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解決編
20.
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今回は蓮・晴人の高校生活を、カナダから遥がどんな風に見ていたかになります。
範囲的には2人の高校編の全てになりますが、会話の部分はside蓮高校編26話『黎明』の辺りです。
●●●(side 南野遥)
カナダでの生活で1番慣れなかったのは、寮生活だった。
私が通う高校は全寮制の男女共学校で、授業以外はほぼこの寮で過ごすんだけど、なかなか規則が厳しくて。
それでも、3ヶ月も経てば慣れて来て、友達も沢山できた。
勉強に対する意識が高い子ばかりだし、切磋琢磨しながら充実した日々を送ってる。
「ーーッ送ってるんだけどね!」
自室のPCの前で思わず大声を出してしまったのは、蓮からのメールの少なさのせい。
初めの方は約束通り週一で届いてた。
『晴が剣道続ける』とか『晴と中野が同クラでムカつく』とか。
暫くはそんな遣り取りが続いてたのに、いつしか2週間に1度になって。
9月になった現在、受信ボックスはゼロ。
こっちから送っても返信は来ないし、この寮スマホを使える時間が決まってる(その時間日本は深夜)から電話はちょっと気が引ける。
いっそ晴にメールで聞こうかと思ったんだけど、実はこっちも連絡が途絶えがちになってて。
蓮と違って連絡不精じゃない筈なのに…もう私の事忘れちゃったの!?寂しい!!!
そんな風にメソメソしてた私に、こっちで出来た友達のローガンが言い放った。
『僕も姉がいるけど、連絡なんてお互いの誕生日くらいだよ。いちいち気にされるのウザいと思う。』
オーマイガー!!!
高校生男子、姉からの連絡ウザいの??
『ハルカはブラコンだね。』なんて大真面目に言われて、私は反省した。
確かに私はブラコンだけど…死ぬほど晴が可愛いけど…過干渉は毒親ならぬ毒姉になってしまう。
蓮には偉そうな事言っちゃったけど、私こそ『晴離れ』しなくちゃいけないのかもしれないわ…。
そんな経緯があって、晴への連絡は最小限に留めるようにしてる。
ただ、蓮の場合は『定期報告』って言う業務連絡みたいなもんだから話しは別。
もう時差なんて無視して電話してやろうかしら…なんて考えてた時だった。
寮監に『日本から電話が来てる』って呼び出されたのは。
寮の電話は基本、家族からの連絡しか取り継いでくれない。
パパママならアメリカの筈だし…。
首を傾げながら耳にあてた受話器から聞こえたのは、懐かしい声。
『遥、翔だけど。元気にしてるか?』
思い出さないようにしてたのに。
こっちに来てからの忙しい毎日で、必死に進めた時計の針。
それが、私を嘲笑うかのように一気に巻き戻った気がしたーー。
激しい動揺を悟られないようにして、何とか翔君と会話する。
翔君は私のママに連絡して、ママが学校に許可証を出してたから電話を繋いでもらえたみたい。
そんなやり方があるのも知らなかったし、そこまでして取りたい連絡って何?
ほんの少し首をもたげそうになった何かは、直ぐに萎んだ。
『実は蓮の事なんだけどさ…。』
ほらね、分かってるわよ。
『晴と色々あってさ、多分荒れてると思うんだよなぁ。俺が聞いてやれたらいいんだけど、暫くオペばっかなんだよ。遥、話し聞いてやってくれないか。』
まさに今心配してた内容に、息を呑んだ。
やっぱり何かあって、それで連絡が途絶えてるんだわ…。
『分かった、任せて。』
凄く心配してる様子の翔君にそう請け負うと、彼の声が柔らかくなった。
『ごめんな、いつも。遥がいてくれてマジで良かったよ。』
『…うん。時間だからもう切るね。』
それだけ言って切るのがやっとで、グッと受話器を握りしめて目を瞑った。
私、まだーー
ううん、違う!
