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解決編
39.
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(side切藤蓮)
家に戻ると、翔は既に帰って来ていた。
抜け出した事がバレて陽子に小言を言われたが、それもほんの一瞬で。
「美優ちゃんの意識が戻ったんですって!」
どうやら翔はその報告をしに来たらしい。
当初の計画では逮捕前後はここで過ごす予定だったが、すぐに病院に戻る事になったと言う。
「親父も了承してるし大丈夫。蓮、こっちは任せるぞ。」
そう言われて頷いた。
「遥、無事で良かった!
久しぶりなのにバタバタしててごめんな!」
翔は満面の笑みで遥の頭を撫でる。
「ううん!翔君、本当に良かったね!」
さっきの涙なんて1ミリも感じさせない明るさで返す遥。
その瞳に嘘はなくて、美優の回復を心から喜んでいるのが分かる。
こう言う『善』や『正義』の部分が遥の基本的な性質だ。
だから翔が結婚しようと父親になろうと、絶望して闇に堕ちる事は無い。
執着の強さはいい勝負だけど、そこが俺と遥の決定的な違いなんだろう。
結局、滞在時間10分で翔は美優の元へと帰って行った。
「翔君が元気そうで良かった。」
少し切ない顔で笑う遥の肩を軽く叩く。
「…それより!アンタは晴の事どうすんのよ!」
励ましてやろうとしたのに、地雷を踏み抜いて来やがった。
「どうも何も…お前と同じで見守るだけだ。」
「一緒にしないでよ、アンタには可能性があるじゃない!」
「…丈一郎を逮捕して、それで終わりか?
奴ならどうにかして罪を逃れようとする。
霊泉家を滅ぼすのにどれだけ時間がかかるか分からない。」
今回の逮捕で間違いなく霊泉家は弱る。
しかし、遥は知らない事だが…霊泉家のバックをどうにかしない限り殲滅は不可能だろう。
晴が俺の弱点だと知られる訳にはいかない。
「それに…今だってどんだけ傷付けてるか。
事情話して謝って『はい元通り』なんて簡単にいく訳ねぇだろ。」
食えなくて、眠れなくて、風に攫われそうなほど痩せたてしまった姿が脳裏に蘇る。
自分をそこまで苦しめた人間を、許していい筈がない。
「…だから言ってるだろ!『俺の親友を舐めるな』って!」
それは、以前病院で言われた台詞だった。
何処から聞いてたのか、中野が俺を睨んでいる。
「晴人なら、ちゃんと話を聞いて理解しようとする!それに…切藤だって同じ位苦しんでるだろ…。食えてないし眠れてないのはお前も同じだ。
悪いのは霊泉家で、お前達は2人とも被害者なんだよ!」
だから、どうしてお前が泣きそうな顔をするのか。
「…中野の言う通りよ、蓮。晴は全部知りたいと思う。私達、晴に秘密を作りすぎたわ。」
恋人、幼馴染、親友が知ってるのに、自分だけ蚊帳の外なんてーー。
後悔していると言った遥は、唇を噛む。
「勿論、今までは晴の安全の為にどうしても必要だったと思う。ただ…丈一郎を逮捕できたら状況も少し変わでしょ?そしたら、全部話した方がいいと私は思う。」
懇願するような二組の視線に見詰められて、顔を背けた。
違う、俺が心配してるのはそれだけじゃない。
俺は遥とは違うんだよ。
晴が自分以外の相手を好きになったら監禁してでも逃さないし、周りの事なんか考えられない。
そんな狂気が自分の中にある事を、俺は既に知っている。
晴の幸せを願うなら、手の届かない所にいるべきなんだ。
「ーーとにかく、明日が勝負だ。お前らも寝ろ。」
時刻はとっくに日付を跨いでいる。
背を向けて去る俺を呼ぶ声がしたけど、そのまま自室に入った。
