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高校生編side蓮
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翌朝、欠伸をしながら萱島家の客間から出ると、自分の部屋から出てきた晴と鉢合わせた。
「えっ⁉︎蓮?」
おい、何驚いてんだよ。
『明日休みじゃん!蓮、アベンジャーzu観よ!』ってお前が誘うから昨日泊まりになったんだろうが。
まあ、見終わってからの楽しみがあるから俺は了承したんだけどな。
真剣な顔で昨日の記憶を辿っている晴を眺める。
「おはよ。身体大丈夫か?」
『トニーが生きてるっぽいよなって話して…』と、映画の内容までは遡れたらしい晴にヒントを出す。
それに首を傾げた晴が、やがてそのまま止まり…みるみる真っ赤に染まった。
「覚えてんだな?」
「お、覚えてない…」
ニヤリと笑う俺と目を合わせないのが覚えてる証拠だ。
拙い動きながらも最高だったそれを思い出しながら揶揄うと、狼狽える晴の腰が抜けた。
昨日はあんなに大胆だったのに、話しだけでこれとは…ギャップがエグい。
忘れてくれと懇願されるがそれはできない相談だ。
「死ぬほど可愛かったから。あれは永久保存。」
額にキスして、晴を縦抱きにしてリビングへ向かう。
「や、やめてぇぇぇぇぇ!!」
顔を隠して叫ぶ晴の真っ赤な耳と首筋を見詰めながら、最高の朝に笑いが止まらなかった。
それ以来フェラはしてくれないが、俺達の抜き合いは続いていて。
感じまくって涙目で縋りついてくる姿を見ると、どうしても期待してしまう。
告白の返事を急かすつもりは無いが…晴が自覚してないなら言ってしまいたい。
『お前、俺の事好きだからこう言う事できんじゃねぇの?』
確信と自意識過剰を行ったり来たりしながら日々は過ぎ、今日は晴の誕生日だ。
あの事件以来初のイベントだから、思い切り晴を喜ばせて元気付けたい。
放課後、クロと中野と一緒にカラオケで祝って(正直邪魔だが晴が嬉しそうだったから許容した)帰りに2人きりになった所でプレゼントを渡す。
過去に晴が欲しがっていた物の記憶は脳内に別枠で保存されていて、その中からバックパックとパーカーをチョイスした。
1つ目を開封して大喜びした所で2つ目を渡すと、驚きに目を丸くしながらも飛び跳ねていて。
弾けるような笑顔に胸を射抜かれつつ。久しぶりに見れたそれに胸を撫で下ろす。
こうやって嬉しい事や楽しい事で、嫌な記憶を忘れさせてやるからな。
身体だけじゃなく、心も俺が上書きしたい。
そんな風に思っていると、晴が尋ねてきた。
「…なぁ、蓮は誕生日何が欲しい?」
俺達の誕生日は10日しか変わらない。
下手したら学年が違う可能性もあったのかと思うと、晴の母親に感謝したくなる。
…てか、俺が欲しい物って何だ。
某ブランドのトレンチコート、スイス製の時計、プラチナのイヤーカフ…。
いや違ぇな、これ全部俺が晴に買いたい物だわ。
晴に関する物欲は留まる所を知らないが、自分自身の事となると別だ。
