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高校生編side蓮
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名前を呼ぶと、公園のベンチに座ってぼんやりしていた晴が目を見開いた。
俺の到着の速さに驚いてるらしいが、サッカー部時代なら余裕だった距離で息が上がるのは情けない。
横にドサリと座り、バイトを心配する様子に問題ない事を伝えた。
「でもな…。」
ぐっと両頬に手をあてて晴を上向かせる。
「俺から逃げた事は気にしろ。」
あの日の記憶が甦って、苦しくて仕方なかった。
これがまた別れになってしまうんじゃないかと…。
俺はもう二度と、あんな言葉を聞きたくない。
奥歯をグッと噛み締めると、ふいに手が重なった。
晴の頬を挟む俺の手を上から優しく包んで、しっかり視線を合わせて来る。
「ごめん、蓮。」
その体温と眼差しに、心が解けていくのを感じる。
「俺さ、蓮がバイトしてる所見てみたくて…。」
…マジ?
「何で俺に言わなかったんだよ。」
「サッキーが、サプライズがいいって。」
あの野郎、後で覚えてろよ。
「そしたら、蓮が美人にデレデレしてた。」
「違う!マジで誤解!」
常連客への接客態度を喰い気味に弁解す俺を、晴がジト目で見てくる。
「腕触られて、嬉しそうにしちゃったり?」
「…触られたけど嬉しそうには絶対してない。
俺が触られて嬉しいのはお前だけ。」
「よ、よく言うよ!何の抵抗もしてなかった癖に!」
「あの人のスキンシップは全員にだから。
女子スタッフにもあんな感じだし。」
「蓮の事、見つめてたけど?」
「『顔が好き』って言われてる。俺は観賞用らしい。」
事実を淡々と(見えるように)話しながらも、内心ではめちゃくちゃに焦っている。
後ろめたい事なんて一切無いのに必死だ。
「や、でも蓮だって笑顔向けちゃったりして!」
「あー、それは…。」
それに関しては思い当たる節があるだけに目を逸らしてしまった。
「ほらね」みたいな顔をして、俺から手を離そうとするのをギュッと押さえた。
サプライズは失敗に終わるが、背に腹は変えられない。
バイクを買おうとしてる事、値引きしてくれるのがその客の彼氏な事を洗いざらい話す。
それから、購入のタイミングを『最初に後ろに乗せたい奴がいるから、そいつを誘えるようになったら』だと伝えていた事と、つい昨日購入の意思を伝えた事も。
話すのはかなり恥ずいが、誤解されるよりはずっとマシだ。
「それが彼女に伝わってたみたいでさ。
『良かったね』って言われて。
多分、俺が笑ってたとしたらそのせい。」
晴を誘える状況になったのを祝われて、無意識に笑みが溢れたんだろう。
そこまで話すと、ボンッと音がしそうな勢いで晴の顔が赤くなった。
その相手が自分の事だと理解したからこその照れる様子に、ホッと胸を撫で下ろす。
「晴、もしかしてヤキモチ焼いた?」
電話の内容と言い今の態度と言い、そうだと思いたいが…晴は自覚ないだろうな。
だから態と冗談めかした口調で言うと、案の定晴は否定の言葉を口にしてーー途中で何か思案するような顔になった。
「ッ違…!!…わない。」
「え?」
「…違わない…って言ったら、どうする…?」
…それって、マジのやつ?