シャワーを浴びて、眠気が湧かないままベッドに横たわる。
もし運良く眠れたとしても、どうせーー
雪景色に囲まれた家。
必死に俺を求める晴の足首には、鎖。
躊躇いなく犯して、愉悦に浸って。
そして、鮮血に染まる白い身体を見付ける。
桜が舞う教会、白いタキシードの晴。
ドレスの女が呼ぶ声で離れて行く姿。
叫んでも届かない声。
最期を決めた、自分の胸中。
ハッと意識が覚醒して、汗だくの身体を起こした。
幾度となく見るようになったこの夢は、何度でも俺の精神を蝕む。
周りは休めと煩いが、起きてる方がよっぽど楽だ。
ベッドサイドのデジタル時計がAM3:00を示してるのを横目で見て、出窓からバルコニーへ出る。
電車タバコを咥えて、気を落ち着かせるように煙を吐いた。
今日の正午、霊泉丈一郎と息子は逮捕される。
奴等にここまで隠し通せたのは奇跡に近いだろう。
ただし、これで終わりとは到底思えない。
誰を使ってどんな罪の逃れ方をしてくるか分からないからだ。
晴が奴等が近付けない地にいる事だけが、俺の心の安寧だった。
だったの、だけどーー。
晴が自分の足で東京へ戻ってしまったと連絡を受けたのは、その直ぐ後の事。
『守護の対象の気配が消えた』と、京都の一族から笹森さんに連絡が来たらしい。
『守護の対象と言うのが、例の御守りを持つ晴人さんの事だったようです。』
晴が霊泉家の手の届く範囲にいるのは非常にまずい。
与一郎の話しでは『取るに足らない』と判断されたらしいが、万が一と言う事もある。
急いで向かったマンションには、晴の痕跡だけがあった。
この部屋は晴の心そのものだ。
割れて粉々になって、血を流して。
ーー全部、俺のせいだ。
晴を追い返したあの日、中途半端な態度を取ったのが悔やまれる。
あの時『別れる』とハッキリ告げていれば、ここまで苦しめなかったかもしれない。
そうすればきっと、晴はここを出て実家に戻っていただろう。
相手の気配が残った部屋に居続ける事の辛さを、俺は身を持って知っているのに。
どうしても『別れる』とは言えなかった自分の弱さに反吐が出そうだった。
切藤家にいる中野に連絡を取って、晴がいなくなった事を伝える。
実家に戻ると、既に親父から連絡を受けた遥が待ち構えていた。
傍受されていない遥のスマホで憲人さんに事情を聞いて、大谷の存在を知って。
緊急事態だし自分のバイクじゃないから(俺のは病院に停めたまま)と自分を納得させて、遥をバイクの後ろに乗せて伊藤の家を訪ねた。
そこで知った大谷の居場所へ、呼び出した中野と共に向かう。
自分も行きたいと言う遥を宥める様子に伊藤が困惑した目を向けてきたが、遥には正確に伝わった様だ。
『俺に見捨てさせないで欲しい。』
晴と遥が同時に命を狙われた場合、俺は間違い無く晴を守る。
迷いは一切ないし、後悔もしない。
ただ…罪悪感には苦しむだろう。
他人ならどうでもいいが、遥は俺にとって同志であり家族だ。
俺が遥を『見捨てる』状況を作りたくなかった。
「その点お前なら自分の身は自分で守れるし、
いざとなったら見捨てられるし。」
そう言うと、中野は呆れたように笑っていた。
いや、冗談だけど…半分は。
とにかく、そんな訳で中野と大谷の元へ乗り込んだ。
その結果、大谷と絢美が晴の行き先の情報を持っていて。
それを頼りにやって来たのがこの服飾専門学校だ。
そして、今目の前にいる2人の女に足止めを喰らっている。
「これで全部話した。満足かよ。」
顔色を失った木村が口を開く。
「そんな大変な事情があったなんて…。疑ってすみませんでした…。」
どうやら俺と遥に恋愛的なものは一切無いと、ようやく納得したらしい。
「…ごめん、蓮…。」
相川も殊勝に俯いている。
