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高校生編side蓮
43.恋の終着
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修学旅行も終盤に入った最後の自由行動日、俺と晴は祖父母の家へ向かっていた。
「今だけ。家近くなったら離すから。」
なんて言って恋人繋ぎした俺の手を、晴は戸惑いつつも許してくれる。
日本人がいないこの環境、最高だな。
「可愛い。キスしてぇ。」
途端に赤くなって離れようとする晴に冗談だと笑いながら、2人きりの旅を満喫した。
「久しぶりだなぁ!レン!ほら、おいで!」
駅まで迎えに来た祖父が晴と抱擁するのを見守っていたら、遠慮なく俺もハグされた。
楽しそうな祖父と晴の会話に自然と笑みが溢れる。
やっぱり萱島家は俺の癒しでしかない。
車で家に向かうと、パワフルな祖母からも熱烈な歓迎を受けた。
「ほぉ!蓮はフランス語分かるのか!」
晴に通訳する俺を見て祖父が驚くが、俺にとっては当たり前の範囲だ。
「そう!蓮ってば凄いんだよ!学校行く前のちょっとの時間に父さんに習ってただけなんだから!」
何故か得意そうに言う晴。
「何でハルが威張ってるんだ?」
「ほんそれ。」
苦笑しながらペシッと額を叩くと、晴はそこを押さえながら満面の笑みで続けた。
「アテッ!だって蓮が誉められんの嬉しいじゃん!」
その言葉に一瞬反応できなかった。
「……あっそ。」
返したのは、それだけ。
でも、胸の奥がじんわり暖かい。
周りからも自分自身も「できて当然」だと思うそれを、晴は正統に評価してくれる。
いつも、自分の事のように喜んでーー。
「うん、そうかそうか。なら良し!」
満足そうな祖父だけがきっと、俺の内心を察していたと思う。
その後はリビングに移動して、質問攻めされながら和やかな時を過ごした。
ランチを作る祖母を手伝っていると、キッチンの小窓から外でベリーを収穫する晴が見える。
『晴がたくさん辛い思いをしたって憲人から聞いて心配してたの。でも、元気そうで安心したわ。
きっと蓮のお陰ね。』
そう言って微笑む祖母に、俺は首を横に振った。
『立ち直ったのは晴の力だよ。…俺は何もしてやれなかった。』
悔しさに奥歯を噛み締める。
『そんな事ないわ。私には分かるのよ、晴が心の底から蓮を信頼してるって事が。
そんな相手って、辛い時傍にいてくれるだけでいいものよ。』
それでも硬い表情の俺の頬を祖母が摘んだ。
『ほら、笑って。蓮だって晴が傍にいるだけで救われる事があるでしょう?晴だって一緒よ。』
その言葉にハッとする。
いつだって俺は晴の存在に救われっぱなしだ。
それと同じように、俺が晴の為になる事ができてるんだろうか。
『お互いにそう思える相手がいるのって、とても幸せな事よ。だから、決して離れちゃダメ。
2人で幸せになりなさい。』
穏やかなブルーの瞳に見つめられて、ぐっと喉が詰まる。
俯いて、それでも頷いた俺の肩を祖母が優しく叩いた。
『なんだか結婚するみたいねぇ。…まぁ、遠からずかしら?』
帰りを告げる晴の弾んだ声で掻き消された呟きは、俺の耳には届かなかった。
4人になった部屋で、身振り手振りを交えて会話する孫と祖母を眺める。
お互い言葉が分からないのに成立してるのは、やはり血の繋がりだろうか。
この2人は見た目でも共通点が多い。
目も髪も肌も、晴に綺麗な色を与えてくれたのはこの祖母だ。
そんな彼女がかけてくれたさっきの言葉は、俺の心のわだかまりを溶かした。
誰よりも大切な相手に何もしてやれなかった不甲斐なさは、ずっと心の奥にあって。
だけど、晴が少しでも俺に救われる部分があるのなら。
ずっと傍にいて守る。
そう改めて心に誓う。
俺が見ている事に気付いたのか、晴がフワリと笑って。
その表情がどこかスッキリしている事に気が付いた。
祖父も晴を心配していたようだから、2人で外に出た時何か話したのかもしれない。
余裕ができたら、俺の告白への返事も考えてくれるといいんだが…。
触れる事を許されていると感じる度に、答えを求めてしまいたくなる。
向かい合って2人で熱を吐き出す時に強請られるキスも、何度も俺を呼ぶ声も。
快楽の所為だと自分に言い聞かせながらも、どうしても期待が止められなくなる。
ほら今も、こうやって無防備に寄って来る所とかな。
「おい、なに人の顔見てニヤニヤしてんだよ。」
少し恨めしくて、肩が触れそうな程近くにきた晴にデコピンを喰らわせた。
「なっ、なんでも⁉︎てかそれ蓮が作ったの?」
何故か動揺しつつも、俺が手伝った料理に目を瞬かせる。
「下拵えは終わってたんだよ。俺はグランマの言う通りに仕上げしただけ。」
マジでそれだけなのに、何でお前はそんなキラキラしてんだ。
「だって蓮、料理しないだろ?それでこのレベルって…!才能ありすぎ!日本帰ったら父さんの手伝いは任せた!」
「煽てて押し付けようとすんな。
あ、コラ!食うなバカ!」
それなりにこだわった盛り付けを崩されて抗議する。
「んまー!蓮天才!お願い、もう一個!」
馬鹿じゃねーの、そんな言い方したって…
…まぁ、一個くらいならやってもいいけど。
てか、口開けて待ってるとかあざとすぎじゃね?
