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高校生編side蓮
33.知らなくていい事とそれから
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「いやぁ、遅くなってごめんね!」
「わぁぁぁぁぁ⁉︎⁉︎⁉︎」
突如部屋に入って来た理事長に、晴は絶叫して身体を離してしまった。
嘘…だろ…。
あと1センチだったのに…。
「あれ?お邪魔だったかな?」
そう言って笑う叔父に盛大に文句を言ってやりたいが、晴が俺の膝から降りようと暴れ出した。
いや、離すとか無理だからな?
なんなら一生このままでもいいし。
そんな俺の断固たる意志を感じ取った叔父の『時間がない』と言うアシストにより、晴が大人しくなる。
身体を反対側に向けられたのは不服だが、膝から降りられなかっただけでも上々だろう。
後ろから抱き込む体勢を利用して、首筋に顔を埋めて晴の匂いを吸い込む。
柔らかい髪が頬に当たって、気付かれないようにそれに口付けた。
ローテーブルを挟んで座る叔父が苦笑しているが、どうやら俺の親父を思い起こしているらしい。
あんな変態医師と同類にされるとか心外の極みなんだが。
気を取り直して始まった話は、事件に関わった人間への処遇が主な内容だった。
俺的には緩すぎると思うが、晴がホッとしているようだから敢えて反論はしない。
晴が気に病まない事が最優先だ。
一通り話を聞き終わると、俺だけ呼び止められた。
その視線に含みを感じて、渋々晴を解放して廊下で待ってもらう。
「蓮、本当にすまなかったね。田丸先生の事は気にかけてたんだが…蓮の入学以前からいる教師の方がそっちの安全性は高いからと思ってたんだよねぇ。」
溜息を吐く叔父に、苦い思いで頷く。
実は俺は、高校から海外留学すると嘘の情報を外部に流していた。
因みに中学受験はギリギリまで、別の学校を志望している素振りを見せて。
それらは全て、霊泉家に関係がある人間がこの学校に潜入して来るのを防ぐ為だ。
俺の入学前から在籍している教師の方が、霊泉家と関与がある可能性は下がる。
実際「俺が受験する予定だった」中学に今年赴任して来た教師の1人に、関係が疑われる奴がいるらしい。
そう言う訳があって、多少の行いには目を瞑ってでも鬼丸と校長をここに置いておく必要があった。
「迷惑かけて悪い。」
俺の謝罪に叔父が目を見開く。
「蓮が…⁉︎そっか、晴人君のお陰だね…。」
オイ、この間の大ちゃんと言い、俺の謝罪に対するその驚きなんなんだよ。
何故かうんうん頷く叔父を置いてさっさと退出する。
ドアを開けると、待っていた晴がパッと明るい顔でこっちを見た。
ちょっとした苛つきは秒で霧散して、話しながら並んで歩く。
…にしても、この服装マジで暑いな。
「わぁぁ⁉︎」
セーターの裾を捲って風を入れると、晴が声を上げてこっちを凝視している。
「ふ、腹筋アピールするなよ!嫌味か!」
冗談のように言うその耳が赤い。
は?腹筋?確かにこの下素肌だから見えてるけど…。
思わず動きを止めて、壁を背にした晴の前を塞ぐ。
剥き出しの俺の腹から不自然に目を逸らすのは、筋肉への憧れって言うよりも…。
「お前、これ好きなの?」
ボワッと真っ赤になる顔を見て察した。
これ、俺の身体を意識してるよな。
本人は服装の話だと勘違いしてるようだが、咄嗟の反応の方に無意識の内面が出る。
「晴、このまま帰ろ。」
こんな美味しい状況をみすみす逃してたまるか。
連れて帰って存分に俺を意識させたい。
「晴、キスしてくれる気だったもんな?」
しつこいが後1センチだった。
つまりそれは晴にその気があったって事で…やべぇニヤけるわ。
だけど、俺の上がった口角を見て晴は揶揄われていると感じたらしい。
拗ねたように口を尖らせて、何故か急に不思議そうな顔になる。
どうしたと尋ねる間もなく、その指が鎖骨を掠めながら服の中に滑り込んで来た。
「はあっ⁉︎」
「あ、ごめん。俺の手冷たかった?」
「……違う、そこじゃない…。」
お前、今の今まで腹筋見ただけで真っ赤だったじゃん。
何なん?自分から触るのはOKなの?