これは想いの残像なだけ。
フゥッと大きく息を吐いて気持ちを切り替える。
余計な事考えてないで、連絡しなくちゃ。
翔君から電話があった翌日、私は早速蓮に電話をかけた。
またママに申請してもらって、夜中に寮の電話を使う許可をもらって。
できるだけ早く話したくて日本の昼休みを狙ったんだけど、全然出ない。
もしかして、病みすぎて電話に出れないとか…?
不安になった、10回目のコール音の後だった。
『うーぃ。』
…は???
明らかに寝起き丸出しの声に、ビシッと額に青筋が立つ。
学校サボって寝てたの、コイツ??
「ふっざけんじゃないわよ!」
『あー?何も聞こえねぇよ。今起きたから後でかけ直…』「は?そっち昼休みでしょ?」
絶対零度の冷たい声音に、受話器の向こうが沈黙した。
そこで相手が私だって分かったらしく、慌てる気配がする。
「こんの!!!バカ!!!!!!」
これ以上出せないってくらい大声で叫んだ。
「週一で連絡するって約束したわよね?頻度が減ってるのは大目に見てたけど、夏以来一切連絡なかったんですけど?それで?こっちから連絡してもスルーなのは一体どうしてなのかしら?」
珍しく気圧されてる蓮に猛烈に腹を立てつつも、時間制限がある事を思い出した。
あ、こんな事してる場合じゃないんだったわ!
「…それで?晴と何があったの?」
ついでに、翔君からの電話の件もしっっかり伝えてやった。
「ねぇ蓮、その時の私の気持ち分かる?
気持ちも新たにこっちで恋愛しようとしてるのに、アンタのせいで掻き乱される気持ち…分・か・る?」
諦める為に『翔君の話しはしない事』って約束までしたってのに、当の本人から連絡が来たのよ!?
流石にバツが悪そうな蓮に、緊急帰国を匂わせる。
『あー、分かったよ。時間かかるから夜にでもまた…』「い!!!!!ま!!!!!!!」
遮った私の大声に、諦めたような溜息が聞こえた。
「成る程ね…蓮…」『分かってるよ。』
やらかしたわね。
そう言外に滲ませたのは、正確に伝わったみたい。
全部聞いたのを要約すると、晴に好きな相手ができたんじゃないかって疑って、嫉妬で暴言を吐いて。
そしたら、晴から絶縁宣言された…と。
何やってんのよ…暴走するなってあれ程言ったのに…。
こうならない為に週1で連絡しろって言ったんだっつーの!
呆れるやら腹立たしいやらだけど、こうやって会話できてる事に少し安堵もした。
だって、前の蓮なら闇モードに入ってた筈だから。
その理由が『クロのお陰』だと知って、私は知らず微笑んでた。
晴に中野がいるように、蓮にも本気で接してくれる友達ができたんだーー。
蓮に対して『この人は自分達とは違う』って、誰もが一線を引いてしまう。
だから、そこを超えてぶつかって来てくれる存在ができた事は本当に喜ばしい。
全てを受け入れて蓮の気持ちに寄り添おうとする晴とは方向が違うけど、蓮の傍に理解者がいるのはちょっと安心したわ。
むしろ、心配なのは…
「それで、晴の方はこれからどうするつもり?」
諦める気なんて無いんでしょ?
