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解決編
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side蓮中学編18話『推し』
side晴人高校編59話『昨日の敵は今日も敵?』、63話『二つの覚悟』、103話『え、またやらかした?』辺りを大谷が振り返ります。
お時間あれば73話『聖天使の力を…!』もぜひ。
●●●
『あっ…レン…そんな奥まで…アァン♡』
『ハル、奥好きだろ?』
『んっ…好きだけど、…発情期にしたら…ひゃあん♡』
『ハァ…たまんねぇなその顔…今日1日で孕ませてやるからな…ッ』
『あぁ~♡も…イク…イッちゃうぅぅぅ♡』
……。
………。
「ッッッんだコレはぁぁぁ!!!!」
(side大谷創源)
切藤君の怒声に僕は震え上がった。
「大谷ィ…テメェどう言うつもりだァ?返答によっちゃ生きてられると思うなよ?」
「ご、ごめんなさぃぃ!!」
僕は床に這いつくばって、黒いオーラを撒き散らす魔王の許しを乞う。
冷たく見下ろしてくる彼の手には、原稿用紙。
「蓮君!お願いですからそれだけはやめて下さい!」
助けに入ってくれたのは、中野君のお姉さんの絢美さん。
嗚呼、この窮地を救ってくれる女神…
「後10ページ書き上げるまでは待って下さい!!」
…成る程、助けてはくれないみたいだ。
完成したら僕がどうなろうが知ったこっちゃない、と。
薄々気付いてはいたが、僕の担当編集は、鬼畜だったらしい。
「貴方の手にあるその原稿は、ブルボンヌ先生と私の叡智の結晶なんです!!」
力説する絢美さんには悪いけど、その名前で呼ばないで欲しい。
ほら、魔王の美しい顔が絶対零度でこっちを見てるじゃないか。
どうしようも無く劣勢だったのに、更に状況が悪くなってしまった。
どうしたらいいんだ…このままでは僕の命も原稿も地獄逝きになってしまう…。
「…なぁ、取り敢えず最初から説明してくれないか?」
割って入ったのは、今1番冷静な判断ができているであろう中野君。
切藤君の手の中にある原稿に目を落として、困惑の表情を浮かべている。
「この原稿…晴人と切藤を彷彿とさせるBL小説だよな?ブルボンヌ先生とかも意味分かんないし。
それに、何で姉ちゃんがいるのかも謎だし、ナイフ持ってんの怖ぇし!」
チラリと切藤君を窺うと、彼は長い脚を組んでソファに身を沈めた。
あまりにも絵になるその仕草を『発言を許す』だと解釈して、僕は話し始める。
長いけれど…どうか彼のご機嫌を損ねませんように、と祈りながらーー。
僕がBLと出会ったのは、小学4年生の時だった。
きっかけは父が手がけた舞台。
主人公の男女が結ばれる裏で、男性同士で愛し合ってしまった脇役の2人は心中と言う道を選んだ。
そう。死ネタ・バドエン(解釈によってはメリバ)である。
これに僕は大きな衝撃を受けた。
なんて…なんて尊いんだろう、と。
許されなくても、認められなくても互いを一途に思い合う恋は、男女のそれよりも純愛に思えた。
ここからBLの映画、漫画、小説などを手当たり次第に集めるようになった。
腐男子の誕生である。
そして中学生になる頃には、読むだけでは飽き足らずオリジナルのBL小説を執筆するようになっていた。
自分の萌えポイントを盛り込みまくった小説を、1人でヒッソリと楽しむ。
それが僕の趣味となった。
そんな僕にとって中学生活で1番の収穫といえば、蓮×晴に出会えた事。
圧倒的カーストトップの切藤蓮君と、幼馴染の萱島晴人君。
一見『釣り合っていない』ように見える2人だが、実は切藤君の方が萱島君にゾッコンと言う関係。
勿論、大好物である。
顧問の大川先生に頼まれてひっそりと写真係をした剣道部の大会。
その件で切藤君から尋問…じゃなくお話しを賜る事になった僕は、その溺愛っぷりに涙した。
そして、2人をモデルにしたオメガバースBLを書き始める。
モデルがいるだけでこんなに捗るとは!!
