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その人物は ※ミリ
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シエラ様は卒業式後、念願のショコラトリーをオープンした。
暫くは大変だったけれど、シエラ様の努力とトッド様の全面協力で段々と軌道に乗っていったわ。
開業資金は、シエラ様がこれまで貯めていたお金(毎月伯爵家から支払われる公式なお金)と、不足分はトッド様に援助してもらったそうだ。
トッド様は愛息の様な存在のシエラ様に「あげた」
認識だったみたいだけど、シエラ様は「借りた」つもりだったらしい。
毎月売り上げの中からトッド様に返済して、それを1年で払い終えたのだから大したものよね。
私の主は商才も素晴らしいのよ。
それに、私は日々楽しそうに過ごすその姿を見られる事が嬉しかった。
苦手とする実家から自立したと言っても過言ではない状況は、彼の気持ちを随分軽くしたみたいだ。
そんなある日の事。
庶民にもショコラを広めるために、広告塔となる人物が欲しいと言うシエラ様。
庶民から絶大な人気を誇る人間と言えば、王国騎士団の騎士だろう。
一度見に行ってみようと言うシエラ様に従って出向いた陛下の生誕パレードは大変な熱気だった。
私も美形好きとして楽しみにしていたのだけれど…
あまりにも人が多くて断念してしまった。
母国で迫り来る民衆のクーデターを目の当たりにした私は、人混みを大の苦手としている。
シエラ様の護衛を泣く泣くルドに任せて、私は馬車でお留守番だ。
「貴族モード」で外へ出て行くシエラ様に見惚れながら見送って、帰りを待つ。
その間に情報を拾っておこうかしら。
魔術を使えばここからでもできるし。
人々の話しを精査した所、どうも今の騎士団で一番注目されているのはリフエールと言う騎士らしい。
男爵家の長男。第二部隊。人柄も顔も良い出世頭の
21歳。愛称はリフ。
長男なのに騎士団にいるなんて珍しいわ。
領地は弟が継ぐみたいね…もしかして脳筋タイプなのかしら?
そんな事を考えていた時だった。
ワアァァァァァァァァ!!
空気を揺るがす程の大歓声が沸き起こった。
「リフエール様よ!なんて素敵なの!」
女性達の声で、噂の当人がお出ましになった事が分かった。
それにしても、凄い人気ぶりね。
王族が通った時よりも歓声が大きいんじゃないかしら。
しかも、だ。
「副隊長補佐になったんだってな!アイツなら俺も応援するぜ!」
男性からの支持も厚いらしい。
なるほど、広告塔としては申し分ない知名度だけれど…。
さて、シエラ様の目にはどう映ったのかしら。
それから少しして、シエラ様とルドが戻って来た。
この人混みの中をこの速さで帰って来たってことは、ルドが相当周りを威圧したんだろう。
現に、かなりピリついている。
こんなに不快感を露わにするルドは珍しいわね。
「シエラ様?」
私は一言も話さない主の顔を見て息を呑む。
淡雪のような白い頬にうっすらと朱が差し、長い睫毛が憂いを帯びて影を作っている。
その奥の瞳は濡れたように輝き、本物のエメラルドのよう…。
ーーこれは、周りの人間を狂わせる美しさだ。
ルドが強行突破して来た訳が分かった。
彼は私にむっすりと頷くと御者台へ向かう。
後で話すから、シエラ様を頼むってことね。
走り出した馬車の中で、シエラ様は完全に心ここに在らずだった。
それは邸宅に着いてからも続いて、ついには疲れたからと言って部屋に籠ってしまった。
「それで、何があったの?」
ルドに問いかけると、彼は苛立ちを無理矢理抑えたような声音で話し始めた。
それによると、騎士団の一人とシエラ様が暫し見つめ合うような状況になったらしい。
「あれは明らかにシエラ様に見惚れていた。
俺の威圧にも平然としていたのが腹立たしい。」
「でもシエラ様に見惚れるなと言う方が無理だし、そんなの日常茶飯事じゃない。」
「それだけならな。問題はシエラ様の反応だ。」
ん?どう言うこと?
