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解決編
15.
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side蓮中学編6話『血族』、7話『霊泉家』、8話『必要』を先にお読みいただけると分かりやすいと思います。
●●●
(side 南野遥)
霊泉家の話しを聞いた最初の感想は、『何それ、漫画?』だった。
ほら、主人公と敵対する悪の組織とかにありそうな設定じゃない?
因みに翔君と蓮も『何それ、ラノベ?』って言ったらしいから私の感想は間違って無いと思う。
だって、とても信じられない。
平安時代に暗躍した一族が、現代社会でも権力を握ってるなんて。
しかも、大昔の思想をそのまま引き継いで。
反発する拓也さんは一族では『異常者』扱いだったらしいけだ、どっちが狂ってるかなんて一目瞭然。
同じく霊泉に逆らって絶縁されていた『切藤聡太郎』さんが救ってくれなかったら、きっと翔君はこの世にいない。
あ、あと蓮もね。
私は一度も会う事なく亡くなってしまったけど、その人には感謝しかないわ…。
それで、そんな頭のおかしい奴等が、血統的には『孫』にあたる翔君と蓮を当主候補にしようとしてるですって?
しかも蓮は既に邂逅を果たしてて、わざわざ当主が出向いて来たらしい。
って言うかソイツ、霊泉丈一郎って…有名な政治家よね?
何かあると必ずインタビューされる程、国民から認知度の高いお爺さん。
その見た目から『イケおじい』とか言われてるけど、そんなヤバイ奴だったなんて!
因みにその息子、つまり拓也さんの兄で翔君達の伯父も政治家らしいけど、名前は知らない。
拓也さん曰く『座学はとてつもなくできるんだけど、父親みたいなカリスマ性は皆無だね。』との事。
私の知る限り1番と言ってもいい頭脳を持つ拓也さんがそう言うなら、かなり頭は良いんだろうな。
だけどいまいちパッとしなくて、そんな息子じゃなくて孫を当主にって考えな訳ね。
霊泉家にも男女1人ずつ孫がいるらしいけど、女は継ぐ事ができないらしい。
だから男の方と切藤兄弟が候補なんだけど…丈一郎自らが会いに来た事で、蓮への関心が高い可能性が出てきた。
しかも、蓮に近い人間が情報を漏らした可能性まであるらしい。
成る程ね…、切藤家に通ってた学者達の姿を、ある日を境にパッタリ見なくなったけどそのせいだったんだわ。
あれは確か、小4くらいだった筈。
それと、蓮がサッカークラブを辞めたのも同時期だった気がする。
当時は晴の事件があったせいだと思ってたけど、今やっと原因が分かった。
蓮にとって数少ない他人との交流を絶つ事になってしまったのは、全て霊泉家の干渉を防ぐ為だったんだ…。
当時の蓮の気持ちを思うと、少し胸が痛む。
殆ど感情が動かない蓮だけど、だからって全てが平気って訳じゃない。
それに、『蓮がサッカークラブを辞めたのは自分のせいだ』って晴が思ってる事も知ってる筈。
『受験に専念するから』なんて蓮は言ってたけど、晴は信じてない。
だって、蓮に受験勉強なんて必要ないって分かってるんだもの。
霊泉家の事情を説明しない限り晴の誤解を解く事はできない。
責任を感じる晴に真実を告げられない蓮は、どんな思いだったんだろう…。
…あら?待って。
じゃあ今、私だけが説明を受けてるのはどうして?
晴にも伝えてあげればいいのに。
もう3年近く前の話しではあるけど、晴の気持ちは楽になる筈。
それなのに、どうしてこの場にその姿が無いんだろう。
「今日遥ちゃんだけに来てもらったのには、理由があるんだ。」
疑問が顔に出てたのか、拓也さんが私を見つめて言う。
「霊泉家の狙いが蓮なら、傍にいる遥ちゃんには知っておいて欲しい事がある。」
そう前置きして語られたのは、霊泉家の『女性』に関する考え方と扱い。
はぁ!?『産む道具』ですって!?
近親相姦とか、有り得ないんだけど!!
