【完結】桜の記憶 幼馴染は俺の事が好きらしい。…2番目に。

あさひてまり

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解決編

42.

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※男女の性描写があります。

side晴人高校編79話『拒絶』、83話『祝福と不穏』をお読みいただくと分かりやすいかと思います!

●●●


(side 萱島晴人)


俺が初めて竹田先輩に出会ったのは、中学1年の頃だった。

当時150cmと学年の中でもかなりチビだった俺は、剣道部に入部したものの全てに苦戦してて。

小さい身体に防具は重くて大きく、碌に動けない。

竹刀を持てば、完全にような状態で。

周りが初心者なりに格好が付いていく中、俺だけが取り残されてた。

悔しくて情けなくて、6時間目の終わりが憂鬱になってた時。

定期的に指導に来てたOBの竹田先輩が、こう言ってくれた。

『俺が中1の頃はもっと背が低かったよ!大丈夫、すぐ大きくなるからな!』

その言葉に随分気持ちが楽になって、気を張りすぎて距離のあった周りとも上手くやっていけるようになって。

成長期を迎えたのもあって(それでも小さいほうではあったけど)部活を楽しめるようになった。

筋肉が付きにくい体質で悩んだ時も、竹田先輩が相談に乗ってくれて。

『俺もそうなんだよ。だから、胴打ちを磨く事にしたんだ。』

そう言って熱心に指導してくれたお陰で、少しずつ試合にも勝てるようになっていった。

先輩は俺よりは大きいけど、決して体格に恵まれてる訳じゃない。

なのに中高校時代は勿論の事、大学生になってからも副将を任される程の実力者で。

そんな先輩は、技術的にも人間的にも俺の憧れだ。

あんな風になりたいと、ずっと思ってた。

蓮に告白されてる現場を見られた時には否定的な事を言われてショックを受けたけど、先輩にも事情があった事が分かって。

きちんと話したら理解してくれたし、謝ってもくれた。

次に会った時は変わらずに接してくれたから、すごく安心して。

俺が部活に出れなくなってからも、LAINをくれたり気にしてくれた。



なのに…。

どうして先輩の家の床下から、こんな物が出てくるんだろう。

これじゃあまるで、あの時の犯人が先輩みたいだ。

まさか、そんな訳ないのにーー。





「先輩…?『バレた』って、何の事ですか…?」

慎重に聞く俺を見て、竹田先輩は目を細める。

「晴人は本人にいい子だよな。もう気付いてるだろ?その通りだよ。あの夜晴人を襲ったのは、俺。」

ヒュッと喉が鳴って、冷や汗が背中を伝う。

先輩がドアに鍵を掛けて室内に入って来るのを、呆然と見つめる。

伸ばされた手を避けたいのに、座り込んだまま恐怖で動けない。

「ど…して…?」

辛うじて絞り出した声に、彼は笑った。

「どうしてかって?分かるだろ?」

頬に触れてきた指に、ゾワリと鳥肌が立つ。


に晴人は相応しくないからだよ。」






🟰🟰🟰


(side 竹田和也)


俺は剣道が好きだ。

竹刀を持ち自分と向き合うのも、相手と打ち合うのも。

そして、人に教える事に関してはもっとやり甲斐を感じる。

慕ってくれる後輩達は、皆んな平等に可愛い。

誰か1人が特別になる事なんてなかった。

ーーあの時までは。





晴人と初めて出会ったのは、俺が高校3年生の時だった。

定期的に指導していた中等部に入って来た新入生。

あまりに小柄で細くて、心配になったのを覚えてる。

色素の薄さがその儚さに拍車をかけて、周りは皆んな気を使っていた。

だけど本人は、それどころじゃなさそうで。

体格に恵まれず苦労した気持ちが分かる俺としては、声をかけずにはいられなかった。

『大丈夫、すぐに大きくなるよ!』

そう言うと、泣きそうに潤んだ目で頷いた。

普段は隠れたその瞳の色が綺麗だと思ったのは、ほんの一瞬。

それからも接する機会は多かったけれど、俺にとって晴人はあくまでも『放っておけない可愛い後輩』だった。



大学生になり高校へも指導に行くようになると、晴人と啓太が入部して来た。

啓太はともかく、晴人は高校では続けないと思ってたから嬉しくて。

幼さが抜けて大人っぽくなった姿をやけに眩しく感じたのは、そのせいだと思っていた。

だから、中学生だった頃とは違う『何か』に戸惑いを覚える。

道着から除く白くて細いうなじに目が吸い寄せられるのはなぜだろう。

ただ無邪気に腕を引かれただけなのに、心臓が大きく跳ねる。

柔らかい髪から香る匂いに、腹の底に眠る何かを掻き回されるような…そんな感覚。

もっとスキンシップの激しい啓太に対しては「オイ、先輩だぞ!」なんて、笑って胸倉を掴めるのに。

同じ態度を取り繕ってはいるものの、晴人に対しては頭の片隅で想像するようになっていた。

ふざけて掴んだその合わせ目に手を入れて、肌に触れたらどんな反応をするだろうか、と…。


何故そんな風になるのか理解できなかった。

俺の恋愛対象は子供の頃からずっと女子だったのに。

…いや違う、別に晴人をそんな目で見てる訳じゃない。

男臭い部活内で感じる『綺麗さ』に誤作動を起こしてるだけだ。

家族や友達を頭に思い描いて、自分に強く言い聞かせる。

俺は『普通』だ、今までもこれからも。

男が好きなんて少数派のマイノリティとは無縁なんだ!


