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碧の憂鬱 ※ルド
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ショコラトリーを開店して1年が経った現在、シエラ様の悩みはショコラが庶民に浸透しないことのようだ。
相談したトッド様に勧められ、王国騎士団を観るため国王の生誕パレードへ足を運んだのだが…。
主人の側を離れたがらないミリが怯む程の人混みである。
私達と居る時とは違い、一度外に出れば「貴族」となるシエラ様は本当に神々しい。
その美貌と上品さで嫌でも人目を集めてしまうため、護衛には細心の注意を払う。
邪な目で見るような輩がいれば容赦はしない。
「だけどここからでは見えないようだね。」
シエラ様が沿道を取り巻く何重もの人の群れに諦めたような声を出す。
私は逡巡した。
私が周りを威圧して、シエラ様を最前列にお連れすることは簡単だ。
それなりに武を極めた人間が「気」を使えば、威圧された相手は本能的にそこから逃げる。
猛獣と対峙したような気分になるからだ。
しかし、私の主はそれを良しとしないだろう。
シエラ様は貴族だからと特別扱いされることを嫌い、庶民へも分け隔てなく接する慎み深い性格をしておられるからだ。
どうしたものかと考えていると、すぐ前に並んだ女性2人がこちらを振り返った。
シエラ様の声が聞こえて、同意しようとしたのかもしれない。
しかし、言葉が出ないようだった。
彼女達はシエラ様の顔を見つめて茫然とし…頬を赤らめながら私達の後方に回ったのだ。
キョトンとしていたシエラ様を促せば、幸運だったと捉えたのか素直に前に進む。
すると、前方の人間も全く同じ行動をした。
老若男女問わず、シエラ様に見惚れ自分の位置を譲ってしまうのだ。
人は並外れて美しいものを見ると奉仕したくなるのだと、私はシエラ様にお仕えするようになってから知った。
あっという間に最前列に到達したシエラ様本人は、私が何かしたと勘違いしていたようだが。
そしてパレードが始まった。
私は自分が知っている騎士団の知識を小声でシエラ様に伝える。
私はどんな人混みでも相手にのみ言葉を伝える発声を会得しているためそれを使ったのだが、必要無かったかもしれない。
周りの人々がこの麗人の邪魔にならないようにと気を遣った結果、私達の周りだけ少し空間ができていたからだ。
こうして気付かないうちに信者を増やしていくのが主の困った所である。
パレードが終盤に差し掛かると、一際大きな歓声が上がった。
おそらく先日副隊長補佐となったリフエールと言う騎士のことだろう。
入団3年目で副隊長補佐と言うのは異例の出世の早さである。
彼に関しては情報が少ないため私も良く観察しておこう。
そう決意して彼の姿を視界に捉えた時ーー。
彼も此方に気付いた。
否、此方の我が主に気付いた。
碧い瞳が確実にシエラ様を捉えている。
驚いたような、それでいて何かを確信したようなその瞳には熱が見て取れた。
そしてシエラ様の意識も彼に注がれているのを感じる。
これは由々しき事態だ。
私は主人を見つめる不届き者に向かって圧を放つ。
彼はすぐに反応して私の方を見た。
暫く睨み合ったが、ふいに彼の方が視線を逸らした。
一緒に圧を受けた馬が多少動揺していたので、それを宥めるように背中を叩く。
動物は人間よりも敏感に圧を感じるものだ。
にも関わらず大きく取り乱さなかったのは、乗り手との信頼関係が築けている証である。
なるほど、伊達に若くして副隊長補佐になったわけではないという事か。
冷静な対処はなかなか見込みがある。
まぁ、だからと言ってシエラ様に相応しいかと言われれば間違いなく否だが。
パレードが終わると、貴族モードなのを忘れて普段の口調に近くなっているシエラ様に声をかける。
少しボンヤリした様子だ。
