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ここから這い上がれのは少年漫画だけ ※シエラ
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僕が「リョウ」だった前世を思い出したのは、8歳の時だった。
きっかけはある物を飲んだことーーー。
その日、まだ少年だった僕は父上の客人の話しを夢中になって聞いていた。
場所は実家の応接室。
因みに、要塞のような造りの僕の実家は、伯爵邸でありながら「コンウォール城」なんて呼ばれている。
客人はトッドと言う男で、伯爵である父上とは旧知の仲だった。
男爵家の六男であるトッドはどう考えても自分に当主が回ってくることは無いからと自由に生きることにしたらしく、世界を股にかけて商売をしている。
成人して直ぐ転身したトッドを皆んな心配したらしいけど、礼儀作法も教養も持つ稀有な商人はやがて貴族のおかかえとなり、今や大商人の1人だ。
そのトッドは、年の半分以上は国外にいるが帰国した際は必ずコーンウォールを訪れる。
たくさんの異国のお土産を持って。
「これがサクラ国のリョクチャ。お茶だな。紅茶と違って色が緑なんだ。苦味があるがそれがなかなか美味い。」
ソファで向かい合う父上とトッドの間にあるテーブルには、所狭しと物が並んでいる。
「これもサクラ国の物なんだが…シエラにお土産だ。カンザシと言う髪飾りだよ。おいで。」
手招きされてトッドの膝に飛び込むと、彼は笑いながらぼくの髪を結ってくれた。
「ちょっとコツがいるんだか、このカンザシ一本で全て済むんだ。海の珊瑚でできてる。このピンク色は珊瑚そのものの色なんだよ。」
僕の背中まで延びた髪はあっという間にアップスタイルになった。
「いやー、シエラは本当にマリーナ嬢にそっくりだな。お前の遺伝子はどこいったんだ?」
戯けながら父上に言うトッドは実に楽しそうだ。
「いや、全く分からん。上2人は俺にそっくりなんだがな。この子は武術はできないだろう。」
トッドとは逆に父上は硬い口調だった。
マリーナと言うのは僕が3歳の時に亡くなった母親だ。
僕には12歳上の兄と10歳上の兄がいるんだけど、兄上達は父上に瓜二つなんだよね。
背が高く、日に焼けた精悍な顔つきと骨太の骨格。
2メートル近い長身と鋼のようにガッシリとした体躯の父上にはまだ及ばずとも、鍛えていけば同じようになるだろう。
一方の僕は背が低くてヒョロヒョロの色白。
まだ8歳と言うことを差し引いても骨格的に父上のようにはなれないことは、もう分かっていた。
コーンウォール領は、先祖代々武に秀でた家系だ。
「不死鳥」と呼ばれる私兵団を持ち、幾度となく敵国から自国を護ってきた。
時代と共にさらに強さを増す私兵団は今や大陸最強と呼ばれており、どの国もこのフェリトリンド王国には手を出せない。
国防の要であるコンウォール家を国民は尊敬し、王は大変に重宝している。
(我が家が「伯爵家」の地位を遥かに上回る好待遇をされていると知るのは、僕が貴族学校に行くようになってからの話し。)
「剣を持たせる気にもならん。」
憮然とした父上の言葉に、僕はショックを受けた。
コーンウォール家では、強さが全てだ。
当然だろう。父上の子供である僕達は、ゆくゆくは私兵団を纏める存在にならなくてはいけないんだから。それには強さが不可欠だ。
だけどさ、僕には全くその要素が無いんだよね。
兄上達が僕と同じ8歳の頃には、模擬刀で大人と試合をして勝っていたらしい。
相手は私兵団の人間だって。
なにそれ、将来有望すぎるでしょ。
対する僕は模擬刀どころかナイフすらも握ったことがない。
さっきの台詞からも、父上が僕に何一つ期待していないことは一目瞭然だった。
きっかけはある物を飲んだことーーー。
その日、まだ少年だった僕は父上の客人の話しを夢中になって聞いていた。
場所は実家の応接室。
因みに、要塞のような造りの僕の実家は、伯爵邸でありながら「コンウォール城」なんて呼ばれている。
客人はトッドと言う男で、伯爵である父上とは旧知の仲だった。
男爵家の六男であるトッドはどう考えても自分に当主が回ってくることは無いからと自由に生きることにしたらしく、世界を股にかけて商売をしている。
成人して直ぐ転身したトッドを皆んな心配したらしいけど、礼儀作法も教養も持つ稀有な商人はやがて貴族のおかかえとなり、今や大商人の1人だ。
そのトッドは、年の半分以上は国外にいるが帰国した際は必ずコーンウォールを訪れる。
たくさんの異国のお土産を持って。
「これがサクラ国のリョクチャ。お茶だな。紅茶と違って色が緑なんだ。苦味があるがそれがなかなか美味い。」
ソファで向かい合う父上とトッドの間にあるテーブルには、所狭しと物が並んでいる。
「これもサクラ国の物なんだが…シエラにお土産だ。カンザシと言う髪飾りだよ。おいで。」
手招きされてトッドの膝に飛び込むと、彼は笑いながらぼくの髪を結ってくれた。
「ちょっとコツがいるんだか、このカンザシ一本で全て済むんだ。海の珊瑚でできてる。このピンク色は珊瑚そのものの色なんだよ。」
僕の背中まで延びた髪はあっという間にアップスタイルになった。
「いやー、シエラは本当にマリーナ嬢にそっくりだな。お前の遺伝子はどこいったんだ?」
戯けながら父上に言うトッドは実に楽しそうだ。
「いや、全く分からん。上2人は俺にそっくりなんだがな。この子は武術はできないだろう。」
トッドとは逆に父上は硬い口調だった。
マリーナと言うのは僕が3歳の時に亡くなった母親だ。
僕には12歳上の兄と10歳上の兄がいるんだけど、兄上達は父上に瓜二つなんだよね。
背が高く、日に焼けた精悍な顔つきと骨太の骨格。
2メートル近い長身と鋼のようにガッシリとした体躯の父上にはまだ及ばずとも、鍛えていけば同じようになるだろう。
一方の僕は背が低くてヒョロヒョロの色白。
まだ8歳と言うことを差し引いても骨格的に父上のようにはなれないことは、もう分かっていた。
コーンウォール領は、先祖代々武に秀でた家系だ。
「不死鳥」と呼ばれる私兵団を持ち、幾度となく敵国から自国を護ってきた。
時代と共にさらに強さを増す私兵団は今や大陸最強と呼ばれており、どの国もこのフェリトリンド王国には手を出せない。
国防の要であるコンウォール家を国民は尊敬し、王は大変に重宝している。
(我が家が「伯爵家」の地位を遥かに上回る好待遇をされていると知るのは、僕が貴族学校に行くようになってからの話し。)
「剣を持たせる気にもならん。」
憮然とした父上の言葉に、僕はショックを受けた。
コーンウォール家では、強さが全てだ。
当然だろう。父上の子供である僕達は、ゆくゆくは私兵団を纏める存在にならなくてはいけないんだから。それには強さが不可欠だ。
だけどさ、僕には全くその要素が無いんだよね。
兄上達が僕と同じ8歳の頃には、模擬刀で大人と試合をして勝っていたらしい。
相手は私兵団の人間だって。
なにそれ、将来有望すぎるでしょ。
対する僕は模擬刀どころかナイフすらも握ったことがない。
さっきの台詞からも、父上が僕に何一つ期待していないことは一目瞭然だった。
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