真っ赤な顔で自信なさ気に見上げてくる晴を、腕の中に引き寄せた。
「…蓮、引いてない?」
俺の方がヤキモチーーそんな可愛らしい表現で収まらないがーーまぁとにかく、格段に嫉妬深い事に気付いてない晴は不安そうだ。
「引く訳ねーだろ。…いや、可愛すぎて引きそうではあるけど。」
頼むから毎分毎秒妬いて欲しい。
そう思いながら言った言葉に、晴が小首を傾げた。
少し困惑しつつも弧を描くその唇に目が吸い寄せられる。
「晴、キスしていい?」
触れた甘さと柔らかさを思い出して強引に奪いたくなるのをギリギリで抑える。
「こ、ここ、外ーーー。」
返事が行為に対する拒否ではない事に、耐えられず唇を重ねてしまった。
「……聞いた意味ないじゃん。」
「ダメって言われなかったからな。」
拒否する素振りの無い様子に、俺はいっそ開き直った。
嫌がらねぇなら、もっとしてもいいよな?
「んっ…ふっ…」
吐息混じりの声に煽られて隙間から舌を差し入れると、晴の肩が跳ねた。
制止の言葉を言わせないように、そのまま深く舌を絡める。
敏感な口内を蹂躙されて、ビクビクと身体を揺らすのが堪らない。
暫くそうやって堪能していると、晴の声に僅かな苦しさが混じった。
名残惜しいが身体を離して、息継ぎで精一杯らしい身体に呼吸をさせてやる。
赤く火照った顔と潤んだ瞳で睨まれるが、嗜虐心を刺激されるだけだ。
「もっとしていいって事?」
「もっ…ムリ!馬鹿…!」
揶揄うと、晴がクタリと胸に倒れ込んで来た。
感度抜群で感じまくってる癖に、呼吸すらままならない不慣れな様子が愛おしい。
「晴。」
「…何⁉︎」
少し怒った声を出す晴の背を撫でて宥める。
悪かったって。
けどさ、俺が女と話してるの見て逃げ出すくらい妬いたんだろ?
しかもそれを自覚して、俺の前で認めるって事の意味、分かってるよな?
どんなに期待しないようにしていても、流石にもう限界だ。
晴が俺と同じ気持ちなのか、確かめたい。
俺の「好き」はいつだって決壊寸前で苦しいくらいで。
だけどーー。
初めての感情に混乱しているだろう晴に、それを今ぶつける事はしたくない。
もう少し落ち着いてから、しっかり向き合って伝えなければ。
そうでなければきっと、後になって晴が迷ってしまう。
だから、今は。
「今度、俺と二人で出かけてくれる?」
「な、なんでそんな改まって…!」
「だって、デートの誘いだから。」
真っ赤になって固まる晴に、口角が上がるのを抑えられない。
「晴、返事は?」
もう貰ったようなもんだけど、言葉にして欲しくて態と聞く。
「…はい。」
俺のシャツの胸辺りをキュッと握り締めた晴が、囁くように答えた。
俯いた表情は見えなくても、赤く染まった首と耳がその感情を雄弁に語っていて。
クラクラするような幸福感に浸ったまま、俺達は長い事寄り添っていた。
「ごめん!ごめんって蓮!!」
開口一番謝り倒すクロの首根っこを捕まえる。
「何がだい?僕には謝って貰う覚えなんてないけれど、何かしたのかな黒崎君?」
親父に連れられて行く会食用の作り笑顔を披露してやると青褪めるクロ。
「ヒィッ!怖い怖い怖い!マジで反省してるから許して!」
「嫌だなぁ、僕は怒ってなんかいないよ?」
「そのキャラが怖いんだっての!!!」
充分ビビらせて多少溜飲が下がった所で解放してやる。
余計な事しやがったのは腹立たしいが、結果的に晴のあんな一面を見る事ができた訳だし大目に見てやろう。
「なになに⁉︎晴人君といい事あった⁉︎」
目敏いクロに、普段なら「ウゼェ」で済ませる所だが、今の俺は…ハッキリ言って浮かれまくっていた。
晴を乗せてバイクで出かける事をうっかり話す程度には。
「デートじゃん!オッケー任せて!」