「お前らの感想も謝罪もどうでもいいんだよ、晴の居場所教えろ。」
時間のロスに苛々しながら言うと、相川は首を横に振った。
「そうじゃなくて…。」
「あ?」
「白田が目撃した、ラブホ街を歩いてた晴ちゃんの浮気相手って…私かも…。」
「……は?」
「ちょっ、待って!ちゃんと聞いて!晴ちゃんの名誉の為にも!」
そう前置きすると、相川は話し始めた。
(side 相川陽菜)
晴ちゃんとバイト先で会うようになって暫く経った頃、季節は新年を迎えていた。
「はぁ。」
「姫、どうしたの溜息ついて。」
「別に、アンタにはどうにもできないし。」
いつもの如くお菓子を差し出しながら聞いてくれる晴ちゃんに、つい可愛くない言い方をしてしまう。
「まぁ、ガキを4、5人攫って来れるんなら話は別だけど。」
諦めモードで天を仰ぐ私に、晴ちゃんが慄く。
「口悪ッ!山賊じゃん…。一体何させる気なの?」
私が子供を欲してた理由は、勿論真っ当なもの。
7月に控えた学校の一大イベントであるファッションショーのモデルをして貰う為だった。
私は主に子供服をデザインしていて、将来はそっちに進みたいと考えてる。
ショーには個人の部とグループの部があって、それぞれ順位が付く仕組み。
審査員は著名なデザイナーとか海外で活躍するスタイリストだから、上位に入れば、就職がウンと有利になる。
だからこのショーにかける熱量は凄くて、パラ○スもビックリな超豪華なドレスなんかでアピールする訳だ。
熾烈な争いを子供服で勝ち抜くには、それなりの人数が必要になる。
どうしても物理的に小さい分、大人に比べて迫力に欠けちゃうから。
勿論、子供なら誰でもOKって訳じゃない。
舞台の上でウォーキングして、笑顔を振りまけるような子じゃないと。
そんな子供を4~5人集めるなんて…劇団にコネでも無い限り無理なのよね。
「なるほど、ファッションショーね!」
晴ちゃんは安堵したように笑う。
一体私が子供に何させると思ってたのよ…。
そう声を上げようとしたら、アッサリ言われた。
「コネ、あるよ?」
そうして紹介されたのは、晴ちゃんのパパ。
「ラ、ランヴェール憲人先生が…晴ちゃんの…!?」
世界的に有名な絵本作家であり画家である彼は、確かに晴ちゃんと良く似た色の瞳を持っていた。
柔和な笑顔と手作りのお菓子(プロ級に美味しいアップルパイ)に、こんな父親もいるんだと羨ましくなる。
晴ちゃんが言うにはママは厳しいらしいけど…こんな愛情いっぱいの環境で育ったら、この仕上がりになるのも納得だわ。
思わず頭を撫でしまったら、本人はキョトンとしてたけど。
「少し前に僕の絵本を舞台化しててね。その時に知り合った子役の親御さんに聞いてみたら、数人がいい返事をくれたよ。」
「本当ですか!?」
思わず立ち上がった私をニコニコ顔で見詰める親子。
うっ、浄化されすぎて消滅しそう…。
そんな経緯があって、候補を数人紹介して貰った。
ただ、これで決定って訳じゃない。
趣旨を説明して、本番は勿論ゲネプロや採寸の日程に参加可能か擦り合わせないといけない。
後は、本人と親のやる気(謝礼は出ないし送り迎えとかあるし)も大事。
『僕がいると相川さんも相手も断りづらいでしょ?』なんて笑う晴パパの気遣いで、面談には晴ちゃんが同席してくれる事になった。
「子供の相手は任せたわ。苦手なのよ、私。」
「そうなの!?子供服のデザイナーになりたいのはどうして?」
「…私が子供だった頃に『大好きな服』があったら…少しは自分の容姿を好きになれたかもしれないから。」
誰にも…ママにも言った事ない本音が溢れてしまった。
でも、いいの。
相手が晴ちゃんなら大丈夫。
だって、ほら。
「そっかぁ。なら、最高の服にしないとね!