正直、大抵の物は手に入る家庭環境な所為で殆ど無いに等しい。
それに晴から貰えるなら、もっと特別な何かが欲しい。
ストームグラスもそうだったが、晴が俺の事を考えてくれた時間が何より嬉しかった。
だからそう言う…あっ。
「晴の作った飯が食いたい。」
思い付いていうと、晴は目を丸くした。
「え?俺が貰った物との落差ヤバくない?それでいいの?」
「それがいい。」
戸惑う晴にハッキリ答える。
晴が唯一作れる卵焼きは、いつも「家族の食卓」の為の物だ。
俺だけの為に、俺の事だけを考えて作って欲しい。
そんな独占欲を孕んだ思いは伝わって無い筈だが、晴は了承してくれた。
こんなに誕生日が楽しみなのは初めてだ。
高2になった事を自覚する間もないまま、俺は17歳になった。
柄にもなくソワソワしながら迎えた当日だったが、学校の方は散々だ。
朝、校門の前に他校の女共が待ち構えていて、俺の姿を見て悲鳴を上げながら突進して来ると言う苦行。
2ヶ月前のバレンタインもこうだった。
その時は不覚にも、1人のクソ女が晴にぶつかった挙句『どきなさいよ!』なんて暴言を吐くのを許してしまい。
態と受け取ったそいつのチョコを、目の前で地面に投げ捨ててやった。
その時期、倒れたり部活ができなくなったりと精神的にハードだった晴はボンヤリしていて忘れているようだが…決して同じ轍は踏まない。
「邪魔。」
言い捨てて圧を放つと、その場は水を打ったように静かになった。
足を止めた奴等を睨み付けて牽制しながら、俺と周りを交互に見て困惑している晴の腰を抱いて校内へ入る。
後ろで何やらギャアギャア騒いでるが、勝手にやってろ。
てか、目の前でチョコ投げ捨てたのお前らも見てただろうがよ。
何で自分もそうなるって分かんねぇんだよ、頭沸いてんのか。
自分だけは特別だとでも思ってるなら、勘違いも甚だしい。
だが、そんな苛立ちは、眉を下げて笑う姿に霧散する。
「ふぅ、凄かったな。蓮、大丈夫?」
案じる声に、心が凪いでいくのが分かった。
俺の特別は、この声の主だけだ。
…だけ、なんだが…。
「これ、蓮にって。」
その唯一が、校内の女達から預かった贈り物を渡してくるのはどうなんだ。
放課後の教室でひっそりと溜息を吐く。
優しい晴が、女子に泣きつかれて断れなかったのは分かる。
分かるが…それを何でもないような顔で俺に渡して来るのは面白くない。
渋々引き取って外に出ると、まさかの学校の守衛からも預かった物を渡された。
おい!ちゃんと仕事しろよ。
得体の知れねぇ物だったらどうすんだ。
後で叔父に報告する事を固く決意して、迎えに来た車に晴と共に乗り込んだのだった。
一度帰宅して着替えると、約束の19時に萱島家のチャイムを鳴らした。
「はーい!時間ピッタリじゃん!」
エプロン姿で現れた晴に自然と口角が上がる。
この格好で俺の為に料理とか…堪んねぇな。
後ろから抱きしめたい誘惑と戦いながら先を歩く晴に付いていく。
「ハッピーバースデー!!」
手を引かれたて辿り着いたテーブルの上には、湯気の出る料理の数々。
…待て、数々?