『俺は、晴以外に好きになる事はない。』
予想通りの答えに苦笑する。
「うん…好きでいるのは自由だと思う。」
蓮に返した筈の言葉が、自分自身を肯定してるみたいで情けない。
それと同時に、傍にいる事が叶わなくても晴を想い続ける決意をした蓮の強さが眩しかった。
「蓮、お願いだから周りを頼ってね。」
私でも、『クロ』でも、誰でもいいから。
1人で苦しまないで欲しい。
『また連絡する。今度はもっと早めに。』
その返事に心底ホッとして、週1とは言わないのね、とも思って少し笑った。
電話を切って部屋に戻ると、頭に思い浮かぶのは晴の笑顔。
晴もきっと辛いわよね…気にかけてもらうように由奈にメールしておこう。
すると、直ぐに返信があった。
『慣れない環境で大変だろうからメール控えてたんだけどさ、晴ちゃんと蓮、夏休み明けから全然一緒にいないの。
体育祭辺りの蓮の不機嫌っぷりはヤバかった…全校が震えてたもん。』
どうやら『喧嘩でもしたのかな?』とは思ってたらしいけど、私に気を遣って言わなかったみたい。
『ねぇ、遥が落ち着いて来たなら連絡の頻度増やしていい?もちろん晴ちゃんの事も報告する!』
そうして、蓮からの連絡とは別に、毎日由奈が連絡をくれるようになって。
情報が増えると、晴の態度に関する疑問も沸いた。
確かに夏祭りで蓮が言った言葉は酷いけど(次会ったら殴る)、それが直ぐに決別に結び付くとは思えないのよね…。
だから…もしかすると、晴はもっと前から悩んでたのかもしれない。
例えば周り…蓮狙いの女に何か言われたとか。
スペックだけは高いから、蓮は死ぬ程モテる。
霊泉家的な考えみたいになっちゃうけど、3人でいれば女子にとっての『邪魔者』は晴じゃなくて私になる訳で…実は何度か嫌がらせを受けた。
全部返り討ちにしてやってからは、誰も挑んで来なくなったけど。
て事は…私がいない今、その矛先はーー。
結論から言うと、私の嫌な予感は当たってた。
文化祭で晴がプールに落とされた(許すまじ!)のをきっかけに、『相川』って女が晴と蓮を引き離そうと画策してた事が判明して。
断罪して解決かと思いきや、『蓮が停学になった…。』って由奈からのメールに頭を抱え。
結局免罪で、晴を守るためだって分かったけど。
蓮は蓮で動いてたし、晴の方も蓮の為に色々無茶をしたみたい。
そんな経緯があって、とうとう和解したらしい2人。
蓮はしっかり晴に謝罪して、晴の方も決別に至った訳を説明して。
その内容に絶句してしまったけれどーー。
まさか晴が、蓮に引け目を感じてたなんて…。
3人でいるのが当たり前だったし、私にとっても蓮にとっても、晴こそが『特別』だった。
だから、偶に晴が自分を『モブ』なんて表すのを冗談だって受け流してて。
三家の宝物で天使である晴がまさか…あぁもう!もっと早く気付いてあげるべきだったわ。
そうしたら、晴は辛い思いをしなくて済んだかもしれないのに。
蓮も同じく後悔してるみたいだったけど、何やら収穫もあったらしく。
『俺まだ詰んでねぇかも』
ってメールから、蓮の喜びが伝わってきて。
もしかして、晴が蓮の事好きになる可能性があるって事なのかしら。
ただ、そこからは日常の報告がポツポツある感じで特に進展したって話しも無く。
平和に過ぎていく日々に慣れ切っていた頃、またもや事件は起きた。
その内容は、晴が夜道で暴漢に襲われたって言う信じ難いもので。
蓮から連絡が来た時には暫く日にちが立ってて、晴は落ち着いてるって話しだったけど、心配で仕方なくて。
でも、連絡して思い出させるのも可哀想だし…。
遠くにいる事をこんなに後悔した事はなかった。
救いだったのは、蓮が献身的に晴を支えてた事と、晴が蓮の前でなら弱音を吐いて甘えられた事。
PTSDで部活ができなくなった晴の支えになったのも蓮だった。
