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事の真相 ※リフエール
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そして、混乱する俺と、何とか羞恥から立ち直ったシエラ様がハーブティーを啜る今に至る訳なのだが…。
俺の手を止めたとき、ミリ殿はこう言った。
『本当の恋人ではなくて、恋人役と言うのを忘れていますよ、シエラ様。』
恋人役と言うのがどうにも理解できないが、その口ぶりから本当の交際の申し込みでは無かったのだろう。
まぁそれはそうだろうなと思う。
いや、そう思え俺。
何をちょっと残念がってるんだ…。
「大変に失礼を致しました。
よもや私などが貴方をお慕いしているようなご迷惑な発言をしてしまい…。
驚かせてしまったことをお詫び致します。」
シエラ様が深く頭を下げた。
およそ上位貴族らしくない謝罪の仕方に俺は慌てる。
「シエラ様、お顔を上げて下さい。
…確かに驚きましたが、迷惑などと言うことは決してありません。」
なんなら浮かれそうだった。
ミリ殿のストップがあと数秒遅ければ、完全に浮かれていたと思う。
「ですが、その…恋人役と言うのはどういった意味なのでしょうか。」
「はい。それについてお話しさせていただきます。」
俺の問いにシエラ様が話してくれたのは、彼の子供の頃からの夢である、ショコラを世の中に広めたいと言う思いだった。
それを叶えるために、学院在学中は経営について学び、時にはルド様についてショコラの原料がある国外へも足を運んだそうだ。
卒業後はその知識と、子供の頃から貯めた資金を使ってショコラトリーをオープン。
現在に至る、と。
「お陰様でショコラトリーは開店から2年が経ち経営も安定しています。」
ですが、と一度言葉を切ってからシエラ様は続けた。
「ショコラは貴族には広まりつつあるのですが、庶民への認知度はまだまだなのです。
もっと宣伝が必要だと考えています。」
成る程。ここまでは理解することができた。
シエラ様がショコラに並々ならぬ情熱を注いでいることも。
ハリマーさんの情報では、シエラ様はコンウォール家で不死鳥に属さない唯一の人物だった筈だ。
それが家の方針なのか本人の意思なのかは分からないが、彼は別の目標を持ち努力してそれを叶えた。
強い思いがなければできないことだろう。
「私はこの国の、お茶の時間がある文化が素晴らしいものだと思うのです。意識せずとも自分を休められたり、仕事の仲間や家族とコミュニケーションが取れるのですから。
ニホ…いえ…。他国の中には、食事すら仕事の片手間に取る様になってしまっている場合や、家族との会話が無く、お互いに無関心になってしまうような場合があるのです。
そう言った意味でも、我が国のこの文化は大切にするべきだと考えています。」
俺はこのフェリトリンド王国において当たり前であるお茶の時間に関して、こんなに深く考えたことはなかった。
おそらく国民の大半がそうだと思う。
だが改めて思い返すと、確かに他国でこのような文化があると言う話しは聞いたことがない。
「そのお茶の時間に、美味しいお菓子があればさらに良いと思うのです。
正直なことを申しますと、それが必ずしもショコラである必要はないのですが…。」
シエラ様は苦笑した。
「それでもやはり、私が最も愛しているショコラを知って欲しいと言う気持ちが強いのです。
この国の文化と共に、その美味しさを広める方法をいつも考えています。
…今日も実は、この後ショコラをお出しするつもりだったのです。」
シエラ様の言葉と同時に、ミリ殿がカクテルグラスが4つ並んだ横長のプレートを持ってきた。
そのグラス1つにつき1粒のショコラが入っている。
グラスに収められたショコラは美しく、まるで宝石のようだ。
「これはーーー。」
「ご名答です。先日私達の周りに降ったのと同じ種類のジュエルショコラになります。」
俺が気付いてシエラ様を見ると、彼は嬉しそうに微笑んだ。
「このショコラは今、とても人気があるのですよ。ーーリフエール様のお陰で。」
