【完結】桜の記憶 幼馴染は俺の事が好きらしい。…2番目に。

あさひてまり

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解決編

4.

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(side晴人)


蓮と一悶着あった日から1ヶ月。

「つか…れた…。」

とにかく忙しくて、家にいる時は課題をやるか寝るだけ。

バイトから帰宅したら、意地で家事を終わらせるので精一杯だ。

せめて大学が冬休みに入れば全然違うんだけど、あと3週間もあるんだよね。


唯一の希望は、バイト先で事態が大きく動いた事。


『きっと断られるから』と渋る店長を説得してパートさん全員に聞いてみた所、『子供の受験が終わる3月からなら土日勤務できます。』って人が見つかって。

偶々来たエリアマネージャーにも切々とヤバさを訴えて、求人の根回し&繋ぎとして他店舗からのヘルプさんをの確保に成功。

それに、どんなに長くても3月迄って約束も取り付けた。

古くからここで働くパートさん曰く、

『店長っていい人だけどさ、気が弱いから。
萱島君が動いてくれて助かったんじゃないかしら。自分じゃ、エリアマネージャーにも他のパートにも言い辛くて先延ばしにしてただろうし。』

との事で…。

本当に、何もかも蓮が言った通りすぎる。

蓮に言われた言葉がなければきっと、エリアマネージャーに直談判なんて思い付きもしなかった。

『感情だけで安請け合いすんな』って言われた時はカチンと来たけど…本当その通りだ。

俺の考えの足りなさに、蓮が怒るのも当然だって今なら分かる。

だから謝って、期限が3月までになった事も伝えたいんだけど…。

実は蓮の方も課題が忙しいみたいで、ほとんど部屋に籠ってて。

気まずさと邪魔したくない気持ちの両方から、扉をノックするのをつい躊躇ってしまう。

蓮が出てくるのをリビングで待ってると、疲れで寝落ちちゃって。

気付けば朝で、何故かベッドで寝てる不思議。

…勿論、誰が運んでくれたのかなんて分かってる。


『風呂洗ってある。明日の朝洗濯機回して出るから。』『ありがと。ゴミ捨ては俺がしとくね。』

なんてLAINでの遣り取りはあるけど、肝心な事は伝えられないまま。

今日は雨で来客が少なくて、珍しく21時に帰れたから期待してたんだけど…家に蓮はいなかった。

きっと交流会とか、友達と出掛けたりしてるんだろうな…。

知らない世界で楽しく過ごしている蓮を想像して、胸がモヤモヤする。

大学の先輩の中には女性もいるんだよね、きっと。

…ってオイ!

真面目な交流会に何て失礼な事考えてるんだ俺は!

蓮の将来にとって大事なことだって分かってるじゃん。

だから、本当は嫌だなんて言っちゃいけない。

ベッタリなのを反省したばっかりだし、それに…。


遥だったらきっと、こんな事思わない。


精神的に自立している遥なら、蓮をもっと自由に……



ハッとして、頭を大きく横に振る。

馬鹿だな、何でここで遥が出てくるんだよ。

リリナに対してはハッキリ『蓮は俺の』って思えたのに、どうして遥の存在にはこうも弱気になってしまうんだろう。


思考を追い出すように深呼吸する。

大丈夫。まずは、蓮と話す時間を取らなくちゃ。

もうすぐクリスマスなのに、その予定すら立てられてないし。

切藤家はクリスマスイブを家族で過ごすのが(蓮母による)鉄の掟だから、蓮と一緒に過ごせるとしたら翌日のクリスマス。

因みに今年のクリスマスは日曜日だ。

よし、店長に無理言って、25日は絶対に休ませてもらおう。

早速スマホを取り出して店長にLAINを送る。

何か特別な事をしなくてもいいから、蓮と2人きりで過ごしたい。

その体温が恋しくて、返事を待ちながらソファで体を丸める。

本当はね、今すぐ抱き締めて欲しい。

ずっと離さないでいて欲しい。

だけど、それは俺の我儘だから…。






「はぁぁぁ、疲れた…。」

最近帰るとこれしか言ってないな…。

ヨロヨロと向かったソファにダイブする。

本日は12月24日、クリスマスイブ!

