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高校生編side蓮 

42.フランス

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突然だが、俺は今焦っている。

その原因となる人物は…まあ、いつも通りだ。

寝癖でフヨフヨ揺れるアッシュブラウンの髪を指で整えてやった俺に対しての言葉が「どーも。」って…。

しかも真顔。


クソ、昨日までは全てが順調だったのに。

フランスの地に俺の深い溜息が響き渡った。




高校の修学旅行は、フランスへ1週間の旅だ。

ガキの頃から何度も渡仏している身としては特に面白味もないが、いい面もある。

『蓮もじぃちゃんの孫になればいいじゃん』なんて幼い晴の言葉通り、俺を気にかけてくれる晴の祖父母に会える事だ。

血族である霊泉家がゴミカスなら、晴を育んだ萱島家は俺にとって至高の存在であり、特に祖父・父・息子の3人が並ぶと、そこには癒ししかない。

郊外にある萱島家までの道のりを晴と二人きりで過ごせるのも最高だ。

それと、特進クラスは宿泊ホテルが一人部屋なのもいい。

『修旅前だから頻度増やした方がいいだろ』なんて言い包めて、この数日は毎日晴と抜き合っていた。

何かしら理由をつけて部屋に連れ込めば、俺によって快楽を覚えさせられた晴は流されてくれるだろう。

部屋決めの際、を引き受ける条件で壁とリネン室に挟まれた部屋を勝ち取ったから声が漏れる心配も無し。

日本でやってる以上の行為をするつもりは無いが、親を気にする必要の無い環境なら、いつもより乱れる晴が見られるかもしれない。


そんな邪心を抱きつつ、俺は日本を発った訳だがーー。


トラブルの発端となったのは、現地生徒との交流会だった。

各グループ10人に分れて交流を図るそれは、特進だけテーマが決められている。

『今後の両国の友好について』

クソ程ダルイが、俺には真面目に取り組まなければならない理由があった。

「蓮がリーダーに立候補するとか!確かにあの部屋は静かそうでいいけどさ、俺には無理だわ!」

同じグループになった白田がヘラヘラ笑う。

そう、部屋決めの時に引き受けたある事とは、このグループディスカッションのリーダーである。

普段だったら死んでも御免だが、俺には引けない理由(邪心)があった。

能天気に笑う白田と対象的に、じっとりした目を向けて来るクロをスルーして本題に入る。

『友好と言っても文化的、経済的、政治的等様々だろう?それをディスカッション?君達は僕達の言葉も分からないのにか?』

開口一番つっかかって来た野郎を初め、フランスの生徒達は俺達と同等レベルの学力らしい。

特進こっちで日常会話以上にフランス語が話せるのは俺と赤嶺だけだが、相手側も日本語に関してはそんなもんだろう。

「こいつダルくね?」と言う目を向けて来る赤嶺に頷くと、ふとクロが別の方向を見ている事に気付いた。

その先にいたのは晴…と、その肩を組むフランス人(男)だった。

は?何触ってんだよ。

思わず腰を浮かせた俺の視線の先で、中野がその腕をやんわりと解かせている。

何やら盛り上がるそのグループに気付いたのか、俺の隣の生徒が呟く。

『アランって日本のアニメオタクなのよね。』

晴の肩を組んでいたソイツは、今は小学生みたいに必殺技のポーズを繰り出している。

全くもって下心は無さそうだが…腹が立つもん立つ。


触るな。

触らせるな。


今すぐ割り込みたいが、巡回の教師がこっちを見ていてそれは出来ない。

こうなったら一刻も早く終わらせるしかない。

その為にはまず、ウッゼェ奴を黙らせる。

『俺は君達とディスカッションができるなんて光栄だと思ってるよ。ただ、そうだな。言葉に関しては国際会議でも使われる英語がベストだと思う。
君が英語を理解できるならだけど。』


『理解できるに決まってるだろう!ただ、フランス語ができないからって逃げるのはそっちの程度が知れるけどな!』

顔を赤くしていきり立つウザ野郎を尻目に、俺が半数いる女子達に笑顔を向けると彼女達は頷いた。

『きゃー!笑顔やば!英語でいいわよ!それに貴方のフランス語の発音とても素敵だわ!』

『ありがとう。フランスの女性は美しくて聡明だって言うのは本当だね。』

『やば!イケメンすぎる!ユーゴ、黙ってなさいよ!せっかくの交流で敵対するなんてアンタこそ程度が知れるじゃない!』

よし、これで英語に切り替える事に成功したし女子を味方につける事もできた。

 ついでに、糾弾されて悔しそうに俺を睨み付ける野郎にも笑顔を向けてやる。

『友好についての君の考えは正しいと思う。俺達はそれらの観点からディスカッションする必要があるな。ユーゴ、まず君の意見を聞かせてくれるか?』

肯定して自己顕示欲を満たしてから、名前を呼んで一気に距離を縮める。

『ふ、ふん!そんなに僕の意見が大事なら良く聞くんだな!まずはーー。』

「レア笑顔こっわ!」
「人心掌握エグくね?掌で転がしてんじゃん。」
「これが帝王学ってやつなん?」

ボソボソ聞こえる日本語を無視してどんどん話し合いを進めていく。

全ては、晴の元へ向かう為にーー。



結果、どちらからも意見がバンバン出てディスカッションは白熱した。

オイ、急にやる気出し過ぎだろ特にフランス側…そーゆーのいらねぇんだって。

ようやく終わった頃には、他のグループは軒並み解散していた。

晴の姿を探すが見当たらない。

観光バスに戻ったのか確認しようと歩き出すと、女子達から足止めをくらった。

『レン!素晴らしいリーダーシップだったわ!』

『私レンがすっごくタイプ!恋人はいるの?』

 円滑化の為愛想を振り撒きすぎたのか、腕に手を絡められてベタベタ触られる。

「うわ、蓮のモテっぷりワールドクラスすぎ!」

遠巻きにしてヘラヘラしてる日本勢、後で覚えとけよ。

違うグループの女達も群がって収集が付かなくなった時、少し離れた所にいるブルーグレーの瞳と目が合った。

ここにいるどの瞳よりも綺麗な、俺の唯一。

名前を呼ぼうとして固まる。

間違いなく俺を認識したはずの晴が、何も言わずクルリと背を向けてバスに向かって行く。

一瞬呆然として、ハッと自分の状態を思い出した。

もしかして、誤解されたのか?

