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希望 ※ミリ
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パレードから5日が経ち、シエラ様の様子はすっかり元通りに見える。
意識は新作のショコラに向いていて、今日はその売れ行きを見に王都へ出向いたんだけど…
引ったくり?こんな昼日中に?
そんなのシエラ様が放っておく訳が無いから、言われる前に犯人を捕らえにかかる。
「身体強化」をかけた足なら造作もない。
犯人の男は観念したのかハンドバッグを放り投げた…と思ったら、仲間がいたらしい。
逆方向に逃げるソイツを追うと、今捕まえた男を逃してしまう。
野次馬が多くて雷撃は使えない。
さて、どうする…。
「騎士団だ!」
逡巡している私の耳に、民衆の期待に満ちた声が聞こえた。
見ると、逃げる男の行手を阻むように二人の騎士が現れる。
そして、こちらにも。
「ご協力に感謝します!お怪我はありませんか?」
私は声をかけて来た騎士に頷くと、捕らえた犯人を引き渡す。
「パレードの人混みを狙って上手くいかなかった小悪党共が今になって問題を起こしてましてね。
助かりました。」
成る程、その小悪党達は知らなかったに違いない。
ここ王都の治安の良さを支える、騎士団の有能さを。
その時、野次馬の騒めきを感じた。
振り返った私の目に飛び込んで来たのは、立ち尽くすシエラ様とそこに突っ込んで行く男。
「シエラ様!」
私は叫んで魔術符を取り出す。
これを使うとシエラ様に怒られるけれど、一切の迷いはない。
私の主に触るな!下等生物が!!
……あら?
繰り出そうとした術式を、直前で止めた。
シエラ様の元へ、太陽に輝く金色が…それこそ姫を救う騎士のごとく現れたからだ。
その騎士は、シエラ様を後ろから抱き抱えるようにして護ると見事なカウンターを決めた。
両足と片手が塞がった状態での冷静な判断。
それと、コンウォールでは見られない「護ること」に特化した剣技。
まさか、この騎士が例のーー?
思わずジッと見詰めていると、彼が私の気配に気づいた。
そして、私ではなくシエラ様に話しかける。
私の主がシエラ様だと一瞬で見抜いたのね。
主に対して敵意が無い事を私に示した訳か。
…若いのに大したものだわ。
感心している間にも、彼はシエラ様に微笑みかけて何か言っている。
それに対するシエラ様の反応を見て、私はこの若い騎士が件のリフエールだと確信した。
私の主がそれはそれはもう…可愛らしく恥じらっていたから。
ほんのり上気した顔で彼を見つめるその姿は、普段の主からはーー特に人前では考えられない。
事件で動揺しているとは言え、これ程長く貴族モードに戻れないシエラ様を見たのは初めてだった。
本人もそれを自覚しているのか、戸惑いが見て取れる。
その光景を見て、フォローに回らなくてはと思うのと同時に気付いた。
ずっとずっと拭えなかった私の不安の正体にーー。
ショコラを除けば、私とルドとトッド様だけで完結しているシエラ様の世界。
それを危ういと感じていたのは、きっとこの先の未来だ。
私とルドは、シエラ様の護衛だ。
シエラ様を命をかけて護るのだから、当然私達はシエラ様より先に死ぬ。
トッド様だってシエラ様と親子ほど歳が離れているから、トッド様の方が先に逝くだろう。
そうなった時、シエラ様は簡単に生きる事を諦めてしまうのではないかーー。
『ショコラも広まったし、家族がいない世界に僕は未練なんかないよ?』
いつも通りの笑顔で、何の気負いもなく言ってのけそうな私の主。
……これではいけない。
お互いの為に生きようと対等に思える相手。
共にいる事に喜びを見出し、心から満たされる存在。
シエラ様には、一緒に生きる相手が必要だ。
それが、リフエールと言うこの若者なのかはまだ分からないけれど…。
それでも、確かに可能性を感じたの。
そんな風に思っていたせいかしら。
跳ね飛ばされたショコラを落ちないように宙に浮かせていただけのはずが、いつの間にか彼等の周りを舞うように操作していたのよね。
キラキラと輝くショコラの雨の中で見つめ合う二人の姿は美しく、どこか暖かくて…。
私の胸は期待に震えた。
きっと彼が、私の大切な大切な主に教えてくれる。
甘くて、時にほろ苦くて….でも蕩けるような幸せを感じる。
そんな、ショコラみたいな「愛」の形をーーー。
意識は新作のショコラに向いていて、今日はその売れ行きを見に王都へ出向いたんだけど…
引ったくり?こんな昼日中に?
