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解決編

41.

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前話で、全員が沈黙した辺りからの蓮視点です。
相川の話しを聞いた上で解決編『25』~『28』辺りを振り返ってます。


●●●


(side 切藤蓮)


相川達の話しは衝撃の連続だった。

晴が相川と再会した事すら聞いてなかったのに、手伝いまでしていたなんて。

それも、バイトだと嘘をついてーー。

避けられてると感じるようになってから、バイトの迎えをやんわり断られていた。

それでも心配で、終わる時間になったらGPSで足取りを確認して。

画面上の晴は、確かにバイト先からマンションへ真っ直ぐ帰って来ていた。

だから、思ってもみなかった。

バイト先で晴が、違う事をしているなんて。

大介が以前、店に行ったけど晴が見当たらなかったと言っていたのもこれで説明がつく。

店員としてではなく、客として席についていたから。

若しくは、面談がない時間は休憩室にいたと相川が証言していた、そのタイミングだったんだろう。


白田が目撃したのは相川と一緒にいる所で、それを晴の彼女と勘違いしたらしい。

晴と2人でそんな通りを歩いた相川に怒りを覚えるが、取り敢えずそっちは後だ。

晴が相川への配慮でした口止めを、白田は『何かうしろめたい事がある』ように感じたんだろう。

そして、(完全に見当違いだが)ピンと来た。

『彼女できた事、同居してる蓮に内緒にしてんじゃね?』と。

晴より俺と親しい白田は、本人的には良かれと思ってーーそれでも報告するのはどうかと思うがーー俺に連絡して来た。

アイツが絡むとちょっとした事でも何故かトラブルに発展するのは、高校時代に多々経験済みだ。

そんな白田が情報源だから、俺だって鵜呑みにはしなかった。

だから、晴の潔白を証明する為にGPSを起動して…それが示したが、ラブホ。

まさかシステムの誤認によるものだなんて知る由もない俺は、慌てて晴のバイト先へ向かう。

そこで会った店長は『晴のシフトが元に戻った』と真実を話していたが、補足が無かった。

『萱島君、バイトは無いけど他の目的でずっと店内にはいるよ。』

そう言ってさえくれれば…。

それとも、焦りすぎた俺が最後まで聞かずに店を後にしてしまったのか。

分からないが、その時の俺には『晴がバイトと嘘を付いて出掛けている。』事実のみが残ってしまった。

しかもその場所がラブホで、近くで白田が遭遇している。

晴を信じたい気持ちと、次々と明らかになる事実に揺れていた俺は、晴に問いただそうとした。

そこで更に『バイトだった』と言われ、贈り物らしき物を隠され。

そして…首筋に残る鬱血痕を見て、どうしようもなく心が騒めいた。

一度冷静になるべきだったのに、激しい嫉妬に苛まれた俺はそれが出来なくて。

常に無い、行為を強請る晴の姿すら、何かを誤魔化しているように感じられて。

ーーそれが、不安でたまらなかった晴が俺を繋ぎ止めるようとした精一杯だとも気付かずに。

俺は愚かにも、真実を確かめるより晴の自由を奪う事で解決しようとした。

深い快楽へ堕として、俺以外見えないようにして。

暗い執着に縛られながら蹂躙された晴は、どんな気持ちだったのか。

何とか踏み留まれたのは、例の御守りと残酷な夢のお陰だ。

俺は傍を離れる事で、自分自身の執着から晴を守ったつもりだった。

それと、手酷く抱かれた晴が俺を怖がると思ったのもある。

だけど…既に不安でいっぱいだった晴は、目覚めて俺がいない事をどう受け取ったのかーー。



事故で遥とキスした場面を見られたのは、中学の頃だ。

当時は俺の片思いだと思っていたが、相川達の話だと、晴はもう俺の事を好きでいてくれたらしい。

その後『遥と別れて』自分と付き合い始めた俺を、晴はどう思っていたのか。

恋人になってから、俺達の間で遥の話題は殆ど出なかった。

俺は自分以外の余計な事に晴の意識を向けたくなかったからだが…晴はどうだったんだろう。

遥の誕生日の時すら話題には登らなかったのは、今思うと不自然だ。

…もしかして、意図的に避けていたのか?

