【完結まで残り1話】桜の記憶 幼馴染は俺の事が好きらしい。…2番目に。

あさひてまり

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解決編

22.

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今回は相川のターンです。

side晴人高校編
22話、23話、43話、60話辺りに至った背景と、
64話、65話『生徒vs』、72話『またね』で晴人と和解した心情など。

※65話、72話以外は全て(side相川陽菜)の表記があるのでそちらを目印にしていただけると良いかと!



●●●

(side 相川陽菜)


『自分が思い描いてたイメージと違ったからって相手を責めるのはお門違いなんだよ!』 

浴びる筈の暴言や嘲笑から守ってくれた言葉。

差し出してくれたその白く華奢な手を、私はきっと忘れないーー。






私の1番古い記憶は、自分を罵る父親の怒号で構成されてる。


完璧な紳士を演じて、両親を亡くしたばかりの少女(旧家のひとり娘)に取り入った男は、計略通り結婚まで漕ぎ着けると、その莫大な遺産で会社を設立した。

そうやってできたのが父親の会社である『相川グループ』で、世間に夫婦円満をアピールする為に作られた子供が私。

ママは私を愛してくれたけど、父親はそうじゃなかった。

『見たくないから』と京都の別邸に追いやられて、幼かった私は自分が悪いんだと思い込んだ。

好かれようと必死に努力して、小学校では何でもも1番を取って。

だけど、うっかり撮られてしまったビジネス誌の写真が父親を激昂させた。

『お前らみたいな不細工が家族だなんて、俺のセンスが疑われる!』

唾を飛ばしながら怒鳴る父親に酷く傷付いて。

『陽菜ちゃんってブスのくせに何でもできてムカつくよね。』

友達に陰口を言われている事にも気が付いて、整形を決意したのはこの時。

『陽菜、ママのせいでごめんね。大好きだよ。』

哀しそうなママは、それでも私の意志を汲んで子供でも受け入れ可能な国外の病院を探してくれた。

手術は何度にも渡り、その度に内心怖くて震えて。

さらに術後の痛みや腫れは、それを超えた恐怖だった。

それでも、約1年がかりの『大工事』を終えて鏡に映る自分は、参考にしたアイドルみたいに可愛くて。

その顔を見た父親が私(と、渋々ママ)を呼び寄せて、中学からは東京での暮らしが始まった。

『陽菜って何でもできてビジュもいいとか最強じゃない?』

新しくできた友達が、私のいない所でそう言ってるのを聞いた。

小学校の時とまるで違う評価は、父親も一緒。

『何でもできる自慢の娘』として人に紹介されて、ようやく自分の頑張りが正当に認められた気がした。

『あれは私の妻子じゃなくて他人なんですよ。カメラマンが間違えたらしくて。』

一度だけ言及された、例の雑誌の写真と今の私の違いに、父親はそう答えてて。

その姿が酷く歪んで見えたのには、気付かないふりをした。




暫くすると、両親に離婚話が持ち上がった。

離婚したくないと懇願するママを冷たくあしらう父親。

ママは離婚したくないんだ…。

中2になった私はもう、父親がビジネスの為に子供を利用する人間だって分かって嫌悪するようになってた。

でも、ママはまだ夫を愛してるのかもしれない。

私は考えて、2人に帝詠高校に進学したいと伝えた。

全国的に名の知れたレベルの高い高校の話題に、父親はすぐに食い付いてきて。

『優秀な娘』を自慢したい虚栄心を満たしてやる代わりに、条件を提示する。

『両親が揃ってないとダメだから離婚しないで。』

完全に嘘だったけど、一部の私立では暗黙の了解とされる事もあるせいか、父親は騙された。

離婚との天秤にかけて『名門校に通う娘』の利用価値が勝ったんだろう。

そう言う奴だと分かって計画したのに、上手くいった事に何故か虚しさを覚えた。


それからは、決して表には出さないけど苛々する事が増えて。

学校生活では、男子に告白される度に腹が立って仕方ない。

アンタみたいなレベルの奴が告白してくるって事は、私はその程度だって事?

あんなに努力して痛みにも耐えた私が、こんなレベルだとでも言うの!?