てかこれから生まれる子供達は幸運だよね、姫の服のお陰で自己肯定感爆上がりじゃん!」
変に否定しないし、私の服が世に出るって無条件で信じてるし。
「ふん、当然でしょ!」
いつか絶対そうなってやるって、心に誓った。
面談は1親子ずつ、ばらばらの日にちで行う事になった。
親子は勿論、私と晴ちゃんの予定と…私の相棒の予定も合わせないといけなかったから。
「お、お久しぶりです萱島くん。」
「えぇぇ!?木村さん!?」
紹介した桃に、晴ちゃんが仰天する。
まぁ、過去に私達の関係性を知ってれば無理もないわよね。
だけど、それは最近アップデートされてるのよ。
私の通う服飾専門学校は、所属する科が違うと授業も全然違う。
だから基本的に他の科の人とは交流が薄いんだけど、制作発表会とか展示で存在を知る事はあって。
何の気無しに展示を見ていた私は、ある作品の縫製の美しさに一目惚れした。
『縫製科 木村』
これは一度会って話をしてみたい、何ならショーの相棒になって欲しい。
そう思っていた矢先、まさか向こうから尋ねて来るなんて。
『あの…月島さんと言う方はいますか…?このデザイン画の事でお話したくて…!』
ド派手なデザイン科の教室内に気後れした様子の女子。
その手には、展示に出していた私のデザイン画。
「それ私のだけど。…えっ!?」
「いきなりすみません。…えっ!?」
呆気に取られて見つめ合う、私と桃。
「「な、なんでここに…?」」
これが再会の瞬間だった。
それから、お互いに入学までの一連を話して。
「昔の事、悪かったと思ってる。ごめんなさい。」
頭を下げようとする私を、桃はやんわりと押し留めた。
「いいの。『私は陽菜ちゃんみたいになれないから』って、自分の自信の無さの言い訳にしてた私も悪いから。」
そして、微笑む。
「私、陽菜ちゃんのデザインに一目惚れしちゃったの!一緒にショーに出て欲しくて『相川さん』を探してたんだ!」
その日は、私にとって忘れられない日になった。
答えたは勿論、イエス。
まさかこの数ヶ月後に、別の再会が訪れるなんて思ってもみなかったけど。
「へぇぇ!超素敵な偶然!」
関心する『別の再会』相手は、すぐに桃とも打ち解けた。
「ただ、私が萱島君に近付いてるって蓮さんに知られたらどうなるか…。私には前科があるので…。」
不安そうな桃に、私も頷く。
「そこなのよ!晴ちゃん、バイトが被ってる件に引き続きこっちも内緒にして欲しいの!私達、就職がかかってるのよ…!」
パンッと手を合わせて願うも、迷う素振り。
「…分かったわ。じゃあせめて3月一杯まで!
そしたら、事後報告だけど私達から蓮に話す。」
せめてモデルの決定と採寸が終わるまでは見逃して欲しい。
私達の懇願に、困ったように晴ちゃんは頷いた。
「分かった、俺も協力したいし。…蓮にはまだバイト減る事言ってなかったし。」
「え?来週から週3に戻るのに?」
「うん…。だから、土日とかでも大丈夫!
面談は土日希望が多いから丁度良かったね!」
それは助かるけど…どうして蓮に言ってないんだろう。
話もできない程忙しいのかしらーー?
🟰🟰🟰
「あの時は気付かなかったけど…晴ちゃん、この頃は既に蓮と遥がヨリを戻すって不安だったのかも…。」
クリスマスに遥の話をしたらしい2人。
蓮が言うにはその後から晴ちゃんに避けられるようになったらしいし、時期的には合致してる。
蓮はそれを『子供や将来について考えて、自分との関係に迷いが生じた』と受け取ったみたいだけど…。
「晴ちゃんは晴ちゃんで、蓮と遥の関係に何か確信を持っちゃったのかもしれない。それが不安で、蓮と顔合わせるのを避けてたんじゃないかしら。」
私達が頼む以前に、通常シフトに戻る予定だった3月いっぱいまでは蓮には黙ってる気だったんじゃないだろうか。
あの時の晴ちゃんは、どんな顔してたーー?
直ぐに戻った笑顔に、抱いた筈の違和感を忘れてしまった事が悔やまれる。
●●●
◎前半(side蓮)部分◎
もう一つのプロローグ
『二度と咲かない桜』、『行方』
解決編『7』~『12』
◎後半(side陽菜)部分◎
解決編『5』のバレンタイン前、『27』の白田から連絡が来る前
上記の辺りの話しです。
若い子はパ○キス知ってるんだろうか????