秒速で陥落した自分を棚に上げて心の中でツッコむ。
ただ、晴の凄いところはこれを天然でやる所だ。
それは、計算の無い褒め言葉もそうで。
何でも無いような事でも、隣に晴がいるだけでこんなにもーー。
顔を覗き込んできて、嬉しそうにしたり謎に赤くなったりするその姿に笑みが溢れる。
そんな俺達を、祖父母が優しく見守っていた。
「え、これ新幹線みたいなもん?45分で着くってよ!」
祖父が用意してくれた帰りの電車のチケットに晴が驚いている。
それに合わせて俺も驚くふりをしたが、行きに2時間かけたのは態とだ。
できる限り長く2人の時間を過ごしたくて。
ただ、帰りは早く着けば街を散策できる。
その提案に乗った晴の手を引いて歩いていると、何度も歩いた事のある道の景色が全く違って見えるから不思議だ。
興味津々ではしゃぐ晴が人にぶつからないようにさり気なく誘導していると、ふいに男が話し掛けて来た。
『君達、ペアのアクセサリー見て行きなよ!』
急な事に身体を硬らせる晴を、通訳して安心させる。
「俺達がカップルに見えて勧めてんだろ。」
最高かよフランス。
連れられて入った店内のハンドメイドアクセサリーはどれもセンスがいい。
晴に似合う物を物色していると、店員らしき女が出てきて晴に話しかける。
警戒しながら観察していたが、どうやら害は無さそうだ。
恐らく、今俺の接客をしてる男のパートナーだろう。
『これなんかカップルで付けるのにオススメだよ。あ、でも君のパートナーには少しゴツいかもね。』
正確に晴を捉えて言う店員には、俺達が恋人に見えているらしい。
何度でも言おう、最高だなフランス。
男同士である事への偏見も嫌悪感も微塵も感じない。
全員がこうとはいかないのは理解しているが、日本よりずっと過ごしやすいだろう。
この国ならば、以前の様に晴が嫌な思いをする事も少ない筈だ。
もし俺の気持ちを受け入れて貰えたら…ゆくゆくは海外に移住する事も視野に入れている。
伝手もコネもあるし、何なら起業したっていい。
何処の土地だろうと、平均より裕福な暮らしをさせてやれるだけの自信はある。
無駄に高い俺の語学スキルだって、その為にあると言っても過言では無い。
返事も貰えていない状態でこんな発想をする自分に引きつつも、真剣に考えている。
まだまだ、先は長そうだけどな…。
「晴、これどう?」
随分悩んだ末に選んだシンプルなネックレスは、晴の好みに合ったらしい。
白い肌に映えるそれを買おうとすると、慌てた晴に止められる。
「俺があげたいんだよ。」
本当はペアの何かをとも思ったが、それだと物理的じゃない意味で重くて、晴が身に付けにくいかもしれない。
だからせめて、俺が買った物を付けて欲しかった。
それも勝手な独占欲だと、分かってはいるけれど。
内心で自嘲しながら買った物を受け取る俺に、店員が近くの教会を勧めてきた。
『渡すならそこがオススメ!ロマンティックだし2人っきりになれるよ!』
ウィンクされたその言葉は伝えず、『綺麗な教会』に乗り気になった晴とそこへ向かう。
辿り着いた無人の小さな教会は、建築様式からして建てられて50年くらいだろうか。
一見ひっそりと佇んでいるが、中に入ると驚く程綺麗だ。
太陽に煌めくステンドグラスと、手入れの行き届いた室内。
人々に大切にされているこの教会が、目の前で感嘆の声を上げている姿と何処か重なる。
「晴、これ。」
さっき買ったネックレスを、腕を回してその首に付けた。
印を付けておかなければ、偶々現れた人間にその魅力を知られてしまいそうで。
「ん。似合う。」
嵌め込まれた小さなアクアマリンは、3月の誕生石だ。
「…ありがと、蓮。
あのさ、俺からもあるんだ…これ。」
白い肌を彩るそれに満足していた所で、思いがけない事を言われた。
「マジで?いつの間に買ってたん?」
俺が会計をしている時だろうか。
差し出された包みの中身を見て、思わず手を止める。
それは、片耳ずつ付けるペアのピアスだった。
「…俺さ、高校卒業したら穴開けるから…そしたらそれ一緒に付けられるだろ?