それからは、自分を正常に戻す為に奮闘した。

大学が忙しいと理由を付けて、極力高校へは行かないようにして。

顧問からの依頼でもあるためゼロにはできなかったが、それでも随分晴人に会わなくなった。

そんなタイミングで同じゼミの女子から告白されたから、付き合う事を了承して。

その彼女といざ行為をする事になった時、ちゃんと機能した自分のモノに深く安堵した。

大丈夫だ、これで俺の異常は直ったんだ!


気を良くした俺は、久しぶりに高校へ顔を出した。

嬉しそうに寄って来る晴人の姿を見ても、変な高揚感はない。

当然だ、あれは一時の気の迷いなんだから。

順調に指導を終えた事に満足して、帰り支度をしていた時だった。

床に誰かのタオルが落ちていて、それを拾い上げる。

「おーい、誰か忘れ物!」

大声を出すと、そこら辺で着替えていた全員が振り返った。

「あっ、それ俺の!」

そう言って駆けて来た晴人の姿に、激しく心を揺さぶられる。

脱ぐ途中だったのか、道着の前が大きくはだけていた。

そしてそこから見える白い肌と、ピンクの突起ーー。

慌てて目を逸らすと、他にも着替えてる野郎達が目に入った。

男しかいないからと、皆んなパンイチでウロウロしてる。

晴人より明らかに露出が多いのに、ソイツらには何も思わない。

男の裸に興奮してる訳じゃない事には安心するが、ならどうして晴人だけ…。

「先輩ありがと!」

タオルを受け取った晴が、軽やかに輪の中に戻っていく。

俺はそれを呆然と見ている事しかできない。


晴れていた空は、いつの間にか大雨になっていた。



それでも繰り返し自分に言い聞かせ続けて、何とか晴人を意識しないように過ごした。

間違った方向に行こうとする度に、竹刀を振ったり、勉強したりして気を紛らわせて。

その甲斐があったのか、晴人にクリスマスデートをする相手がいると知っても少し心が疼くだけだった。

むしろ、晴人に彼女ができてホッとしてすらいて。

これで何も迷う事なく普通に戻れると、そう思った。


クリスマスを数週間後に控えたある日、俺は彼女の希望で水族館に来ていた。

夜になってライトアップを見に外に出た時、告白する男の声が聞こえて。

そう言うシーズンだもんな、と1人納得したりしていた。

周りにはそのカップル以外誰もいなくて、明らかに俺達が邪魔だと悟る。

彼女に目配せして静かにそこを去ろうとして…打ち上がった花火に驚いて、そっちを見てしまった。

「…え?」

照らされたのは、良く見知った顔。

告白されていたのは、晴人だった。

そしてその相手は…男。

幼馴染だと言う切藤蓮の事は知っている。

中等部入学と共に、高等部全体にもその存在を知られた奴。

信じられない程顔が良くて何でもできる『蓮様』だ。

「…お前、だったのか…⁉︎」

自分の声に侮蔑が混じるのを止められない。

「…あり得ない…。」

だってそれは普通じゃない事で、恥ずかしい事で…。

ビクリと震えた晴人を背に庇った切藤蓮が、射殺しそうな目を向けて来る。

間違ってるのはそっちなのに、どうしてそんな目を向けてくるのか。

どうしようもなく心が荒ぶって動けない。

「ね、ねぇ、やめなよ。もう行こう?」

呪縛を解いたのは彼女の声で、引き摺られるようにその場を後にした。




「ちょっと偏見ヤバイんじゃない?あの子達が誰を好きでも和也君に関係ないでしょ。」

宿泊先のホテルでそう嗜められて目を瞠る。

関係ない?相手が男でもか…?

それならーーと湧き上がりそうになった感情を懸命に抑えた。

違う、それを認めてしまったら…俺は…。

俯く俺を見て反省していると思ったのか、彼女はそれ以上何も言わなかった。


その夜は『女性の身体』を全身で感じたくて、彼女をベッドに押し倒した。

柔らかい胸を揉みしだいて、高い喘ぎ声を出させて。

受け入れる為のソコから溢れる蜜を執拗に舐った。

女性にしかないその特徴に反応した自分に安堵して腰を振る。

何も考えず、行為に没頭したかった。

なのに…、

気持ちいい筈なのに、どうしてもイクことができない。

俺が出してないと分かったら、彼女はどう思うだろう。

なのに『イかないと』と焦る程に没頭できなくなっていく。

何か、何かーー!