俺にとって『元カノ』になる遥の話をしたくなくて。

そうであれば、イタリアから帰国した時のアレは…。

翔と美優の結婚と妊娠の話をしながら、久し振りに遥の話題が出て。

『いいなぁ。』なんて子供を羨ましがる晴に、俺は不安を覚えた。

俺といる未来では、晴は子供を持つ事ができない。

だからその後、避けられるようになった時には『将来を考えて俺から離れたくなった』のかと思った。

だけど、本当はそうじゃなくてーー。

俺が遥と再会する事に、不安を抱いていたんだとしたら?

俺は晴以外に一切恋愛的な意味で好きだと感じた事は無いし、興味も無い。

付き合ってからは言葉も行動も、晴に夢中だと周りが分かるくらいには態度に出ていたと思う。

だけど、その間も晴はずっと不安を抱えていたんだろうか。

俺の気持ちを信じ切れないまま、付き合っていた?

それとも何か、『俺が今も遥が好き』だと思わせるようなきっかけがあったんだろうか。


ーー分からない。


だけど一つ言えるのは、俺は晴と恋人になれた事に浮かれて、それに気付けなかった。

『1人でも大丈夫』や『蓮がいなくても大丈夫』と良く言うようになった晴。

俺だけが晴を必要としてるんだと、思い知らされる気がして嫌だったけれど。

だけど…それをのは、誰だ?

将来の話をした時、曖昧な返事だったのは?

いつか俺が遥を選んで別れる事になると。

そう、思っていたからじゃないのかーー?