「いや何も任せねぇよ。余計な事すんな。」
「で、何処行くの?」
「…水族館。」
疑いしかないが、流石に懲りて変な事はしないだろうと正直に話す。
会員制の洒落た店で過ごす事も、ハイブランドのVIPルームで買い物する事もできるが晴は喜ばないだろう。
まぁ、いつかは連れて行って晴に似合う服を山程買う心づもりではあるが。
晴が楽しめる事を優先に考えた結果が水族館だ。
創作が煮詰まるとすぐ『海のお友達に会いに行く』憲人さんの影響で、晴も無類の水族館好き。
ただ、部活が忙しくて最近は滅多に行けてない。
「いいじゃん!晴れるといいね!」
笑顔のクロに一抹の不安を感じながらも、いつも通り授業を終えて晴の教室へ向かった。
「晴、行くぞ。」
「はいはーい!啓太、明日な!」
例の事件があってから、俺と晴が一緒にいても周りは特にリアクションして来なくてなった。
そのお陰か晴の声も明るいし、何より笑顔で寄って来るのがとても良い。
「お前、薄着過ぎじゃね?」
外に出た途端ぶるっと震えたのを見て、自分のマフラーをはずして晴に巻いてやる。
「や、蓮が寒いだろ?」
「俺は平気。寒がりなんだからちゃんと防寒して来いよな。」
マフラーだけは忘れてもいいけどな、俺の貸したいから。
「ねえ蓮、本当にいいの?」
電車に乗ると、俺のカーディガンの袖をチョイッと引っ張る晴。
その手を捕まえて周りから見えないように指を絡める。
「スタッフの恋人とか良く来るから大丈夫だって。」
「恋人」のワードと手繋ぎでボワッと赤くなったその頬にキスしたいのを必死に我慢する。
改めて招待したバイト先で、キャラメルラテを飲みながら俺の終わりを待って貰う。
この半個室はオーナーが自分の恋人用に用意した部屋で、空いている時は誰かを招待していい事になっている。
周りに変なチョッカイを出される事もないから安心だし、店内に晴の気配を感じるだけで仕事が捗る。
「レンの恋人?儚げ美人ね!」
グローバルなスタッフに当然のように恋人認定されて、緩みそうになる頬に全力で喝を入れてバイトを終えた。
すっかり暗くなった帰り道、晴はバイト先の感想を楽しそうに語っている。
どうやら気に入ってくれたようで何よりだ。
これは今後も度々呼べそうだと一人ほくそ笑む。
「蓮、今日はありがと。また行ってもいい?今度は普通の席で。」
萱島家の前に着くと、晴が俺を見上げて言った。
「いつでも。また同じ席借りるから。」
遠慮すんなと言うと、晴は首を横に振った。
「今日の席もすっごい落ち着いて良かったんだけどさ、あんまり蓮の事見れなかったから。」
ぐうっと喉を鳴らして頭を抱えた俺は悪くないと思う。
何で別れ際にこんな可愛い事言うんだよ。
照れた様子で慌てて家に入ろうとする晴を横の路上に引き込んで、唇を重ねた。
目を閉じて受け入れる様子に胸が締め付けられて、キスを深くしていく。
降参した晴が涙目で呼吸を整えているのを見ても、また仕掛けてしまう。
蕩けた顔でギュッとしがみついてくる晴を前にすると、欲望に際限が無い。
己を死ぬ気で律して、晴の呼吸が落ち着くまで待ってから家に入らせる。
今、下を向いてはならない、絶対にだ。
万が一、キスで感じまくっていた晴のアレがアレしてたりなんかしたら、間違いなく襲いかかってしまう。
晴がヤキモチの件を「やっぱり気のせいだったかも!」何て思わないように、恋人みたいな距離感を意識して接しているが…
これもある意味では辛い。
可愛いが、過ぎる…。。。
そんな悩みを抱えつつ、デート当日を迎えたのだった。
●●●
更新がかなりあいてしまって申し訳ないです!
side晴人76、77話辺りの話です。
仕事が突然忙しくなりまして!