卵焼きと何か一品くらいを想像していた俺は、目の前に広がる光景に言葉が出ない。
彩り良く盛られたサラダ、焦げ目が香ばしいココット、トマトベースのロールキャベツ。
フリーズした俺は、名前を呼ぶ晴の声で我に返った。
「………マジかよ…これ晴が作ったのか?」
「う、うん。最近家で手伝いしてるから…。」
そうだとしても、いつの間にこんなにレベルを上げていたのか。
普段見ない食器ばかりで、そこにまで拘った事が分かる。
「………美味………」
一口食べた感想は、それに尽きた。
「晴、マジで美味い。こんな美味い物初めて食った…。」
「よ、良かったけどそれは言い過ぎ…!」
喜びながらも冗談だと思っているらしい晴に、どうやったら伝わるだろうか。
「いや、本気で。お前が作ってくれた料理が俺には1番。」
親に連れて行かれた高級料理なんか比べ物にならない。
優しくて、少し素朴で、温かくて。
まるで作った本人のようなその料理は、かつて無い程に俺の心を満たす。
「晴、ありがとな。」
心の底からの言葉は、真っ直ぐ届いたらしい。
照れて頬を染めた晴がコクリと頷いて口を開いた。
「蓮、17歳おめでと!」
笑顔で目を見交わすと幸せが溢れる。
間違いなく、人生で最高の誕生日だ。
心ゆくまで料理を堪能して、全てを完食した。
皿を下げる晴に代わってデザートを取りに行く。
おれが持ってきたジェラートは冷凍庫に入っている筈だ。
「あっ!待って!!」
何故か焦った晴の声が聞こえた時には、もう扉を開けた後だった。
見えたのは、冷凍された大量のロールキャベツ。
冷凍庫の半分以上を占領するそれを前にして固まっていると、晴が叫んだ。
「あぁぁぁぁぁ!!見ないで!!」
床にしゃがみ込んで悶える晴の前に膝をつく。
「もしかして、スゲェ練習してくれた?」
上擦りそうになる声を何とか落ち着けて聞くと、晴は顔を隠したまま答えた。
「俺さ、蓮のファンの子達みたいにセンスも無いし、ブランドとかも詳しくないし…。
蓮が料理がいいって言ったから、せめてそれぐらいサラッとこなしてるように思われたくて…。」
俺にいい所を見せたくて頑張ってくれたのか。
「はぁぁ。」
思わず深い溜息が出る。
「可愛い過ぎかよ。」
「え?」
「俺のために練習したとかマジやべぇ…萌え殺す気か…。」
本当に、コイツは俺をどうしたいんだ。
キョトン顔でこっちを見る晴の頭を撫でる。
「俺はさ、お前が俺の為に何かしてくれんのスゲェ嬉しい。練習してくれたのも込みで、今までで1番幸せな誕生日だわ。」
「…本当?他のプレゼントより?」
「本当だって。」
指の甲で頬を撫でると、晴が安心したように微笑む。
あー、ヤベェな。
今すぐ押し倒してドロドロに鳴かせてぇ。
それが無理なら、せめて手で……いや、ダメだ。
今は誰も家にいないが、いつ帰って来るか分からない状況は晴が嫌がるだろう。
下半身に集まりそうな熱から気を逸らす為に、今日貰った贈り物の行き先(陽子のチャリティーオークションに出品)を話すと、晴が明らかにホッとした顔をする。
もしかして妬いてくれてた…のか?
預かった物を俺に渡すの、本当は嫌だったとか?
まさかとは思ったが、その可能性は高そうだ。
ニヤケそうになる頬を無理矢理引き締めて、晴の不安を取り除く事を優先する。
「晴のしかいらねぇから、来年もまた俺の為に何か作って欲しい。で、練習してる所も全部見せて。」
できれば、この先もずっと永遠に。
「え⁉︎それサプライズになんないじゃん!」
「いい。可愛いから見たい。」
「か、可愛いって言うな…!!」
それは無理だな、こんな可愛い生き物他にいる訳ねぇもん。
涙目で恥ずかしがる晴に、どうしても欲が顔を出す。
「晴、キスしていい?」
「…………うん。」
消え入るような返事に、すぐさま唇を重ねた。
俺のタガが外れないように触れ合うだけのキスだが、それでも震える程幸せだ。
「もう一回。」
目を閉じて受け入れる晴を見ていたら止まらなくて。
触れ合うだけのキスを繰り返した。
何度も、何度もーー。
それから暫くして憲人さんが帰宅して、俺は何とか理性を保ったまま萱島家を後にする事ができた。
見送る晴が一瞬俺に抱きついて、次の瞬間には脱兎の如く家に駆け込むと言う破壊力抜群の行動をした時には膝から崩れかけたが…。
何処からか風が運んで来た桜の花弁が、フワリと俺の手に舞い降りる。
本当に幸せで、最高の誕生日だ。
●●●
side晴人91・92話辺りの話しです。
side蓮も終わりがほんのり見えて参りました。
蓮の元に届いた桜の花弁はきっと、あの桜ですね。
この年の桜は大分遅咲きだったと言う設定…をしてたのか?当時これを書いた私は。
関東で4月8日まで桜が残ってるって割と珍しいのでは。。まぁいっか笑
次回から修学旅行に入ります!
