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高校生編side蓮
32.本当の気持ちを
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履き替える間も惜しくて、ブーツのまま校舎を駆ける。
『先生、蓮に謝って下さい。』
繋ぎっぱなしのテレビ電話から聞こえる決然とした声に、晴が何の為に戦っていたのかを悟った。
それを嬉しいと思う反面、鬼丸が逆上する気配に焦る。
頼むから、俺の為に危険な目に遭わないでくれ…!
「晴!」
「蓮様⁉︎み、皆んな端に寄って!」
騒めきと共に人垣が割れて俺の前に道が開けた。
その先には驚くクロ達と、俺に気付かず後ろを向いた晴の姿。
間に合った事に気を抜きかけた時、怒号と共に鬼丸が動いた。
咄嗟に走り出した視界には、殴りかかる鬼丸から橋本を庇う晴。
ッ馬鹿!!
何とか突き出した足の先に、鬼丸がもんどり打って転倒する。
俺は内心で冷や汗をかきながら晴を引き寄せた。
「蓮…何?その格好…。」
助けられた奴の第一声としてはどうかと思うが、続く言葉に全て帳消しになった。
「めちゃめちゃカッコイイ…。」
その頬がほんのり赤い。
…これは新しい発見だ。
レザーパンツやらロングコートやら着る機会が無いから気付かなかった。
それともこの青のカラコンがいいのか?
是非とも深掘りして今後に役立てたいが、今は我慢だ。
晴の腰を抱いて何が起きても守れるように体勢を整える。
鼻血を出しながら鬼丸が喚くが、20年前の事件を持ち出すとピタリと動きが止まった。
騒ぎを聞いて駆けつけた校長を糾弾する様子から、やはり動機は当時の復讐だったらしい。
誰でもいいから特進の生徒を利用したかったらしいが、それじゃ過去にお前を嵌めた奴と変わんねぇだろ。
そう思って少し口を挟んだが、鬼丸は無反応だ。
まあ、今までの経験上『お前みたいな恵まれた人間には分かる訳ない!』とか逆ギレされるのが落ちだよな。
どうやら『恵まれた』俺の言葉は他人に届かないらしいから。
だったら、別に発する意味も無い。
後で理事長に経緯を話せば俺の免罪は晴れるし、それでーー
「先生、煙草は俺の鞄に入ってたんだよ。蓮はそれを庇ってくれた。先生が嫌う『特進』の生徒は、そんな風に他人の事守ってくれる人もいるんだよ。」
いつも通り自己完結しようとしていた俺の思考を遮ったのは、晴の声だった。
「俺の大事な人達を、『特進だから』って一括りにして欲しくない!
ちゃんとその人自身を見て欲しい。」
大勢の視線が注がれる苦手な状況の筈なのに、晴は自分の意見を真っ直ぐに語る。
その凛とした姿に、胸が熱くなった。
また、晴に救われたーー。
周りも、ひいては俺自身も蔑ろにする俺の気持ちを、晴はいつも汲み取ってくれる。
他の誰に届かなくても、晴だけは違う。
そんなお前だから、俺はーー。
結局、理事長の登場によりその場は収束した。
そして今、俺と晴は理事長室に2人きり。
それは『晴人君のお陰だね、ちゃんとお礼言うんだよ。』と囁く理事長の気遣いによるもの。
お互いにこれまでの経緯をポツポツと話すと、(端折ったカンナから)聞いていた内容より相当晴が動いていた事が分かった。
「お前、危ない事すんな。」
真剣な俺に対して晴は聞き返して来たり、礼を言ってきたり何処かぼんやりしている。
あげく、『大袈裟』だと?