お待たせして申し訳ありません。
いつも読んでいただきありがとうございます
(*´∀`*)
俺の到着の速さに驚いてるらしいが、サッカー部時代なら余裕だった距離で息が上がるのは情けない。
横にドサリと座り、バイトを心配する様子に問題ない事を伝えた。
「でもな…。」
ぐっと両頬に手をあてて晴を上向かせる。
「俺から逃げた事は気にしろ。」
あの日の記憶が甦って、苦しくて仕方なかった。
これがまた別れになってしまうんじゃないかと…。
俺はもう二度と、あんな言葉を聞きたくない。
奥歯をグッと噛み締めると、ふいに手が重なった。
晴の頬を挟む俺の手を上から優しく包んで、しっかり視線を合わせて来る。
「ごめん、蓮。」
その体温と眼差しに、心が解けていくのを感じる。
「俺さ、蓮がバイトしてる所見てみたくて…。」
…マジ?
「何で俺に言わなかったんだよ。」
「サッキーが、サプライズがいいって。」
あの野郎、後で覚えてろよ。
「そしたら、蓮が美人にデレデレしてた。」
「違う!マジで誤解!」
常連客への接客態度を喰い気味に弁解す俺を、晴がジト目で見てくる。
「腕触られて、嬉しそうにしちゃったり?」
「…触られたけど嬉しそうには絶対してない。
俺が触られて嬉しいのはお前だけ。」
「よ、よく言うよ!何の抵抗もしてなかった癖に!」
「あの人のスキンシップは全員にだから。
女子スタッフにもあんな感じだし。」
「蓮の事、見つめてたけど?」
「『顔が好き』って言われてる。俺は観賞用らしい。」
事実を淡々と(見えるように)話しながらも、内心ではめちゃくちゃに焦っている。
後ろめたい事なんて一切無いのに必死だ。
「や、でも蓮だって笑顔向けちゃったりして!」
「あー、それは…。」
それに関しては思い当たる節があるだけに目を逸らしてしまった。
「ほらね」みたいな顔をして、俺から手を離そうとするのをギュッと押さえた。
サプライズは失敗に終わるが、背に腹は変えられない。
バイクを買おうとしてる事、値引きしてくれるのがその客の彼氏な事を洗いざらい話す。
それから、購入のタイミングを『最初に後ろに乗せたい奴がいるから、そいつを誘えるようになったら』だと伝えていた事と、つい昨日購入の意思を伝えた事も。
話すのはかなり恥ずいが、誤解されるよりはずっとマシだ。
「それが彼女に伝わってたみたいでさ。
『良かったね』って言われて。
多分、俺が笑ってたとしたらそのせい。」
晴を誘える状況になったのを祝われて、無意識に笑みが溢れたんだろう。
そこまで話すと、ボンッと音がしそうな勢いで晴の顔が赤くなった。
その相手が自分の事だと理解したからこその照れる様子に、ホッと胸を撫で下ろす。
「晴、もしかしてヤキモチ焼いた?」
電話の内容と言い今の態度と言い、そうだと思いたいが…晴は自覚ないだろうな。
だから態と冗談めかした口調で言うと、案の定晴は否定の言葉を口にしてーー途中で何か思案するような顔になった。
「ッ違…!!…わない。」
「え?」
「…違わない…って言ったら、どうする…?」
…それって、マジのやつ?
