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解決編
14.
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(side 南野遥)
物心つく頃にはもう傍にいた、7歳上のお兄ちゃん。
優しくてかっこよくて、何でもできる人気者。
いつ恋に落ちたのかなんて覚えてない。
日々じんわり広がるように染まっていった想いは、やがて甘く切ない物に変わって。
今も尚、私を自由にはしてくれないーー。
翔君を認識したのは、実の弟である蓮より私の方が格段に早かった。
『翔の存在なんて当時は眼中になかった』なんて語る失礼な奴とは反対に、私は良く懐いて。
優しい翔君は、幼い私とよく手を繋いで歩いてくれた。
お買い物の時には、ママとあれこれ言い合いながら私に似合う服を選んでくれた。
『遥はこう言うの似合うよね。』
そう言って選んでくれた物はキラキラで可愛くて…まるで自分がお姫様になったみたいで嬉しくて。
好きになったきっかけは、そんな些細な事の積み重ねだったんだと思う。
翔君は小学生の頃からとにかくモテた。
たかが小学生の恋愛、と侮る事なかれ。
高学年ともなると女の子は『女』を出してくる。
可愛い髪飾りだとか、フワフワのスカートだとかを武器に、あらゆる女子が纏わりついて。
バレンタインには、誰が1番最初にチョコを渡すかで女子達が大喧嘩になって、翌年から荷物検査(チョコがあったら即没収)が行われるようになった程。
中には、私や晴が切藤家にいる時にアポ無しで突撃してくる子なんかもいて。
そんな時、私は無邪気なフリで翔君に走り寄った。
「しょうくん、あそんで!」
手をギュッと握る私に嫉妬の視線が刺さって来るけど、流石に幼女を罵る訳にもいかないらしい。
「しょーくん、あちょんで!」
その後を、本気で翔君に遊んで欲しい晴がトタトタ駆け寄ってくれば『お姉さん』である小学生は諦めるしかない。
『妹に優しい切藤君も素敵だよね。』なんて言いながら未練タラタラで帰って行く姿を、翔君に抱っこされて見送る。
ふん、私の勝ちね!
ってか妹じゃないわよ、未来のカ・ノ・ジョ!
本当の弟は、翔君を見張りながらなんちゃら理論の本読んでるし。
兄が晴を抱っこしようもんなら、舌打ちと共に現れて引き離す、可愛くない弟。
まぁでもそのお陰で、私が翔君に構って貰える比率が上がるのは事実だから何も言わないけどね。
大抵の場合はこの作戦で女子を追い払えたけど、上手くいかない時もあった。
「ごめんね、遥、晴。また今度遊ぼうね。」
そう言って誘いに応じて家を出て行く時には必ず…ほら、やっぱり!
一様に上目遣いで翔君を見つめる周りに呆れてる、如何にも『連れて来られたました』って感じの女の子。
あの子がいる時は、翔君は絶対に断らないって知ってるんだから。
「ほら美優、行こうぜ!」
私と話す時とは違う、男の子っぽい言い方。
この時の翔君は知らない人みたいでちょっと嫌。
だから翔君に近付いて欲しくないのに…蓮の奴が余計な事をしてくれた。
ある日、いつもの如く切藤君に集まって来た10人程のクラスメイト達と翔君は、外が雨だからとテレビゲームで遊んでて。
私は翔君の膝の上で、その中にいる『美優』を特に警戒してた。
そしたら、その彼女がフラリと部屋を出て行って。
私は気になって、ゲームに夢中で気付いてない周りを置いてそっと後を追った。
そしたら、『美優』はリビングで本を読む蓮に話しかけてて。(因みに蓮が翔君を見張りに来ないのは、晴が風邪で萱島家に隔離中だったから。)
「隣に座ってもいい?」
そう尋ねる『美優』を蓮はいつもの如く無視。
…かと思いきや、
「すきにすれば」
なんて返してて。
あの蓮が、家族意外と喋った!