話をして、確かめたい。

ずっと気付かずにいた事を謝って、誤解を正して。

俺にとって晴だけが特別で大切なんだと、伝えたい。

好きなのは、焦がれるのはいつだってただ1人だと。



ーーだけど、これでいいんだと思う自分もいる。


遥も中野も、今回の事を晴に説明するべきだと言うけれど。

これだけ傷付けておいて、説明したから許されるとは思っていない。

2度と傍にいられなくなるのを覚悟の上で、離れたんだ。



…正直、辛いなんてもんじゃねぇけどな。

最近の体調を鑑みても、精神も肉体もゆっくりと壊れて行っている自覚はある。

緊張状態から元に戻んねぇって、人間の身体としてはだいぶキてんだろ。

だけど…その綺麗なブルーグレーが穢されるよりずっといい。

あんな薄汚い一族に、髪の毛一本だって触らせねぇよ。

お前は知らないだろうけどさ、高校生だったあの日誓ったんだ。

絶対に俺が守ってやるって。

お前から、もう何も奪わせない。


繰り返し見る2つの夢は対極なようでいて、どっちが現実になっても俺には地獄。

だけど、晴が笑ってるなら断然そっちがいい。

いつか晴に大切な相手ができて、誰かのものになったとしても。

血塗れの紅より、純白のタキシードがお前には似合うから。

遠くからそれを見届けて自分の人生の幕を引くのも、そう悪くない。

自分の命だ、どう使おうが誰にも文句は言わせねぇよ。








それぞれが後悔と言う思考の波に呑まれる中、ゆっくりと目を開く。

揺らいだ心を整えて、深く息を吸う。

俺がやるべき事は1つだ。

絶対に、晴を無事に助け出すーー。


「お前らの話しは分かった。俺がした事を理解しろとは言わねぇが…晴の身を案じてるのは同じだ。
頼む、居場所を知ってるなら教えて欲しい。」

ハッと目を見開いた相川と木村が、顔を見合わせて小さく頷く。

信用ならないと拒まれ続けたそれに、今度は答えがあった。


相川達が晴から得ていた情報は『信頼できて最近久しぶりに再会した相手』の家に行くという物。

「うーん…それだけじゃ絞れないよなぁ。」

中野が額を揉んでるのは、多分俺と同じ考えだからだ。

人を信じる性質の晴の『信頼できる相手』は、結構多い。

「過去に随分痛めつけられた筈の相川さんにまで、相当懐いてるみたいだしさぁ。」

「ちょっと!痛めつけてはないから!」

言い合う2人を横目に、記憶を探る。

「ってか、ねぇ…言い辛いんだけど、ここにいないメンバーで1番は…アイツなんじゃないの?」

「えっ、もしかして黒崎の事言ってる?」

相川の台詞にギョッとした中野の視線がこっちを向く。

「…確かに晴にとって信頼できる相手ではあるけど、クロとは夏休みに会ってる。『久しぶりに再会した』って言うには語弊があんだろ。」

ホッとした様子の中野と対象的に、相川は懐疑的だ。

「念の為に連絡してみてよ!ほら!」

「って言うか、晴人がいなくなったって聞いてまず黒崎に連絡取ってるから!今東京にいるらしいよ!」

「ほらぁ!ますます怪しいじゃない!」


「オイコラ!相川ちゃんマジで失礼なんですけど!!」


突然の声に全員が振り向くと、そこにはーー。

「…うそ、何で?」

黒崎悠真本人の登場に目が点になる相川。

「人使いの荒いどっかの誰かさんに呼ばれたんですー!ってか相川ちゃん変わんないねぇ。元気?」

「げ、元気だけど…、」

疑われた事はもうどうでもいいのか、いつもの飄々とした調子に相川が毒気を抜かれている。

「あの…どうやってこの教室まで来たんですか?」

初対面らしい木村が尤もな質問をするが、それに答えたのは教室の外からの声だった。

「陽菜、ごめん!チャラいけどイケメンに頼まれたから案内しちゃった!」

その辺の女子を捕まえる手腕は相変わらずらしい。

相川は溜息を吐くと、少し開いていたドアをきっちり閉める。

「で?黒崎が無実だって証拠は?」

「あのねぇ、俺が呼ばれたの蓮だよ?晴人君の事監禁しておいてノコノコ蓮の前に現れると思う?」

「そ、それもそうね。」

殺されるかもしれないのに?と続けたクロに、相川は急に納得したらしい。

「でもさ、突然ビックリすんだけど。啓太君からの電話だと思ったら蓮の声で『晴が消えたから協力しろ』なんてさぁ。」

ブツブツ言いながらも、イスを持って来て座るクロの表情は深刻だ。

「細かい事情は後で聞くとして、どんな状況なの?手掛かりは?」

中野が進捗を説明すると、その眉が下がった。

「晴人君のそれって、結構いそうだよねぇ。てかさ、逆に監禁しそうな相手とかいないの?晴人君に恨み持ってる人…なんかいないか…。あっ!鬼丸とかは!?」

クロの声に中野と相川がハッと顔を上げるが、それは無い。

「事前に霊泉家に利用されそうな奴は調べてる。主に俺に恨みがあるって括りでな。」

高校時代色々あった鬼丸は今、実家の農業をついでいるらしい。

「妻子持ちで幸せそうだって報告があった。ちな、橋本は中国にいるからこっちもノーカン。」

それといつだかクラブで俺がボコった男も調べたが、ブタ箱にいる事が判明した為こっちもシロ。

少ない人員でそう言った奴等をに調べていた為、和解した相川まで手が回らなかったのはここだけの話だ。

「うーん…他に何か…晴人君のファンとか…?」

「それじゃあただのストーカーじゃないか?」

クロと中野の遣り取りを聞きながら、何かが引っかかる。

俺に恨みを持つ人物じゃなくて、晴に執着のある人物?