これは全部憲人さんがメールで教えてくれたんだけど…蓮がいたから晴は立ち直れたのよね。
逆に、晴を危ない目に合わせた事に蓮が責任を感じてるとも心配してて。
その関係は幼馴染って言うよりも、むしろーー。
『晴と付き合う事になった』
蓮からそんなメールが来たのは、それから2ヶ月後の事。
修学旅行先のフランスで、告白の返事(ちょっと、告白してたの聞いてないんだけど!?)を貰ったらしい。
あの事件で晴の気持ちには薄々気付いてたから、思ったよりショックは受けなかった。
辛い時、一番傍にいて欲しい相手って好きな人だものね。
一度離れた晴が自分の意思で蓮を選んだなら、私には何も言う事はない。
…ううん、嘘。
寂しいし、やっぱり心配。
でも、蓮は変わった。
中野や『クロ』が傍にいるのがその証拠。
以前の蓮だったら、晴に近付く奴は無理にでも引き離そうとした筈だから。
今でも嫉妬は凄いんだろうけど…その言動から、晴の意思を大切にしてるのが伝わって来る。
だから、きっと大丈夫。
『おめでとう、蓮。』
ただひたすらに晴だけを見てきた蓮の想いが実った事が、素直に嬉しかった。
ふぅ、私もお役ごめんかなぁ。
娘を嫁に出す父親ってこんな気持ちなのかもしれないわね。
パパには優しくしておこうーー。
『遥、ハピバ!』
暫く哀愁を漂わせてた私は、自分の誕生日を忘れてた。
思い出させてくれたのは、晴からの国際郵便。
中身は私の好きな赤鼻のリスのぬいぐるみとメッセージカードで、写真が同封されてる。
そこに映るのは、私のリスの相棒。
「これ…晴の部屋だわ。」
ベッド脇にちょこんと座る黒鼻の姿に、笑みが溢れる。
それから、ちょっとだけ涙も。
「ほんと可愛い事するなぁ、私の弟は!」
そうよね、私と晴の関係はずっと変わらないわよね。
ねぇ晴、早く会いたいな。
色々あって大学はアメリカに行く事にしたし、翔君の事も吹っ切れてないから、まだ帰国はできないけど。
沢山話して、私の将来の夢が変わった話しも聞いて欲しい。
次に会えるのが、本当に楽しみだわーー。
そう、思ってたのに。
久しぶりの帰国が、こんな切羽詰まったものになるなんてーー。
●●●
遥の夢が変わった理由についてはまた別で。
すみません、カナダと日本の時差、本当はこんな感じじゃないです😂
お話の都合で時空を歪めております笑
範囲的には2人の高校編の全てになりますが、会話の部分はside蓮高校編26話『黎明』の辺りです。
●●●(side 南野遥)
カナダでの生活で1番慣れなかったのは、寮生活だった。
私が通う高校は全寮制の男女共学校で、授業以外はほぼこの寮で過ごすんだけど、なかなか規則が厳しくて。
それでも、3ヶ月も経てば慣れて来て、友達も沢山できた。
勉強に対する意識が高い子ばかりだし、切磋琢磨しながら充実した日々を送ってる。
「ーーッ送ってるんだけどね!」
自室のPCの前で思わず大声を出してしまったのは、蓮からのメールの少なさのせい。
初めの方は約束通り週一で届いてた。
『晴が剣道続ける』とか『晴と中野が同クラでムカつく』とか。
暫くはそんな遣り取りが続いてたのに、いつしか2週間に1度になって。
9月になった現在、受信ボックスはゼロ。
こっちから送っても返信は来ないし、この寮スマホを使える時間が決まってる(その時間日本は深夜)から電話はちょっと気が引ける。
いっそ晴にメールで聞こうかと思ったんだけど、実はこっちも連絡が途絶えがちになってて。
蓮と違って連絡不精じゃない筈なのに…もう私の事忘れちゃったの!?寂しい!!!
そんな風にメソメソしてた私に、こっちで出来た友達のローガンが言い放った。
『僕も姉がいるけど、連絡なんてお互いの誕生日くらいだよ。いちいち気にされるのウザいと思う。』
オーマイガー!!!
高校生男子、姉からの連絡ウザいの??