この頃の蓮はもう話すようになってたけど、
『ちのうレベルがひくいからつかれる。』
なんて言って子供を敬遠してたから(アンタも子供でしょうよ。)驚きを隠せない。
そんな風に私が見てる事に気付いてないのか、『美優』は蓮の横で、持ってきてたらしい計算ドリルを開く。
「皆んな宿題しに来たの忘れてるんだよね。翔がいるとそっちに夢中になっちゃうみたい。」
口を尖らせた彼女に、蓮は今度は答えなかった。
それでも『美優』は怒ったりせず、少し笑って宿題に顔を戻す。
カリカリと鉛筆の音が聞こえるくらい静かなその空間は、不思議と居心地が良さそうで。
私は目を背けて、急いで翔君の元へ戻った。
切藤家のリビングで過ごす『美優』の姿が、何故かしっくりきているように見えて…。
胸が騒めいて仕方なかった。
それだけならまだ良かったのに、それから2、3日経った幼稚園の帰り道。
その日は珍しく3家のママが揃って、お茶して帰ろうなんてカフェを目指してて。
「みゅー。」
突如蓮が発した言葉に全員が驚いてると、その視線の先にはランドセルを背負った『美優』がいた。
「あ、名前覚えてくれてたの?こんにちは。」
蓮に気付いた彼女が笑いかける。
幼児に『みゆう』は言いづらくて『みゅー』に聞こえるけど、確かに蓮は彼女を認識してて。
その事に大騒ぎしたのは、3家のママ達だった。
半ば強引に『美優』を切藤家に連れ帰って(誘拐未遂だからね?)質問攻めにして。
「そうなの、翔のお友達なのね⁉︎」
「美優ちゃん、いつでも遊びにおいで。」
なんて、大興奮の陽子さんの傍らに蓮のパパまで登場したりして。
何も知らずに帰宅した翔君が、その光景にフリーズしたのは言うまでもない。
「こんな息子でよければお嫁に来る?」
なんて言う陽子さんに、二人は全力で否定してたけど。
私は『美優』が切藤家の一員になったみたいで、嫌で仕方なかった。
この間の事と言い、危険すぎる。
これ以上二人が仲良くならないような、作戦を練らないと…!
因みに、最近になって蓮に聞いた話だと『コイツが来れば翔がいなくなる』って気付いてたんだって。
だから『みゅう』は、翔君によって逸らされがちな晴の意識を、自分に向けられる貴重な存在として蓮の中で認識されたらしい。
美優さんにだけ懐いてるように見えたのは、そう言う訳だったのね…。
結局、私の練りに練った作戦が実行される事はなかった。
6年生になった翔君は中学受験を理由に、友達と遊ぶ事が殆どなくなったから。
安心した反面、私も翔君に会える機会はグッと減っていって。
翔君が無事中学に入学すると、それはますます顕著になった。
それが寂しくて仕方なくて、ママに駄々を捏ねて幾度となく翔君の試合(翔君はバスケ部)に連れて行ってもらって。
今普通に考えると、思春期男子が小学生(しかも7歳下)といる所なんてあんまり見られたくない筈。
それなのに、翔君はいつも試合後、私の所に来てくれた。
「遥、俺のシュート見た?」
女子が殺到して立ち見が出る程混雑した体育館でも、私を見つけてくれる翔君。
優しくて、かっこよくて大好き…「翔、お疲れ様!」…え?
突然響いた声に驚いてると、そこには美優…じゃなくて、知らない女子がいた。
帝詠学院チア部のユニフォームを着たその女子は、翔君の腕に手を絡める。
ちょっと、触んないでよ!