作者はイザベラが好きです。
家に戻ると、翔は既に帰って来ていた。
抜け出した事がバレて陽子に小言を言われたが、それもほんの一瞬で。
「美優ちゃんの意識が戻ったんですって!」
どうやら翔はその報告をしに来たらしい。
当初の計画では逮捕前後はここで過ごす予定だったが、すぐに病院に戻る事になったと言う。
「親父も了承してるし大丈夫。蓮、こっちは任せるぞ。」
そう言われて頷いた。
「遥、無事で良かった!
久しぶりなのにバタバタしててごめんな!」
翔は満面の笑みで遥の頭を撫でる。
「ううん!翔君、本当に良かったね!」
さっきの涙なんて1ミリも感じさせない明るさで返す遥。
その瞳に嘘はなくて、美優の回復を心から喜んでいるのが分かる。
こう言う『善』や『正義』の部分が遥の基本的な性質だ。
だから翔が結婚しようと父親になろうと、絶望して闇に堕ちる事は無い。
執着の強さはいい勝負だけど、そこが俺と遥の決定的な違いなんだろう。
結局、滞在時間10分で翔は美優の元へと帰って行った。
「翔君が元気そうで良かった。」
少し切ない顔で笑う遥の肩を軽く叩く。
「…それより!アンタは晴の事どうすんのよ!」
励ましてやろうとしたのに、地雷を踏み抜いて来やがった。
「どうも何も…お前と同じで見守るだけだ。」
「一緒にしないでよ、アンタには可能性があるじゃない!」
「…丈一郎を逮捕して、それで終わりか?
奴ならどうにかして罪を逃れようとする。
霊泉家を滅ぼすのにどれだけ時間がかかるか分からない。」
今回の逮捕で間違いなく霊泉家は弱る。
しかし、遥は知らない事だが…霊泉家のバックをどうにかしない限り殲滅は不可能だろう。
晴が俺の弱点だと知られる訳にはいかない。
「それに…今だってどんだけ傷付けてるか。
事情話して謝って『はい元通り』なんて簡単にいく訳ねぇだろ。」
食えなくて、眠れなくて、風に攫われそうなほど痩せたてしまった姿が脳裏に蘇る。
自分をそこまで苦しめた人間を、許していい筈がない。
「…だから言ってるだろ!『俺の親友を舐めるな』って!」
それは、以前病院で言われた台詞だった。
何処から聞いてたのか、中野が俺を睨んでいる。
「晴人なら、ちゃんと話を聞いて理解しようとする!それに…切藤だって同じ位苦しんでるだろ…。食えてないし眠れてないのはお前も同じだ。
悪いのは霊泉家で、お前達は2人とも被害者なんだよ!」
だから、どうしてお前が泣きそうな顔をするのか。
「…中野の言う通りよ、蓮。晴は全部知りたいと思う。私達、晴に秘密を作りすぎたわ。」
恋人、幼馴染、親友が知ってるのに、自分だけ蚊帳の外なんてーー。
後悔していると言った遥は、唇を噛む。
「勿論、今までは晴の安全の為にどうしても必要だったと思う。ただ…丈一郎を逮捕できたら状況も少し変わでしょ?そしたら、全部話した方がいいと私は思う。」
懇願するような二組の視線に見詰められて、顔を背けた。
違う、俺が心配してるのはそれだけじゃない。
俺は遥とは違うんだよ。
晴が自分以外の相手を好きになったら監禁してでも逃さないし、周りの事なんか考えられない。
そんな狂気が自分の中にある事を、俺は既に知っている。
晴の幸せを願うなら、手の届かない所にいるべきなんだ。
「ーーとにかく、明日が勝負だ。お前らも寝ろ。」
時刻はとっくに日付を跨いでいる。
背を向けて去る俺を呼ぶ声がしたけど、そのまま自室に入った。
シャワーを浴びて、眠気が湧かないままベッドに横たわる。
もし運良く眠れたとしても、どうせーー
雪景色に囲まれた家。
必死に俺を求める晴の足首には、鎖。
躊躇いなく犯して、愉悦に浸って。
