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手紙 ※ミリ

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一つだけ救いだったのは、シエラ様が不埒な奴等に目を付けらなかった事だ。
シエラ様の美貌では、思春期の盛った猿共…んんっ。
お年頃の貴族令息達に目をつけられて、無理矢理婚約者にされたりしかねない。

現にマリーナは学生時代、相当そう言った事で苦労した様子だった。
当時の私はこの国の貴族制度など良く分からなかったけれど、どうも男爵家の次女である彼女は後ろ盾が無かったらしい。

高位貴族が権力を使ってマリーナに言い寄って来たり、無理矢理婚約しようとしてきた事も一度や二度では無かった。

そんな内容の手紙を受け取っていた私は気が気では無かったけれど、ある日の手紙で彼女は凄く嬉しそうにこう告げた。

『言い寄られて困っている所を、高学年の方に助けていただいたの!
とってもお強いのよ!彼の前では、散々私に絡んで来た男子生徒達も大人しくしているわ!』

それが、後に彼女の夫となるコンウォール伯爵(当時は伯爵子息)だった。
元々、学院の騎士科に所属する彼と貴族科のマリーナに接点は無かったらしい。

だけど、偶々この日、中庭に出ていたコンウォール伯爵が困り果てた顔のマリーナを見て声をかけて来たそうだ。
邪魔されて逆上した男子生徒をデコピンで吹き飛ばすと言うオマケ付きで…。

後から知った事なのだけど、国防の要であるコンウォール家は王に大変重宝されていて、伯爵位でありながら侯爵家や公爵家もおいそれとは手を出せないポジションを確立しているそうだ。

しかもデコピンで人を吹っ飛ばすなんて…。
本格的に「不死鳥」で訓練していない段階でこれなんて、まぁ恐ろしくて敵に回したい人間はいないだろう。

コンウォール伯爵のお陰でマリーナの周りは治安が良くなった。
彼は卒業した後もその名前でマリーナを護り、これが縁で二人は結婚したのよね。


だけど、マリーナにとってのコンウォール伯爵のような人が必ずいるとは限らない。
認識阻害の魔術をかけるのは反対だったけれど、シエラ様が猿共の危害を被らなかった事に関しては喜ぶべきよね。

当の本人は、友人が出来なかった事に対して苦笑するだけだった。

「僕には君達がいるからそれでいいよ。」

主にそんな風に言われて嬉しくない訳がない。
だけど、私は一抹の不安を覚えた。
シエラ様の世界は、ショコラと私達とトッド様だけで完結してしまっているのだ。

それは…なんと言うか、危うい気がするーー。


だけど、その危うさの原因が何処にあるのか確信が持てなかった。

私が一人悶々としている間に、シエラ様は学院在学中から準備を進めていたショコラトリーをオープンさせて、オーナーとして生活を始めたわ。
タウンハウスの一つを譲り受けたシエラ様は、全くと言っていい程実家には寄り付かなくなった。

当然よね。
それでも、マリーナの命日だけは忘れずに墓前に花を供えに行っていたわ。
誰の目にも触れないようにひっそり立ち去るシエラ様の背中を見ていると、いっそ実家とは縁を切ってしまった方が幸せなのではないかと思ってしまう。

でもそうすると、マリーナとの縁も切れてしまうことになるのよね。
それはシエラ様にとって辛い事だろう。


色々と思い悩んでいた私は、久方ぶりにマリーナからの手紙を読み返す事にした。
母国から転移して来た時、私の服の中に入れていたこの手紙はほとんどがズタズタになって、私の血でグッショリ濡れてしまっていた。

修復は不可能かと思って落ち込んでいたら、なんとエヴァンス公爵が復元してくださったの。

彼は大陸一の魔術師で、幸運な事に、偶々コンウォールに視察に来ていた。
私はそこに転移してきたって訳だ。

転移の魔術は、人間には使えない。
大昔、まだ魔術師が多くいた時代、転移の魔術を使った暗殺が横行したから。

それを阻止するべく、転移の魔術の創始者である当時の大魔術師が、その術に呪いをかけたのだ。

人間に使用すれば、術者も転移対象者も死ぬ。
空間の裂け目に肌を、内臓を、骨を抉られて、激しい痛みと大量の血を流しながら無残な死を遂げる。

私が生きているのは、もう死ぬ寸前だった私をエヴァンス公爵が魔術で蘇生してくれたからだ。
そんな事は彼にしかできないから、実質転移できる人間は存在しない。

私は一命を取り留めてからも死の縁を彷徨ったけれど、息を吹き返した。

生きている事を喜んでいいのか、悲しむべきなのか…。悩む私に、エヴァンス公爵が差し出してくれたのがこの手紙達だった。




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エヴァンス公爵は大陸随一の魔術師であると共に、大陸一と称される美貌の持ち主です。
彼のお話し(主従系BL♡)もあるんですが長くなりそうなので、機会があればこちらとは別で書きたいなと思ってます(*´∀`*)







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