ショコラ伯爵の悩ましい日常

あさひてまり

文字の大きさ
上 下
35 / 65

王都に降るものは ※シエラ

しおりを挟む
「シエラ様!」

切羽詰まったミリの声に視線を地上に戻した時には、男はもう目前に迫っていた。
縦にも横にもデカイ。
体格も体重も圧倒的に僕が不利。
このままの勢いでぶつかられたら、吹っ飛ぶのは確実に僕だ。

突き飛ばされるーーー。

そう思った時には身体が後ろにかしいでいた。

だけど、目前の男は

それどころか、驚きに見開いた目で僕の背後を見てーーそして次の瞬間には、呻き声を上げて地面に転がっていた。

背後から僕の腰を引き寄せた誰かが、男の鳩尾みぞおちに強烈な突きを放ったらしい。
その手には鞘に収めたままの剣が握られている。

この人、凄く強いーー。

片手を僕の腰に回して抱き込んで、尚且つ立てた自分の片膝に座らせている。
その体勢から、空いた方の手で急所を的確に狙う鋭い一撃。

子供の頃、嫌と言う程目に入って来た荒々しい実戦的な殺すための剣技とは違う、華麗な剣。
初めて見る、護るためのそれーー。

抱き込まれて包みこまれる心地良さと、背中に密着する逞しい胸に安心する。

「危ない所でしたね。」

少し悪戯っぽく言った声に首を巡らせると、そこにはーーー。

あの日逸らせなかった、碧い瞳があった。
あの時よりもずっと近い距離で、あの時よりもずっと優しくこちらを見つめている。

「……リフエール…様…。」

思わず彼の名前を呟くと、その体と触れ合った背中が熱を帯びた。
驚いたような表情の彼に、一方的に名前を知っていたことがバレて焦る。
慌てて目を逸らして俯くけど、バッチリ聞かれてしまったはずだ。
初対面で許可もなく下の名前で呼ぶとか!
貴族としてあるまじき失態に狼狽える。
何とか誤魔化さなければと頭を回すのに、どう言う訳かいつもの「仮面」がつけられない。

「…ふっ…」

そんな僕の内情を知ってか知らずか、彼は小さく笑いを漏らした。
怒るならいざ知らず、笑うってどう言うことだろう。
おずおずと視線を上げると、そこには楽しそうに微笑む姿があった。

「お怪我はないですか?ーーシエラ様。」

本気でビックリした。
何で名前を知ってるんだろう。
もしやコンウォール筋の知り合いか?
王国騎士団なら有り得なくはない。
過去には合同演習とかしてたし…。

「な…」

少し調子を取り戻した僕は、何故名前をご存知なのですかと聞こうとして、その先を言えなかった。
目の前にあり得ない光景が広がっていたからだ。
途中でフリーズした僕に不思議そうにしていた彼も、それに気付いたようだ。
驚きに目をみはっている。

何かが、キラキラと太陽の光を反射しながらゆっくりと舞っていた。
天から光の粒が降り注いでいるかのような、幻想的な光景。
それはノワール、ブラウン、ホワイト、ピンクに輝いて僕達2人の周りを揺蕩たゆたう。



名付けた通り、まるで宝石ジュエルのように。



ショコラが降る中で、僕達は出会ったーーー。





●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●
出会ったぁぁぁぁ!!笑
少し幻想的に、でもシエラらしくしたくてショコラを降らせてみたんですが雰囲気出てましたでしょうか?
因みにショコラが浮いてるのはミリの魔術です。
そのうちミリ目線も書きます。
次回はリフ目線です。


しおりを挟む
感想 12

あなたにおすすめの小説

拝啓、愛しの侯爵様~行き遅れ令嬢ですが、運命の人は案外近くにいたようです~

藤原ライラ
ファンタジー
心を奪われた手紙の先には、運命の人が待っていた――  子爵令嬢のキャロラインは、両親を早くに亡くし、年の離れた弟の面倒を見ているうちにすっかり婚期を逃しつつあった。夜会でも誰からも相手にされない彼女は、新しい出会いを求めて文通を始めることに。届いた美しい字で洗練された内容の手紙に、相手はきっとうんと年上の素敵なおじ様のはずだとキャロラインは予想する。  彼とのやり取りにときめく毎日だがそれに難癖をつける者がいた。幼馴染で侯爵家の嫡男、クリストファーである。 「理想の相手なんかに巡り合えるわけないだろう。現実を見た方がいい」  四つ年下の彼はいつも辛辣で彼女には冷たい。  そんな時キャロラインは、夜会で想像した文通相手とそっくりな人物に出会ってしまう……。  文通相手の正体は一体誰なのか。そしてキャロラインの恋の行方は!? じれじれ両片思いです。 ※他サイトでも掲載しています。 イラスト:ひろ様(https://xfolio.jp/portfolio/hiro_foxtail)

生まれ変わりは嫌われ者

青ムギ
BL
無数の矢が俺の体に突き刺さる。 「ケイラ…っ!!」 王子(グレン)の悲痛な声に胸が痛む。口から大量の血が噴きその場に倒れ込む。意識が朦朧とする中、王子に最後の別れを告げる。 「グレン……。愛してる。」 「あぁ。俺も愛してるケイラ。」 壊れ物を大切に包み込むような動作のキス。 ━━━━━━━━━━━━━━━ あの時のグレン王子はとても優しく、名前を持たなかった俺にかっこいい名前をつけてくれた。いっぱい話しをしてくれた。一緒に寝たりもした。 なのにー、 運命というのは時に残酷なものだ。 俺は王子を……グレンを愛しているのに、貴方は俺を嫌い他の人を見ている。 一途に慕い続けてきたこの気持ちは諦めきれない。 ★表紙のイラストは、Picrew様の[見上げる男子]ぐんま様からお借りしました。ありがとうございます!