そう言おうとして、気が付いた。
翔君が、自然にそれを受け入れてる事にーー。
「その子、翔の妹?」
「みたいなもん。可愛いだろ?」
「うん、可愛いね!よろしくね、妹ちゃん。」
頭上でそんな会話が交わされて唖然としてる間に、2人は仲間達の方へ戻っていく。
混乱してると、少し離れてこっちを見てたママが笑いながら近付いて来た。
「あらあら。翔君ったら彼女ができたのね。」
楽しそうなその声音とは反対に、私はズガーンと頭に衝撃を受けた。
どうして、美優さえいなければ大丈夫だなんて思ってたんだろう…。
その夜はベッドの中で一人泣いた。
翔君とその隣りに立つ女子は、悔しい程にお似合いだった。
芸能人みたいに綺麗な顔と長い手脚、それに、服の上からでも分かる盛り上がった胸。
私だって学年で1番背が高いけど、それだけじゃ遠く及ばない。
この時初めて、7歳の差をとてつもなく大きく感じた。
どうして、私は翔君と同い年に生まれて来なかったんだろう。
そうすれば、今日あそこに立ってたのは私だったかもしれないのに…!
暫くは悩んだけど、私はへこたれる性格じゃなかった。
翔君がモテるのは仕方ないし、7歳の差はどうやったって埋まらないんだから、そこは諦めよう。
だけど、うちのパパとママだって6歳差で結婚してる。
もし、20歳と13歳が付き合ったら犯罪だけど…27歳と20歳だったら?
それなら何の問題も無いし、結婚だってできる。
つまり、最終的に翔君が私を選んでくれればいい。
その為にできる事は何でもしよう。
勉強も運動も頑張って、見た目にも気を遣って。
完璧な翔君に相応しい女になろう!
そう決意したから、その後も何回か翔君にできた彼女の存在にも耐えられた。
落ち込まない訳じゃないけど、今だけだからって言い聞かせて。
翔君の交際が長続きしない(平均で3ヶ月)のも心の支えに繋がった。
ある筋から仕入れた情報だと、彼女側が『好きすぎて苦しい』って感じになって上手くいかないみたい。
恋愛にしか目が向かない状態だと、翔君みたいにモテすぎる男子と付き合うのは辛いのかもしれない。
でもそれは、私にとって不安要素にはならない。
私には目標があるから、盲目にはならないもの。
最近習い始めた英会話がとても楽しくて、将来は英語関係の仕事がしたいと思うようになった。
翔君の事は大好きだけど、それだけが私の人生じゃないって思ってる。
『好きな相手だけがこの世の全て』みたいなバカが身近にいるけど(しかも無自覚)…それじゃあ上手くいかないのよ、きっと。
自立した大人の女性に、私はなる!!
ゆくゆくは成人の年齢が18歳に引き下げられるってニュースも、私の心の安寧に繋がった。
2年も縮んだ!あともう少しだわ!
そんな風に希望を持って毎日を過ごして。
その間に晴がサッカークラブで怪我をさせられたり…と思えば、何故か進学希望先が帝詠学院になってたり。
蓮の策略に私がやきもきしてる間にも時は過ぎて、あっと言う間に受験シーズンに突入して。
初春には、私と蓮と晴3人の帝詠学院合格が決まった。
今後を思うと心配はあるけど、晴の頑張りが報われた事は素直に嬉しい。
それから、翔君の母校である帝詠に通える事も。
ここからがまた新たなスタートだわ!