感情が追い付かずガクリと項垂れる俺に構わず、何の遠慮もない感じで首に下げた御守りを引っ張り出された。
ああ、コレが気になったのか…。
「御守り、つけてくれてたんだな!
そう言えばさ、これ見た時に蓮母が『そう言うことね』って言ってたんだよなぁ。何でか分かる?」
オイ陽子、余計な事言ってんじゃねぇよ。
「お前は気にしなくていい。それより、これ返すわ。」
誤魔化しつつ晴の首にそれをかける。
「ふふっ。コイツ俺の分身みたいな物だから、蓮の事守ってくれると思ったんだ。効果あった?」
「ああ。願いも叶った。」
「マジ⁉︎俺のなのに、蓮の方が恩恵受けてない⁉︎」
その驚く顔も、嬉しそうな笑顔も声も。
晴の隣で感じたいと言う何よりも強い望みは叶った。
しかも、俺を意識してくれているらしいって、嬉しすぎるオマケ付きで。
「次は晴の番だって。」
そう言いながら柔らかい髪をクシャリと撫でる。
まぁ、晴の願いを叶えるのは全部俺だけどな。
だから本来の役割ーーもしもの時は狂った血族から晴を守ってくれよ。
そう願いを込めて御守りに口付けた。
シャツの中にしまったその上から、晴が大切そうに両手で押さえる。
まるで想いを受け止められたみたいで、心が温かく満たされてーー。
見上げて来るブルーグレーの瞳に映る俺の顔は、幸せそうに微笑んでいた。
翌日、撤回された『謹慎』を(勝手に)今日までに延ばした俺は、校門から少し離れた場所に佇んでいた。
そこに滑るように近付いて来る一台のリムジン。
「避けきったと思ったのに…まぁ、そうはいかないわよね。」
開けられた窓から観念したような相川が顔を覗かせた。
「今アンタの大切なお姫様と仲間達に見送られて、なかなか青春っぽかったんだけど。」
「晴は人間の光の面を見ようとするからな。お前とか俺とは大違いだろ?」
「誇らしげなのが何か腹立つわね…。で、私への制裁は終わったんじゃないの?
整形の事、橋本にバラしたの蓮でしょ?」
コイツが相川グループ代表の娘だと言う事は世間に伏せられている。
橋本の家もそれなりに裕福なようだが、一般家庭で暮らしているのであれば知り得ない情報だ。
その辺りから俺の仕業だとほぼ確信しているんだろう。
だけど…
「さあ。『相川が京都出身な事を隠してる』って話しがどっかからアイツの耳に入ったんじゃね?」
カフェの隣の席に偶然座った他校の女子達が『帝詠学院で可愛いって言われてる相川陽菜っているじゃん?うちあの子と同中なんだけどさ、何でか京都の小学校卒業してる事隠してたんだよね~。』なんて会話してるのを聞いのかもな。
「…それ、アンタの差し金って聞こえるけど。」
「仮にそうだったとして、実際俺が何かしたか?
それを聞いて『調べる事』を選択したのは橋本だろ?『バラす』選択をしたのもな。」
カッとした表情で何か言おうとした相川が言葉に詰まる。
やがて、小さく溜息を吐いた。
「あ~もう、そうよね!アンタが証拠なんか残す訳ないわよね!…この事、萱島は?」
「言う訳ねぇだろ。晴は知らなくていいんだよ。」
こう言う薄暗いのは俺の仕事だ。
「…萱島に手を出したアンタが敵になるって…しかも全力でかかって来るって見切れなかった私が馬鹿だったわ。まさかこんなにゾッコンだなんてね。」
「そ。俺にとって世界中の人間の命と晴1人の命なら、圧倒的に晴の命が大切。
お前が死んで晴が助かる状況なら、一瞬も迷わずにやれるぜ?」
「クッソ重いし怖いわ…!はぁ、ちゃんと本人に謝ったわよ。いい情報あげるからそれで勘弁してくれない?」
「内容によるな。」
「アンタのお姫様、これからアンタと一緒にいる形について葛藤してたわよ。」
「は?」
「『側にいれるならどんな形でも』とか考えてたみたいだから『側じゃなくて、自信持って隣に居ていい』って言っといたわ。」
「……。」
「あのピュア鈍感っぷりじゃ、アンタが動かないと進展しないんじゃないの。まぁ、私はどーでもいいけど。とにかく、チャラになるくらいの仕事はしたでしょ。じゃあね。」
エンジンがかかったリムジンに向かって最後の忠告をする。
「晴に二度と近付くなよ。」
「分かってるわよ!」
「それと…」「まだ何かあんの⁉︎」「難航しそうな離婚問題に強い弁護士。日本なら、多分この人が1番。」
「…ま、待って…何処まで知って…」
俺の言葉に唖然としながらも、それでも相川は差し出した名刺を受け取った。
「…ねえ蓮、私の長所って何だと思う?」
「1個も思い当たらねぇな。」
「でしょうね!さよなら!」
荒々しく前を向いた相川の横顔が、スモークを貼った窓で見えなくなって行く。
ーーもう、蓮!