「えっ⁉︎蓮?」
おい、何驚いてんだよ。
『明日休みじゃん!蓮、アベンジャーzu観よ!』ってお前が誘うから昨日泊まりになったんだろうが。
まあ、見終わってからの楽しみがあるから俺は了承したんだけどな。
真剣な顔で昨日の記憶を辿っている晴を眺める。
「おはよ。身体大丈夫か?」
『トニーが生きてるっぽいよなって話して…』と、映画の内容までは遡れたらしい晴にヒントを出す。
それに首を傾げた晴が、やがてそのまま止まり…みるみる真っ赤に染まった。
「覚えてんだな?」
「お、覚えてない…」
ニヤリと笑う俺と目を合わせないのが覚えてる証拠だ。
拙い動きながらも最高だったそれを思い出しながら揶揄うと、狼狽える晴の腰が抜けた。
昨日はあんなに大胆だったのに、話しだけでこれとは…ギャップがエグい。
忘れてくれと懇願されるがそれはできない相談だ。
「死ぬほど可愛かったから。あれは永久保存。」
額にキスして、晴を縦抱きにしてリビングへ向かう。
「や、やめてぇぇぇぇぇ!!」
顔を隠して叫ぶ晴の真っ赤な耳と首筋を見詰めながら、最高の朝に笑いが止まらなかった。
それ以来フェラはしてくれないが、俺達の抜き合いは続いていて。
感じまくって涙目で縋りついてくる姿を見ると、どうしても期待してしまう。
告白の返事を急かすつもりは無いが…晴が自覚してないなら言ってしまいたい。
『お前、俺の事好きだからこう言う事できんじゃねぇの?』
確信と自意識過剰を行ったり来たりしながら日々は過ぎ、今日は晴の誕生日だ。
あの事件以来初のイベントだから、思い切り晴を喜ばせて元気付けたい。
放課後、クロと中野と一緒にカラオケで祝って(正直邪魔だが晴が嬉しそうだったから許容した)帰りに2人きりになった所でプレゼントを渡す。
過去に晴が欲しがっていた物の記憶は脳内に別枠で保存されていて、その中からバックパックとパーカーをチョイスした。
1つ目を開封して大喜びした所で2つ目を渡すと、驚きに目を丸くしながらも飛び跳ねていて。
弾けるような笑顔に胸を射抜かれつつ。久しぶりに見れたそれに胸を撫で下ろす。
こうやって嬉しい事や楽しい事で、嫌な記憶を忘れさせてやるからな。
身体だけじゃなく、心も俺が上書きしたい。
そんな風に思っていると、晴が尋ねてきた。
「…なぁ、蓮は誕生日何が欲しい?」
俺達の誕生日は10日しか変わらない。
下手したら学年が違う可能性もあったのかと思うと、晴の母親に感謝したくなる。
…てか、俺が欲しい物って何だ。
某ブランドのトレンチコート、スイス製の時計、プラチナのイヤーカフ…。
いや違ぇな、これ全部俺が晴に買いたい物だわ。
晴に関する物欲は留まる所を知らないが、自分自身の事となると別だ。
正直、大抵の物は手に入る家庭環境な所為で殆ど無いに等しい。
それに晴から貰えるなら、もっと特別な何かが欲しい。