そして、鮮血に染まる白い身体を見付ける。
桜が舞う教会、白いタキシードの晴。
ドレスの女が呼ぶ声で離れて行く姿。
叫んでも届かない声。
最期を決めた、自分の胸中。
ハッと意識が覚醒して、汗だくの身体を起こした。
幾度となく見るようになったこの夢は、何度でも俺の精神を蝕む。
周りは休めと煩いが、起きてる方がよっぽど楽だ。
ベッドサイドのデジタル時計がAM3:00を示してるのを横目で見て、出窓からバルコニーへ出る。
電車タバコを咥えて、気を落ち着かせるように煙を吐いた。
今日の正午、霊泉丈一郎と息子は逮捕される。
奴等にここまで隠し通せたのは奇跡に近いだろう。
ただし、これで終わりとは到底思えない。
誰を使ってどんな罪の逃れ方をしてくるか分からないからだ。
晴が奴等が近付けない地にいる事だけが、俺の心の安寧だった。
だったの、だけどーー。
晴が自分の足で東京へ戻ってしまったと連絡を受けたのは、その直ぐ後の事。
『守護の対象の気配が消えた』と、京都の一族から笹森さんに連絡が来たらしい。
『守護の対象と言うのが、例の御守りを持つ晴人さんの事だったようです。』
晴が霊泉家の手の届く範囲にいるのは非常にまずい。
与一郎の話しでは『取るに足らない』と判断されたらしいが、万が一と言う事もある。
急いで向かったマンションには、晴の痕跡だけがあった。
この部屋は晴の心そのものだ。
割れて粉々になって、血を流して。
ーー全部、俺のせいだ。
晴を追い返したあの日、中途半端な態度を取ったのが悔やまれる。
あの時『別れる』とハッキリ告げていれば、ここまで苦しめなかったかもしれない。
そうすればきっと、晴はここを出て実家に戻っていただろう。
相手の気配が残った部屋に居続ける事の辛さを、俺は身を持って知っているのに。
どうしても『別れる』とは言えなかった自分の弱さに反吐が出そうだった。
切藤家にいる中野に連絡を取って、晴がいなくなった事を伝える。
実家に戻ると、既に親父から連絡を受けた遥が待ち構えていた。
傍受されていない遥のスマホで憲人さんに事情を聞いて、大谷の存在を知って。
緊急事態だし自分のバイクじゃないから(俺のは病院に停めたまま)と自分を納得させて、遥をバイクの後ろに乗せて伊藤の家を訪ねた。
そこで知った大谷の居場所へ、呼び出した中野と共に向かう。
自分も行きたいと言う遥を宥める様子に伊藤が困惑した目を向けてきたが、遥には正確に伝わった様だ。
『俺に見捨てさせないで欲しい。』
晴と遥が同時に命を狙われた場合、俺は間違い無く晴を守る。
迷いは一切ないし、後悔もしない。
ただ…罪悪感には苦しむだろう。
他人ならどうでもいいが、遥は俺にとって同志であり家族だ。
俺が遥を『見捨てる』状況を作りたくなかった。
「その点お前なら自分の身は自分で守れるし、
いざとなったら見捨てられるし。」
そう言うと、中野は呆れたように笑っていた。
いや、冗談だけど…半分は。
とにかく、そんな訳で中野と大谷の元へ乗り込んだ。
その結果、大谷と絢美が晴の行き先の情報を持っていて。
それを頼りにやって来たのがこの服飾専門学校だ。
そして、今目の前にいる2人の女に足止めを喰らっている。
「これで全部話した。満足かよ。」
顔色を失った木村が口を開く。
「そんな大変な事情があったなんて…。疑ってすみませんでした…。」
どうやら俺と遥に恋愛的なものは一切無いと、ようやく納得したらしい。
「…ごめん、蓮…。」
相川も殊勝に俯いている。
「お前らの感想も謝罪もどうでもいいんだよ、晴の居場所教えろ。」