今度は少し悪戯っぽく微笑んだシエラ様の言葉に、俺はもしかしてと思って訪ねる。
「あの事件で、ですか?」
「そうです。厳密には事件と言うよりも…ショコラが舞う中にいる貴方が余りにも素敵だったから、です。」
いやいや、あの幻想的な光景は俺じゃなくてシエラ様の美しさがあったからだ。
「先程申しましたように、私はショコラの宣伝に力を入れたいと思っていました。
そこで考えたのが、庶民から人気のある方に、多くの人の前でショコラを食べて貰うことです。
憧れの方が口にした物をぜひ自分も、と考える方は多いと思います。」
「つまり、ショコラに興味を持って貰うためのきっかけ作りと言うことですか。
え…それをまさか、私が?」
話しの流れとシエラ様の視線で、彼の言わんとしている事に気が付いた。
「ぜひ、お願いできればと。
リフエール様は私の理想そのものなのです!」
えーっと、この場合の「理想」はシエラ様のタイプ的なことじゃなくて、ショコラの宣伝役としてって意味だよな。
同じ轍は踏むなよ、俺。
「いえ、ですが私にそのような影響力があるとはとても…。」
「リフエール様の人気はパレードの日に証明されているではないですか。
私はあのような歓声を聞いたのは初めてでした。」
「いや、それは…。」
俺が言葉に窮していると、シエラ様が少し困ったような口調で続ける。
「ですので、本当はリフエール様お1人にお願いしようと思っていたのです。ですが…
ここ最近街で流れている噂話しはご存知でしょうか。」
それは、シエラ様と俺が交際しているって言う、あれだろうか。
「あぁ、やはりお耳に入っていたようですね。その噂話しの影響力が凄いのですよ。
ショコラトリーではジュエルショコラのみが連日完売しているのです。」
遂に俺はシエラ様の言わんとしていることに合点がいった。
「私の恋人役となって、ショコラの宣伝に協力していただけないでしょうか。」
今度は違えることなく、シエラ様がそう告げた。
●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●
やっと伝わった!!
次回はシエラ視点です。
俺の手を止めたとき、ミリ殿はこう言った。
『本当の恋人ではなくて、恋人役と言うのを忘れていますよ、シエラ様。』
恋人役と言うのがどうにも理解できないが、その口ぶりから本当の交際の申し込みでは無かったのだろう。
まぁそれはそうだろうなと思う。
いや、そう思え俺。
何をちょっと残念がってるんだ…。
「大変に失礼を致しました。
よもや私などが貴方をお慕いしているようなご迷惑な発言をしてしまい…。
驚かせてしまったことをお詫び致します。」
シエラ様が深く頭を下げた。
およそ上位貴族らしくない謝罪の仕方に俺は慌てる。
「シエラ様、お顔を上げて下さい。
…確かに驚きましたが、迷惑などと言うことは決してありません。」
なんなら浮かれそうだった。
ミリ殿のストップがあと数秒遅ければ、完全に浮かれていたと思う。
「ですが、その…恋人役と言うのはどういった意味なのでしょうか。」
「はい。それについてお話しさせていただきます。」
俺の問いにシエラ様が話してくれたのは、彼の子供の頃からの夢である、ショコラを世の中に広めたいと言う思いだった。
それを叶えるために、学院在学中は経営について学び、時にはルド様についてショコラの原料がある国外へも足を運んだそうだ。
卒業後はその知識と、子供の頃から貯めた資金を使ってショコラトリーをオープン。
現在に至る、と。
「お陰様でショコラトリーは開店から2年が経ち経営も安定しています。」
ですが、と一度言葉を切ってからシエラ様は続けた。
「ショコラは貴族には広まりつつあるのですが、庶民への認知度はまだまだなのです。
もっと宣伝が必要だと考えています。」
成る程。ここまでは理解することができた。
シエラ様がショコラに並々ならぬ情熱を注いでいることも。
ハリマーさんの情報では、シエラ様はコンウォール家で不死鳥に属さない唯一の人物だった筈だ。
