【完結まで残り1話】桜の記憶 幼馴染は俺の事が好きらしい。…2番目に。

あさひてまり

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解決編

53.

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(side 萱島晴人)

そんな出来事があった昨日を思い返して溜息を吐く。

今までの事は全部、蓮が俺を守る為にしてくれた事だって理解してる。

他の皆も同じように思って俺に黙って立って事も。

理解してるのに…心のモヤモヤが晴れないのは何でだろう。


それに、まだ謎は残ってる。

蓮と俺がギスギスし始めたのって、元を辿ると俺のバイト事件からだった筈。

一応仲直りはできたけど、蓮は年末から蓮母の手伝いでイタリアに行っちゃって。

帰国したら翔君の結婚ってニュースを持ってきて、それで…

そう、遥の話になった。

俺はあの時の蓮の表情が忘れられない。

哀しいような、諦めたような、そんな表情。

それを目の当たりにして、蓮は遥への気持がまだあるんだって思った。

だけど怖くて確かめる事ができなくて、その話にならないように蓮を避けて。

このままじゃいけないって、バレンタインに蓮のチョコを用意して話そうとしたら、何故か蓮は怒ってて。

あんなに感情をぶつけるみたいに抱かれたのは、初めてだった。

いつもよりずっと深い所まで挿入ってきた蓮に、訳が分からなくなって。

怖いくらい気持ち良かったのに、心はどんどん離れていくみたいで寂しかった。

目が覚めたら一人で、蓮とは連絡すら取れなくなってて。

翔君達の話で、そこから先の行動には霊泉家が関わってたって事は分かったけど…。

そこに至るまでの蓮は、一体何を思ってたんだろう。


遥の事を好きだったのは、いつの話?

どうして俺にくれた御守りの中に『REN』の桜守りが入ってたの?

蓮が持ってた『HARU』は、本当に遥じゃなくて俺の事?

疑問が頭の中をグルグル回って、眠る蓮の横に突っ伏す。


蓮が本当に好きなのは、誰ーー?



コンコン


「ひゃい!?」

唐突なノックの音に飛び上がって、反射的に返事をしてしまった。

誰だろう…もしかして翔君かな?

そう思って見つめたドアの向こうにいたのは、1番会いたくて、1番会いたくなかった人。

「晴、ちょっと休憩しない?」

僅かに開けた病室の窓からの風に、フワリと長い黒髪が揺れる。

「晴の好きそうなやつ買ってきたから、中庭で飲も?」

スタバの紙袋を掲げた遥が、そう言って微笑んだ。





深呼吸して、5月の爽やかな空気を胸一杯に吸い込む。

ずっと室内で生活してるせいか、綺麗に手入れされた中庭の緑が眩しい。

「遥、いつ帰ってきたの?」

蓮の容態が落ち着くと、遥は一度アメリカに戻っていた。

「昨日こっちに着いたの。パパママが心配してたから説明して、大学にも申請してきたから暫くこっちにいる予定よ。」

アメリカの大学って日本の比じゃなく単位取るのが大変らしいけど、大丈夫なのかな。

でも、それだけ蓮の事が心配って事かもしれない。

桜の木の下で抱き合ってた蓮と遥の姿を思い出す。

遥も、蓮の事が好きなんだよね…。

婚約の話は霊泉家を騙す為の嘘だったらしいけど、遥の初恋が蓮って事実は変わらない。

翻訳家を目指してた遥が医者に転向する位には、きっと。

だけど、ちょっと疑問もある。

中庭に誘われた時俺は、蓮の傍を離れるのが不安で少し渋ってた。

そしたら遥が「看護師さんが、蓮はこれからお風呂だって言ってたよ」って。

その言葉通りやって来た2人の看護師さんが、蓮の点滴を外し始めて。

このVIPフロアには特殊な装置があって、容態が安定してれば意識が無くても毎日お風呂に入れる。

それ自体は凄くいい事だと思うんだけど、俺はほんの少しソワソワしちゃうんだよね。

って言うのは、看護師さんの片方が若い女性だから。

待って待って、勿論わかってるよ!