【完結】相談する相手を、間違えました

ryon*
BL
長い間片想いしていた幼なじみの結婚を知らされ、30歳の誕生日前日に失恋した大晴。 自棄になり訪れた結婚相談所で、高校時代の同級生にして学内のカースト最上位に君臨していた男、早乙女 遼河と再会して・・・ *** 執着系美形攻めに、あっさりカラダから堕とされる自称平凡地味陰キャ受けを書きたかった。 ただ、それだけです。 *** 他サイトにも、掲載しています。 てんぱる1様の、フリー素材を表紙にお借りしています。 *** エブリスタで2022/5/6~5/11、BLトレンドランキング1位を獲得しました。 ありがとうございました。 *** 閲覧への感謝の気持ちをこめて、5/8 遼河視点のSSを追加しました。 ちょっと闇深い感じですが、楽しんで頂けたら幸いです(*´ω`*) *** 2022/5/14 エブリスタで保存したデータが飛ぶという不具合が出ているみたいで、ちょっとこわいのであちらに置いていたSSを念のためこちらにも転載しておきます。

【完結】ハーレムルートには重要な手掛かりが隠されています

天冨七緒
BL
僕は幼い頃から男の子が好きだった。 気が付いたら女の子より男の子が好き。 だけどなんとなくこの感情は「イケナイ」ことなんだと思って、ひた隠しにした。 そんな僕が勇気を出して高校は男子校を選んだ。 素敵な人は沢山いた。 けど、気持ちは伝えられなかった。 知れば、皆は女の子が好きだったから。 だから、僕は小説の世界に逃げた。 少し遠くの駅の本屋で男の子同士の恋愛の話を買った。 それだけが僕の逃げ場所で救いだった。 小説を読んでいる間は、僕も主人公になれた。 主人公のように好きな人に好きになってもらいたい。 僕の願いはそれだけ…叶わない願いだけど…。 早く家に帰ってゆっくり本が読みたかった。 それだけだったのに、信号が変わると僕は地面に横たわっていた…。 電信柱を折るようにトラックが突っ込んでいた。 …僕は死んだ。 死んだはずだったのに…生きてる…これは死ぬ瞬間に見ている夢なのかな? 格好いい人が目の前にいるの… えっ?えっ?えっ? 僕達は今…。 純愛…ルート ハーレムルート 設定を知る者 物語は終盤へ とあり、かなりの長編となっております。 ゲームの番外編のような物語です、何故なら本編は… 純愛…ルートから一変するハーレムルートすべての謎が解けるのはラスト。 長すぎて面倒という方は最終回で全ての流れが分かるかと…禁じ手ではありますが

国を救った英雄と一つ屋根の下とか聞いてない!

古森きり
BL
第8回BL小説大賞、奨励賞ありがとうございます! 7/15よりレンタル切り替えとなります。 紙書籍版もよろしくお願いします! 妾の子であり、『Ω型』として生まれてきて風当たりが強く、居心地の悪い思いをして生きてきた第五王子のシオン。 成人年齢である十八歳の誕生日に王位継承権を破棄して、王都で念願の冒険者酒場宿を開店させた! これからはお城に呼び出されていびられる事もない、幸せな生活が待っている……はずだった。 「なんで国の英雄と一緒に酒場宿をやらなきゃいけないの!」 「それはもちろん『Ω型』のシオン様お一人で生活出来るはずもない、と国王陛下よりお世話を仰せつかったからです」 「んもおおおっ!」 どうなる、俺の一人暮らし! いや、従業員もいるから元々一人暮らしじゃないけど! ※読み直しナッシング書き溜め。 ※飛び飛びで書いてるから矛盾点とか出ても見逃して欲しい。  

大嫌いだったアイツの子なんか絶対に身籠りません!

みづき(藤吉めぐみ)
BL
国王の妾の子として、宮廷の片隅で母親とひっそりと暮らしていたユズハ。宮廷ではオメガの子だからと『下層の子』と蔑まれ、次期国王の子であるアサギからはしょっちゅういたずらをされていて、ユズハは大嫌いだった。 そんなある日、国王交代のタイミングで宮廷を追い出されたユズハ。娼館のスタッフとして働いていたが、十八歳になり、男娼となる。 初めての夜、客として現れたのは、幼い頃大嫌いだったアサギ、しかも「俺の子を孕め」なんて言ってきて――絶対に嫌! と思うユズハだが…… 架空の近未来世界を舞台にした、再会から始まるオメガバースです。

放課後教室

Kokonuca.
BL
ある放課後の教室で彼に起こった凶事からすべて始まる

愛がなければ生きていけない

ニノ
BL
 巻き込まれて異世界に召喚された僕には、この世界のどこにも居場所がなかった。  唯一手を差しのべてくれた優しい人にすら今では他に愛する人がいる。  何故、元の世界に帰るチャンスをふいにしてしまったんだろう……今ではそのことをとても後悔している。 ※ムーンライトさんでも投稿しています。

処理中です...