炎上どころか国際問題に発展しそうな女性蔑視に怒りが止まらない。
そんなキチガイ共が恐れるのは霊泉の血が薄くなる事で、次期当主ともなれば一族以外と子孫を残すなんて言語同断。
『尊い血』が他所の『穢れた血』と混ざるなんて、とてもじゃないけど許容できない…と。
「えーっと、つまり…蓮の傍にいる私を危険視してるって事?蓮の子供を産むかもって?」
まさかね、と思って言った台詞に対する気まずい沈黙。
「はぁぁ!?あり得ないんですけど!!!??」
「お、落ち着け遥!あり得ないのは皆んな分かってるから!」
噴火した私を宥めたのは翔君だった。
「俺達の家の事なのに、遥に嫌な思いさせてごめんな?」
気遣う優しい口調に怒りが萎んでいく。
「自分達の元に引き入れようとする霊泉家を、当時の蓮はキッパリ断ったんだ。」
少し誇らし気に弟を見る翔君は、私に視線を戻して続ける。
「だけど、奴等はきっと諦めてない。当主になる可能性がある以上、『蓮が一族以外の子孫を残す事』を危惧してる。人の心が分からない奴等からすると、そこに『愛』があるかどうかなんて関係ないんだ。自分達の判断基準である『優秀で見た目のいい、尚且つ健康な女』が傍にいたら、蓮がそれを選ばない訳が無いと思ってる。」
嫌な言い方してごめん、と眉を下げる翔君は、それでもかなりオブラートに包んでくれてると思う。
要するに霊泉家的な考えでは、優秀な『雄』は優秀な『雌』と子孫を残すのが当たり前だと思ってる訳だ。
まるで、優秀な雄から雌と子孫を残す権利を得る、動物みたいにーー。
『一族の為』と、兄妹や父娘で子供を作る事も厭わない狂った奴等には、きっと理解できないんだろう。
結婚して子供を作るって行為が、男女の愛の上に成り立つって当然の事を。
ましてや、子供を作らない選択をする夫婦、同性同士の結婚、独身を貫く人になんて考えも及ばないんだろうな…。
そんな凝り固まった奴が政治家として人の上に立ってるって、どうなの?
色んな生き方があって当然なのに…。
あ、でも今ので1つだけ分かった事があるわね。
今日晴がここに呼ばれてない理由。
男である晴は、霊泉家のクソ理論からすると脅威にならないんだわ。
私の考えは概ね合ってたみたいで、ほぼ同じ事を拓也さんから説明された。
その上で、切藤家のバックには、霊泉家に対抗する勢力がある事も教えてくれる。
「こちらを攻撃するとなると向こうもかなりのリスクを負う事になるから、直接危害を加えてくる事は無いだろうが…蓮から離す為に交渉を持ち掛けてくるかもしれない。」
金とか将来の地位とかそんなもので、と苦々しく口の端を歪めて続ける。
「狂った奴等を遥ちゃんに近付けたくない。だからこれまでは、2人には許可を貰って私の秘書が目に付かない所で見守っていた。」
視線の先を振り返ると、パパとママが頷いた。
驚いた事に、霊泉丈一郎からの接触があってすぐに拓也さんはパパとママに事情を話してたらしい。
って言うか、秘書の笹森さんが見守っててくれたなんて全然気付かなかったんだけど!
「遥ちゃんが帝詠学院を選んでくれたのは幸いだった。豊君が理事長だから、怪しい輩が入り込まないように目を光らせてくれる。」
どうやら、蓮が目眩し目的で受験した別の中学には、霊泉家の手先を疑われる人物が教師として潜り込んでるらしい。
内部から蓮の情報を得ようとしてるんだろう。
その点、味方である翔君達の叔父(陽子さんの妹の旦那さん)が理事長の帝詠学院は安心だ。
成る程、また一つ謎が解けたわ。
晴の受験を切藤家が(主に翔君のカテキョって形で)バックアップしてたのは、私と同様に晴も守れるからだったのね。
危険度的にどうしても私優先になっちゃうんだろうけど、同じ学院内なら一緒に守れるもの。
「私の事情に巻き込んでしまって、遥ちゃんには本当に申し訳ないと思ってる。出来うる限り、最大限の力をもって遥ちゃんが普通の生活を送れるようにする。」
そう言って頭を下げる拓也さんを慌てて止めた。
「謝らないで、拓也さんのせいじゃないでしょ。」
悪いのは霊泉家であって、拓也さんは被害者だ。
切った縁を無茶苦茶に結び付けて来る奴等から大切な人を護る事は、並大抵の苦労じゃない筈。
それでも、拓也さんが私に帝詠学院を勧めて来る事は無かった。
選んだのは100%私の意志で、もし別の学校を希望すれば違う方法で護ってくれたんだろう。
私の考えを尊重してくれてるのは充分に伝わるし、それは晴に対しても(蓮がゴリ押ししたのは別の理由だろうし)同じだ。
あ、晴と言えば。
「この事、萱島夫婦には伝えないの?」
私の問いに拓也さんが眉を下げる。
うちのパパママに説明したのと同じ時に話さなかったのは、晴のケガが治って間もなかったかららしい。
憲人さんと美香さんに、これ以上心労をかけたくないって言う配慮。
「それに、狙われる可能性が低いのに晴ちゃんを不安がらせる事は無いと思ってね。あの子は他人の悪意に敏感だから、私達が思ってる以上に怖がるだろうし…。」
確かに、それには同感。
こんな話しを聞いて平然としてられる私と違って、晴は繊細だものね。
でも大丈夫よ、私が晴の盾になってみせる!