看護師さんにとってはただの仕事、『入浴介助』の一環だって事は。

だけど、何の覆いも無い蓮の身体を見られる事にちょっとだけ抵抗があるのは事実で。

本当は感謝すべきなのに…心が狭い自分に自己嫌悪しつつ送り出すのが常だったりする。

だからさっきも俺はそんな心境だったんだけど…遥は実にアッサリしてた。

「よろしくお願いしまーす。じゃ、晴。行こっか!」

まるで「ほら行った行った!」みたいな言い方に目を白黒させる俺の手を取った遥に連れられて、今ここに至る。

遥は大人だから、好きな相手のそう言うの気にならないのかな。

小さい自分に益々いたたまれなくなりつつベンチに座って、遥が買ってくれた季節限定のドリンクを受け取る。

暫く無言で味わった後、遥がクルリと俺の方に身体を向けた。

「急にごめんね。でも、ずっと晴と2人で話したいと思ってたの。」

そう前置きして語り出したのは、昨日の翔君達の説明を裏付ける内容だった。

「晴に危険が無いなら、知らない方がいいと思ったの。狙われるって聞いた時、私自身が少し怖かったから。仲間ハズレにしたかったんじゃないからね?」

それに関しては本音で頷ける。

自他共に認める怖がりだった俺に対して、皆が気遣ってくれた訳だから。

「遥の生活に不便はなかったの?」

「うーん、笹森さんが常に何処かで見守ってくれてたらしいんだけど、全然気配が無かったのよね。」

あの人何者なのかしら、と呟きつつ続ける。

「強いて言うなら、プライベートのお出かけが気軽にできなかった事くらい?いつもガード役の誰かの予定と合わせないといけなかったから。」

全然気にしてなさそうに言うけど、中学生って多感な時期だし結構ストレスもあったんじゃないかな。

「でもね、全然苦では無かったの。むしろ狙われてるのが晴じゃなくて私で良かったって思ってた。私の大事な晴に何かあるかもって思いながら生活するなんて、絶対心配で発狂してたもの!」

考えるのも恐ろしい、みたいに震えた遥が俺を抱き締める。

「だから、行方不明って聞いた時は血の気がひいたわ…!本当に無事で良かった!!」

心から俺を大事に思ってくれる遥に対して、罪悪感がこみ上げる。

違うんだよ、遥。

秘密にしてた事があるのは俺もなんだ。

これを言ってしまったらもう、今までの関係は変わってしまうかもしれない。

だけど、相手が遥でもこれだけは譲れないんだ。

ゆっくり身体を離して、遥の目を見て告げる。

「遥、俺ね・・俺、蓮と付き合ってるんだ。」

蓮はどうなのか分からないけど、唯一自信をもって言える自分の気持ち。

「俺は蓮が好きで、誰にも渡したくない…!」

ハッと息を呑んだ遥の瞳が揺れる。

ごめん、遥。

唇を震わせながら何か言おうとする遥に、どんな反応をされても後悔は無いと覚悟を決めて目を閉じる。

「良かった~!!」

「……へ?」

予想外すぎる反応にポカンとする俺の手をぎゅっと握って遥が続ける。

「蓮と付き合ってるのは知ってたのよ、アイツが浮かれまくって連絡してきたから!でも、押しに負けて絆されちゃったんじゃないかって心配してて!晴もちゃんと蓮の事好きなのね!!」

何かニマニマされてる…理解が追い付かないんですが。

「あのさ、遥もその…蓮の事好きなんだよね?」

「うん?好きよ?え、暗い顔してどうしたの?
…ッもしかして…!」

サラリと答えられて顔を曇らせる俺を見て、遥はついに気付いたらしい。

「安心して!蓮なんかより晴の方が何億倍も大好きよ!!」

ぎゅぎゅーっと抱きしめられて目が点になる。

遥はお構いなしに「可愛いんだからもう~、ベイビー♡」なんて言いながら頬にちゅっちゅしてきて。

おぉう、めっちゃアメリカっぽい。

…じゃなくて!!

