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渾名って広まりすぎると恥ずかしい ※シエラ

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ミリは国で7人しかいない魔術師だ。
そんな貴重な人材である魔術師は普通、王族の護衛とか国防の職に就くんだけど…何故か子供の頃からずっと僕と一緒に居てくれる。
伯爵家の三男の僕なんかよりずっとずっと価値のある人間なのに、これでいいんだって。

一方のルドは武術専門だ。
大陸最強って言われてる僕の実家、コンウォール領私兵団の団長と肩を並べる程強い。
ガッシリした筋肉質な身体なのに常に足音はしないし、力持ちなのに驚く程身軽だ。
ルドも王国騎士団にと請われてるんだけど、何故か僕と居てくれてる。

そんな2人がいるからこそ、僕はこの「迷いの森」を何の心配も無く抜けられる訳だ。
本当に恵まれてるよね。

そんなことを思っていると、ふいに悲鳴のようなものが聞こえた。
ミリの「千里眼」によると、どうやら賊が人を襲おうとしているらしい。

こんな森にたった2人で?
それはあまりにも無謀だ。
早く行かないと手遅れになってしまう。

馬車をトップスピードにするようルドに頼むと、周りが霞んで見えるようになった。
我が家の駿馬+ルドの技術+ミリの強化魔法のトリプルコンボはマジで凄い。
前世で乗ってた車並みのスピードだから、あっと言う間に距離が縮まる。

停止した馬車の窓を開けると、賊に捕らわれた若い女性と、顔から血を流す初老の男性が見えた。
僕が目で合図するとミリが認識阻害の魔法を解く。

これで周りからも馬車が見えるようになった。
外の人間はまだ誰もこちらに気付いた気配はないけれど。

僕は傍らに置いていたステッキを引き寄せる。
そうそう、このステッキ。
フェリトリンド王国の貴族は、自分の身分証明として家紋の付いたステッキを持つんだけど…。
我が家は漆黒の柄の上に金細工で造られた不死鳥と双剣のレリーフが乗っかったデザインだ。

最初見た時は魔法の杖みたいでテンション上がってたんだけどさ、慣れてくると家紋の部分がゴツゴツしてて邪魔なんだよね。
何かもっとこう丸っとした…揃えると願いが叶うボールみたいな感じので良かったんだけどな。
五星球とかならデザインも良さげだし。

そんな事を考えていると、開けた窓から声が聞こえてきた。

「テメェの目の前でその大切なお嬢様をいたぶってやるよ。全員の相手したら、気が狂うかもなぁ!」

うわぁ、下衆すぎること言ってるよ。
僕は思わず声を上げた。


「それはいただけないな。女性には優しく接したまえ。」

ルドが開けてくれたドアから外へ出る。
外では貴族らしく。例えその相手が賊であっても。

背筋を伸ばして指先にまで注意を払う。
声はゆっくりとやや低めに。
口角は、いかなる時でも内心を悟られないように少しだけ上げて。

「私は念願の宝物を手に入れて、今凄く気分が良いんだ。君達がこのまま手を引くなら軽い罰で済ませてあげるよ。」

新参者の参入にいきり立つ賊は、僕の申し出なんか聞いちゃいない。
あまつさえ、僕の宝物を奪おうとしてくる。
あーあ。せっかく穏便に済ませてあげるって言ってるのに。

「ふぅん?僕の宝物を横取りしようとするなら懲らしめないといけないね。
ミリ、ルド。」

音も無く動いたルドは次の瞬間には女性を保護していた。
瞬間移動した⁉︎ってレベルの速さだけど、これ、純粋に身体能力によるもの。
続け様にミリの攻撃魔法「雷撃」が放たれると、賊にのみ命中する。
僕は魔法のこと良く分からないけど、こう言うコントロールって凄く難しいらしい。
ミリもルドも本当に優秀すぎだよね。

2人を労ってから、呆然としている被害者に話しかける。
女性は無傷そう。男性は顔から出血しているから手当が必要だろう。

それにしても、2人共なかなか良い服を着てるんだよね。
これは裕福な庶民か下位貴族かもしれない。
どうしてこんな森にたった2人でいたのか謎は深まるばかりだけど、取り敢えず馬車に乗ってもらおう。
足も怪我しているらしい男性に、杖代わりにステッキを差し出すと驚愕された。
あれ、もしかして我が家の家紋知ってたりします?

「うっ…」

その時、地面に伸びた賊が声を上げたので意識が逸れた。
先にこっちを片付けてしまわないと。
そうだね、木に吊るしてしまおうか。
夜になったら獣が増えるから結構怖いだろうけど、しょうがないよね。

「僕の宝物にまで手を出そうとしたんだから、充分に反省してもらわないとね。」

大事に胸の内ポケットに入れていたケースからショコラを取り出して眺める。
あぁ、何度見ても美しい。
これを奪おうとするなんて本当に罪深い奴らだよな。気持ちは分かるけど。
そんな僕を見て、初老の男性が呟いた。

「ショコラ伯爵…。」

あー、その渾名ご存知でしたか…。
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