ふと晴の声が聞こえた気がして、閉じゆくそれに言葉を滑り込ませた。
「あ~、ノートだけは凄いのは、認める。」
それは相川の耳に届いたんだろうか。
見開いた瞳に光るものが見えたのは、俺の気の所為かもしれない。
確かめる気もなく向けた背に、遠ざかるリムジンの音が聞こえる。
『アンタが動かないと進展しないんじゃないの。』
そんなん、テメェに言われなくても分かってんだよ。
心の中で反論して、スマホを手に取る。
送るのは勿論、俺の唯一に。
今までの絆は大切に、それでも新しい関係を築く為に。
『明日朝、一緒に行こうぜ。』
まずは、ここからーー。
●●●
side晴人70、71話辺りの話です。
相川にキッチリ制裁を加えてた蓮でした。笑
因みにカフェで橋本の隣に座ったのはカンナとその友達です。大活躍。
黒崎と親友関係にあるカンナは義理人情仁義に熱いギャルで、蓮にとっても信用に値する相手になっています。
相川に弁護士を紹介したのは蓮なりの『恩赦』だったりします。
相川がいなければ拗れなかったけど、ずっと『幼馴染』から抜け出せなかっただろう事も事実なので。
相川は父親と離れて母親と2人で暮らしたいと言う悩みを誰にも言えていませんでした。
何で蓮が知ってるの⁉︎と言う『何処まで…』と言う台詞でした。
「わぁぁぁぁぁ⁉︎⁉︎⁉︎」
突如部屋に入って来た理事長に、晴は絶叫して身体を離してしまった。
嘘…だろ…。
あと1センチだったのに…。
「あれ?お邪魔だったかな?」
そう言って笑う叔父に盛大に文句を言ってやりたいが、晴が俺の膝から降りようと暴れ出した。
いや、離すとか無理だからな?
なんなら一生このままでもいいし。
そんな俺の断固たる意志を感じ取った叔父の『時間がない』と言うアシストにより、晴が大人しくなる。
身体を反対側に向けられたのは不服だが、膝から降りられなかっただけでも上々だろう。
後ろから抱き込む体勢を利用して、首筋に顔を埋めて晴の匂いを吸い込む。
柔らかい髪が頬に当たって、気付かれないようにそれに口付けた。
ローテーブルを挟んで座る叔父が苦笑しているが、どうやら俺の親父を思い起こしているらしい。
あんな変態医師と同類にされるとか心外の極みなんだが。
気を取り直して始まった話は、事件に関わった人間への処遇が主な内容だった。
俺的には緩すぎると思うが、晴がホッとしているようだから敢えて反論はしない。
晴が気に病まない事が最優先だ。
一通り話を聞き終わると、俺だけ呼び止められた。
その視線に含みを感じて、渋々晴を解放して廊下で待ってもらう。
「蓮、本当にすまなかったね。田丸先生の事は気にかけてたんだが…蓮の入学以前からいる教師の方がそっちの安全性は高いからと思ってたんだよねぇ。」
溜息を吐く叔父に、苦い思いで頷く。
実は俺は、高校から海外留学すると嘘の情報を外部に流していた。
因みに中学受験はギリギリまで、別の学校を志望している素振りを見せて。
それらは全て、霊泉家に関係がある人間がこの学校に潜入して来るのを防ぐ為だ。
俺の入学前から在籍している教師の方が、霊泉家と関与がある可能性は下がる。
実際「俺が受験する予定だった」中学に今年赴任して来た教師の1人に、関係が疑われる奴がいるらしい。
そう言う訳があって、多少の行いには目を瞑ってでも鬼丸と校長をここに置いておく必要があった。
「迷惑かけて悪い。」
俺の謝罪に叔父が目を見開く。
「蓮が…⁉︎そっか、晴人君のお陰だね…。」
オイ、この間の大ちゃんと言い、俺の謝罪に対するその驚きなんなんだよ。