…それでその…ピアスホール、蓮に開けて欲しいんだけど…。」
驚きすぎて言葉を失っていると、晴が不安そうに体を揺らした。
「ダ、ダメ?「全然ダメじゃない。俺がやる。」
思わず食い気味に答える。
ダメな訳ねぇだろ。
晴からの未来の約束は、いつだって俺の行く道を照らす。
しかも、揃いのピアスと言うのはお互いをある意味では縛る物だ。
「マジで嬉しいわ…。晴の瞳の色だな。」
青に黒を一滴垂らしたような、ブルーグレーの石のピアス。
「俺が世界で一番好きな色。ありがとな、晴。」
そう言って頬を包むと、晴が息を呑んだ。
「晴?」
俺の手に自分の手を重ねた晴が俯く。
そして顔を上げると、
決然とした表情で言った。
「好きだよ、蓮。」
「待たせてごめん。俺も、蓮が好き。」
世界から 音が 消えた
●●●
サイド晴人94~97話辺りの話しです。
side晴人の方では悩む晴人をじいちゃんが助けてくれましたが、蓮の方もグランマから助言を貰ってました。
蓮が素直に意見を聞くのは、どこかに「晴」を感じてしまうから。
因みに蓮が弱い萱島家ランキング↓
晴人>>>>>>憲人>>じいちゃん>>>グランマ>>>美香
晴は母親とあんまり似てない事が分かりますね笑
ようやくここまで来た…!
次回はR18と帰国後のアレコレです。
「今だけ。家近くなったら離すから。」
なんて言って恋人繋ぎした俺の手を、晴は戸惑いつつも許してくれる。
日本人がいないこの環境、最高だな。
「可愛い。キスしてぇ。」
途端に赤くなって離れようとする晴に冗談だと笑いながら、2人きりの旅を満喫した。
「久しぶりだなぁ!レン!ほら、おいで!」
駅まで迎えに来た祖父が晴と抱擁するのを見守っていたら、遠慮なく俺もハグされた。
楽しそうな祖父と晴の会話に自然と笑みが溢れる。
やっぱり萱島家は俺の癒しでしかない。
車で家に向かうと、パワフルな祖母からも熱烈な歓迎を受けた。
「ほぉ!蓮はフランス語分かるのか!」
晴に通訳する俺を見て祖父が驚くが、俺にとっては当たり前の範囲だ。
「そう!蓮ってば凄いんだよ!学校行く前のちょっとの時間に父さんに習ってただけなんだから!」
何故か得意そうに言う晴。
「何でハルが威張ってるんだ?」
「ほんそれ。」
苦笑しながらペシッと額を叩くと、晴はそこを押さえながら満面の笑みで続けた。
「アテッ!だって蓮が誉められんの嬉しいじゃん!」
その言葉に一瞬反応できなかった。
「……あっそ。」
返したのは、それだけ。
でも、胸の奥がじんわり暖かい。
周りからも自分自身も「できて当然」だと思うそれを、晴は正統に評価してくれる。
いつも、自分の事のように喜んでーー。
「うん、そうかそうか。なら良し!」
満足そうな祖父だけがきっと、俺の内心を察していたと思う。
その後はリビングに移動して、質問攻めされながら和やかな時を過ごした。
ランチを作る祖母を手伝っていると、キッチンの小窓から外でベリーを収穫する晴が見える。
『晴がたくさん辛い思いをしたって憲人から聞いて心配してたの。でも、元気そうで安心したわ。
きっと蓮のお陰ね。』