『ハルカはブラコンだね。』なんて大真面目に言われて、私は反省した。
確かに私はブラコンだけど…死ぬほど晴が可愛いけど…過干渉は毒親ならぬ毒姉になってしまう。
蓮には偉そうな事言っちゃったけど、私こそ『晴離れ』しなくちゃいけないのかもしれないわ…。
そんな経緯があって、晴への連絡は最小限に留めるようにしてる。
ただ、蓮の場合は『定期報告』って言う業務連絡みたいなもんだから話しは別。
もう時差なんて無視して電話してやろうかしら…なんて考えてた時だった。
寮監に『日本から電話が来てる』って呼び出されたのは。
寮の電話は基本、家族からの連絡しか取り継いでくれない。
パパママならアメリカの筈だし…。
首を傾げながら耳にあてた受話器から聞こえたのは、懐かしい声。
『遥、翔だけど。元気にしてるか?』
思い出さないようにしてたのに。
こっちに来てからの忙しい毎日で、必死に進めた時計の針。
それが、私を嘲笑うかのように一気に巻き戻った気がしたーー。
激しい動揺を悟られないようにして、何とか翔君と会話する。
翔君は私のママに連絡して、ママが学校に許可証を出してたから電話を繋いでもらえたみたい。
そんなやり方があるのも知らなかったし、そこまでして取りたい連絡って何?
ほんの少し首をもたげそうになった何かは、直ぐに萎んだ。
『実は蓮の事なんだけどさ…。』
ほらね、分かってるわよ。
『晴と色々あってさ、多分荒れてると思うんだよなぁ。俺が聞いてやれたらいいんだけど、暫くオペばっかなんだよ。遥、話し聞いてやってくれないか。』
まさに今心配してた内容に、息を呑んだ。
やっぱり何かあって、それで連絡が途絶えてるんだわ…。
『分かった、任せて。』
凄く心配してる様子の翔君にそう請け負うと、彼の声が柔らかくなった。
『ごめんな、いつも。遥がいてくれてマジで良かったよ。』
『…うん。時間だからもう切るね。』
それだけ言って切るのがやっとで、グッと受話器を握りしめて目を瞑った。
私、まだーー
ううん、違う!
これは想いの残像なだけ。
フゥッと大きく息を吐いて気持ちを切り替える。
余計な事考えてないで、連絡しなくちゃ。
翔君から電話があった翌日、私は早速蓮に電話をかけた。
またママに申請してもらって、夜中に寮の電話を使う許可をもらって。
できるだけ早く話したくて日本の昼休みを狙ったんだけど、全然出ない。
もしかして、病みすぎて電話に出れないとか…?
不安になった、10回目のコール音の後だった。
『うーぃ。』
…は???
明らかに寝起き丸出しの声に、ビシッと額に青筋が立つ。
学校サボって寝てたの、コイツ??
「ふっざけんじゃないわよ!」
『あー?何も聞こえねぇよ。今起きたから後でかけ直…』「は?そっち昼休みでしょ?」
絶対零度の冷たい声音に、受話器の向こうが沈黙した。
そこで相手が私だって分かったらしく、慌てる気配がする。
「こんの!!!バカ!!!!!!」
これ以上出せないってくらい大声で叫んだ。
「週一で連絡するって約束したわよね?頻度が減ってるのは大目に見てたけど、夏以来一切連絡なかったんですけど?それで?こっちから連絡してもスルーなのは一体どうしてなのかしら?」
珍しく気圧されてる蓮に猛烈に腹を立てつつも、時間制限がある事を思い出した。
あ、こんな事してる場合じゃないんだったわ!
「…それで?晴と何があったの?」
ついでに、翔君からの電話の件もしっっかり伝えてやった。
「ねぇ蓮、その時の私の気持ち分かる?
気持ちも新たにこっちで恋愛しようとしてるのに、アンタのせいで掻き乱される気持ち…分・か・る?」
諦める為に『翔君の話しはしない事』って約束までしたってのに、当の本人から連絡が来たのよ!?