「勝手に蓮との仲を誤解されるのは気に入らないけど、それで完全に晴から目を逸らせるなら私は構わないわ。」
恋人でも何でも勝手に思い込んでればいいのよ、とキッパリ言うと、蓮が何とも言えない顔をした。
「…悪い、遥。」
蓮が私に謝った事に驚いて、同時にそのニュアンスにカチンとくる。
「ちょっと!『晴の為に悪いな』みたいなエセ彼氏ムーブかますのやめてよね!」
「はぁ?性格歪んでんなテメェ。」
ギャーギャー言い出した私達を見て、皆んなが苦笑してる。
因みにこの頃にはもう、蓮が晴を恋愛的に好きだって事実は周知されてた。
…晴本人を除いて、ね。
少し和やかな空気になった所で、具体的な対策を練った。
1人で外出せず、なるべくこの中の誰かの目があるようにする事。
友達と出かける時なんかは、笹森さんが少し離れて対応してくれる事。
それから、相談はして欲しいけど、この問題の所為でやりたい事を我慢しないって拓也さんと約束した。
正直やってみないと分からないけど、かなり細かい所にまで配慮してくれてるから今の所不安は無い。
それに、少しだけ打算もあった。
「遥。」
皆んなから少し離れた所で翔君に呼ばれる。
「不安だよな…?でも、奴等が接触して来ないように皆んなで護るから安心して。俺もいつだって駆け付けるからな。」
そう言って頭を撫でてくれた大きな手に、胸がキュウっとなる。
「本当に?出掛けたい時とか、呼んでもいい?」
ちょっと躊躇いがちに聞いた私に、翔君は恭しく頭を下げた。
「何処へでもお供しますよ、プリンセス。」
いつでも護衛をお呼び下さい、なんて微笑まれて。
ねぇ、待って!!それは反則!!
キラッキラの笑顔と優しい低い声に、腰が砕けそう。
この人、天然でこう言う事するの何なの…。
「しょ、翔君って結構適当よね!」
照れ隠しにそっぽを向いて見せたけど、心臓はうるさいくらいに鳴ってる。
翔君が拓也さんに呼ばれなかったら、顔が赤いのにも気付かれてたかも…。
でも、そっか。
翔君と2人で出掛ける口実ができたんだ。
忙しいだろうし、頻繁には会えないって分かってるけど、それでも嬉しい。
成り行き上仕方ないとは言え、秘密を打ち明けて貰えたのは私が信用されてる証。
それは『美優』にも他の人間にもできない事で、まるで、切藤家に認められたみたいで。
翔君にとっての『特別』に近付けた気がしたーー。
それなのにまぁ、入学式での翔君は終始晴にメロメロ。
私の事もちょっとは気に掛けてよね!
この前あんな事言った癖に、この天然人たらしっ!
なんて私が不機嫌になっちゃうのも、仕方なくない?
蓮は翔君にも周りにも敵意剥き出しだし、状況はまぁまぁカオス。
それに全く気付かない晴はニコニコしてて…はぁ…可愛い…。
じゃなくて、しっかりするのよ私!
晴に友達を作らせないつもりの蓮からも、霊泉家からも私が護ってあげなくちゃ!