時間のロスに苛々しながら言うと、相川は首を横に振った。
「そうじゃなくて…。」
「あ?」
「白田が目撃した、ラブホ街を歩いてた晴ちゃんの浮気相手って…私かも…。」
「……は?」
「ちょっ、待って!ちゃんと聞いて!晴ちゃんの名誉の為にも!」
そう前置きすると、相川は話し始めた。
(side 相川陽菜)
晴ちゃんとバイト先で会うようになって暫く経った頃、季節は新年を迎えていた。
「はぁ。」
「姫、どうしたの溜息ついて。」
「別に、アンタにはどうにもできないし。」
いつもの如くお菓子を差し出しながら聞いてくれる晴ちゃんに、つい可愛くない言い方をしてしまう。
「まぁ、ガキを4、5人攫って来れるんなら話は別だけど。」
諦めモードで天を仰ぐ私に、晴ちゃんが慄く。
「口悪ッ!山賊じゃん…。一体何させる気なの?」
私が子供を欲してた理由は、勿論真っ当なもの。
7月に控えた学校の一大イベントであるファッションショーのモデルをして貰う為だった。
私は主に子供服をデザインしていて、将来はそっちに進みたいと考えてる。
ショーには個人の部とグループの部があって、それぞれ順位が付く仕組み。
審査員は著名なデザイナーとか海外で活躍するスタイリストだから、上位に入れば、就職がウンと有利になる。
だからこのショーにかける熱量は凄くて、パラ○スもビックリな超豪華なドレスなんかでアピールする訳だ。
熾烈な争いを子供服で勝ち抜くには、それなりの人数が必要になる。
どうしても物理的に小さい分、大人に比べて迫力に欠けちゃうから。
勿論、子供なら誰でもOKって訳じゃない。
舞台の上でウォーキングして、笑顔を振りまけるような子じゃないと。
そんな子供を4~5人集めるなんて…劇団にコネでも無い限り無理なのよね。
「なるほど、ファッションショーね!」
晴ちゃんは安堵したように笑う。
一体私が子供に何させると思ってたのよ…。
そう声を上げようとしたら、アッサリ言われた。
「コネ、あるよ?」
そうして紹介されたのは、晴ちゃんのパパ。
「ラ、ランヴェール憲人先生が…晴ちゃんの…!?」
世界的に有名な絵本作家であり画家である彼は、確かに晴ちゃんと良く似た色の瞳を持っていた。
柔和な笑顔と手作りのお菓子(プロ級に美味しいアップルパイ)に、こんな父親もいるんだと羨ましくなる。
晴ちゃんが言うにはママは厳しいらしいけど…こんな愛情いっぱいの環境で育ったら、この仕上がりになるのも納得だわ。
思わず頭を撫でしまったら、本人はキョトンとしてたけど。
「少し前に僕の絵本を舞台化しててね。その時に知り合った子役の親御さんに聞いてみたら、数人がいい返事をくれたよ。」
「本当ですか!?」
思わず立ち上がった私をニコニコ顔で見詰める親子。
うっ、浄化されすぎて消滅しそう…。
そんな経緯があって、候補を数人紹介して貰った。
ただ、これで決定って訳じゃない。
趣旨を説明して、本番は勿論ゲネプロや採寸の日程に参加可能か擦り合わせないといけない。
後は、本人と親のやる気(謝礼は出ないし送り迎えとかあるし)も大事。
『僕がいると相川さんも相手も断りづらいでしょ?』なんて笑う晴パパの気遣いで、面談には晴ちゃんが同席してくれる事になった。
「子供の相手は任せたわ。苦手なのよ、私。」
「そうなの!?子供服のデザイナーになりたいのはどうして?」
「…私が子供だった頃に『大好きな服』があったら…少しは自分の容姿を好きになれたかもしれないから。」
誰にも…ママにも言った事ない本音が溢れてしまった。
でも、いいの。
相手が晴ちゃんなら大丈夫。
だって、ほら。
「そっかぁ。なら、最高の服にしないとね!