流石にバツが悪そうな蓮に、緊急帰国を匂わせる。
『あー、分かったよ。時間かかるから夜にでもまた…』「い!!!!!ま!!!!!!!」
遮った私の大声に、諦めたような溜息が聞こえた。
「成る程ね…蓮…」『分かってるよ。』
やらかしたわね。
そう言外に滲ませたのは、正確に伝わったみたい。
全部聞いたのを要約すると、晴に好きな相手ができたんじゃないかって疑って、嫉妬で暴言を吐いて。
そしたら、晴から絶縁宣言された…と。
何やってんのよ…暴走するなってあれ程言ったのに…。
こうならない為に週1で連絡しろって言ったんだっつーの!
呆れるやら腹立たしいやらだけど、こうやって会話できてる事に少し安堵もした。
だって、前の蓮なら闇モードに入ってた筈だから。
その理由が『クロのお陰』だと知って、私は知らず微笑んでた。
晴に中野がいるように、蓮にも本気で接してくれる友達ができたんだーー。
蓮に対して『この人は自分達とは違う』って、誰もが一線を引いてしまう。
だから、そこを超えてぶつかって来てくれる存在ができた事は本当に喜ばしい。
全てを受け入れて蓮の気持ちに寄り添おうとする晴とは方向が違うけど、蓮の傍に理解者がいるのはちょっと安心したわ。
むしろ、心配なのは…
「それで、晴の方はこれからどうするつもり?」
諦める気なんて無いんでしょ?
『俺は、晴以外に好きになる事はない。』
予想通りの答えに苦笑する。
「うん…好きでいるのは自由だと思う。」
蓮に返した筈の言葉が、自分自身を肯定してるみたいで情けない。
それと同時に、傍にいる事が叶わなくても晴を想い続ける決意をした蓮の強さが眩しかった。
「蓮、お願いだから周りを頼ってね。」
私でも、『クロ』でも、誰でもいいから。
1人で苦しまないで欲しい。
『また連絡する。今度はもっと早めに。』
その返事に心底ホッとして、週1とは言わないのね、とも思って少し笑った。
電話を切って部屋に戻ると、頭に思い浮かぶのは晴の笑顔。
晴もきっと辛いわよね…気にかけてもらうように由奈にメールしておこう。
すると、直ぐに返信があった。
『慣れない環境で大変だろうからメール控えてたんだけどさ、晴ちゃんと蓮、夏休み明けから全然一緒にいないの。
体育祭辺りの蓮の不機嫌っぷりはヤバかった…全校が震えてたもん。』
どうやら『喧嘩でもしたのかな?』とは思ってたらしいけど、私に気を遣って言わなかったみたい。
『ねぇ、遥が落ち着いて来たなら連絡の頻度増やしていい?もちろん晴ちゃんの事も報告する!』
そうして、蓮からの連絡とは別に、毎日由奈が連絡をくれるようになって。
情報が増えると、晴の態度に関する疑問も沸いた。
確かに夏祭りで蓮が言った言葉は酷いけど(次会ったら殴る)、それが直ぐに決別に結び付くとは思えないのよね…。
だから…もしかすると、晴はもっと前から悩んでたのかもしれない。
例えば周り…蓮狙いの女に何か言われたとか。
スペックだけは高いから、蓮は死ぬ程モテる。
霊泉家的な考えみたいになっちゃうけど、3人でいれば女子にとっての『邪魔者』は晴じゃなくて私になる訳で…実は何度か嫌がらせを受けた。
全部返り討ちにしてやってからは、誰も挑んで来なくなったけど。
て事は…私がいない今、その矛先はーー。
結論から言うと、私の嫌な予感は当たってた。
文化祭で晴がプールに落とされた(許すまじ!)のをきっかけに、『相川』って女が晴と蓮を引き離そうと画策してた事が判明して。
断罪して解決かと思いきや、『蓮が停学になった…。』って由奈からのメールに頭を抱え。
結局免罪で、晴を守るためだって分かったけど。
蓮は蓮で動いてたし、晴の方も蓮の為に色々無茶をしたみたい。
そんな経緯があって、とうとう和解したらしい2人。
蓮はしっかり晴に謝罪して、晴の方も決別に至った訳を説明して。