新たな発見に僕はウハウハであった。
転勤が訪れたのは、あるサイトを見つけた事だった。
BL好きの、BL好きによる、BL好きの為のそれは、個人サイトとは思えぬ程素晴らしいもので。
そのサイトの掲示板に集いし腐女子・腐男子で、作品についての情報交換や感想を夜な夜な語り合う。
その中で、こんなやり取りがあった。
『いいなぁ、この漫画の主人公。私なんか彼氏と別れそうぴえん(T-T)』
それに対して『元気だして!』『BL読も!』なんて励ます文が続いて。
僕は単純な興味から、詳しく話を聞いてみる事にした。
そして、不仲の原因がどうやらすれ違いによるものだと気付いたのだ。
それも、僕が好きなBL漫画と全く同じすれ違い方!
つい興奮してしまい、その漫画で主人公の友人がした通りのアドバイスをスレ主に授けた。
余談だが、BL漫画の主人公には妙に人間のできた友人がいるものなのである。
そして数日後、スレ主から感謝された。
『彼氏とのすれ違いに気付けて破局回避!ブルボンヌさんマジ神!!』
これを皮切りに、サイト内で僕に恋愛相談をする人が急増する。
僕としてはBLの知識を用いてアドバイスしていただけなのだが、明るい方に解決するパターンが続発して。
そして、サイトの管理人から現実で会う打診を受ける事になった。
『初めまして、ブルボンヌさん。管理人のアヤミです。』
歳上の綺麗な女性は自己紹介して微笑む。
サイトの目的である『BLを語る場』と違う方向に盛り上がってしまった事に苦言を呈されるかと思っていた僕の予想は裏切られる。
『乙女に向けた恋愛アドバイスのサイトを作りませんか?』
勿論、最初は断った。
僕のアドバイスは全てBLからの受け売りなのだとアヤミさんにも伝えて。
だけど、彼女は諦めなかった。
『自分が持つ知識を人に与える事は悪い事ではありません。』
それでもゴネる僕に、彼女はとっておきの切り札を出す。
『私の未公開の作品、読みたくありません?』
カフェのテーブルに並べられたのは、有名な壁サーであるAYAさんの作品。
まさか!!オジBLに絶対的な定評を持つAYAさんとアヤミさんが同一人物だったなんて!!
『日本中の乙女の為です!やりましょう!』
気が付いたら、ガッチリ握手を交わしていた。
そんなこんなで、アヤミさんのバックアップの元、サイトは立ち上がった。
まぁでも、そんなに人気が出る訳もないであろう。
そう思っていたのだが、あれよあれよと閲覧者は増えていき…。
『本を!出しましょう!ブルボンさん…いえ!ブルボンヌ先生!!』
アヤミさんにそう言われたのは高校1年の夏の事。
彼女がこの春から出版関係に勤め出したと知ったは、この時。
そしてさらに衝撃の事実。
『担当編集になりましたので、きちんと自己紹介を。中野絢美と申します。弟は中野啓太。先生と同じ学校ですよね?』
アヤミさん…剣道部の中野君のお姉さんだったのか!
『もちろん弟には内緒にしますよ!これからよろしくお願いしますね!』
そこはかとない圧を感じた僕は、抵抗する事もできず処女作を発表する事になる。
『恋愛の聖天使・ブルボンヌ夢子の幸せになる恋愛法♡』
なるハウツー本は、そうやって完成した。
因みに、元々ハンドルネームにしていた『ブルボンヌ』は僕の好きなお菓子、ルマンDOのメーカーから拝借したもの。
『夢子』は絢美さんの一存で付けられたものである。
完成までの道のりは、これまでサイトでしてきたアドバイスに加筆修正する形であってもなかなか大変だった。
それはもう、趣味である写真はおろかBLに裂く時間すら無い程に。
腐男子としてあるまじき失態である。
だから、無事に初刷が店頭に並ぶと直様BLの執筆にのめり込んだ。
ハウツー本と違って誰かに読ませるつもりはないが、僕には腐男子としての矜持がある。
そうして爆速で書き進めたレン×ハルのオメガバース小説は、遂に佳境を迎えた。
主人公のオメガであるハルオミが、初めてのヒートを学校で起こしてしまうシーンである。
誰もいない旧校舎に逃げ込むが、身体の中で暴れ回る性衝動に翻弄されるハルオミ。
そこにアルファである攻めのグレンが駆け付けて、2人は身体を重ねるのである。
この重要なシーンには、旧校舎の描写が欠かせない為、何度も見返せるように写真を撮っておきたい。
しかし、モデルとしている我が高校の旧校舎には資料室や部室があり、無人と言う事は稀だ。
どうするべきか…。
そうだ!文化祭の時なら無人になるだろうし、僕も自由に動ける筈だ!