そう言って微笑む祖母に、俺は首を横に振った。
『立ち直ったのは晴の力だよ。…俺は何もしてやれなかった。』
悔しさに奥歯を噛み締める。
『そんな事ないわ。私には分かるのよ、晴が心の底から蓮を信頼してるって事が。
そんな相手って、辛い時傍にいてくれるだけでいいものよ。』
それでも硬い表情の俺の頬を祖母が摘んだ。
『ほら、笑って。蓮だって晴が傍にいるだけで救われる事があるでしょう?晴だって一緒よ。』
その言葉にハッとする。
いつだって俺は晴の存在に救われっぱなしだ。
それと同じように、俺が晴の為になる事ができてるんだろうか。
『お互いにそう思える相手がいるのって、とても幸せな事よ。だから、決して離れちゃダメ。
2人で幸せになりなさい。』
穏やかなブルーの瞳に見つめられて、ぐっと喉が詰まる。
俯いて、それでも頷いた俺の肩を祖母が優しく叩いた。
『なんだか結婚するみたいねぇ。…まぁ、遠からずかしら?』
帰りを告げる晴の弾んだ声で掻き消された呟きは、俺の耳には届かなかった。
4人になった部屋で、身振り手振りを交えて会話する孫と祖母を眺める。
お互い言葉が分からないのに成立してるのは、やはり血の繋がりだろうか。
この2人は見た目でも共通点が多い。
目も髪も肌も、晴に綺麗な色を与えてくれたのはこの祖母だ。
そんな彼女がかけてくれたさっきの言葉は、俺の心のわだかまりを溶かした。
誰よりも大切な相手に何もしてやれなかった不甲斐なさは、ずっと心の奥にあって。
だけど、晴が少しでも俺に救われる部分があるのなら。
ずっと傍にいて守る。
そう改めて心に誓う。
俺が見ている事に気付いたのか、晴がフワリと笑って。
その表情がどこかスッキリしている事に気が付いた。
祖父も晴を心配していたようだから、2人で外に出た時何か話したのかもしれない。
余裕ができたら、俺の告白への返事も考えてくれるといいんだが…。
触れる事を許されていると感じる度に、答えを求めてしまいたくなる。
向かい合って2人で熱を吐き出す時に強請られるキスも、何度も俺を呼ぶ声も。
快楽の所為だと自分に言い聞かせながらも、どうしても期待が止められなくなる。
ほら今も、こうやって無防備に寄って来る所とかな。
「おい、なに人の顔見てニヤニヤしてんだよ。」
少し恨めしくて、肩が触れそうな程近くにきた晴にデコピンを喰らわせた。
「なっ、なんでも⁉︎てかそれ蓮が作ったの?」
何故か動揺しつつも、俺が手伝った料理に目を瞬かせる。
「下拵えは終わってたんだよ。俺はグランマの言う通りに仕上げしただけ。」
マジでそれだけなのに、何でお前はそんなキラキラしてんだ。
「だって蓮、料理しないだろ?それでこのレベルって…!才能ありすぎ!日本帰ったら父さんの手伝いは任せた!」
「煽てて押し付けようとすんな。
あ、コラ!食うなバカ!」
それなりにこだわった盛り付けを崩されて抗議する。
「んまー!蓮天才!お願い、もう一個!」
馬鹿じゃねーの、そんな言い方したって…
…まぁ、一個くらいならやってもいいけど。
てか、口開けて待ってるとかあざとすぎじゃね?