そう決意して、私の中学生活は幕を開けたのだった。
●●●
遥視点の霊泉家から、解決編13の入学式まで戻って来ました。
次回からは遥視点の中学生活です。
蓮は晴の事ばっか心配してましたが、周りはちゃんと遥をサポートしてました笑
秘書の笹森は拓也に拾われるまで、後ろ暗い仕事をして(させられて)たので気配を消した見張りが得意です。
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(side 南野遥)
霊泉家の話しを聞いた最初の感想は、『何それ、漫画?』だった。
ほら、主人公と敵対する悪の組織とかにありそうな設定じゃない?
因みに翔君と蓮も『何それ、ラノベ?』って言ったらしいから私の感想は間違って無いと思う。
だって、とても信じられない。
平安時代に暗躍した一族が、現代社会でも権力を握ってるなんて。
しかも、大昔の思想をそのまま引き継いで。
反発する拓也さんは一族では『異常者』扱いだったらしいけだ、どっちが狂ってるかなんて一目瞭然。
同じく霊泉に逆らって絶縁されていた『切藤聡太郎』さんが救ってくれなかったら、きっと翔君はこの世にいない。
あ、あと蓮もね。
私は一度も会う事なく亡くなってしまったけど、その人には感謝しかないわ…。
それで、そんな頭のおかしい奴等が、血統的には『孫』にあたる翔君と蓮を当主候補にしようとしてるですって?
しかも蓮は既に邂逅を果たしてて、わざわざ当主が出向いて来たらしい。
って言うかソイツ、霊泉丈一郎って…有名な政治家よね?
何かあると必ずインタビューされる程、国民から認知度の高いお爺さん。
その見た目から『イケおじい』とか言われてるけど、そんなヤバイ奴だったなんて!
因みにその息子、つまり拓也さんの兄で翔君達の伯父も政治家らしいけど、名前は知らない。
拓也さん曰く『座学はとてつもなくできるんだけど、父親みたいなカリスマ性は皆無だね。』との事。
私の知る限り1番と言ってもいい頭脳を持つ拓也さんがそう言うなら、かなり頭は良いんだろうな。
だけどいまいちパッとしなくて、そんな息子じゃなくて孫を当主にって考えな訳ね。
霊泉家にも男女1人ずつ孫がいるらしいけど、女は継ぐ事ができないらしい。
だから男の方と切藤兄弟が候補なんだけど…丈一郎自らが会いに来た事で、蓮への関心が高い可能性が出てきた。
しかも、蓮に近い人間が情報を漏らした可能性まであるらしい。
成る程ね…、切藤家に通ってた学者達の姿を、ある日を境にパッタリ見なくなったけどそのせいだったんだわ。
あれは確か、小4くらいだった筈。
それと、蓮がサッカークラブを辞めたのも同時期だった気がする。
当時は晴の事件があったせいだと思ってたけど、今やっと原因が分かった。
蓮にとって数少ない他人との交流を絶つ事になってしまったのは、全て霊泉家の干渉を防ぐ為だったんだ…。
当時の蓮の気持ちを思うと、少し胸が痛む。
殆ど感情が動かない蓮だけど、だからって全てが平気って訳じゃない。
それに、『蓮がサッカークラブを辞めたのは自分のせいだ』って晴が思ってる事も知ってる筈。
『受験に専念するから』なんて蓮は言ってたけど、晴は信じてない。
だって、蓮に受験勉強なんて必要ないって分かってるんだもの。
霊泉家の事情を説明しない限り晴の誤解を解く事はできない。
責任を感じる晴に真実を告げられない蓮は、どんな思いだったんだろう…。
…あら?待って。
じゃあ今、私だけが説明を受けてるのはどうして?
晴にも伝えてあげればいいのに。
もう3年近く前の話しではあるけど、晴の気持ちは楽になる筈。
それなのに、どうしてこの場にその姿が無いんだろう。
「今日遥ちゃんだけに来てもらったのには、理由があるんだ。」
疑問が顔に出てたのか、拓也さんが私を見つめて言う。
「霊泉家の狙いが蓮なら、傍にいる遥ちゃんには知っておいて欲しい事がある。」
そう前置きして語られたのは、霊泉家の『女性』に関する考え方と扱い。
はぁ!?『産む道具』ですって!?
近親相姦とか、有り得ないんだけど!!