三家族は皆んな大喜びで、これからもよろしくね、なんて言い合ってて。
そんなお祝いムードから数日経ったある日。
私はパパとママと一緒に切藤家に呼ばれた。
拓也さんと蓮、それに翔君が揃ってるのが珍しくて驚いたけど、そこで語られた話しは驚きなんてものじゃなかった。
それは、とある、狂った一族の歴史。
狂気的な思想を持った、現代社会の闇の中に存在している一族の蛮行。
俄には信じられない、でも確かに実在する彼等と切藤家の因縁。
後に蓮と晴を苦しめ…そして、翔君や私の運命までも左右する事になる宿敵。
霊泉家の存在を知ったのは、この時だった。
●●●
実はこの頃既に晴も美優と出会ってますが、幼かったので記憶にありません。
その為side晴人中学編4話『モデル??』で初めて会ったみたいになってます。
幼稚園の頃なので、鮮明に覚えてる遥と蓮が異常です。笑
子供の頃の7歳差はデカイ…。
遥は持って生まれた資質もありますが、かなりの努力家でもあります。
それを周りに見せないので、蓮と同じ天才タイプに見られがち。
物心つく頃にはもう傍にいた、7歳上のお兄ちゃん。
優しくてかっこよくて、何でもできる人気者。
いつ恋に落ちたのかなんて覚えてない。
日々じんわり広がるように染まっていった想いは、やがて甘く切ない物に変わって。
今も尚、私を自由にはしてくれないーー。
翔君を認識したのは、実の弟である蓮より私の方が格段に早かった。
『翔の存在なんて当時は眼中になかった』なんて語る失礼な奴とは反対に、私は良く懐いて。
優しい翔君は、幼い私とよく手を繋いで歩いてくれた。
お買い物の時には、ママとあれこれ言い合いながら私に似合う服を選んでくれた。
『遥はこう言うの似合うよね。』
そう言って選んでくれた物はキラキラで可愛くて…まるで自分がお姫様になったみたいで嬉しくて。
好きになったきっかけは、そんな些細な事の積み重ねだったんだと思う。
翔君は小学生の頃からとにかくモテた。
たかが小学生の恋愛、と侮る事なかれ。
高学年ともなると女の子は『女』を出してくる。
可愛い髪飾りだとか、フワフワのスカートだとかを武器に、あらゆる女子が纏わりついて。
バレンタインには、誰が1番最初にチョコを渡すかで女子達が大喧嘩になって、翌年から荷物検査(チョコがあったら即没収)が行われるようになった程。
中には、私や晴が切藤家にいる時にアポ無しで突撃してくる子なんかもいて。
そんな時、私は無邪気なフリで翔君に走り寄った。
「しょうくん、あそんで!」
手をギュッと握る私に嫉妬の視線が刺さって来るけど、流石に幼女を罵る訳にもいかないらしい。
「しょーくん、あちょんで!」
その後を、本気で翔君に遊んで欲しい晴がトタトタ駆け寄ってくれば『お姉さん』である小学生は諦めるしかない。
『妹に優しい切藤君も素敵だよね。』なんて言いながら未練タラタラで帰って行く姿を、翔君に抱っこされて見送る。
ふん、私の勝ちね!
ってか妹じゃないわよ、未来のカ・ノ・ジョ!
本当の弟は、翔君を見張りながらなんちゃら理論の本読んでるし。
兄が晴を抱っこしようもんなら、舌打ちと共に現れて引き離す、可愛くない弟。
まぁでもそのお陰で、私が翔君に構って貰える比率が上がるのは事実だから何も言わないけどね。
大抵の場合はこの作戦で女子を追い払えたけど、上手くいかない時もあった。
「ごめんね、遥、晴。また今度遊ぼうね。」
そう言って誘いに応じて家を出て行く時には必ず…ほら、やっぱり!
一様に上目遣いで翔君を見つめる周りに呆れてる、如何にも『連れて来られたました』って感じの女の子。
あの子がいる時は、翔君は絶対に断らないって知ってるんだから。
「ほら美優、行こうぜ!」
私と話す時とは違う、男の子っぽい言い方。
この時の翔君は知らない人みたいでちょっと嫌。
だから翔君に近付いて欲しくないのに…蓮の奴が余計な事をしてくれた。
ある日、いつもの如く切藤君に集まって来た10人程のクラスメイト達と翔君は、外が雨だからとテレビゲームで遊んでて。
私は翔君の膝の上で、その中にいる『美優』を特に警戒してた。
そしたら、その彼女がフラリと部屋を出て行って。
私は気になって、ゲームに夢中で気付いてない周りを置いてそっと後を追った。
そしたら、『美優』はリビングで本を読む蓮に話しかけてて。(因みに蓮が翔君を見張りに来ないのは、晴が風邪で萱島家に隔離中だったから。)
「隣に座ってもいい?」
そう尋ねる『美優』を蓮はいつもの如く無視。
…かと思いきや、
「すきにすれば」
なんて返してて。
あの蓮が、家族意外と喋った!