真っ赤な顔で自信なさ気に見上げてくる晴を、腕の中に引き寄せた。
「…蓮、引いてない?」
俺の方がヤキモチーーそんな可愛らしい表現で収まらないがーーまぁとにかく、格段に嫉妬深い事に気付いてない晴は不安そうだ。
「引く訳ねーだろ。…いや、可愛すぎて引きそうではあるけど。」
頼むから毎分毎秒妬いて欲しい。
そう思いながら言った言葉に、晴が小首を傾げた。
少し困惑しつつも弧を描くその唇に目が吸い寄せられる。
「晴、キスしていい?」
触れた甘さと柔らかさを思い出して強引に奪いたくなるのをギリギリで抑える。
「こ、ここ、外ーーー。」
返事が行為に対する拒否ではない事に、耐えられず唇を重ねてしまった。
「……聞いた意味ないじゃん。」
「ダメって言われなかったからな。」
拒否する素振りの無い様子に、俺はいっそ開き直った。
嫌がらねぇなら、もっとしてもいいよな?
「んっ…ふっ…」
吐息混じりの声に煽られて隙間から舌を差し入れると、晴の肩が跳ねた。
制止の言葉を言わせないように、そのまま深く舌を絡める。
敏感な口内を蹂躙されて、ビクビクと身体を揺らすのが堪らない。
暫くそうやって堪能していると、晴の声に僅かな苦しさが混じった。
名残惜しいが身体を離して、息継ぎで精一杯らしい身体に呼吸をさせてやる。
赤く火照った顔と潤んだ瞳で睨まれるが、嗜虐心を刺激されるだけだ。
「もっとしていいって事?」
「もっ…ムリ!馬鹿…!」
揶揄うと、晴がクタリと胸に倒れ込んで来た。
感度抜群で感じまくってる癖に、呼吸すらままならない不慣れな様子が愛おしい。
「晴。」
「…何⁉︎」
少し怒った声を出す晴の背を撫でて宥める。
悪かったって。
けどさ、俺が女と話してるの見て逃げ出すくらい妬いたんだろ?
しかもそれを自覚して、俺の前で認めるって事の意味、分かってるよな?
どんなに期待しないようにしていても、流石にもう限界だ。
晴が俺と同じ気持ちなのか、確かめたい。
俺の「好き」はいつだって決壊寸前で苦しいくらいで。
だけどーー。
初めての感情に混乱しているだろう晴に、それを今ぶつける事はしたくない。
もう少し落ち着いてから、しっかり向き合って伝えなければ。
そうでなければきっと、後になって晴が迷ってしまう。
だから、今は。
「今度、俺と二人で出かけてくれる?」
「な、なんでそんな改まって…!」
「だって、デートの誘いだから。」
真っ赤になって固まる晴に、口角が上がるのを抑えられない。
「晴、返事は?」
もう貰ったようなもんだけど、言葉にして欲しくて態と聞く。
「…はい。」
俺のシャツの胸辺りをキュッと握り締めた晴が、囁くように答えた。
俯いた表情は見えなくても、赤く染まった首と耳がその感情を雄弁に語っていて。
クラクラするような幸福感に浸ったまま、俺達は長い事寄り添っていた。
「ごめん!ごめんって蓮!!」
開口一番謝り倒すクロの首根っこを捕まえる。
「何がだい?僕には謝って貰う覚えなんてないけれど、何かしたのかな黒崎君?」
親父に連れられて行く会食用の作り笑顔を披露してやると青褪めるクロ。
「ヒィッ!怖い怖い怖い!マジで反省してるから許して!」
「嫌だなぁ、僕は怒ってなんかいないよ?」
「そのキャラが怖いんだっての!!!」
充分ビビらせて多少溜飲が下がった所で解放してやる。
余計な事しやがったのは腹立たしいが、結果的に晴のあんな一面を見る事ができた訳だし大目に見てやろう。
「なになに⁉︎晴人君といい事あった⁉︎」
目敏いクロに、普段なら「ウゼェ」で済ませる所だが、今の俺は…ハッキリ言って浮かれまくっていた。
晴を乗せてバイクで出かける事をうっかり話す程度には。
「デートじゃん!オッケー任せて!」
「いや何も任せねぇよ。余計な事すんな。」
「で、何処行くの?」
「…水族館。」