天啓を得た僕は文化祭の当日、意気揚々と望遠カメラを旧校舎に向けた。
そして、あろう事か放火犯の姿を映してしまったのである。
僕は迷った。
この写真を提出すれば犯人は捕まる。
だけど、僕のせいで誰かの人生が変わる。
それに、どうして文化祭の日にこんな写真を撮っていたのか問いただされるのも困る。
そんな中、切藤君が『タバコの所持』で田丸先生に連行された。
放火犯としての疑いも込みで。
しかしそこは流石の魔王、上手くやり込めて自主謹慎に持ち込んだらしい。
これ以上切藤君が不利な立場になるとは考えにくかったが、僕は決心した。
小火の第一発見者でる萱島君に話しをしてみようと思い立ったのである。
そして、探していた先で萱島君と相川さんの話しを立ち聞きしてしまった。
切藤君が萱島君を庇っている事、萱島君が真犯人を突き止めようとしている事。
交渉は決裂したようで、項垂れる萱島君の元に僕は姿を現した。
全てを聞いていた僕に萱島君は驚いていたけれど、ハッキリとこう言った。
『守ってもらうだけじゃなくて、俺だって守りたい。蓮が笑顔でいられるようにしたい。』
嗚呼…何て尊い。
この台詞はぜひ僕の小説でハルオミに言わせよう。
『成る程…とても参考になったよ…。ありがとう。』
思わず溢れた言葉に萱島君がキョトンとする。
あ、不味い。
心の声が出てしまった。
焦った僕は『覚悟があるなら協力する』と申し出て、足早にその場を去った。
『蓮には笑顔でいてほしい。』
その後、正確に僕の意を汲んだ上で萱島君はそう言った。
他の誰かの人生を変える事になっても守りたい。
そう覚悟した強い表情に、協力しないと言う選択肢は無い。
迷わず証拠写真を提供すると、萱島にお礼を言われた。
『どういたしまして。君にはお世話になってるからね。』
お陰様で創作意欲も脳汁もドバドバです。
心の中で言った筈の言葉は、前半部分だけ口に出ていたらしい。
不味い…またやってしまった…。
しかし萱島君は『中学の時の写真ね!』なんて、いい感じに解釈してくれた。
純真無垢な笑顔が眩しくて、私欲に塗れ穢れた僕の魂は消滅しそうである。
『まあ、そうだね。』
なんてモゴモゴ言いながら、仲間が心配しているだろうと尤もらしい理由を付けて退出を促した。
ふぅ…危なかった。
自分をモデルにBLを描かれているなんて、いい気はしないだろう。
万が一萱島君が許してくれたとて…切藤君に知られるのは命に関わりそうなので絶対に避けたい。
これは隠し通さなければならない。
プロの腐男子として、やりきってみせる。
そして、無事にレン×ハルは結ばれた。
あくまでも、僕の小説の中でだけれど。
ただ、高2の修学旅行後辺りから現実の2人にも何かしら変化があったように思う。
空気が甘いと言うか…。
いや、気のせいじゃない筈だ。
プロの腐男子である僕の勘が言っている。
2人は恋人同士だ、とーー。
それを確かめられたのは、ひょんな事からだった。
なんと、僕が通う塾に萱島君が入ってきたのである。
そして、話しかけようか迷っていた休み時間、彼のスマホが目に入ってしまった。
…絢美さんのBLサイト見てる…。
これはもう迷っている場合じゃない。
すかさず話しかけて、オススメの漫画を説明する。
プロの腐男子である僕の勘が(以下略)
これ、BL漫画で初心な受けがやるやつだ!
恋人とのその時に備えて、男同士のやり方を調べているのだ、と。
それは見事に当たっていたようだ。
夏期講習でランチを共にする仲になった時、切り込んでみたら彼は真っ赤になった。
嗚呼、それはもう肯定なんだよな…尊い。
さらに観念したのか、自分のせいでできないのだと告白までしてくれた。
切藤君…君の忍耐力には脱帽だよ…。
嗚呼、もう祈らずにはいられない。
全知全能なるBLの女神よ、どうか彼等に祝福をお与え下さい!