この頃の蓮はもう話すようになってたけど、
『ちのうレベルがひくいからつかれる。』
なんて言って子供を敬遠してたから(アンタも子供でしょうよ。)驚きを隠せない。
そんな風に私が見てる事に気付いてないのか、『美優』は蓮の横で、持ってきてたらしい計算ドリルを開く。
「皆んな宿題しに来たの忘れてるんだよね。翔がいるとそっちに夢中になっちゃうみたい。」
口を尖らせた彼女に、蓮は今度は答えなかった。
それでも『美優』は怒ったりせず、少し笑って宿題に顔を戻す。
カリカリと鉛筆の音が聞こえるくらい静かなその空間は、不思議と居心地が良さそうで。
私は目を背けて、急いで翔君の元へ戻った。
切藤家のリビングで過ごす『美優』の姿が、何故かしっくりきているように見えて…。
胸が騒めいて仕方なかった。
それだけならまだ良かったのに、それから2、3日経った幼稚園の帰り道。
その日は珍しく3家のママが揃って、お茶して帰ろうなんてカフェを目指してて。
「みゅー。」
突如蓮が発した言葉に全員が驚いてると、その視線の先にはランドセルを背負った『美優』がいた。
「あ、名前覚えてくれてたの?こんにちは。」
蓮に気付いた彼女が笑いかける。
幼児に『みゆう』は言いづらくて『みゅー』に聞こえるけど、確かに蓮は彼女を認識してて。
その事に大騒ぎしたのは、3家のママ達だった。
半ば強引に『美優』を切藤家に連れ帰って(誘拐未遂だからね?)質問攻めにして。
「そうなの、翔のお友達なのね⁉︎」
「美優ちゃん、いつでも遊びにおいで。」
なんて、大興奮の陽子さんの傍らに蓮のパパまで登場したりして。
何も知らずに帰宅した翔君が、その光景にフリーズしたのは言うまでもない。
「こんな息子でよければお嫁に来る?」
なんて言う陽子さんに、二人は全力で否定してたけど。
私は『美優』が切藤家の一員になったみたいで、嫌で仕方なかった。
この間の事と言い、危険すぎる。
これ以上二人が仲良くならないような、作戦を練らないと…!
因みに、最近になって蓮に聞いた話だと『コイツが来れば翔がいなくなる』って気付いてたんだって。
だから『みゅう』は、翔君によって逸らされがちな晴の意識を、自分に向けられる貴重な存在として蓮の中で認識されたらしい。
美優さんにだけ懐いてるように見えたのは、そう言う訳だったのね…。
結局、私の練りに練った作戦が実行される事はなかった。
6年生になった翔君は中学受験を理由に、友達と遊ぶ事が殆どなくなったから。
安心した反面、私も翔君に会える機会はグッと減っていって。
翔君が無事中学に入学すると、それはますます顕著になった。
それが寂しくて仕方なくて、ママに駄々を捏ねて幾度となく翔君の試合(翔君はバスケ部)に連れて行ってもらって。
今普通に考えると、思春期男子が小学生(しかも7歳下)といる所なんてあんまり見られたくない筈。
それなのに、翔君はいつも試合後、私の所に来てくれた。
「遥、俺のシュート見た?」
女子が殺到して立ち見が出る程混雑した体育館でも、私を見つけてくれる翔君。
優しくて、かっこよくて大好き…「翔、お疲れ様!」…え?
突然響いた声に驚いてると、そこには美優…じゃなくて、知らない女子がいた。
帝詠学院チア部のユニフォームを着たその女子は、翔君の腕に手を絡める。
ちょっと、触んないでよ!