何故かうんうん頷く叔父を置いてさっさと退出する。
ドアを開けると、待っていた晴がパッと明るい顔でこっちを見た。
ちょっとした苛つきは秒で霧散して、話しながら並んで歩く。
…にしても、この服装マジで暑いな。
「わぁぁ⁉︎」
セーターの裾を捲って風を入れると、晴が声を上げてこっちを凝視している。
「ふ、腹筋アピールするなよ!嫌味か!」
冗談のように言うその耳が赤い。
は?腹筋?確かにこの下素肌だから見えてるけど…。
思わず動きを止めて、壁を背にした晴の前を塞ぐ。
剥き出しの俺の腹から不自然に目を逸らすのは、筋肉への憧れって言うよりも…。
「お前、これ好きなの?」
ボワッと真っ赤になる顔を見て察した。
これ、俺の身体を意識してるよな。
本人は服装の話だと勘違いしてるようだが、咄嗟の反応の方に無意識の内面が出る。
「晴、このまま帰ろ。」
こんな美味しい状況をみすみす逃してたまるか。
連れて帰って存分に俺を意識させたい。
「晴、キスしてくれる気だったもんな?」
しつこいが後1センチだった。
つまりそれは晴にその気があったって事で…やべぇニヤけるわ。
だけど、俺の上がった口角を見て晴は揶揄われていると感じたらしい。
拗ねたように口を尖らせて、何故か急に不思議そうな顔になる。
どうしたと尋ねる間もなく、その指が鎖骨を掠めながら服の中に滑り込んで来た。
「はあっ⁉︎」
「あ、ごめん。俺の手冷たかった?」
「……違う、そこじゃない…。」
お前、今の今まで腹筋見ただけで真っ赤だったじゃん。
何なん?自分から触るのはOKなの?
感情が追い付かずガクリと項垂れる俺に構わず、何の遠慮もない感じで首に下げた御守りを引っ張り出された。
ああ、コレが気になったのか…。
「御守り、つけてくれてたんだな!
そう言えばさ、これ見た時に蓮母が『そう言うことね』って言ってたんだよなぁ。何でか分かる?」
オイ陽子、余計な事言ってんじゃねぇよ。
「お前は気にしなくていい。それより、これ返すわ。」
誤魔化しつつ晴の首にそれをかける。
「ふふっ。コイツ俺の分身みたいな物だから、蓮の事守ってくれると思ったんだ。効果あった?」
「ああ。願いも叶った。」
「マジ⁉︎俺のなのに、蓮の方が恩恵受けてない⁉︎」
その驚く顔も、嬉しそうな笑顔も声も。
晴の隣で感じたいと言う何よりも強い望みは叶った。
しかも、俺を意識してくれているらしいって、嬉しすぎるオマケ付きで。
「次は晴の番だって。」
そう言いながら柔らかい髪をクシャリと撫でる。
まぁ、晴の願いを叶えるのは全部俺だけどな。
だから本来の役割ーーもしもの時は狂った血族から晴を守ってくれよ。
そう願いを込めて御守りに口付けた。
シャツの中にしまったその上から、晴が大切そうに両手で押さえる。
まるで想いを受け止められたみたいで、心が温かく満たされてーー。
見上げて来るブルーグレーの瞳に映る俺の顔は、幸せそうに微笑んでいた。
翌日、撤回された『謹慎』を(勝手に)今日までに延ばした俺は、校門から少し離れた場所に佇んでいた。
そこに滑るように近付いて来る一台のリムジン。
「避けきったと思ったのに…まぁ、そうはいかないわよね。」
開けられた窓から観念したような相川が顔を覗かせた。
「今アンタの大切なお姫様と仲間達に見送られて、なかなか青春っぽかったんだけど。」
「晴は人間の光の面を見ようとするからな。お前とか俺とは大違いだろ?」
「誇らしげなのが何か腹立つわね…。で、私への制裁は終わったんじゃないの?