ファミレスはそんなに混まないだろう、なんて思ってた俺は甘かった。

普段より全然忙しいじゃんか!!

良く考えたら我が家には(フランス産まれの)父さんがいて、さらに料理好きだから気合いの入り方が違ったんだと思う。

オーブンで焼いた七面鳥の丸焼きをご近所にお裾分けとかしないんだね…普通は。。

子供の頃3家族で集まってた時も場所は切藤家だったから、家で過ごすのが当然なんだと思い込んでたよ。

まさか、こんなに外食する人が多いとは…。

とにかく仕事に忙殺されて、気付いたら退勤時間になってた。

帰宅して、気力でシャワーを浴びてからのソファなう。

濡れた髪を拭くべきなのは分かってるんだけど…最早ライフはゼロ。


でもでも、いいんだ!

明日は久しぶりに蓮と過ごせるんだから!!



数週間前に店長に送ったLAINの返事は『他店舗から来るヘルプの子が、25日出てもいいと言ってくれたので大丈夫です。』と言う物だった。

まだ会った事ないけどヘルプさん万歳!!

喜び勇んで蓮に『クリスマス休みになった!』てLAINして。

送ってから、蓮に何も言われてなかった事を思い出した。

もしかして、予定入ってたり…しないよね?

『よっしゃ、家で過ごすよな?』

秒速で返ってきた返事にホッとして、一緒に過ごすのが当然と言わんばかりの内容に嬉しさが込み上げる。

『うん!家でパーティーしよう!』

久しぶりに心が満たされて、俺はウキウキと返事を送ったのだった。





「……ふぇ?」

気が付くと、窓から陽が差し込んでいた。

ベッドの上で身を起こしてスマホを確認すると、時刻は12時。

あれ?昨日ソファで寝落ちして…それから…。

あっ、これまた蓮が運んでくれたやつだ!

だけど、隣にはその姿も温もりもない。

やば!一緒に過ごそうって約束したのに寝こけるとか!

急いで寝室を出て向かったリビングはシンとしている。

蓮の部屋をノックしても返事はない。

もしかして…全然起きない俺に呆れて出掛けちゃったんじゃ…。

急いで電話しようとスマホを掴んだ時、廊下のドアが開いて、部屋着姿の蓮が姿を現した。

ポカンとする俺を見て、少し首を傾げてから言う。

「お前な、髪乾かさずに寝んなって言ってんだろ。」

いつも通りの会話に、足から力が抜けてヘナヘナ座り込む。

そんな俺に、蓮は慌てたように近付いて来た。

抱き上げてくれたその身体にギュッとしがみつく。

「おい、どうした?」

「ごめん、蓮。ごめん…。」

泣きそうになるのを堪えて謝ると、蓮が戸惑う気配を感じた。

「バイト…蓮の言った通りだった…。」

考えもなくバイトを安請け合いした反省。

意地になって必死に頑張ったけど、結局寝落ちして蓮に迷惑をかけてる事。

今日も約束してたのに、起きたらこんな時間で。

「呆れて出掛けちゃったのかと思って…。」

懸命に話す俺を抱いたままソファに座った蓮の肩口に、額を押し付ける。

「んな訳ねーだろ。疲れてるから寝かせてやろうと思ったんだよ。いなかったのは宅配の受け取り。」

ほんの少しリビングを留守にして戻って来たら、俺が大慌てしてた、と。

「恥ずか死ぬ…。」

グリグリと頭を押し付ける俺に、蓮が笑う。

「体調大丈夫か?」

優しい声音で言われて、少し身体を離して蓮の顔を見るて頷く。

「バイトの事はキツイ言い方した俺も悪かった。」

そう言われて首を横に振った。

「蓮にああやって言われないと、期限とか有耶無耶だったと思う。」

エリアマネージャーやパートさんとの遣り取りを話す。

「だから、3月までの辛抱だし、人が増えるから今より負担は減りそう!」

「それは良かったけどあと3ヶ月か…まぁまぁ長ぇな。」

「うん。でも、自分から言い出した事だから最後までちゃんとやり切るよ。」

蓮の眉間に寄った皺を指で伸ばしてながらそう言うと、諦めたような溜息が聞こえる。

「無理だけはすんなよ。」

「分かってる。それに冬休みもあるし!」

バイトはあるけど大学が休みなら家にいられる時間も増えるし。

「あー、その事で俺も晴に言おうと思ってたんだけどさ。」

蓮は気まずそうに俺を見る。

「冬休み、イタリア行く事になった。」

え…?