そう言おうとして、気が付いた。
翔君が、自然にそれを受け入れてる事にーー。
「その子、翔の妹?」
「みたいなもん。可愛いだろ?」
「うん、可愛いね!よろしくね、妹ちゃん。」
頭上でそんな会話が交わされて唖然としてる間に、2人は仲間達の方へ戻っていく。
混乱してると、少し離れてこっちを見てたママが笑いながら近付いて来た。
「あらあら。翔君ったら彼女ができたのね。」
楽しそうなその声音とは反対に、私はズガーンと頭に衝撃を受けた。
どうして、美優さえいなければ大丈夫だなんて思ってたんだろう…。
その夜はベッドの中で一人泣いた。
翔君とその隣りに立つ女子は、悔しい程にお似合いだった。
芸能人みたいに綺麗な顔と長い手脚、それに、服の上からでも分かる盛り上がった胸。
私だって学年で1番背が高いけど、それだけじゃ遠く及ばない。
この時初めて、7歳の差をとてつもなく大きく感じた。
どうして、私は翔君と同い年に生まれて来なかったんだろう。
そうすれば、今日あそこに立ってたのは私だったかもしれないのに…!
暫くは悩んだけど、私はへこたれる性格じゃなかった。
翔君がモテるのは仕方ないし、7歳の差はどうやったって埋まらないんだから、そこは諦めよう。
だけど、うちのパパとママだって6歳差で結婚してる。
もし、20歳と13歳が付き合ったら犯罪だけど…27歳と20歳だったら?
それなら何の問題も無いし、結婚だってできる。
つまり、最終的に翔君が私を選んでくれればいい。
その為にできる事は何でもしよう。
勉強も運動も頑張って、見た目にも気を遣って。
完璧な翔君に相応しい女になろう!
そう決意したから、その後も何回か翔君にできた彼女の存在にも耐えられた。
落ち込まない訳じゃないけど、今だけだからって言い聞かせて。
翔君の交際が長続きしない(平均で3ヶ月)のも心の支えに繋がった。
ある筋から仕入れた情報だと、彼女側が『好きすぎて苦しい』って感じになって上手くいかないみたい。
恋愛にしか目が向かない状態だと、翔君みたいにモテすぎる男子と付き合うのは辛いのかもしれない。
でもそれは、私にとって不安要素にはならない。
私には目標があるから、盲目にはならないもの。
最近習い始めた英会話がとても楽しくて、将来は英語関係の仕事がしたいと思うようになった。
翔君の事は大好きだけど、それだけが私の人生じゃないって思ってる。
『好きな相手だけがこの世の全て』みたいなバカが身近にいるけど(しかも無自覚)…それじゃあ上手くいかないのよ、きっと。
自立した大人の女性に、私はなる!!
ゆくゆくは成人の年齢が18歳に引き下げられるってニュースも、私の心の安寧に繋がった。
2年も縮んだ!あともう少しだわ!
そんな風に希望を持って毎日を過ごして。
その間に晴がサッカークラブで怪我をさせられたり…と思えば、何故か進学希望先が帝詠学院になってたり。
蓮の策略に私がやきもきしてる間にも時は過ぎて、あっと言う間に受験シーズンに突入して。
初春には、私と蓮と晴3人の帝詠学院合格が決まった。
今後を思うと心配はあるけど、晴の頑張りが報われた事は素直に嬉しい。
それから、翔君の母校である帝詠に通える事も。
ここからがまた新たなスタートだわ!
三家族は皆んな大喜びで、これからもよろしくね、なんて言い合ってて。
そんなお祝いムードから数日経ったある日。
私はパパとママと一緒に切藤家に呼ばれた。
拓也さんと蓮、それに翔君が揃ってるのが珍しくて驚いたけど、そこで語られた話しは驚きなんてものじゃなかった。
それは、とある、狂った一族の歴史。
狂気的な思想を持った、現代社会の闇の中に存在している一族の蛮行。
俄には信じられない、でも確かに実在する彼等と切藤家の因縁。
後に蓮と晴を苦しめ…そして、翔君や私の運命までも左右する事になる宿敵。
霊泉家の存在を知ったのは、この時だった。
●●●
実はこの頃既に晴も美優と出会ってますが、幼かったので記憶にありません。
その為side晴人中学編4話『モデル??』で初めて会ったみたいになってます。
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子供の頃の7歳差はデカイ…。
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