いや、でも霊泉家は晴を『取るに足らない存在』と評価している。

態々それを調べるとは考え難い。

その時、中野のスマホが鳴った。

『もしもし、蓮は一緒にいる?』

スピーカーにしたそこから聞こえるのは、与一郎の声だ。

『君の晴がいなくなったって聞いて、手掛かりがないか家宅捜索中の屋敷に入れてもらったんだけど…妙な物が見つかってね。』

「妙な物?」

『晴の情報も一応会議に上がったって話したでしょう?それで要らない方に分類されてたんだけど…誰かが書き込みしてるんだよね。』

「晴のデータにか?」

『そう。ただ、内容が意味不明なんだけれど…床下、アパートって、そう書いてあるんだ。』

「床下とアパート?」

意味が分からない。

だけど、何故か胸がザワザワする。

床下に入れる物…非常用の物、入り切らない物、それから…隠したい物。

アパートに床下収納なんて珍しいが…何処かで見たことがある。

記憶の扉を開けて、解析していく。

あれは確か間取り図だった筈で、見たのはーー。

『祖父から受け継いだアパートに住む』人物。

晴にとって信頼できる相手で、そして…。

まさかーー。

「中野…高校で晴が倒れた時の事思い出せ…」

「えっ⁉︎急に何?」

動揺する中野に構わず続ける。

「あの時…晴が変質者に襲われてから倒れたのは2回。そのどっちも部活中だったよな?」

「あ…ああ。…だから『身を守る為に持った竹刀』がトリガーになってるって診断されて、部活ができなくなって…」

「違う。」

「えっ?」

「晴が反応してたのは、竹刀じゃない!」

立ち上がり、困惑する中野の胸ぐらを掴む。




「いた筈だ!そこにーー!!」





🟰🟰🟰


(side晴人)

何となくつけてた部屋のTVを消して立ち上がる。

どの番組も霊泉親子逮捕のニュースばっかりだし…まぁ、有名人だから仕方ないけど。

スマホがないと、こう言う時何したらいいか分かんないよなぁ。

…よし、部屋を貸して貰ってる事だし、お礼に掃除でもしよう!

物置に入ってた掃除機を引っ張り出して、床を綺麗にする。

それにしても、アパートの一室をまるごと貸してもらえるなんて贅沢だ。

お祖父さんから受け継いだって言ってたけど、凄いよなぁ。

わっ、いけね!

考え事してたせいで床に敷いてたラグ巻き込んじゃったよ。

「…ん?」

捲れ上がったその下に現れたのは、窪みに手を掛けるようなタイプの取手。

あっ、これって床下収納じゃない?

実家の台所にあるのよりは小さいけど、きっとそうだ。

アパートに床下収納って珍しいなぁ。

そう思って取手に手を掛けたのは、ちょっとした好奇心。

すんなり開いたそこは、小さな空間だった。

深さもそんなにないから、大して物は入らない。

「…何だこれ、ヘルメット?」

床に座って取り出したのは、フルフェイスのヘルメット。

それから、ドライバー用のグローブ。

「あと…ガムテープ?」

バイク用品の収納庫にしては、場違いな物が出て来た。

まぁでも、物置にしてるならこんなもんか。

何故かザワザワする胸を押さえて、元に戻そうと視線を向けた時だった。

キラリと光る何かを見つけて。

取り出してみると、香水の瓶だった。

3分の1だけ琥珀色の液体が入っているそれを見て、心臓が早鐘を打つ。

理由は分からないけど、やめておけと頭の中に警告が鳴り響いて。

でも、吸い寄せられるように蓋を開けてしまった。

「…あっ…。」

クラリとして、手足が急激に冷たくなる。

…何で?


何でこれが…ここに?



だってこの匂いは、忘れもしない。



甘ったるくて気持ち悪い、これはーー。





俺が襲われた時、犯人から強烈に香った匂いだった。




ガタンッと音がして身を震わせると、ゆっくりと部屋のドアノブが回った。


「晴人、今日の飯どうす…」


言いかけて、座り込む俺を見た家主は動きを止める。

開いた床下と、そこに納められていた物を冷静に見回す。




「あぁ…バレたのか。」



青褪めて震える俺に、何て事ないように笑いかけてきて。



「ど、どうして…」



だって、この人は


頼れる大人で


ひたむきに自分と向き合う人で


そんな、俺の見本で憧れのーー






















「竹田先輩…」





●●●




お時間があれば読んでいただきたいシリーズ↓

side晴人高校編
79話『拒絶』、83話『祝福と不穏』、84話『油断』、87話『異変』

side蓮高校編
37話『悪意と誓い』



























ヒェッ…













































































































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