それが家の方針なのか本人の意思なのかは分からないが、彼は別の目標を持ち努力してそれを叶えた。
強い思いがなければできないことだろう。
「私はこの国の、お茶の時間がある文化が素晴らしいものだと思うのです。意識せずとも自分を休められたり、仕事の仲間や家族とコミュニケーションが取れるのですから。
ニホ…いえ…。他国の中には、食事すら仕事の片手間に取る様になってしまっている場合や、家族との会話が無く、お互いに無関心になってしまうような場合があるのです。
そう言った意味でも、我が国のこの文化は大切にするべきだと考えています。」
俺はこのフェリトリンド王国において当たり前であるお茶の時間に関して、こんなに深く考えたことはなかった。
おそらく国民の大半がそうだと思う。
だが改めて思い返すと、確かに他国でこのような文化があると言う話しは聞いたことがない。
「そのお茶の時間に、美味しいお菓子があればさらに良いと思うのです。
正直なことを申しますと、それが必ずしもショコラである必要はないのですが…。」
シエラ様は苦笑した。
「それでもやはり、私が最も愛しているショコラを知って欲しいと言う気持ちが強いのです。
この国の文化と共に、その美味しさを広める方法をいつも考えています。
…今日も実は、この後ショコラをお出しするつもりだったのです。」
シエラ様の言葉と同時に、ミリ殿がカクテルグラスが4つ並んだ横長のプレートを持ってきた。
そのグラス1つにつき1粒のショコラが入っている。
グラスに収められたショコラは美しく、まるで宝石のようだ。
「これはーーー。」
「ご名答です。先日私達の周りに降ったのと同じ種類のジュエルショコラになります。」
俺が気付いてシエラ様を見ると、彼は嬉しそうに微笑んだ。
「このショコラは今、とても人気があるのですよ。ーーリフエール様のお陰で。」
今度は少し悪戯っぽく微笑んだシエラ様の言葉に、俺はもしかしてと思って訪ねる。
「あの事件で、ですか?」
「そうです。厳密には事件と言うよりも…ショコラが舞う中にいる貴方が余りにも素敵だったから、です。」
いやいや、あの幻想的な光景は俺じゃなくてシエラ様の美しさがあったからだ。
「先程申しましたように、私はショコラの宣伝に力を入れたいと思っていました。
そこで考えたのが、庶民から人気のある方に、多くの人の前でショコラを食べて貰うことです。
憧れの方が口にした物をぜひ自分も、と考える方は多いと思います。」
「つまり、ショコラに興味を持って貰うためのきっかけ作りと言うことですか。
え…それをまさか、私が?」
話しの流れとシエラ様の視線で、彼の言わんとしている事に気が付いた。
「ぜひ、お願いできればと。
リフエール様は私の理想そのものなのです!」
えーっと、この場合の「理想」はシエラ様のタイプ的なことじゃなくて、ショコラの宣伝役としてって意味だよな。
同じ轍は踏むなよ、俺。
「いえ、ですが私にそのような影響力があるとはとても…。」
「リフエール様の人気はパレードの日に証明されているではないですか。
私はあのような歓声を聞いたのは初めてでした。」
「いや、それは…。」
俺が言葉に窮していると、シエラ様が少し困ったような口調で続ける。
「ですので、本当はリフエール様お1人にお願いしようと思っていたのです。ですが…
ここ最近街で流れている噂話しはご存知でしょうか。」
それは、シエラ様と俺が交際しているって言う、あれだろうか。
「あぁ、やはりお耳に入っていたようですね。その噂話しの影響力が凄いのですよ。
ショコラトリーではジュエルショコラのみが連日完売しているのです。」
遂に俺はシエラ様の言わんとしていることに合点がいった。
「私の恋人役となって、ショコラの宣伝に協力していただけないでしょうか。」
今度は違えることなく、シエラ様がそう告げた。
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やっと伝わった!!
次回はシエラ視点です。
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