「悪い、晴はずっとバイトだと思ってたから、
陽子に仕事の手伝い頼まれて引き受けたんだよ。」

そんな…。

やっと仲直りできて、一緒にいられる時間が増えそうなのに。

どうして何も聞かずに決めちゃうんだよ。

沸々と込み上げそうになる怒りを必死で抑える。

いやいや、元はと言えば2人でいる時間が減ったのは俺の所為で。

しかも、それを勝手に決めたのも俺で。

自分を棚に上げて蓮を責めるなんて理不尽もいい所だ。

それは分かってる、けど…。

俯く俺の背中を、蓮の手が撫でる。

「やっぱ陽子に日程調整してもらうわ。なるべく晴が1人にならないように組み直す。」

そっか、蓮母ならきっとそれでOKしてくれる。

そんなズルい考えと、でも仕事なのに…と言う考えが俺の中でせめぎ合う。

そして、連絡しようとスマホに伸ばした蓮の腕を掴んだ。

「行って来なよ。変更なんてしたら蓮母にも会社の人にも迷惑かかっちゃうだろ?
俺は1人でも大丈夫だからさ!」

留守番くらいできるし、と態と口を尖らせる。

それでもなお迷った様子を見せていた蓮は、お土産を強請る俺を見て眉を下げた。

「分かった、めちゃめちゃ買って来るから楽しみにしとけよ。」

そう言って軽くキスされて。

「やった!て言うか、めっちゃ腹減った!
蓮、昼飯もう食べた?」

話しを変えると、蓮がキッチンからオードブルを持って来てくれた。

どうやら、さっき受け取ってたのはこれらしい。

高級ホテルの刻印が入ったケースから出てきたのは、それはもう豪華な料理達。

久しぶりに向かい合って食べる食事は、本当に楽しくて。

「マジで美味しかった!蓮、ありがとう!」

でも、お会計幾らだったんだろ…。

俺もバイト代があるし、半分出させてもらおう。

そう思って開いた口から言葉は出なかった。

「…ンッ…あっ…」

代わりに出たのは、鼻にかかったよう甘い吐息。

「礼はデザートで貰うから。」

俺の唇を解放した蓮が耳元で囁くと、部屋着の中にスルリと手が入ってくる。

デザートって、つまり…。

意味を察して真っ赤になる俺を見て、蓮がニヤリと笑う。

「久しぶりだから、沢山喰っていいよな?」

横抱きにされてベッドに運ばれた俺に、抵抗なんてできる筈もなく。

ひたすら甘い喘ぎ声を上げて、宣言通り何度も貪られて。


ゆっくり落ちていく夢の中で、少しだけ思う。

蓮にイタリアに行ってほしいと思ったのは、本心。

俺の我儘で、周りに迷惑をかけちゃダメだから。

だけど、一緒にいたいと騒ぐもう一つの本心を押さえ付けたのも、事実で。

『我慢するけど、本当は離れたくない。寂しいから早く帰って来て。』

それだけでも、伝えたかった。

でも、そんな束縛みたいな事言っちゃダメだ。



だって、そんな事言わないから。

遥なら、きっとーー。








結局、蓮がイタリアから帰国したのは冬休みが終わる前日の事だった。

流石に疲れた様子の蓮のお土産は、抱えきれない程のブランド品とお菓子。

そして、もう一つの特大ニュース。

「翔が入籍した。」

ニューセキ?New席?乳石?にゅうせき?

入籍…つまり、結婚…?


「えぇぇぇぇぇ!?」





●●●
あと少しで視点が変わります。






















どうしても気になる遥の存在。
他の女には動じなくなったのにねぇ。。

さてさて、モテメン翔のお相手は?









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