炎上どころか国際問題に発展しそうな女性蔑視に怒りが止まらない。
そんなキチガイ共が恐れるのは霊泉の血が薄くなる事で、次期当主ともなれば一族以外と子孫を残すなんて言語同断。
『尊い血』が他所の『穢れた血』と混ざるなんて、とてもじゃないけど許容できない…と。
「えーっと、つまり…蓮の傍にいる私を危険視してるって事?蓮の子供を産むかもって?」
まさかね、と思って言った台詞に対する気まずい沈黙。
「はぁぁ!?あり得ないんですけど!!!??」
「お、落ち着け遥!あり得ないのは皆んな分かってるから!」
噴火した私を宥めたのは翔君だった。
「俺達の家の事なのに、遥に嫌な思いさせてごめんな?」
気遣う優しい口調に怒りが萎んでいく。
「自分達の元に引き入れようとする霊泉家を、当時の蓮はキッパリ断ったんだ。」
少し誇らし気に弟を見る翔君は、私に視線を戻して続ける。
「だけど、奴等はきっと諦めてない。当主になる可能性がある以上、『蓮が一族以外の子孫を残す事』を危惧してる。人の心が分からない奴等からすると、そこに『愛』があるかどうかなんて関係ないんだ。自分達の判断基準である『優秀で見た目のいい、尚且つ健康な女』が傍にいたら、蓮がそれを選ばない訳が無いと思ってる。」
嫌な言い方してごめん、と眉を下げる翔君は、それでもかなりオブラートに包んでくれてると思う。
要するに霊泉家的な考えでは、優秀な『雄』は優秀な『雌』と子孫を残すのが当たり前だと思ってる訳だ。
まるで、優秀な雄から雌と子孫を残す権利を得る、動物みたいにーー。
『一族の為』と、兄妹や父娘で子供を作る事も厭わない狂った奴等には、きっと理解できないんだろう。
結婚して子供を作るって行為が、男女の愛の上に成り立つって当然の事を。
ましてや、子供を作らない選択をする夫婦、同性同士の結婚、独身を貫く人になんて考えも及ばないんだろうな…。
そんな凝り固まった奴が政治家として人の上に立ってるって、どうなの?
色んな生き方があって当然なのに…。
あ、でも今ので1つだけ分かった事があるわね。
今日晴がここに呼ばれてない理由。
男である晴は、霊泉家のクソ理論からすると脅威にならないんだわ。
私の考えは概ね合ってたみたいで、ほぼ同じ事を拓也さんから説明された。
その上で、切藤家のバックには、霊泉家に対抗する勢力がある事も教えてくれる。
「こちらを攻撃するとなると向こうもかなりのリスクを負う事になるから、直接危害を加えてくる事は無いだろうが…蓮から離す為に交渉を持ち掛けてくるかもしれない。」
金とか将来の地位とかそんなもので、と苦々しく口の端を歪めて続ける。
「狂った奴等を遥ちゃんに近付けたくない。だからこれまでは、2人には許可を貰って私の秘書が目に付かない所で見守っていた。」
視線の先を振り返ると、パパとママが頷いた。
驚いた事に、霊泉丈一郎からの接触があってすぐに拓也さんはパパとママに事情を話してたらしい。
って言うか、秘書の笹森さんが見守っててくれたなんて全然気付かなかったんだけど!
「遥ちゃんが帝詠学院を選んでくれたのは幸いだった。豊君が理事長だから、怪しい輩が入り込まないように目を光らせてくれる。」
どうやら、蓮が目眩し目的で受験した別の中学には、霊泉家の手先を疑われる人物が教師として潜り込んでるらしい。
内部から蓮の情報を得ようとしてるんだろう。
その点、味方である翔君達の叔父(陽子さんの妹の旦那さん)が理事長の帝詠学院は安心だ。
成る程、また一つ謎が解けたわ。
晴の受験を切藤家が(主に翔君のカテキョって形で)バックアップしてたのは、私と同様に晴も守れるからだったのね。
危険度的にどうしても私優先になっちゃうんだろうけど、同じ学院内なら一緒に守れるもの。
「私の事情に巻き込んでしまって、遥ちゃんには本当に申し訳ないと思ってる。出来うる限り、最大限の力をもって遥ちゃんが普通の生活を送れるようにする。」
そう言って頭を下げる拓也さんを慌てて止めた。
「謝らないで、拓也さんのせいじゃないでしょ。」
悪いのは霊泉家であって、拓也さんは被害者だ。
切った縁を無茶苦茶に結び付けて来る奴等から大切な人を護る事は、並大抵の苦労じゃない筈。
それでも、拓也さんが私に帝詠学院を勧めて来る事は無かった。
選んだのは100%私の意志で、もし別の学校を希望すれば違う方法で護ってくれたんだろう。
私の考えを尊重してくれてるのは充分に伝わるし、それは晴に対しても(蓮がゴリ押ししたのは別の理由だろうし)同じだ。
あ、晴と言えば。
「この事、萱島夫婦には伝えないの?」
私の問いに拓也さんが眉を下げる。
うちのパパママに説明したのと同じ時に話さなかったのは、晴のケガが治って間もなかったかららしい。
憲人さんと美香さんに、これ以上心労をかけたくないって言う配慮。
「それに、狙われる可能性が低いのに晴ちゃんを不安がらせる事は無いと思ってね。あの子は他人の悪意に敏感だから、私達が思ってる以上に怖がるだろうし…。」
確かに、それには同感。
こんな話しを聞いて平然としてられる私と違って、晴は繊細だものね。
でも大丈夫よ、私が晴の盾になってみせる!
