の分も用意されていました。

「それでも、待ち伏せなんて目立つでしょう?
それに、どうやってそこまで行くの?」

この学院から騎士団寮があると言う公園まで、馬車で30分はかかります。

私とリアは学院の寮で生活をしているのですが、馬車は基本的に実家が迎えを寄越してくれる物。

実家に帰る時以外に寮を出るのは、原則として禁止なのですから。

『何言ってるのよ!皆んなコッソリ街に出てるじゃない。やり方があるのよ!』

私は知らなかったのですが、どうも内緒で街に繰り出す生徒は大勢いるそうなのです。

『家から馬車で通っている生徒に同乗させてもらうの。貴族街からなら公園まで歩いて行けるわ!』

成る程、学院側には『友人宅で勉強をする』とでも申請すれば良いのですね。

『因みに、請け負ってくれる生徒がいるから大丈夫よ!それにリフエール様を待ち伏せしてる女性は他にもいるから目立つ何て事もないの!』

そう言われて、反論する所が無くなってしまいました。


…いいえ、それは嘘ですわね。
私はそう思い込みたかったのです。

だって、女性しかいない学院では恋をする事がありません。
素敵な殿方を見て心をときめかせてみたいと言う思いは存分に持ち合わせていたのです。

それから、少しの冒険心も。

厳しいお父様の事は尊敬していますが、私はまだ16歳。

色々な世界を見て、体験してみたいのです。


『ほら、行くわよ!ピンクの方譲ってあげるから!』

ワンピースをヒラヒラと振るリアの言葉にも後押しされて、私はその日の放課後、騎士団の寮へ向かう事となりました。





●●●
次回もヴィオラちゃん目線です。
シエラとリフが周りからどう見えたのか、存分に語ってもらいましょう(*´∀`*)笑




しおりを挟む
感想 11

あなたにおすすめの小説

【本編完結済】前世の英雄(ストーカー)が今世でも後輩(ストーカー)な件。

とかげになりたい僕
BL
 表では世界を救った英雄。  裏ではボクを狂ったほどに縛り付ける悪魔。  前世で魔王四天王だったボクは、魔王が討たれたその日から、英雄ユーリに毎夜抱かれる愛玩機となっていた。  痛いほどに押しつけられる愛、身勝手な感情、息苦しい生活。  だがユーリが死に、同時にボクにも死が訪れた。やっと解放されたのだ。  そんな記憶も今は前世の話。  大学三年生になった僕は、ボロアパートに一人暮らしをし、アルバイト漬けになりながらも、毎日充実して生きていた。  そして運命の入学式の日。  僕の目の前に現れたのは、同じく転生をしていたユーリ、その人だった――  この作品は小説家になろう、アルファポリスで連載しています。 2024.5.15追記  その後の二人を不定期更新中。

キスから始まる主従契約

毒島らいおん
BL
異世界に召喚された挙げ句に、間違いだったと言われて見捨てられた葵。そんな葵を助けてくれたのは、美貌の公爵ローレルだった。 ローレルの優しげな雰囲気に葵は惹かれる。しかも向こうからキスをしてきて葵は有頂天になるが、それは魔法で主従契約を結ぶためだった。 しかも週に1回キスをしないと死んでしまう、とんでもないもので――。 ◯ それでもなんとか彼に好かれようとがんばる葵と、実は腹黒いうえに秘密を抱えているローレルが、過去やら危機やらを乗り越えて、最後には最高の伴侶なるお話。 (全48話・毎日12時に更新)

会長の親衛隊隊長になったので一生懸命猫を被ろうと思います。

かしあ
BL
「きゃー会長様今日も素敵ですね♪(お前はいつになったら彼氏を作るんだバ会長)」 「あ、副会長様今日もいい笑顔ですね(気持ち悪い笑顔向ける暇あんなら親衛隊の子達とイチャコラしろよ、見に行くから)」 気づいたら会長の親衛隊隊長になっていたので、生徒会に嫌われる為に猫を被りながら生活しているのに非王道な生徒会の中にいる非王道な会長に絡まれる腐男子のお話。 会長×会長の親衛隊隊長のお話です。 ※題名、小説内容も少し変更しております。