ストームグラスもそうだったが、晴が俺の事を考えてくれた時間が何より嬉しかった。
だからそう言う…あっ。
「晴の作った飯が食いたい。」
思い付いていうと、晴は目を丸くした。
「え?俺が貰った物との落差ヤバくない?それでいいの?」
「それがいい。」
戸惑う晴にハッキリ答える。
晴が唯一作れる卵焼きは、いつも「家族の食卓」の為の物だ。
俺だけの為に、俺の事だけを考えて作って欲しい。
そんな独占欲を孕んだ思いは伝わって無い筈だが、晴は了承してくれた。
こんなに誕生日が楽しみなのは初めてだ。
高2になった事を自覚する間もないまま、俺は17歳になった。
柄にもなくソワソワしながら迎えた当日だったが、学校の方は散々だ。
朝、校門の前に他校の女共が待ち構えていて、俺の姿を見て悲鳴を上げながら突進して来ると言う苦行。
2ヶ月前のバレンタインもこうだった。
その時は不覚にも、1人のクソ女が晴にぶつかった挙句『どきなさいよ!』なんて暴言を吐くのを許してしまい。
態と受け取ったそいつのチョコを、目の前で地面に投げ捨ててやった。
その時期、倒れたり部活ができなくなったりと精神的にハードだった晴はボンヤリしていて忘れているようだが…決して同じ轍は踏まない。
「邪魔。」
言い捨てて圧を放つと、その場は水を打ったように静かになった。
足を止めた奴等を睨み付けて牽制しながら、俺と周りを交互に見て困惑している晴の腰を抱いて校内へ入る。
後ろで何やらギャアギャア騒いでるが、勝手にやってろ。
てか、目の前でチョコ投げ捨てたのお前らも見てただろうがよ。
何で自分もそうなるって分かんねぇんだよ、頭沸いてんのか。
自分だけは特別だとでも思ってるなら、勘違いも甚だしい。
だが、そんな苛立ちは、眉を下げて笑う姿に霧散する。
「ふぅ、凄かったな。蓮、大丈夫?」
案じる声に、心が凪いでいくのが分かった。
俺の特別は、この声の主だけだ。
…だけ、なんだが…。
「これ、蓮にって。」
その唯一が、校内の女達から預かった贈り物を渡してくるのはどうなんだ。
放課後の教室でひっそりと溜息を吐く。
優しい晴が、女子に泣きつかれて断れなかったのは分かる。
分かるが…それを何でもないような顔で俺に渡して来るのは面白くない。
渋々引き取って外に出ると、まさかの学校の守衛からも預かった物を渡された。
おい!ちゃんと仕事しろよ。
得体の知れねぇ物だったらどうすんだ。
後で叔父に報告する事を固く決意して、迎えに来た車に晴と共に乗り込んだのだった。
一度帰宅して着替えると、約束の19時に萱島家のチャイムを鳴らした。
「はーい!時間ピッタリじゃん!」
エプロン姿で現れた晴に自然と口角が上がる。
この格好で俺の為に料理とか…堪んねぇな。
後ろから抱きしめたい誘惑と戦いながら先を歩く晴に付いていく。
「ハッピーバースデー!!」
手を引かれたて辿り着いたテーブルの上には、湯気の出る料理の数々。
…待て、数々?