秒速で陥落した自分を棚に上げて心の中でツッコむ。
ただ、晴の凄いところはこれを天然でやる所だ。
それは、計算の無い褒め言葉もそうで。
何でも無いような事でも、隣に晴がいるだけでこんなにもーー。
顔を覗き込んできて、嬉しそうにしたり謎に赤くなったりするその姿に笑みが溢れる。
そんな俺達を、祖父母が優しく見守っていた。
「え、これ新幹線みたいなもん?45分で着くってよ!」
祖父が用意してくれた帰りの電車のチケットに晴が驚いている。
それに合わせて俺も驚くふりをしたが、行きに2時間かけたのは態とだ。
できる限り長く2人の時間を過ごしたくて。
ただ、帰りは早く着けば街を散策できる。
その提案に乗った晴の手を引いて歩いていると、何度も歩いた事のある道の景色が全く違って見えるから不思議だ。
興味津々ではしゃぐ晴が人にぶつからないようにさり気なく誘導していると、ふいに男が話し掛けて来た。
『君達、ペアのアクセサリー見て行きなよ!』
急な事に身体を硬らせる晴を、通訳して安心させる。
「俺達がカップルに見えて勧めてんだろ。」
最高かよフランス。
連れられて入った店内のハンドメイドアクセサリーはどれもセンスがいい。
晴に似合う物を物色していると、店員らしき女が出てきて晴に話しかける。
警戒しながら観察していたが、どうやら害は無さそうだ。
恐らく、今俺の接客をしてる男のパートナーだろう。
『これなんかカップルで付けるのにオススメだよ。あ、でも君のパートナーには少しゴツいかもね。』
正確に晴を捉えて言う店員には、俺達が恋人に見えているらしい。
何度でも言おう、最高だなフランス。
男同士である事への偏見も嫌悪感も微塵も感じない。
全員がこうとはいかないのは理解しているが、日本よりずっと過ごしやすいだろう。
この国ならば、以前の様に晴が嫌な思いをする事も少ない筈だ。
もし俺の気持ちを受け入れて貰えたら…ゆくゆくは海外に移住する事も視野に入れている。
伝手もコネもあるし、何なら起業したっていい。
何処の土地だろうと、平均より裕福な暮らしをさせてやれるだけの自信はある。
無駄に高い俺の語学スキルだって、その為にあると言っても過言では無い。
返事も貰えていない状態でこんな発想をする自分に引きつつも、真剣に考えている。
まだまだ、先は長そうだけどな…。
「晴、これどう?」
随分悩んだ末に選んだシンプルなネックレスは、晴の好みに合ったらしい。
白い肌に映えるそれを買おうとすると、慌てた晴に止められる。
「俺があげたいんだよ。」
本当はペアの何かをとも思ったが、それだと物理的じゃない意味で重くて、晴が身に付けにくいかもしれない。
だからせめて、俺が買った物を付けて欲しかった。
それも勝手な独占欲だと、分かってはいるけれど。
内心で自嘲しながら買った物を受け取る俺に、店員が近くの教会を勧めてきた。
『渡すならそこがオススメ!ロマンティックだし2人っきりになれるよ!』
ウィンクされたその言葉は伝えず、『綺麗な教会』に乗り気になった晴とそこへ向かう。
辿り着いた無人の小さな教会は、建築様式からして建てられて50年くらいだろうか。
一見ひっそりと佇んでいるが、中に入ると驚く程綺麗だ。
太陽に煌めくステンドグラスと、手入れの行き届いた室内。
人々に大切にされているこの教会が、目の前で感嘆の声を上げている姿と何処か重なる。
「晴、これ。」
さっき買ったネックレスを、腕を回してその首に付けた。
印を付けておかなければ、偶々現れた人間にその魅力を知られてしまいそうで。
「ん。似合う。」
嵌め込まれた小さなアクアマリンは、3月の誕生石だ。
「…ありがと、蓮。
あのさ、俺からもあるんだ…これ。」
白い肌を彩るそれに満足していた所で、思いがけない事を言われた。
「マジで?いつの間に買ってたん?」
俺が会計をしている時だろうか。
差し出された包みの中身を見て、思わず手を止める。
それは、片耳ずつ付けるペアのピアスだった。
「…俺さ、高校卒業したら穴開けるから…そしたらそれ一緒に付けられるだろ?
…それでその…ピアスホール、蓮に開けて欲しいんだけど…。」
驚きすぎて言葉を失っていると、晴が不安そうに体を揺らした。
「ダ、ダメ?「全然ダメじゃない。俺がやる。」
思わず食い気味に答える。
ダメな訳ねぇだろ。
晴からの未来の約束は、いつだって俺の行く道を照らす。
しかも、揃いのピアスと言うのはお互いをある意味では縛る物だ。
「マジで嬉しいわ…。晴の瞳の色だな。」
青に黒を一滴垂らしたような、ブルーグレーの石のピアス。
「俺が世界で一番好きな色。ありがとな、晴。」
そう言って頬を包むと、晴が息を呑んだ。
「晴?」
俺の手に自分の手を重ねた晴が俯く。
そして顔を上げると、
決然とした表情で言った。
「好きだよ、蓮。」
「待たせてごめん。俺も、蓮が好き。」
世界から 音が 消えた
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side晴人の方では悩む晴人をじいちゃんが助けてくれましたが、蓮の方もグランマから助言を貰ってました。
蓮が素直に意見を聞くのは、どこかに「晴」を感じてしまうから。
因みに蓮が弱い萱島家ランキング↓
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