「遥と蓮は付き合ってたんだよね?」

何かがおかしいと思いながら恐る恐る聞くと、今度は遥の目が点になった。

「え?」

「…え??」

密着したまま暫く見つめ合う。

「晴、もしかして体調悪い?」

俺の額に手を当てた遥が本気で心配してるみたいで混乱する。

だって、だって。

「俺、見たんだ!2人がキスしてる所!」

振り絞るような言葉に、遥の動きが止まった。

「…蓮とキス?…あ!まさか!」

ようやく思い至ったらしい遥に、胸が黒いモヤモヤで一杯になるーーなんて暇はなかった。

「オエェッ!思い出しちゃった!!」

だって、遥が今にも吐きそうな顔してたから。

「は、遥…?」

「待って!誤解よ!あれは事故なのよ!!」


心底不愉快そうながらも、必死で声を絞り出す遥が語ったのは、目を瞠る内容だった。

遥が留学中、霊泉家の目が俺に向かないようにする作戦???

「カナダに行く前に、私と蓮が付き合ってるって奴等に明確に思わせたくて。ほら、あの頃晴の好きなカッキーが出てたドラマがあったでしょ?あれを見て思い付いたの。」

それは当時流行った恋愛ドラマで、アイドルグループのイケメンとカッキーのキスシーンが大炎上した。

ただ、メイキング映像が公開されると、実際に唇は触れず角度調整で上手くそうみせてた事が判明して大きな話題になったんだっけ。

「同じようにして、何かしらの方法で霊泉家の目に触れさせる予定だったの。蓮はめちゃめちゃ嫌がってたけど、留学までもう時間が無かったから。」

「でも、俺が見た時は…」

ピッタリ重なった唇を思い出す。

「それがね、シミュレーションしてるうちに…ほら、いつものが始まっちゃって…」

気まずそうな遥を見て、2人がしょっちゅう口喧嘩してたのを思い出した。

「ヒートアップしてるうちに揉み合いになって、バランスを崩して…」

話すごとにゲッソリしていく遥が、この世の終わりみたいな顔で続ける。

「唇が当たったの…出血する程強くね…。」

出血!?そんな痛々しい感じだったの!?

「お互い吐き気を催すくらい辛かったから、忘れようって事になって…。その後めちゃめちゃ罵り合ってたんだけど聞こえなかった?」

「あ、俺…目撃してすぐその場を離れちゃったから…。」

「そっか…、あれを聞いてればよもやキスだとは…。ってちょっと待って!いつも晴の1番を争ってた私と蓮がキスとか付き合うとか、おかしいなって思わなかったの?」

「え、それで喧嘩してたの⁉︎2人の言い合いは仲がいい証拠だと思ってた…。」

「オーマイガー!…うん、まぁそれでこそ晴で可愛いんだけど…。じゃあやっぱり、蓮の態度にも全く気付いてなかったのね?」

本場仕込みのOMGが聞けてちょっと感動すらしてる俺に、呆れたように遥が眉を下げる。

「私にすら『晴は俺のものだ』ってオーラ出しまくりだったんだから。学校でもそんなだったから、私は晴に友達ができないんじゃないかって心配で。蓮は晴の事しか見えてなくて、周りなんかゴミだと思ってたのよ。晴の傍にいるのは自分だけでいいって思ってた。アイツの場合、望めばそれが許されたでしょ?」

それは、学校の王様だった蓮を止める人間がいなかったて事だろう。

「だから私が忠告しようとしたのに無視して…。
結局、晴の嫌がる事して距離取られたのよね。
それで流石に反省して、私の助言聞くようになって。あの頃私達がよく一緒にいたのはそのせいよ。」

「それってその、蓮が俺に…」「同意なくキスしやがった時よ!あの馬鹿!!」

自分の事となると恥ずかしくて言い淀むと、遥がその先を引き取って燃え上がった。

「怖かったでしょ、晴!」

「うーん、ビックリはしたけど怖くはなかったかも。ただ、遥と付き合ってるのに……あっ!」

俺の頭を撫でてた遥の顔がザっと蒼ざめる。

「もしかして…その頃にはもう蓮の事好きだった?」

俺の失言から最悪の展開に思い至ったらしい。

「ごめん、晴…。誤解させただけじゃなくて私、いらないお節介してたのね…。」

「ううん、違うよ遥!その時はまだ『好きなのかも』ってくらいだったし、遥と蓮が付き合ってるなら諦めるような弱い気持ちだったから。
それに、遥が俺の為にしてくれてた事には心から感謝してる。蓮の事は大好きだけど、友達ゼロなのはちょっと…。」