「勝手に蓮との仲を誤解されるのは気に入らないけど、それで完全に晴から目を逸らせるなら私は構わないわ。」
恋人でも何でも勝手に思い込んでればいいのよ、とキッパリ言うと、蓮が何とも言えない顔をした。
「…悪い、遥。」
蓮が私に謝った事に驚いて、同時にそのニュアンスにカチンとくる。
「ちょっと!『晴の為に悪いな』みたいなエセ彼氏ムーブかますのやめてよね!」
「はぁ?性格歪んでんなテメェ。」
ギャーギャー言い出した私達を見て、皆んなが苦笑してる。
因みにこの頃にはもう、蓮が晴を恋愛的に好きだって事実は周知されてた。
…晴本人を除いて、ね。
少し和やかな空気になった所で、具体的な対策を練った。
1人で外出せず、なるべくこの中の誰かの目があるようにする事。
友達と出かける時なんかは、笹森さんが少し離れて対応してくれる事。
それから、相談はして欲しいけど、この問題の所為でやりたい事を我慢しないって拓也さんと約束した。
正直やってみないと分からないけど、かなり細かい所にまで配慮してくれてるから今の所不安は無い。
それに、少しだけ打算もあった。
「遥。」
皆んなから少し離れた所で翔君に呼ばれる。
「不安だよな…?でも、奴等が接触して来ないように皆んなで護るから安心して。俺もいつだって駆け付けるからな。」
そう言って頭を撫でてくれた大きな手に、胸がキュウっとなる。
「本当に?出掛けたい時とか、呼んでもいい?」
ちょっと躊躇いがちに聞いた私に、翔君は恭しく頭を下げた。
「何処へでもお供しますよ、プリンセス。」
いつでも護衛をお呼び下さい、なんて微笑まれて。
ねぇ、待って!!それは反則!!
キラッキラの笑顔と優しい低い声に、腰が砕けそう。
この人、天然でこう言う事するの何なの…。
「しょ、翔君って結構適当よね!」
照れ隠しにそっぽを向いて見せたけど、心臓はうるさいくらいに鳴ってる。
翔君が拓也さんに呼ばれなかったら、顔が赤いのにも気付かれてたかも…。
でも、そっか。
翔君と2人で出掛ける口実ができたんだ。
忙しいだろうし、頻繁には会えないって分かってるけど、それでも嬉しい。
成り行き上仕方ないとは言え、秘密を打ち明けて貰えたのは私が信用されてる証。
それは『美優』にも他の人間にもできない事で、まるで、切藤家に認められたみたいで。
翔君にとっての『特別』に近付けた気がしたーー。
それなのにまぁ、入学式での翔君は終始晴にメロメロ。
私の事もちょっとは気に掛けてよね!
この前あんな事言った癖に、この天然人たらしっ!
なんて私が不機嫌になっちゃうのも、仕方なくない?
蓮は翔君にも周りにも敵意剥き出しだし、状況はまぁまぁカオス。
それに全く気付かない晴はニコニコしてて…はぁ…可愛い…。
じゃなくて、しっかりするのよ私!
晴に友達を作らせないつもりの蓮からも、霊泉家からも私が護ってあげなくちゃ!
そう決意して、私の中学生活は幕を開けたのだった。
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遥視点の霊泉家から、解決編13の入学式まで戻って来ました。
次回からは遥視点の中学生活です。
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