必死に考えている時に思い浮かんだのは、いつかの晴人の姿だった。

俺の手で道着のあわせを乱して、白い肌に触れる。

ピンクの突起に唇を寄せて、舌で転がして。

その想像だけで、萎えかけていたモノが一気に硬度を取り戻した。

目を瞑って、その姿を自分が組み敷いている相手に重ねる。

今俺は、泣いて善がる晴人のナカに自分自身を埋めてるんだ。

「…ッ晴人!!」

無意識に出た声は、絶頂を極めた甲高い喘ぎにかき消された。

「うっ…」

ドプッと、自分でも引くような量をスキンの中に吐き出して我に返る。

彼女は恍惚とした表情で、そんな俺を見つめていた。

「和也君って淡白なんだと思ってたから…こんなに激しく求めてくれて嬉しい。特に最後の方、超すごかった。こんなに夢中になってくれたの初めてだよね。」

恥ずかしがりながらも嬉しそうな彼女の言葉に呆然とする。

最後の方、俺は

初めて我を忘れる程夢中になって腰を振った相手はーー

名前を、読んだ相手はーー



罪悪感で死にそうだった。

隣で眠る彼女に心の中で謝罪する。

そして、弟のように思ってた筈の存在に対しても。


もう、認めざるを得なかった。

俺は晴人をで見てるんだ、とーー。





想いを自覚してからも悩んだが、それはやがて焦りに変わった。

一刻も早く晴人に気持ちを伝えなければ、切藤に掠め取られてしまうかもしれない。

ただでさえ先を越されてるんだから、急がなければ。

動揺して酷い事を言ってしまったけど、謝れば優しい晴人ならきっと許してくれるだろう。


そう思っていた矢先、偶然晴人と2人きりになれて。

ここを逃したら最後だと、俺は用意していた『言い訳』を語った。

中等部で本当にあった出来事を交えたそれに、晴人は同情的にすらなってくれて。

切藤は幼馴染かもしれないけど、晴人は間違いなく俺を慕ってる。

きっと受け入れてくれる筈だと、想いを口にしようとした時だった。

「俺、蓮だから好きなんだ。そういう意味で好きになるのは蓮だけだから大丈夫!
部活の仲間とか、それこそ竹田先輩の事好きになったりは無いから安心して?」

そう言われて、目の前が真っ暗になった。

晴人は、アイツの事が好き…なのか…?

「………………そっか。そうだよな、ごめんな。」

やっとそれだけ言うと、晴人が笑顔で手を差し出してくる。

それに応じながら、自分が酷く惨めに思えた。



俺だって『晴人だから』好きになったのに。

ずっと悩んで、罪悪感と闘って。

こんなに苦しんでやっと認められたのに。

お前は、俺の事は好きにならないと言い切って。

他の男への恋心を打ち明けるのかーー。




翌日、重い心を抱えたまま中等部のコーチとして試合の引率をした。

気分は最悪で、試合内容は全く覚えていない。

終わったらすぐ帰るつもりだったが、保護者達からの食事の誘いを断れず、時刻は22時近くなって。

溜息と共に学校近くに停めたバイクを発進させようとして、ふと竹刀を担いだ後ろ姿が目に留まる。

それは間違いなく、晴人だった。

今日は高等部も試合だったから、打ち上げでもしてたんだろう。

足早に帰宅する方向には、街頭の少ない公園。


その時、一瞬のうちに様々なものが頭を駆け巡った。


自分の今の格好は、フルフェイスのヘルメットにダウンジャケット、グローブ。

普段指導に行く時は竹刀がある為、バイクを使う事はない。

つまり、晴人にバイク用の格好この姿は認知されていない。

バイクのシート下には、先日友人の引っ越しを手伝った時に使ったガムテープが入れっぱなしだ。

同じく収納されている、その友人から『いらない』と押し付けられた香水は…俺の愛用する香水の匂いを消してくれるだろう。

極め付けは、最近この辺りで『変質者』が目撃された事。

何かあっても疑われるのはソイツになるーー。



何もかもがピタリと当て嵌まるような感覚に、運命めいたものを感じた。

ゴクリと唾を呑み込むと、闇に紛れて静かに追う。

愛しくて憎い相手の、足跡をーー。




想いを受け入れてくれないのなら、その心に一生消えない記憶を刻み付けたかった。



●●●


























立派なメンヘラストーカーですね。



もうすぐ完結と言っときながら更新ペースが亀で申し訳ないです💦
ここぞ!って時に仕事が忙しくなるのはもう呪いだと思ってます。
もう暫しお付き合い下さいませ。























































































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