遥がいなかったら俺は、何の疑問も抱かずに蓮と2人きりの世界で生きてたかもしれない。

「俺さ、蓮と啓太と、サッキーって言う友達と4人で過ごす事が多くて。すっごい楽しい高校生活だったんだよね。俺に友達ができるのを蓮が嫌がったままだったら、あんな毎日なかったかもしれない。ありがとう、遥。」

そう言って笑うと、遥が心から安堵したような笑みをみせた。

子供の頃からずっと遥には助けられてばっかりだ。

「ねえ遥、蓮ってそんなに前から俺の事好きだったのかな?」

ふと湧いた疑問に、遥が目を泳がせる。

「うーん、それは本人に聞いてみたら?…長すぎて引くかもしれないし…」

最後の方が良く聞こえなかったけど、確かにその通りだ。

ちょっと恥ずかしいけど、蓮の目が覚めたら聞いてみようと思う。

「他にも何かある?私で答えられる事は全部話すからね。」

そう言ってくれた遥に、1番引っかかってる事を口にした。

「あのさ、蓮と遥がキス…あ、ごめん…。その、事故の直前に、遥が何か渡してるのを見たんだけど…。」

『キス』のワードにげんなり顔の遥が、ハッと表情を改めた。

「見えたのは水色の小さい巾着で…大学生になってから、蓮の鞄にそれがあるの見付けちゃったんだ。
中身が『HARU』の桜守りだったから遥の事だと思って。2人が過去に付き合ってて、蓮は遥を忘れてないんだって。偶々会った伊藤から、遥に彼氏ができないのは初恋の相手を引き摺ってるからだって聞いたばっかりだったから、余計にそう思っちゃて…。」

でも、とポケットから蓮に貰った御守りを取り出すと、遥がそれに目を留めて頷いた。

「その中に『REN』が入ってたのよね?安心して、晴。蓮が後生大事に持ってたのは間違いなく晴の桜守りよ。」

そして、決意した瞳を俺に向ける。

「晴、本当にごめんね。私ね、ずっと晴に秘密にしてた事があるの。それが話をややこしくしたんだわ。」

そう言って脇に置いたバッグから取り出したのは、蓮のと同じ巾着。

掌に向けて振ったそこから出て来た、陽光に煌めく桜守りに息を呑む。

「これが私の好きな人。」

刻まれた『SHO-』の文字で俺が思い付くのは1人だけだ。

「そう。私、翔君の事が好きなの。」

泣き笑いみたいな表情で遥が語ったのは、5歳からの恋心だった。

悩んで傷ついて、それでも消えないそれは、聞いてるこっちが切なくなるような一途なもので。

「協力して欲しくて、蓮には明かしてたの。翔君が実家に帰って来る日を教えてもらったり。」

いつかの夜、翔君とバッタリ会った時の会話が甦る。

『遥がしょっちゅう切藤家に来てる』みたいな事を言ってて、俺はやっぱり2人は付き合ってるんだって苦しくなって。

でも、違ったんだ。

翔君が『しょっちゅう』って感じたのは、自分がいる日に意図的に遥が来てる事を知らなかっただけ。

蓮と遥が2人で来てた夏祭りも、実は後から翔君が合流…と言うか、むしろそっちがメインだったらしい。

そうだって分かってしまえば、するすると簡単にヒモが解けていく。

「私の桜守りは、京都土産のマスコットの中に入れて蓮から翔君に渡して貰ったの。その方が中身がバレないと思って。晴が見た巾着は、蓮の分の保管用についでにあげた物だったのよ。」

つまり、蓮が持ってた『HARU』は間違いなく俺のものだったって事だ。

「もう結婚した相手の恋守りをまだ持ってるなんて、おかしいでしょ?でも、どうしても処分できなくて。離れてる間に心の整理がつくと思ってたんだけど、いざ再会ってなったら全然無理で…。
蓮があの神社に連れ出してくれなかったら私、翔君に『おめでとう』って言えなかったと思う。」