疑いしかないが、流石に懲りて変な事はしないだろうと正直に話す。
会員制の洒落た店で過ごす事も、ハイブランドのVIPルームで買い物する事もできるが晴は喜ばないだろう。
まぁ、いつかは連れて行って晴に似合う服を山程買う心づもりではあるが。
晴が楽しめる事を優先に考えた結果が水族館だ。
創作が煮詰まるとすぐ『海のお友達に会いに行く』憲人さんの影響で、晴も無類の水族館好き。
ただ、部活が忙しくて最近は滅多に行けてない。
「いいじゃん!晴れるといいね!」
笑顔のクロに一抹の不安を感じながらも、いつも通り授業を終えて晴の教室へ向かった。
「晴、行くぞ。」
「はいはーい!啓太、明日な!」
例の事件があってから、俺と晴が一緒にいても周りは特にリアクションして来なくてなった。
そのお陰か晴の声も明るいし、何より笑顔で寄って来るのがとても良い。
「お前、薄着過ぎじゃね?」
外に出た途端ぶるっと震えたのを見て、自分のマフラーをはずして晴に巻いてやる。
「や、蓮が寒いだろ?」
「俺は平気。寒がりなんだからちゃんと防寒して来いよな。」
マフラーだけは忘れてもいいけどな、俺の貸したいから。
「ねえ蓮、本当にいいの?」
電車に乗ると、俺のカーディガンの袖をチョイッと引っ張る晴。
その手を捕まえて周りから見えないように指を絡める。
「スタッフの恋人とか良く来るから大丈夫だって。」
「恋人」のワードと手繋ぎでボワッと赤くなったその頬にキスしたいのを必死に我慢する。
改めて招待したバイト先で、キャラメルラテを飲みながら俺の終わりを待って貰う。
この半個室はオーナーが自分の恋人用に用意した部屋で、空いている時は誰かを招待していい事になっている。
周りに変なチョッカイを出される事もないから安心だし、店内に晴の気配を感じるだけで仕事が捗る。
「レンの恋人?儚げ美人ね!」
グローバルなスタッフに当然のように恋人認定されて、緩みそうになる頬に全力で喝を入れてバイトを終えた。
すっかり暗くなった帰り道、晴はバイト先の感想を楽しそうに語っている。
どうやら気に入ってくれたようで何よりだ。
これは今後も度々呼べそうだと一人ほくそ笑む。
「蓮、今日はありがと。また行ってもいい?今度は普通の席で。」
萱島家の前に着くと、晴が俺を見上げて言った。
「いつでも。また同じ席借りるから。」
遠慮すんなと言うと、晴は首を横に振った。
「今日の席もすっごい落ち着いて良かったんだけどさ、あんまり蓮の事見れなかったから。」
ぐうっと喉を鳴らして頭を抱えた俺は悪くないと思う。
何で別れ際にこんな可愛い事言うんだよ。
照れた様子で慌てて家に入ろうとする晴を横の路上に引き込んで、唇を重ねた。
目を閉じて受け入れる様子に胸が締め付けられて、キスを深くしていく。
降参した晴が涙目で呼吸を整えているのを見ても、また仕掛けてしまう。
蕩けた顔でギュッとしがみついてくる晴を前にすると、欲望に際限が無い。
己を死ぬ気で律して、晴の呼吸が落ち着くまで待ってから家に入らせる。
今、下を向いてはならない、絶対にだ。
万が一、キスで感じまくっていた晴のアレがアレしてたりなんかしたら、間違いなく襲いかかってしまう。
晴がヤキモチの件を「やっぱり気のせいだったかも!」何て思わないように、恋人みたいな距離感を意識して接しているが…
これもある意味では辛い。
可愛いが、過ぎる…。。。
そんな悩みを抱えつつ、デート当日を迎えたのだった。
●●●
更新がかなりあいてしまって申し訳ないです!
side晴人76、77話辺りの話です。
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お待たせして申し訳ありません。
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