私は直ぐにでもミリと話したい気持ちでいっぱいだった。
私のこの苦々しい気持ちを理解してくれるのは、おそらく彼女だろうーーー。
相談したトッド様に勧められ、王国騎士団を観るため国王の生誕パレードへ足を運んだのだが…。
主人の側を離れたがらないミリが怯む程の人混みである。
私達と居る時とは違い、一度外に出れば「貴族」となるシエラ様は本当に神々しい。
その美貌と上品さで嫌でも人目を集めてしまうため、護衛には細心の注意を払う。
邪な目で見るような輩がいれば容赦はしない。
「だけどここからでは見えないようだね。」
シエラ様が沿道を取り巻く何重もの人の群れに諦めたような声を出す。
私は逡巡した。
私が周りを威圧して、シエラ様を最前列にお連れすることは簡単だ。
それなりに武を極めた人間が「気」を使えば、威圧された相手は本能的にそこから逃げる。
猛獣と対峙したような気分になるからだ。
しかし、私の主はそれを良しとしないだろう。
シエラ様は貴族だからと特別扱いされることを嫌い、庶民へも分け隔てなく接する慎み深い性格をしておられるからだ。
どうしたものかと考えていると、すぐ前に並んだ女性2人がこちらを振り返った。
シエラ様の声が聞こえて、同意しようとしたのかもしれない。
しかし、言葉が出ないようだった。
彼女達はシエラ様の顔を見つめて茫然とし…頬を赤らめながら私達の後方に回ったのだ。
キョトンとしていたシエラ様を促せば、幸運だったと捉えたのか素直に前に進む。
すると、前方の人間も全く同じ行動をした。
老若男女問わず、シエラ様に見惚れ自分の位置を譲ってしまうのだ。
人は並外れて美しいものを見ると奉仕したくなるのだと、私はシエラ様にお仕えするようになってから知った。
あっという間に最前列に到達したシエラ様本人は、私が何かしたと勘違いしていたようだが。
そしてパレードが始まった。
私は自分が知っている騎士団の知識を小声でシエラ様に伝える。
私はどんな人混みでも相手にのみ言葉を伝える発声を会得しているためそれを使ったのだが、必要無かったかもしれない。
周りの人々がこの麗人の邪魔にならないようにと気を遣った結果、私達の周りだけ少し空間ができていたからだ。
こうして気付かないうちに信者を増やしていくのが主の困った所である。
パレードが終盤に差し掛かると、一際大きな歓声が上がった。
おそらく先日副隊長補佐となったリフエールと言う騎士のことだろう。
入団3年目で副隊長補佐と言うのは異例の出世の早さである。
彼に関しては情報が少ないため私も良く観察しておこう。
そう決意して彼の姿を視界に捉えた時ーー。
彼も此方に気付いた。
否、此方の我が主に気付いた。
碧い瞳が確実にシエラ様を捉えている。
驚いたような、それでいて何かを確信したようなその瞳には熱が見て取れた。
そしてシエラ様の意識も彼に注がれているのを感じる。
これは由々しき事態だ。
私は主人を見つめる不届き者に向かって圧を放つ。
彼はすぐに反応して私の方を見た。
暫く睨み合ったが、ふいに彼の方が視線を逸らした。
一緒に圧を受けた馬が多少動揺していたので、それを宥めるように背中を叩く。
動物は人間よりも敏感に圧を感じるものだ。
にも関わらず大きく取り乱さなかったのは、乗り手との信頼関係が築けている証である。
なるほど、伊達に若くして副隊長補佐になったわけではないという事か。
冷静な対処はなかなか見込みがある。
まぁ、だからと言ってシエラ様に相応しいかと言われれば間違いなく否だが。
パレードが終わると、貴族モードなのを忘れて普段の口調に近くなっているシエラ様に声をかける。
少しボンヤリした様子だ。
私は直ぐにでもミリと話したい気持ちでいっぱいだった。
私のこの苦々しい気持ちを理解してくれるのは、おそらく彼女だろうーーー。
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