その内容に絶句してしまったけれどーー。
まさか晴が、蓮に引け目を感じてたなんて…。
3人でいるのが当たり前だったし、私にとっても蓮にとっても、晴こそが『特別』だった。
だから、偶に晴が自分を『モブ』なんて表すのを冗談だって受け流してて。
三家の宝物で天使である晴がまさか…あぁもう!もっと早く気付いてあげるべきだったわ。
そうしたら、晴は辛い思いをしなくて済んだかもしれないのに。
蓮も同じく後悔してるみたいだったけど、何やら収穫もあったらしく。
『俺まだ詰んでねぇかも』
ってメールから、蓮の喜びが伝わってきて。
もしかして、晴が蓮の事好きになる可能性があるって事なのかしら。
ただ、そこからは日常の報告がポツポツある感じで特に進展したって話しも無く。
平和に過ぎていく日々に慣れ切っていた頃、またもや事件は起きた。
その内容は、晴が夜道で暴漢に襲われたって言う信じ難いもので。
蓮から連絡が来た時には暫く日にちが立ってて、晴は落ち着いてるって話しだったけど、心配で仕方なくて。
でも、連絡して思い出させるのも可哀想だし…。
遠くにいる事をこんなに後悔した事はなかった。
救いだったのは、蓮が献身的に晴を支えてた事と、晴が蓮の前でなら弱音を吐いて甘えられた事。
PTSDで部活ができなくなった晴の支えになったのも蓮だった。
これは全部憲人さんがメールで教えてくれたんだけど…蓮がいたから晴は立ち直れたのよね。
逆に、晴を危ない目に合わせた事に蓮が責任を感じてるとも心配してて。
その関係は幼馴染って言うよりも、むしろーー。
『晴と付き合う事になった』
蓮からそんなメールが来たのは、それから2ヶ月後の事。
修学旅行先のフランスで、告白の返事(ちょっと、告白してたの聞いてないんだけど!?)を貰ったらしい。
あの事件で晴の気持ちには薄々気付いてたから、思ったよりショックは受けなかった。
辛い時、一番傍にいて欲しい相手って好きな人だものね。
一度離れた晴が自分の意思で蓮を選んだなら、私には何も言う事はない。
…ううん、嘘。
寂しいし、やっぱり心配。
でも、蓮は変わった。
中野や『クロ』が傍にいるのがその証拠。
以前の蓮だったら、晴に近付く奴は無理にでも引き離そうとした筈だから。
今でも嫉妬は凄いんだろうけど…その言動から、晴の意思を大切にしてるのが伝わって来る。
だから、きっと大丈夫。
『おめでとう、蓮。』
ただひたすらに晴だけを見てきた蓮の想いが実った事が、素直に嬉しかった。
ふぅ、私もお役ごめんかなぁ。
娘を嫁に出す父親ってこんな気持ちなのかもしれないわね。
パパには優しくしておこうーー。
『遥、ハピバ!』
暫く哀愁を漂わせてた私は、自分の誕生日を忘れてた。
思い出させてくれたのは、晴からの国際郵便。
中身は私の好きな赤鼻のリスのぬいぐるみとメッセージカードで、写真が同封されてる。
そこに映るのは、私のリスの相棒。
「これ…晴の部屋だわ。」
ベッド脇にちょこんと座る黒鼻の姿に、笑みが溢れる。
それから、ちょっとだけ涙も。
「ほんと可愛い事するなぁ、私の弟は!」
そうよね、私と晴の関係はずっと変わらないわよね。
ねぇ晴、早く会いたいな。
色々あって大学はアメリカに行く事にしたし、翔君の事も吹っ切れてないから、まだ帰国はできないけど。
沢山話して、私の将来の夢が変わった話しも聞いて欲しい。
次に会えるのが、本当に楽しみだわーー。
そう、思ってたのに。
久しぶりの帰国が、こんな切羽詰まったものになるなんてーー。
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遥の夢が変わった理由についてはまた別で。
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