それはきっと、俺が見たあの日の光景だ。

満開の桜を背にした2人は、抱き合って愛を確かめてたんじゃない。

苦しい恋を抱えた幼馴染への、慰めと労り。

それはさっきから俺と遥が何度もしてる姉弟のハグと、変わりない行為だったんだろう。

「俺、全部勘違いして・・・」

蓮の本命が遥だって勝手に決めつけて不安になって。

蓮はずっと前から俺の事を思ってくれてたのに、それを信じ切れなかった。

「桜守りを見付けた時、蓮から遥の事聞くのが嫌で、復縁したらって怖くて…蓮になにも聞かなかったんだ。」

あの時目を背けずに向き合ってれば『遥の訳ねぇだろ』って呆れられて、キスが事故だった事も聞いて、笑い話で済んだかもしれない。

そしたら、蓮がこんな目に遭う事も無くて…

「晴、それは違うわ。どっちにしろ霊泉家の問題からは逃れられなかったし、蓮は晴を守る為に同じ選択をした筈だもの。言ったでしょ?蓮の事は晴のせいじゃない。悪いのは全部霊泉家よ。」

異論も反論も認めない強い言い方に、気持ちが少し楽になる。

「けど、誤解させて晴を悩ませたのは完全に私のせい。本当にごめんなさい。」

「違うよ、遥!勝手に勘違いしたのは俺の方だから!」

頭を下げようとするのを慌てて押し留めると、遥が言葉を重ねる。

「晴に言わなかったのは、きっと隠せないと思ったから。態度で翔君にバレちゃいそうだなって。」

うん、図星すぎて返す言葉もないです。

項垂れる俺を見て、遥が微笑んだ。

「でもね、それだけじゃなくて。私、晴の前では強くいたかったの。」

困ったように笑う遥の瞳が、ゆらゆらと揺れる。

「完璧で強い存在でいたかった。だけど、翔君が絡むと私、そうじゃいられなかったから…。」

それとね、と明るく続けるその声は震えて。

「翔君には美優さんがいるって分かってた。
結婚とか…いつかこうなるって心の何処かで分かってたのよ。希望なんか無いのにずっとしがみついて…カッコ悪いったらないでしょ…?」

「そんな訳ない!!」

その口許が無理矢理笑みを作ろうとしてる事に気付いて、声が出た。

「そんなに長く一途に相手を思えるなんて、凄い事だよ…!弱い所があっても、完璧じゃなくても…全部含めて遥は1番カッコいいんだから!
だから…自分の事、そんな風に言わないで…。
遥が辛い時には、俺が支えるから!」

俺が泣く所じゃないと、懸命に涙を堪える。

「…もう、晴には敵わないなぁ。」

遥の大きな瞳から、雫がポタリと落ちて。

「晴…辛いよ…寂しいよ…」

嗚咽を漏らす遥の背中を、ぎゅうっと抱き締める。

そこあったのは、いつも先を歩いていた眩しい姉のそれじゃなくて。

生まれて初めて、同い歳の女の子なんだって。

そう、思った。




暫くして身体を離した遥は、目を真っ赤にしながらも何処か吹っ切れたような表情で。

「晴、ありがと。晴がいるから私、自分の理想の自分を見失わないでいられるの。」

背筋を伸ばして微笑む遥に笑顔を返す。

「遥の理想は高いからなぁ、無理しすぎないでよ?」

「分かってる。パワー不足になったら、また晴に充電してもらうから。」

そう言った遥の瞳はキラキラして、とても綺麗だ。

「晴、大好きよ。」

「俺も大好きだよ、遥。」

生まれてからずっとお互いを大切に思い合える存在がいるって、本当に幸せだ。

ここに蓮がいたら、もっと完璧。

「早く蓮にも起きてもらわなきゃね!」

ほらね、遥もやっぱりそう思って…

「晴が私の事『1番カッコいい』って言ったって、自慢しなくちゃ!!」

…言いましたね、さっき。

ニヤリと笑う強気な顔が、あまりにも遥らしくて。



煌めく新緑の中庭に、2つの笑い声が弾けた。



●●●

























中庭にいた人達 「あらあら、仲の良いご姉弟きょうだいねぇ。(ほっこり)」

どんなに密着してても絶対に恋人には見えない2人。そして顔は全然似てないのに何故か姉弟には見える2人。笑







更新がまたもや久しぶりですみません💦




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