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まさか…  ※リフエール

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「はぁ…。」

騎士団寮の共用風呂で、俺は今日何度目になるか分からない溜息を吐いた。
広い湯船には今は俺しか入っていない。
通常であれば、仕事後の疲れを癒す至福の時間なのだが…。

「いや、今回に関してはお前の事妬む気にならんわ。…気の毒に。」

ザブザブと湯を波立たせながら隣に来たのはジェシーだ。
いつも俺を揶揄うニヤニヤ笑いではなく、同情顔で。

「まさか、副隊長の予言が的中するとはなぁ。」




『リフ目当てのお嬢さん達が騎士団寮の前で待ち伏せ…なんてことになったら大変だねぇ。』

その予言があった日、パレードを無事に終えた
団員達の話題は「不死鳥の姫」一択だった。
ハリマーさんの他に彼を知っていたのは、第二部隊ではヴァン隊長のみ。
どうやら10年近く前、不死鳥との合同演習があったらしい。
騎士団の中でも優秀な者が選出され、コンウォール領に赴く形で行われたその演習に、若き日の隊長(当時は新人)とハリマーさんは参加していたそうだ。

「俺はもう一生不死鳥には関わりたくねぇなぁ。ありゃ地獄だった。」

ハリマーさんの心からの言葉に、隊長が続ける。

「確かに。どの戦よりもあの演習が辛かったな。あれに耐えられれば戦場なんて余裕だ。」

歴戦の戦士2人の言葉に、周りで話を聞いていた俺達が戦慄したのは言うまでも無い。
不死鳥とは、そこまで桁違いな武力なのか…。

「演習中の唯一の癒しが不死鳥の姫だったなぁ。当時はまだ10歳にもなってなかったと思うが。」

ハリマーさん曰く、演習が始まって1週間が経った頃、訓練所から見えるコーンウォール城の中庭に妖精が出ると噂が立ったらしい。
そんなバカなと笑っていたハリマーさんも、ある日その光景を目撃することになる。

コンウォール側の団員と先陣の話しに夢中になり、1人で訓練所から宿舎に戻る途中だった。
ふと城の方を見ると、中庭に誰かいる。

「中庭に花を植えてたんだが…こりゃ間違いなく噂の妖精だなと分かった。」

暫く眺めていると、メイドらしき女性がやって来たそうだ。
妖精と親し気に話すメイドを見て、ハリマーさんは思わず声をかけた。
挨拶だけだったが大層驚かれたらしい。
今まで遠巻きに眺める人間はいても、誰も話しかけては来なかったんだそうだ。

『シエラ=コンウォールと申します。王都の騎士様。』

はにかみながら挨拶した愛らしい姿は、辛い演習の癒しとなった。
その日以降見かけることは無くなってしまったが…。

話しを終えたハリマーさんに、皆驚いたり感心したりしている。
そんな中で、俺の気持ちは波立っていた。
嬉しさと、悔しさと、羨ましさ。

彼の子供の頃の話しを聞いただけなのに、どうしてこうも感情が揺れるんだろうか…。


それから2日後。
不死鳥の姫は相変わらず人気だが、その話題から気を逸らす出来事が起こった。

当事者は…なんと俺である。

仕事が終わり帰る途中、何やら騎士団寮の門の前に人だかりができていた。

「あれ、何でしょう?」

「何だろうな?ヨシノの時期にはまだ早いよなぁ?」

ヨシノと言うのはサクラ王国から友好の証として贈られた花木のことだ。
5の月の中旬頃にピンクの綺麗な花をつけるその木はとても人気がある。
植えられたのは王宮の西側にある大きな庭園だったのだか、この美しさを国の民にも見せたいと願った先王陛下の心遣いにより、王立公園として一般に開放することになった。
そのため王宮の敷地外と言う扱いになり、人々は自由に利用することができる。

とても粋な計らいだと思うのだが、一つだけ困ったことがあった。
その公園の奥に位置している騎士団の寮が、王宮の敷地外だと勘違いされるようになってしまったのである。
門の両脇に大きなヨシノの木があるため、ここまで花見に来る者もいるのだ。

まぁ騎士団の寮に何か仕掛けてくるような命知らずな輩もいないのでこれまで問題は無かったのだが…

その安全神話がこの日を持って崩れ去った。
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