整形の事、橋本にバラしたの蓮でしょ?」
コイツが相川グループ代表の娘だと言う事は世間に伏せられている。
橋本の家もそれなりに裕福なようだが、一般家庭で暮らしているのであれば知り得ない情報だ。
その辺りから俺の仕業だとほぼ確信しているんだろう。
だけど…
「さあ。『相川が京都出身な事を隠してる』って話しがどっかからアイツの耳に入ったんじゃね?」
カフェの隣の席に偶然座った他校の女子達が『帝詠学院で可愛いって言われてる相川陽菜っているじゃん?うちあの子と同中なんだけどさ、何でか京都の小学校卒業してる事隠してたんだよね~。』なんて会話してるのを聞いのかもな。
「…それ、アンタの差し金って聞こえるけど。」
「仮にそうだったとして、実際俺が何かしたか?
それを聞いて『調べる事』を選択したのは橋本だろ?『バラす』選択をしたのもな。」
カッとした表情で何か言おうとした相川が言葉に詰まる。
やがて、小さく溜息を吐いた。
「あ~もう、そうよね!アンタが証拠なんか残す訳ないわよね!…この事、萱島は?」
「言う訳ねぇだろ。晴は知らなくていいんだよ。」
こう言う薄暗いのは俺の仕事だ。
「…萱島に手を出したアンタが敵になるって…しかも全力でかかって来るって見切れなかった私が馬鹿だったわ。まさかこんなにゾッコンだなんてね。」
「そ。俺にとって世界中の人間の命と晴1人の命なら、圧倒的に晴の命が大切。
お前が死んで晴が助かる状況なら、一瞬も迷わずにやれるぜ?」
「クッソ重いし怖いわ…!はぁ、ちゃんと本人に謝ったわよ。いい情報あげるからそれで勘弁してくれない?」
「内容によるな。」
「アンタのお姫様、これからアンタと一緒にいる形について葛藤してたわよ。」
「は?」
「『側にいれるならどんな形でも』とか考えてたみたいだから『側じゃなくて、自信持って隣に居ていい』って言っといたわ。」
「……。」
「あのピュア鈍感っぷりじゃ、アンタが動かないと進展しないんじゃないの。まぁ、私はどーでもいいけど。とにかく、チャラになるくらいの仕事はしたでしょ。じゃあね。」
エンジンがかかったリムジンに向かって最後の忠告をする。
「晴に二度と近付くなよ。」
「分かってるわよ!」
「それと…」「まだ何かあんの⁉︎」「難航しそうな離婚問題に強い弁護士。日本なら、多分この人が1番。」
「…ま、待って…何処まで知って…」
俺の言葉に唖然としながらも、それでも相川は差し出した名刺を受け取った。
「…ねえ蓮、私の長所って何だと思う?」
「1個も思い当たらねぇな。」
「でしょうね!さよなら!」
荒々しく前を向いた相川の横顔が、スモークを貼った窓で見えなくなって行く。
ーーもう、蓮!
ふと晴の声が聞こえた気がして、閉じゆくそれに言葉を滑り込ませた。
「あ~、ノートだけは凄いのは、認める。」
それは相川の耳に届いたんだろうか。
見開いた瞳に光るものが見えたのは、俺の気の所為かもしれない。
確かめる気もなく向けた背に、遠ざかるリムジンの音が聞こえる。
『アンタが動かないと進展しないんじゃないの。』
そんなん、テメェに言われなくても分かってんだよ。
心の中で反論して、スマホを手に取る。
送るのは勿論、俺の唯一に。
今までの絆は大切に、それでも新しい関係を築く為に。
『明日朝、一緒に行こうぜ。』
まずは、ここからーー。
●●●
side晴人70、71話辺りの話です。
相川にキッチリ制裁を加えてた蓮でした。笑
因みにカフェで橋本の隣に座ったのはカンナとその友達です。大活躍。
黒崎と親友関係にあるカンナは義理人情仁義に熱いギャルで、蓮にとっても信用に値する相手になっています。
相川に弁護士を紹介したのは蓮なりの『恩赦』だったりします。
相川がいなければ拗れなかったけど、ずっと『幼馴染』から抜け出せなかっただろう事も事実なので。
相川は父親と離れて母親と2人で暮らしたいと言う悩みを誰にも言えていませんでした。
何で蓮が知ってるの⁉︎と言う『何処まで…』と言う台詞でした。
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