●●●
晴人がアヤミのサイトを知ってた訳はside晴人100話『その意味を』で。
かなり人気のサイトのようです。笑
side晴人73話~74話に出てきたブルボンヌ夢子。
お前だったんかい。笑
side晴人高校編59話『昨日の敵は今日も敵?』、63話『二つの覚悟』、103話『え、またやらかした?』辺りを大谷が振り返ります。
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●●●
『あっ…レン…そんな奥まで…アァン♡』
『ハル、奥好きだろ?』
『んっ…好きだけど、…発情期にしたら…ひゃあん♡』
『ハァ…たまんねぇなその顔…今日1日で孕ませてやるからな…ッ』
『あぁ~♡も…イク…イッちゃうぅぅぅ♡』
……。
………。
「ッッッんだコレはぁぁぁ!!!!」
(side大谷創源)
切藤君の怒声に僕は震え上がった。
「大谷ィ…テメェどう言うつもりだァ?返答によっちゃ生きてられると思うなよ?」
「ご、ごめんなさぃぃ!!」
僕は床に這いつくばって、黒いオーラを撒き散らす魔王の許しを乞う。
冷たく見下ろしてくる彼の手には、原稿用紙。
「蓮君!お願いですからそれだけはやめて下さい!」
助けに入ってくれたのは、中野君のお姉さんの絢美さん。
嗚呼、この窮地を救ってくれる女神…
「後10ページ書き上げるまでは待って下さい!!」
…成る程、助けてはくれないみたいだ。
完成したら僕がどうなろうが知ったこっちゃない、と。
薄々気付いてはいたが、僕の担当編集は、鬼畜だったらしい。
「貴方の手にあるその原稿は、ブルボンヌ先生と私の叡智の結晶なんです!!」
力説する絢美さんには悪いけど、その名前で呼ばないで欲しい。
ほら、魔王の美しい顔が絶対零度でこっちを見てるじゃないか。
どうしようも無く劣勢だったのに、更に状況が悪くなってしまった。
どうしたらいいんだ…このままでは僕の命も原稿も地獄逝きになってしまう…。
「…なぁ、取り敢えず最初から説明してくれないか?」
割って入ったのは、今1番冷静な判断ができているであろう中野君。
切藤君の手の中にある原稿に目を落として、困惑の表情を浮かべている。
「この原稿…晴人と切藤を彷彿とさせるBL小説だよな?ブルボンヌ先生とかも意味分かんないし。
それに、何で姉ちゃんがいるのかも謎だし、ナイフ持ってんの怖ぇし!」
チラリと切藤君を窺うと、彼は長い脚を組んでソファに身を沈めた。
あまりにも絵になるその仕草を『発言を許す』だと解釈して、僕は話し始める。
長いけれど…どうか彼のご機嫌を損ねませんように、と祈りながらーー。
僕がBLと出会ったのは、小学4年生の時だった。
きっかけは父が手がけた舞台。
主人公の男女が結ばれる裏で、男性同士で愛し合ってしまった脇役の2人は心中と言う道を選んだ。
そう。死ネタ・バドエン(解釈によってはメリバ)である。
これに僕は大きな衝撃を受けた。
なんて…なんて尊いんだろう、と。
許されなくても、認められなくても互いを一途に思い合う恋は、男女のそれよりも純愛に思えた。
ここからBLの映画、漫画、小説などを手当たり次第に集めるようになった。
腐男子の誕生である。
そして中学生になる頃には、読むだけでは飽き足らずオリジナルのBL小説を執筆するようになっていた。
自分の萌えポイントを盛り込みまくった小説を、1人でヒッソリと楽しむ。
それが僕の趣味となった。
そんな僕にとって中学生活で1番の収穫といえば、蓮×晴に出会えた事。
圧倒的カーストトップの切藤蓮君と、幼馴染の萱島晴人君。
一見『釣り合っていない』ように見える2人だが、実は切藤君の方が萱島君にゾッコンと言う関係。
勿論、大好物である。
顧問の大川先生に頼まれてひっそりと写真係をした剣道部の大会。
その件で切藤君から尋問…じゃなくお話しを賜る事になった僕は、その溺愛っぷりに涙した。
そして、2人をモデルにしたオメガバースBLを書き始める。
モデルがいるだけでこんなに捗るとは!!