「晴!」

らしくなく大声を出すが、晴はもうバスに乗り込んでしまった。

『ねぇ、行かないでレン!私たち運命だと思うの!』

晴だけを真っ直ぐに見つめていた俺は、誰かが言った言葉に反射的に返した。

『俺の運命はアイツだ!生まれた時からずっと!』

晴の背を指差すと、周りがどよめく。

『まじ!?生まれた時からって超素敵!』

その隙に目線を走らせると、こっちを見る中野と視線が絡む。

俺から中野に対するアイコンタクトは常に「晴を頼む」一択だから伝わった筈だ。

『ほら、お前ら相手にされてない事を認めろよ!
 今すぐ集合しないと宿題増やすって先生が言ってから早くしろ、迷惑だ!』

違う意味で騒ぎ出した女子達を解散させたのは、ウザ野郎…改めユーゴだった。

『…悪い、助かった。』

『ま、まぁ、君とのディスカッションは悪く無かったからな!』

一部始終を見ていたのか、彼は俺の肩をポンと叩いた。

『君の運命と話しあえば大丈夫だ。僕もエマとは良く喧嘩するが最後には分かり合える。』

『エマ?』

『僕の婚約者だ。』

婚約者いんのか、お前…。

『頑張れよ!いつかまたな!』

そう言って去って行くユーゴと入れ代わりにクロ達がのんびりと歩いて来た。

「あれ?蓮、何かあった?ハーレムは解散?」

ヘラヘラ笑う奴らに、額に青筋が立つのを自覚する。

ユーゴの爪の垢でも煎じて来いクソ野郎共が。



 
その後晴とは会えず、苛立ちながら迎えた翌日。

つまり今日、事態は悪い方に転がっている。

朝一で昨日の誤解を解こうとする俺に、晴はキッパリ言った。

「大丈夫。気にしてないから。」

珍しくシャットアウトする様な言い方に焦る。

怒ってる…これは、かなり。

事実はどうあれ、晴にとって昨日の俺は、自分に告白して来たくせに女子にベタベタされるのを享受する不誠実な奴に見えただろう。

いや、逆に「どうでもいい」のか?

それはそれでショックだが、どちらにしろ俺にとっては大問題だ。

唯一救いがあるとすれば、これがヤキモチと言うパターンだが…それは希望的観測だろう。

とにかく、名誉挽回しなくては。

そして冒頭のように何かと世話を焼こうとするが、返って来る反応は全て芳しくない。

俺達のやり取りをニヤニヤして見ているクロと中野に腹が立つ。

が、恨みの篭った圧を放ち続ける俺に辟易したのか、クロが中野を連れて離れて行った。

好機を逃すまいと、憲人さんの土産を選ぶのを理由に、やや気まずそうな晴の手を引く。

さっき見つけた豆皿を売る店に着くと、思わずと言った感じで晴が笑った。

「絶対好きなやつ!お土産これに決まり!タオルとかで包めば割れないよね?」

やっと向けてくれた視線に息を吐いて、髪を撫でて頬を触っても嫌がられない事に心から安堵する。

『日本人かな?』

皿の作家らしき男が話しかけて来て応えると、彼は嬉しそうに2枚追加して来た。

『記念にあげるよ!日本の桜だよ!』

それを説明すると、晴が喜んだ。

「そっか。見る度に今日二人でここに来た事思い出しそうだな!」

そんな風に言われたら、昨日からずっと焦っていた事も何もかも吹き飛んでしまう。

晴が俺との思い出を喜んでくれる事が嬉しくて、思わず頬に口付けた。

ボッと赤くなる晴を「フランスだから」と宥めながら笑いが止まらない。

ずっと繋ぎっぱなしだった手を指摘されて渋々離すと、今買った豆皿の紙袋の持ち手を片方奪われた。

大して重くもない物を二人で一緒に持つこれは、手を繋ぐより余程カップル感が強い気がする。

もう一度晴の頬を狙った俺は、ベチッと顔を手で止められた。

「ス、ストップ!」

「チッ」

ノリでいけるかと思ったのに。

「ふはっ。あはは!」

俺の表情を見た晴が笑い出して、つられて笑った。


その言動の全てに振り回されている自分は、余裕ゼロで相当ダサイと思う。

だけど、お前が傍にいるならそれすらも幸福だ。



●●●
side晴人93話辺りの話しです。















クロは蓮がリーダーをやってまで角部屋を確保した理由に薄々勘づいてます。笑

現在堕天使にならず特進に残ってる生徒は、全員英語での日常会話が可能。
因みに蓮は↓な感じ。

ネイティブレベル…英語

日常会話以上…フランス語

日常会話レベル…スペイン語・ドイツ語・中国語

話せないけど意味は分かる…ヒンドゥー後

 
世界中何処でも生きていけるね。












































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