学校で1番人気の先輩が彼氏になると、私の心は少し凪いだ。

ほらね、私はやっぱり特別なの。

人気の先輩と付き合う為に卑怯な手で元カレを振っても、その為に地味な『友達』を利用しても許される。

特別に扱われる事で、私はレベルの高い人間なんだと感じると、酷く安心する。


だって、それ以外に私の価値を証明するものなんてーー。



狭き門である帝詠の…しかも特進クラス入学の為の受験勉強は、本当に苦しかった。

数えきれないくらい泣いて、過呼吸になりながらも机に向かう事はやめられなくて。

ママは何度も無理しなくていいって言ってくれたけど、その度に首を横に振った。

だって、私が合格しないと全部がダメになってしまう。

だから、私は負けちゃいけないーー。





血を吐くような努力の結果、私は帝詠学院入学を果たした。

約束通り両親の離婚は無し…と言うか、私が卒業するまでは保留。


特進クラスの授業はハードで、『特別じゃない人間』に容赦が無かった。

特進は一般クラスと違って、中間テストと期末テストがそれぞれ2回ある。

一般クラスと同じテストの前に、特進クラス用のテストがあるから。

特進のテストはA~Eのランク分けがされる『特進クラス内の成績』で、一般クラスと同じテストは『学年全体での成績』を出す為のもの。

それを基に行使されるのが、中間・期末の合計点数が学年の30位以内に入らなければ一般クラスに堕とされる『堕天』のシステム。

『勉強ができる』と自負してきた人間のプライドをズタズタにするそれにより、大抵の『堕天使』は退学してしまう。

こんな厳しい制度なのに特進の人気が高いのは、校則が一切ない事と、世界で活躍する卒業生との繋がりができる為だ。


因みに私の1学期の成績は、全校9位のB判定。

特進に残る事はできたし、あのメンバーの中でB判定なら上々。

あのメンバーって言うのは、特進上位の天才たちの事。

教科書なんか見れば覚えられるって言うギフテッド持ちの彼等は、気負うことなく上位を掻っ攫っていく。

それは酷く妬ましくて、同時に強烈な憧れの対象でもあって。

そんな『特別』な人間に選ばれる事は、とても価値のある事。

次第に私は、自分こそが彼等にーーとりわけ蓮に選ばれるべきだと思うようになった。


切藤蓮は、何もかもが規格外。

頭の良さも、運動能力も、顔面もスタイルも家柄も全てが人類の頂点みたいな男。

いつも無表情でクールな彼が一言何か溢せば、周りは異様に盛り上がる。

圧倒的なオーラとカリスマ性のある『選ばれた』人間。


そんな蓮だけど、仲のいい男子とは普通に話す一面もあって。

だから、いけると思った。

整形してから今まで落とせなかった男子はいなかったし、彼女がいたとしても私が選ばれるのは当然だったから。

なのに、私の前に立ちはだかったのは平凡な男子。

蓮の幼馴染である、萱島晴人だった。

一般クラスの凡人が我が物顔で蓮の隣にいるのが気に入らなくて。

引き離そうと画作してるうちに、萱島が蓮に恋心を抱いてる事に気が付いた私は言いようのない怒りに燃えた。


能力は人並み、見た目だって多少見れる程度の絵に描いたような『平凡』が蓮を好き?

自分が蓮のレベルに見合ってるとでも思ってるの!?


私の怒りの根底にあったのは蓮への好意じゃなくて、何の努力もしてない人間が『特別』な人間に選ばれるなんてあってはならないと言う事実。


だって…そうしたら…


私のしてきた努力は…?



睡眠時間を削って、泣きながら勉強して。

でも決して見た目にも気は抜けなくて、完璧に可愛く見える努力をして。

怖くて震えながら受けた手術も、いつか表れるかももしれない術後後遺症に怯えた夜も。



その日々に意味が無いならーー


私には、何が残るのーー?






結果的に、私の策は全て失敗に終わって全校に整形もバレて。

何もかも失って、してきた努力全て無駄になったんだと、力が抜けた。

騙してた人間からの罵詈雑言を、当然覚悟してして。

なのに、そんな私を救ってくれたのは貶めた筈の本人で。

『自分が思い描いてたイメージと違ったからって相手を責めるのはお門違いなんだよ!』 

そう言ってくれた時に悟った。

多分この人も、苦しんだり乗り越えたりしてきたんだって。

だって、それを知らない人間なら、こんなに他人に優しくできない。

自分を苦しめた相手なら、尚更ーー。


嘘がバレないように、誰も信用できなかった私には頼る相手なんていなかった。

だけど今、座り込みそうな私を支えてるのは間違いなく華奢なこの腕。


多分、私は大きな思い違いをしてた。

誰もが『特別だから』で片付けてしまう蓮の感情に寄り添える人。

そんな奴の何処が平凡だって言うの?