新たな発見に僕はウハウハであった。
転勤が訪れたのは、あるサイトを見つけた事だった。
BL好きの、BL好きによる、BL好きの為のそれは、個人サイトとは思えぬ程素晴らしいもので。
そのサイトの掲示板に集いし腐女子・腐男子で、作品についての情報交換や感想を夜な夜な語り合う。
その中で、こんなやり取りがあった。
『いいなぁ、この漫画の主人公。私なんか彼氏と別れそうぴえん(T-T)』
それに対して『元気だして!』『BL読も!』なんて励ます文が続いて。
僕は単純な興味から、詳しく話を聞いてみる事にした。
そして、不仲の原因がどうやらすれ違いによるものだと気付いたのだ。
それも、僕が好きなBL漫画と全く同じすれ違い方!
つい興奮してしまい、その漫画で主人公の友人がした通りのアドバイスをスレ主に授けた。
余談だが、BL漫画の主人公には妙に人間のできた友人がいるものなのである。
そして数日後、スレ主から感謝された。
『彼氏とのすれ違いに気付けて破局回避!ブルボンヌさんマジ神!!』
これを皮切りに、サイト内で僕に恋愛相談をする人が急増する。
僕としてはBLの知識を用いてアドバイスしていただけなのだが、明るい方に解決するパターンが続発して。
そして、サイトの管理人から現実で会う打診を受ける事になった。
『初めまして、ブルボンヌさん。管理人のアヤミです。』
歳上の綺麗な女性は自己紹介して微笑む。
サイトの目的である『BLを語る場』と違う方向に盛り上がってしまった事に苦言を呈されるかと思っていた僕の予想は裏切られる。
『乙女に向けた恋愛アドバイスのサイトを作りませんか?』
勿論、最初は断った。
僕のアドバイスは全てBLからの受け売りなのだとアヤミさんにも伝えて。
だけど、彼女は諦めなかった。
『自分が持つ知識を人に与える事は悪い事ではありません。』
それでもゴネる僕に、彼女はとっておきの切り札を出す。
『私の未公開の作品、読みたくありません?』
カフェのテーブルに並べられたのは、有名な壁サーであるAYAさんの作品。
まさか!!オジBLに絶対的な定評を持つAYAさんとアヤミさんが同一人物だったなんて!!
『日本中の乙女の為です!やりましょう!』
気が付いたら、ガッチリ握手を交わしていた。
そんなこんなで、アヤミさんのバックアップの元、サイトは立ち上がった。
まぁでも、そんなに人気が出る訳もないであろう。
そう思っていたのだが、あれよあれよと閲覧者は増えていき…。
『本を!出しましょう!ブルボンさん…いえ!ブルボンヌ先生!!』
アヤミさんにそう言われたのは高校1年の夏の事。
彼女がこの春から出版関係に勤め出したと知ったは、この時。
そしてさらに衝撃の事実。
『担当編集になりましたので、きちんと自己紹介を。中野絢美と申します。弟は中野啓太。先生と同じ学校ですよね?』
アヤミさん…剣道部の中野君のお姉さんだったのか!
『もちろん弟には内緒にしますよ!これからよろしくお願いしますね!』
そこはかとない圧を感じた僕は、抵抗する事もできず処女作を発表する事になる。
『恋愛の聖天使・ブルボンヌ夢子の幸せになる恋愛法♡』
なるハウツー本は、そうやって完成した。
因みに、元々ハンドルネームにしていた『ブルボンヌ』は僕の好きなお菓子、ルマンDOのメーカーから拝借したもの。
『夢子』は絢美さんの一存で付けられたものである。
完成までの道のりは、これまでサイトでしてきたアドバイスに加筆修正する形であってもなかなか大変だった。
それはもう、趣味である写真はおろかBLに裂く時間すら無い程に。
腐男子としてあるまじき失態である。
だから、無事に初刷が店頭に並ぶと直様BLの執筆にのめり込んだ。
ハウツー本と違って誰かに読ませるつもりはないが、僕には腐男子としての矜持がある。
そうして爆速で書き進めたレン×ハルのオメガバース小説は、遂に佳境を迎えた。
主人公のオメガであるハルオミが、初めてのヒートを学校で起こしてしまうシーンである。
誰もいない旧校舎に逃げ込むが、身体の中で暴れ回る性衝動に翻弄されるハルオミ。
そこにアルファである攻めのグレンが駆け付けて、2人は身体を重ねるのである。
この重要なシーンには、旧校舎の描写が欠かせない為、何度も見返せるように写真を撮っておきたい。
しかし、モデルとしている我が高校の旧校舎には資料室や部室があり、無人と言う事は稀だ。
どうするべきか…。
そうだ!文化祭の時なら無人になるだろうし、僕も自由に動ける筈だ!