「貴族モードのシエラ様が、騎士と目が合ったと分かりつつ何一つ行動を起こさなかったんだぞ。
周囲など目に入らないかのように、ただ一心に相手を見つめていた。」
「えっ…それは珍しいわね…。」
貴族モードのシエラ様はいつ何時も周囲に気を配っている。
貴族社会において、敵意がない事を示すのは非常に重要な事だ。
よって貴族は、誰かと目が合えば柔かに対応する。
会釈したり、微笑んだり、話しかけたり。
それは子供の頃から徹底して教え込まれ事案で、シエラ様も忠実に守っているはずだ。
「…じゃあ、それを忘れる程夢中になっていたってこと?」
「恐らく。あんなシエラ様は初めて見た。」
苦々しく言うルドに肝心な事を尋ねる。
「その騎士の名前は?」
「リフエール。」
それは、今日一日で一番聞いた名前。
「リフエール=ウェレン。
ウェレン男爵家の長男で、本日付けで副隊長補佐になった男だ。」
●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●
6月の更新…少なッ‼︎
7月は頑張ります!笑
暫くは大変だったけれど、シエラ様の努力とトッド様の全面協力で段々と軌道に乗っていったわ。
開業資金は、シエラ様がこれまで貯めていたお金(毎月伯爵家から支払われる公式なお金)と、不足分はトッド様に援助してもらったそうだ。
トッド様は愛息の様な存在のシエラ様に「あげた」
認識だったみたいだけど、シエラ様は「借りた」つもりだったらしい。
毎月売り上げの中からトッド様に返済して、それを1年で払い終えたのだから大したものよね。
私の主は商才も素晴らしいのよ。
それに、私は日々楽しそうに過ごすその姿を見られる事が嬉しかった。
苦手とする実家から自立したと言っても過言ではない状況は、彼の気持ちを随分軽くしたみたいだ。
そんなある日の事。
庶民にもショコラを広めるために、広告塔となる人物が欲しいと言うシエラ様。
庶民から絶大な人気を誇る人間と言えば、王国騎士団の騎士だろう。
一度見に行ってみようと言うシエラ様に従って出向いた陛下の生誕パレードは大変な熱気だった。
私も美形好きとして楽しみにしていたのだけれど…
あまりにも人が多くて断念してしまった。
母国で迫り来る民衆のクーデターを目の当たりにした私は、人混みを大の苦手としている。
シエラ様の護衛を泣く泣くルドに任せて、私は馬車でお留守番だ。
「貴族モード」で外へ出て行くシエラ様に見惚れながら見送って、帰りを待つ。
その間に情報を拾っておこうかしら。
魔術を使えばここからでもできるし。
人々の話しを精査した所、どうも今の騎士団で一番注目されているのはリフエールと言う騎士らしい。
男爵家の長男。第二部隊。人柄も顔も良い出世頭の
21歳。愛称はリフ。
長男なのに騎士団にいるなんて珍しいわ。
領地は弟が継ぐみたいね…もしかして脳筋タイプなのかしら?
そんな事を考えていた時だった。
ワアァァァァァァァァ!!
空気を揺るがす程の大歓声が沸き起こった。
「リフエール様よ!なんて素敵なの!」
女性達の声で、噂の当人がお出ましになった事が分かった。
それにしても、凄い人気ぶりね。
王族が通った時よりも歓声が大きいんじゃないかしら。
しかも、だ。
「副隊長補佐になったんだってな!アイツなら俺も応援するぜ!」
男性からの支持も厚いらしい。
なるほど、広告塔としては申し分ない知名度だけれど…。
さて、シエラ様の目にはどう映ったのかしら。
それから少しして、シエラ様とルドが戻って来た。
この人混みの中をこの速さで帰って来たってことは、ルドが相当周りを威圧したんだろう。
現に、かなりピリついている。
こんなに不快感を露わにするルドは珍しいわね。
「シエラ様?」
私は一言も話さない主の顔を見て息を呑む。
淡雪のような白い頬にうっすらと朱が差し、長い睫毛が憂いを帯びて影を作っている。
その奥の瞳は濡れたように輝き、本物のエメラルドのよう…。
ーーこれは、周りの人間を狂わせる美しさだ。
ルドが強行突破して来た訳が分かった。
彼は私にむっすりと頷くと御者台へ向かう。
後で話すから、シエラ様を頼むってことね。
走り出した馬車の中で、シエラ様は完全に心ここに在らずだった。
それは邸宅に着いてからも続いて、ついには疲れたからと言って部屋に籠ってしまった。
「それで、何があったの?」
ルドに問いかけると、彼は苛立ちを無理矢理抑えたような声音で話し始めた。
それによると、騎士団の一人とシエラ様が暫し見つめ合うような状況になったらしい。
「あれは明らかにシエラ様に見惚れていた。
俺の威圧にも平然としていたのが腹立たしい。」
「でもシエラ様に見惚れるなと言う方が無理だし、そんなの日常茶飯事じゃない。」
「それだけならな。問題はシエラ様の反応だ。」
ん?どう言うこと?
「貴族モードのシエラ様が、騎士と目が合ったと分かりつつ何一つ行動を起こさなかったんだぞ。
周囲など目に入らないかのように、ただ一心に相手を見つめていた。」
「えっ…それは珍しいわね…。」
貴族モードのシエラ様はいつ何時も周囲に気を配っている。
貴族社会において、敵意がない事を示すのは非常に重要な事だ。
よって貴族は、誰かと目が合えば柔かに対応する。
会釈したり、微笑んだり、話しかけたり。
それは子供の頃から徹底して教え込まれ事案で、シエラ様も忠実に守っているはずだ。
「…じゃあ、それを忘れる程夢中になっていたってこと?」
「恐らく。あんなシエラ様は初めて見た。」
苦々しく言うルドに肝心な事を尋ねる。
「その騎士の名前は?」
「リフエール。」
それは、今日一日で一番聞いた名前。
「リフエール=ウェレン。
ウェレン男爵家の長男で、本日付けで副隊長補佐になった男だ。」
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7月は頑張ります!笑
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