てかこれから生まれる子供達は幸運だよね、姫の服のお陰で自己肯定感爆上がりじゃん!」
変に否定しないし、私の服が世に出るって無条件で信じてるし。
「ふん、当然でしょ!」
いつか絶対そうなってやるって、心に誓った。
面談は1親子ずつ、ばらばらの日にちで行う事になった。
親子は勿論、私と晴ちゃんの予定と…私の相棒の予定も合わせないといけなかったから。
「お、お久しぶりです萱島くん。」
「えぇぇ!?木村さん!?」
紹介した桃に、晴ちゃんが仰天する。
まぁ、過去に私達の関係性を知ってれば無理もないわよね。
だけど、それは最近アップデートされてるのよ。
私の通う服飾専門学校は、所属する科が違うと授業も全然違う。
だから基本的に他の科の人とは交流が薄いんだけど、制作発表会とか展示で存在を知る事はあって。
何の気無しに展示を見ていた私は、ある作品の縫製の美しさに一目惚れした。
『縫製科 木村』
これは一度会って話をしてみたい、何ならショーの相棒になって欲しい。
そう思っていた矢先、まさか向こうから尋ねて来るなんて。
『あの…月島さんと言う方はいますか…?このデザイン画の事でお話したくて…!』
ド派手なデザイン科の教室内に気後れした様子の女子。
その手には、展示に出していた私のデザイン画。
「それ私のだけど。…えっ!?」
「いきなりすみません。…えっ!?」
呆気に取られて見つめ合う、私と桃。
「「な、なんでここに…?」」
これが再会の瞬間だった。
それから、お互いに入学までの一連を話して。
「昔の事、悪かったと思ってる。ごめんなさい。」
頭を下げようとする私を、桃はやんわりと押し留めた。
「いいの。『私は陽菜ちゃんみたいになれないから』って、自分の自信の無さの言い訳にしてた私も悪いから。」
そして、微笑む。
「私、陽菜ちゃんのデザインに一目惚れしちゃったの!一緒にショーに出て欲しくて『相川さん』を探してたんだ!」
その日は、私にとって忘れられない日になった。
答えたは勿論、イエス。
まさかこの数ヶ月後に、別の再会が訪れるなんて思ってもみなかったけど。
「へぇぇ!超素敵な偶然!」
関心する『別の再会』相手は、すぐに桃とも打ち解けた。
「ただ、私が萱島君に近付いてるって蓮さんに知られたらどうなるか…。私には前科があるので…。」
不安そうな桃に、私も頷く。
「そこなのよ!晴ちゃん、バイトが被ってる件に引き続きこっちも内緒にして欲しいの!私達、就職がかかってるのよ…!」
パンッと手を合わせて願うも、迷う素振り。
「…分かったわ。じゃあせめて3月一杯まで!
そしたら、事後報告だけど私達から蓮に話す。」
せめてモデルの決定と採寸が終わるまでは見逃して欲しい。
私達の懇願に、困ったように晴ちゃんは頷いた。
「分かった、俺も協力したいし。…蓮にはまだバイト減る事言ってなかったし。」
「え?来週から週3に戻るのに?」
「うん…。だから、土日とかでも大丈夫!
面談は土日希望が多いから丁度良かったね!」
それは助かるけど…どうして蓮に言ってないんだろう。
話もできない程忙しいのかしらーー?
🟰🟰🟰
「あの時は気付かなかったけど…晴ちゃん、この頃は既に蓮と遥がヨリを戻すって不安だったのかも…。」
クリスマスに遥の話をしたらしい2人。
蓮が言うにはその後から晴ちゃんに避けられるようになったらしいし、時期的には合致してる。
蓮はそれを『子供や将来について考えて、自分との関係に迷いが生じた』と受け取ったみたいだけど…。
「晴ちゃんは晴ちゃんで、蓮と遥の関係に何か確信を持っちゃったのかもしれない。それが不安で、蓮と顔合わせるのを避けてたんじゃないかしら。」
私達が頼む以前に、通常シフトに戻る予定だった3月いっぱいまでは蓮には黙ってる気だったんじゃないだろうか。
あの時の晴ちゃんは、どんな顔してたーー?
直ぐに戻った笑顔に、抱いた筈の違和感を忘れてしまった事が悔やまれる。
●●●
◎前半(side蓮)部分◎
もう一つのプロローグ
『二度と咲かない桜』、『行方』
解決編『7』~『12』
◎後半(side陽菜)部分◎
解決編『5』のバレンタイン前、『27』の白田から連絡が来る前
上記の辺りの話しです。
若い子はパ○キス知ってるんだろうか????
作者はイザベラが好きです。
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