そんなのシエラ様が放っておく訳が無いから、言われる前に犯人を捕らえにかかる。
「身体強化」をかけた足なら造作もない。
犯人の男は観念したのかハンドバッグを放り投げた…と思ったら、仲間がいたらしい。
逆方向に逃げるソイツを追うと、今捕まえた男を逃してしまう。
野次馬が多くて雷撃は使えない。
さて、どうする…。
「騎士団だ!」
逡巡している私の耳に、民衆の期待に満ちた声が聞こえた。
見ると、逃げる男の行手を阻むように二人の騎士が現れる。
そして、こちらにも。
「ご協力に感謝します!お怪我はありませんか?」
私は声をかけて来た騎士に頷くと、捕らえた犯人を引き渡す。
「パレードの人混みを狙って上手くいかなかった小悪党共が今になって問題を起こしてましてね。
助かりました。」
成る程、その小悪党達は知らなかったに違いない。
ここ王都の治安の良さを支える、騎士団の有能さを。
その時、野次馬の騒めきを感じた。
振り返った私の目に飛び込んで来たのは、立ち尽くすシエラ様とそこに突っ込んで行く男。
「シエラ様!」
私は叫んで魔術符を取り出す。
これを使うとシエラ様に怒られるけれど、一切の迷いはない。
私の主に触るな!下等生物が!!
……あら?
繰り出そうとした術式を、直前で止めた。
シエラ様の元へ、太陽に輝く金色が…それこそ姫を救う騎士のごとく現れたからだ。
その騎士は、シエラ様を後ろから抱き抱えるようにして護ると見事なカウンターを決めた。
両足と片手が塞がった状態での冷静な判断。
それと、コンウォールでは見られない「護ること」に特化した剣技。
まさか、この騎士が例のーー?
思わずジッと見詰めていると、彼が私の気配に気づいた。
そして、私ではなくシエラ様に話しかける。
私の主がシエラ様だと一瞬で見抜いたのね。
主に対して敵意が無い事を私に示した訳か。
…若いのに大したものだわ。
感心している間にも、彼はシエラ様に微笑みかけて何か言っている。
それに対するシエラ様の反応を見て、私はこの若い騎士が件のリフエールだと確信した。
私の主がそれはそれはもう…可愛らしく恥じらっていたから。
ほんのり上気した顔で彼を見つめるその姿は、普段の主からはーー特に人前では考えられない。
事件で動揺しているとは言え、これ程長く貴族モードに戻れないシエラ様を見たのは初めてだった。
本人もそれを自覚しているのか、戸惑いが見て取れる。
その光景を見て、フォローに回らなくてはと思うのと同時に気付いた。
ずっとずっと拭えなかった私の不安の正体にーー。
ショコラを除けば、私とルドとトッド様だけで完結しているシエラ様の世界。
それを危ういと感じていたのは、きっとこの先の未来だ。
私とルドは、シエラ様の護衛だ。
シエラ様を命をかけて護るのだから、当然私達はシエラ様より先に死ぬ。
トッド様だってシエラ様と親子ほど歳が離れているから、トッド様の方が先に逝くだろう。
そうなった時、シエラ様は簡単に生きる事を諦めてしまうのではないかーー。
『ショコラも広まったし、家族がいない世界に僕は未練なんかないよ?』
いつも通りの笑顔で、何の気負いもなく言ってのけそうな私の主。
……これではいけない。
お互いの為に生きようと対等に思える相手。
共にいる事に喜びを見出し、心から満たされる存在。
シエラ様には、一緒に生きる相手が必要だ。
それが、リフエールと言うこの若者なのかはまだ分からないけれど…。
それでも、確かに可能性を感じたの。
そんな風に思っていたせいかしら。
跳ね飛ばされたショコラを落ちないように宙に浮かせていただけのはずが、いつの間にか彼等の周りを舞うように操作していたのよね。
キラキラと輝くショコラの雨の中で見つめ合う二人の姿は美しく、どこか暖かくて…。
私の胸は期待に震えた。
きっと彼が、私の大切な大切な主に教えてくれる。
甘くて、時にほろ苦くて….でも蕩けるような幸せを感じる。
そんな、ショコラみたいな「愛」の形をーーー。
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