蓮はそんな萱島が好きで、そこにはレベルとか格差とか、そんな物は関係なくて。


私がいつの間にか、それに捉われていただけ。



いつの間にか、大嫌いな父親と同じ基準で生きていただけーー。




全てが明るみに出て、私は退学する道を選んだ。

父親は大激怒してたけど、ママはどこかほっとした顔で『今まで良く頑張ったね。』と褒めてくれた。

ママだけは、限界ギリギリを歩き続ける私に気付いてたんだと思う。




学校を去る日、私の元に来た萱島と会話していて気付いた。


好かれる為の演技、作り物の笑顔。

嘘に嘘を重ねて、いつの間にか本当の自分が分からなくなって。


でも、彼といる時は凄く楽だ。

これが私だったんだって、そう思えて。

自分がした事を思えば謝って済む問題じゃないのは分かってるけど。

『また会ったら、話しかけてもいい?』

そう言われて面倒臭そうに返したけど、迎えの車に乗ると失ったものを思って涙が溢れた。

それは自分のレベルとか、努力とか、他人の評価とかじゃなくて。

そのままの私を受け入れてくれる存在がいた事に、気付けなかった。

春の陽射しみたいなその人を傷付けてしまった事を心から悔いる。

だから、待ち伏せしていた蓮に『2度と晴に近付くな』と釘を刺されたのは良かったと思う。

自分の罪を忘れない為の、戒めになったからーー。





退学して少し立つと、両親が離婚して私は『月島陽菜』になった。

ママは夫と離れるのが嫌だったんじゃなくて『親権が取れないから嫌だった』んだと言う。

箱入りのお嬢様だったママは、バイトも含めて働いた事が無い。

そうなってくると親権争いは父親が有利になると危ぶんでいたらしくて。

『陽菜と離れるなんて考えられない!』との思いで、夫の暴挙の全てを飲み込んで来たらしい。

もっと早くに打ち明けあってれば…と後悔しつつも、蓮が紹介してくれた弁護士に依頼して。

結局、親権はママだし慰謝料(モラハラと、当然の如く浮気もしてた)と私が成人するまでの養育費もしっかり取れた。

高校は退学のつもりだったけど、理事長が他県の通信高校への編入扱いにしてくれて。

元々ママが受け継いだ東京と京都の家を売って、県外のマンションで2人暮らしを始めた。

それはすごく穏やかで、今までどれだけ無理をしてたのかを思い知るいい機会で。

そして、心身共に恢復した私には夢ができた。

デザイナーになりたいって言う夢。

ママは大賛成してくれて、高校を卒業すると東京に戻って服飾専門学校に通うようになった。

奇想天外な格好をした同級生は頭がぶっ飛んでるような奴もいるけど、とても楽しい。

前の私なら『レベルが~』とか何とか言いそうだなと思いながら笑えるくらいには、充実してる。

絶対に経験しておくべきだと言うママの意見に賛同する形でバイトも初めた。

内容はファミレスの接客で、慣れて来た頃にこんな打診があった。

『人手が足りない店舗があってね、月島さんのお家の最寄駅に近いんだけどヘルプに行けるかな?』

聞けば、特別手当が出るらしい。

学校の一大イベントであるファッションショーまでに稼ぎたいし、丁度いいかも。

なんて、軽い気持ちで承諾して。



そして、当日。

『萱島君、こちらがヘルプで来てくれた月島さん。』

店長の紹介に、2人して固まった。

『えっ…?』

『あ、相川さん…!?』

暫くお互い呆然としてたけど、先に立ち直ったのは彼の方。


『また会えたから、話しかけていいんだよね?』



悪戯っぽいその笑顔に、キュッと唇を噛み締めた。





●●●
晴の天敵だった時は深堀りできませんでしたが、相川はこんな風に生きてきた子です。

特進の堕天システムについて随分前にご質問いただいてたんですが、本編で言及できて良かった笑



















本編には全然関係無い設定(長いよ!)

相川の母親『月島凪子』は、16歳の時に両親と信頼できる親戚を全て亡くしてしまいました。

と言うのも、船上で行われた一族のパーティーで船が沈没…生き残りは熱で留守番していた凪子だけ。
莫大な遺産を目当てに近付いてくる奴らから守ってくれたのが、昔から面識のあった10歳上の彰と言う男。

2人は凪子が18歳になった時に結婚すると『悲劇の御令嬢を支えた貴公子』として彰の評価は鰻登りに。
しかし『人格者』と周りからの評価が高い彼の本当の顔は…相川が見た通りです。

因みに古くから月島家に仕えていた使用人達は、凪子と陽菜が京都に追い払われてる間に全員クビにされてます。

やりたい放題の彰ですが、相川グループが順調なのは豊潤な資金(月島家の遺産)があったから。

その殆どを食い潰して、尚且つ離婚の慰謝料と失った土地(凪子の所有)を考えると…彼の今後は明るくなさそうです。笑













































































































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