卵焼きと何か一品くらいを想像していた俺は、目の前に広がる光景に言葉が出ない。
彩り良く盛られたサラダ、焦げ目が香ばしいココット、トマトベースのロールキャベツ。
フリーズした俺は、名前を呼ぶ晴の声で我に返った。
「………マジかよ…これ晴が作ったのか?」
「う、うん。最近家で手伝いしてるから…。」
そうだとしても、いつの間にこんなにレベルを上げていたのか。
普段見ない食器ばかりで、そこにまで拘った事が分かる。
「………美味………」
一口食べた感想は、それに尽きた。
「晴、マジで美味い。こんな美味い物初めて食った…。」
「よ、良かったけどそれは言い過ぎ…!」
喜びながらも冗談だと思っているらしい晴に、どうやったら伝わるだろうか。
「いや、本気で。お前が作ってくれた料理が俺には1番。」
親に連れて行かれた高級料理なんか比べ物にならない。
優しくて、少し素朴で、温かくて。
まるで作った本人のようなその料理は、かつて無い程に俺の心を満たす。
「晴、ありがとな。」
心の底からの言葉は、真っ直ぐ届いたらしい。
照れて頬を染めた晴がコクリと頷いて口を開いた。
「蓮、17歳おめでと!」
笑顔で目を見交わすと幸せが溢れる。
間違いなく、人生で最高の誕生日だ。
心ゆくまで料理を堪能して、全てを完食した。
皿を下げる晴に代わってデザートを取りに行く。
おれが持ってきたジェラートは冷凍庫に入っている筈だ。
「あっ!待って!!」
何故か焦った晴の声が聞こえた時には、もう扉を開けた後だった。
見えたのは、冷凍された大量のロールキャベツ。
冷凍庫の半分以上を占領するそれを前にして固まっていると、晴が叫んだ。
「あぁぁぁぁぁ!!見ないで!!」
床にしゃがみ込んで悶える晴の前に膝をつく。
「もしかして、スゲェ練習してくれた?」
上擦りそうになる声を何とか落ち着けて聞くと、晴は顔を隠したまま答えた。
「俺さ、蓮のファンの子達みたいにセンスも無いし、ブランドとかも詳しくないし…。
蓮が料理がいいって言ったから、せめてそれぐらいサラッとこなしてるように思われたくて…。」
俺にいい所を見せたくて頑張ってくれたのか。
「はぁぁ。」
思わず深い溜息が出る。
「可愛い過ぎかよ。」
「え?」
「俺のために練習したとかマジやべぇ…萌え殺す気か…。」
本当に、コイツは俺をどうしたいんだ。
キョトン顔でこっちを見る晴の頭を撫でる。
「俺はさ、お前が俺の為に何かしてくれんのスゲェ嬉しい。練習してくれたのも込みで、今までで1番幸せな誕生日だわ。」
「…本当?他のプレゼントより?」
「本当だって。」
指の甲で頬を撫でると、晴が安心したように微笑む。
あー、ヤベェな。
今すぐ押し倒してドロドロに鳴かせてぇ。
それが無理なら、せめて手で……いや、ダメだ。
今は誰も家にいないが、いつ帰って来るか分からない状況は晴が嫌がるだろう。
下半身に集まりそうな熱から気を逸らす為に、今日貰った贈り物の行き先(陽子のチャリティーオークションに出品)を話すと、晴が明らかにホッとした顔をする。
もしかして妬いてくれてた…のか?
預かった物を俺に渡すの、本当は嫌だったとか?
まさかとは思ったが、その可能性は高そうだ。
ニヤケそうになる頬を無理矢理引き締めて、晴の不安を取り除く事を優先する。
「晴のしかいらねぇから、来年もまた俺の為に何か作って欲しい。で、練習してる所も全部見せて。」
できれば、この先もずっと永遠に。
「え⁉︎それサプライズになんないじゃん!」
「いい。可愛いから見たい。」
「か、可愛いって言うな…!!」
それは無理だな、こんな可愛い生き物他にいる訳ねぇもん。
涙目で恥ずかしがる晴に、どうしても欲が顔を出す。
「晴、キスしていい?」
「…………うん。」
消え入るような返事に、すぐさま唇を重ねた。
俺のタガが外れないように触れ合うだけのキスだが、それでも震える程幸せだ。
「もう一回。」
目を閉じて受け入れる晴を見ていたら止まらなくて。
触れ合うだけのキスを繰り返した。
何度も、何度もーー。
それから暫くして憲人さんが帰宅して、俺は何とか理性を保ったまま萱島家を後にする事ができた。
見送る晴が一瞬俺に抱きついて、次の瞬間には脱兎の如く家に駆け込むと言う破壊力抜群の行動をした時には膝から崩れかけたが…。
何処からか風が運んで来た桜の花弁が、フワリと俺の手に舞い降りる。
本当に幸せで、最高の誕生日だ。
●●●
side晴人91・92話辺りの話しです。
side蓮も終わりがほんのり見えて参りました。
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