天啓を得た僕は文化祭の当日、意気揚々と望遠カメラを旧校舎に向けた。
そして、あろう事か放火犯の姿を映してしまったのである。
僕は迷った。
この写真を提出すれば犯人は捕まる。
だけど、僕のせいで誰かの人生が変わる。
それに、どうして文化祭の日にこんな写真を撮っていたのか問いただされるのも困る。
そんな中、切藤君が『タバコの所持』で田丸先生に連行された。
放火犯としての疑いも込みで。
しかしそこは流石の魔王、上手くやり込めて自主謹慎に持ち込んだらしい。
これ以上切藤君が不利な立場になるとは考えにくかったが、僕は決心した。
小火の第一発見者でる萱島君に話しをしてみようと思い立ったのである。
そして、探していた先で萱島君と相川さんの話しを立ち聞きしてしまった。
切藤君が萱島君を庇っている事、萱島君が真犯人を突き止めようとしている事。
交渉は決裂したようで、項垂れる萱島君の元に僕は姿を現した。
全てを聞いていた僕に萱島君は驚いていたけれど、ハッキリとこう言った。
『守ってもらうだけじゃなくて、俺だって守りたい。蓮が笑顔でいられるようにしたい。』
嗚呼…何て尊い。
この台詞はぜひ僕の小説でハルオミに言わせよう。
『成る程…とても参考になったよ…。ありがとう。』
思わず溢れた言葉に萱島君がキョトンとする。
あ、不味い。
心の声が出てしまった。
焦った僕は『覚悟があるなら協力する』と申し出て、足早にその場を去った。
『蓮には笑顔でいてほしい。』
その後、正確に僕の意を汲んだ上で萱島君はそう言った。
他の誰かの人生を変える事になっても守りたい。
そう覚悟した強い表情に、協力しないと言う選択肢は無い。
迷わず証拠写真を提供すると、萱島にお礼を言われた。
『どういたしまして。君にはお世話になってるからね。』
お陰様で創作意欲も脳汁もドバドバです。
心の中で言った筈の言葉は、前半部分だけ口に出ていたらしい。
不味い…またやってしまった…。
しかし萱島君は『中学の時の写真ね!』なんて、いい感じに解釈してくれた。
純真無垢な笑顔が眩しくて、私欲に塗れ穢れた僕の魂は消滅しそうである。
『まあ、そうだね。』
なんてモゴモゴ言いながら、仲間が心配しているだろうと尤もらしい理由を付けて退出を促した。
ふぅ…危なかった。
自分をモデルにBLを描かれているなんて、いい気はしないだろう。
万が一萱島君が許してくれたとて…切藤君に知られるのは命に関わりそうなので絶対に避けたい。
これは隠し通さなければならない。
プロの腐男子として、やりきってみせる。
そして、無事にレン×ハルは結ばれた。
あくまでも、僕の小説の中でだけれど。
ただ、高2の修学旅行後辺りから現実の2人にも何かしら変化があったように思う。
空気が甘いと言うか…。
いや、気のせいじゃない筈だ。
プロの腐男子である僕の勘が言っている。
2人は恋人同士だ、とーー。
それを確かめられたのは、ひょんな事からだった。
なんと、僕が通う塾に萱島君が入ってきたのである。
そして、話しかけようか迷っていた休み時間、彼のスマホが目に入ってしまった。
…絢美さんのBLサイト見てる…。
これはもう迷っている場合じゃない。
すかさず話しかけて、オススメの漫画を説明する。
プロの腐男子である僕の勘が(以下略)
これ、BL漫画で初心な受けがやるやつだ!
恋人とのその時に備えて、男同士のやり方を調べているのだ、と。
それは見事に当たっていたようだ。
夏期講習でランチを共にする仲になった時、切り込んでみたら彼は真っ赤になった。
嗚呼、それはもう肯定なんだよな…尊い。
さらに観念したのか、自分のせいでできないのだと告白までしてくれた。
切藤君…君の忍耐力には脱帽だよ…。
嗚呼、もう祈らずにはいられない。
全知全能なるBLの女神よ、どうか彼等に祝福をお与え下さい!
●●●
晴人がアヤミのサイトを知ってた訳はside晴人100話『その意味を』で。
かなり人気のサイトのようです。笑
side晴人73話~74話に出てきたブルボンヌ夢子。
お前だったんかい。笑
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