突然異世界転移させられたと思ったら騎士に拾われて執事にされて愛されています

ブラフ
BL
学校からの帰宅中、突然マンホールが光って知らない場所にいた神田伊織は森の中を彷徨っていた 魔獣に襲われ通りかかった騎士に助けてもらったところ、なぜだか騎士にいたく気に入られて屋敷に連れて帰られて執事となった。 そこまではよかったがなぜだか騎士に別の意味で気に入られていたのだった。 だがその騎士にも秘密があった―――。 その秘密を知り、伊織はどう決断していくのか。

リンドグレーン大佐の提案

高菜あやめ
BL
◾️第四部連載中◾️軍事国家ロイシュベルタの下級士官テオドアは、軍司令部の上級士官リンドグレーン大佐から持ちかけられた『提案』に応じて、その身を一晩ゆだねることに。一夜限りの関係かと思いきや、その後も大佐はなにかとテオドアに構うようになり、いつしか激しい執着をみせるようになっていく……カリスマ軍師と叩き上げ下級士の、甘辛い攻防戦です【支配系美形攻×出世欲強い流され系受】

転生悪役令息、雌落ち回避で溺愛地獄!?義兄がラスボスです!

めがねあざらし
BL
人気BLゲーム『ノエル』の悪役令息リアムに転生した俺。 ゲームの中では「雌落ちエンド」しか用意されていない絶望的な未来が待っている。 兄の過剰な溺愛をかわしながらフラグを回避しようと奮闘する俺だが、いつしか兄の目に奇妙な影が──。 義兄の溺愛が執着へと変わり、ついには「ラスボス化」!? このままじゃゲームオーバー確定!?俺は義兄を救い、ハッピーエンドを迎えられるのか……。 ※タイトル変更(2024/11/27)

悪役令嬢のペットは殿下に囲われ溺愛される

白霧雪。
BL
旧題:悪役令嬢のポチは第一王子に囲われて溺愛されてます!? 愛される喜びを知ってしまった―― 公爵令嬢ベアトリーチェの幼馴染兼従者として生まれ育ったヴィンセント。ベアトリーチェの婚約者が他の女に現を抜かすため、彼女が不幸な結婚をする前に何とか婚約を解消できないかと考えていると、彼女の婚約者の兄であり第一王子であるエドワードが現れる。「自分がベアトリーチェの婚約について、『ベアトリーチェにとって不幸な結末』にならないよう取り計らう」「その代わり、ヴィンセントが欲しい」と取引を持ち掛けられ、不審に思いつつも受け入れることに。警戒を解かないヴィンセントに対し、エドワードは甘く溺愛してきて…… ❁❀花籠の泥人形編 更新中✿ 残4話予定✾ ❀小話を番外編にまとめました❀ ✿背後注意話✿ ✾Twitter → @yuki_cat8 (作業過程や裏話など) ❀書籍化記念IFSSを番外編に追加しました!(23.1.11)❀

俺にとってはあなたが運命でした

ハル
BL
第2次性が浸透し、αを引き付ける発情期があるΩへの差別が医療の発達により緩和され始めた社会 βの少し人付き合いが苦手で友人がいないだけの平凡な大学生、浅野瑞穂 彼は一人暮らしをしていたが、コンビニ生活を母に知られ実家に戻される。 その隣に引っ越してきたαΩ夫夫、嵯峨彰彦と菜桜、αの子供、理人と香菜と出会い、彼らと交流を深める。 それと同時に、彼ら家族が頼りにする彰彦の幼馴染で同僚である遠月晴哉とも親睦を深め、やがて2人は惹かれ合う。

処理中です...