「お前なぁ…反省してないだろ…。」
どんだけ心配したと思ってんだこの馬鹿ーー。
緊張感なくヘラリと笑うその唇を塞ぐ。
「な、何ですぐキスすんだよ⁉︎⁉︎」
「その方が素直に言う事聞くだろ?」
お前が快楽に弱い事は分かってんだよ。
「晴、もっと舌出して。」
ほらな、今も口では抵抗しながら素直に従ってるし。
震えるピンクの舌を強く吸うと、晴の腕が俺の背中に回った。
「…っ!気持ちいいのか?晴?」
「…ん…気持ちぃ…あっ!」
甘えるような声が堪らないくて、シャツの下から素肌に触れる。
「っあぁ!!」
擽ったさに身を捩るのを押さえつけて左胸の尖りを摘むと、晴の身体がビクッと震えた。
「…っ感度最高かよ…可愛いすぎだろ。
なぁ、晴?反対も触っていい?」
ふるふると首を振りながらダメだと訴えてくる様子に嗜虐心を煽られる。
「ダメなの?じゃあ、こっち側だけ沢山触るな?」
態と片方だけ捏ね回して、爪で強く弾いた。
「っあぁぁん!!」
「…あぁ…可愛い、晴。
ヤベェな、我慢効かねぇかも…。」
もっと触って舐めて噛んで…そうしたら、どんな風に鳴くのか。
確かめたくて、暴きたくて仕方ない。
そろそろ止まらないと、本格的に理性がーー
「蓮、も、無理…勃っちゃう…」
涙目の懇願に、ブツッと何かが音を立てた。
「~~~っ!!お前なぁ!!それは煽ってるだけだからな⁉︎⁉︎」
「えっ⁉︎あっ!!」
動揺する晴を強引に組み敷いて、顔中にキスする。
「ス、ストップ!…蓮、んっ、止まっ…!」
「バカ!乳首弄っただけで勃つなんて言われて、止まれる訳ねーだろ!男子高生なめんな!」
何ならこっちも余裕で勃ったわ!
てかお前な!口では嫌がってるけど身体は全然抵抗してねぇんだよ…!
こんなんもう…我慢とか無理だろーー
修復しようとしている理性を押し退けて、本能に従おうとした時だった。
俺を見つめるブルーグレーの瞳から雫が溢れて呼吸が止まる。
「はっ⁉︎待て!悪い、やり過ぎた…!」
やっっっべぇ、泣かせた…。
急激に頭が冷えて罪悪感が押し寄せる。
「俺が悪かったから!な?
もうしない!…したくなっても我慢するから泣くな!」
身体を起こして向かい合わせに膝に乗せて、あやすように抱きしめた。
唇と指でその雫を受け止めると、さらに嗚咽を漏らす。
それなのに、俺の肩にギュッとしがみ付いて来るのは…何なんだ…。
ちょ、これどーゆー状況⁉︎
どーすんのが正解な訳⁉︎
この世で唯一の弱点と言っても過言では無い晴の涙に、俺は完全にフリーズした。
「うぅ…蓮、ごめんね…。助けてくれてありがとぉ…ぐすっ。」
「…え、このタイミングでそこに戻る?」
止まった思考を動かしたのは、今それ言うか?と言う晴の言葉。
「いつも助けて貰ってばっかりで…俺、今回は蓮の事守りたかったんだけど…結局助けてもらっちゃったし…グスッ…それに、元はと言えば俺のせいだし…ふぅぅ…。」
成る程、無茶を反省してはくれたらしい。
タイミングめちゃめちゃだけど。
それにーー。
「バカ。俺はいつも晴に助けられてる。
お前は自分が意識してない所でいつも俺を救ってくれる。ガキの頃からずっとだ。
今回みたいに危ないのは心配だから止めて欲しいけど…俺のために頑張ってくれたんだろ?
嬉しかった。ありがとな。」
傍にいる事が当たり前で、伝えていなかった大切な言葉。
それと、俺の心からの思いーー。
「晴がいないとシンドイ…。
だから、俺から離れて行くな。」
懇願にも似たそれは、自分でも呆れるほどに震えて。
だけど、ギュッと強くなった晴の腕の力が『離れない』と約束しているようで。
ダサイ所を見せたく無い一心で、込み上げるそれを必死に堪える。
「ごめんな、蓮。俺、蓮の側にいる自信無くしちゃってたんだ…。」
『地味で何の取り柄もない自分は、蓮に相応しく無いんじゃないか。』
そう不安を感じていた所に、夏祭りでの一件が追い討ちをかけた。
仕方なく一緒にいてくれるのに、迷惑をかけたくなくて離れた。
そう語る晴が眉を下げる。
「不安ならちゃんと聞けば良かったんだよね。
俺、自分の事ばっかりで蓮の事信じてなかったんだ…。」
ごめんと呟く晴に、俺は首を横に振る。
「晴は何も悪くない。悪いのは俺の態度だ。
夏祭りの日、あんな言い方してごめんな。
…あの時、相川も合流する予定だったんだ。」
目を見開く晴に、正直に全てを話す。
晴が相川に告ったと言う話を聞いて、髪型を変えたのもアイツの為なのかと勘違いした。
「本当は、めちゃめちゃ似合ってた。
可愛すぎて動揺したし、他の奴に見られんのが嫌でしょうがなかった。」
ボッと赤くなる晴を見て、思わず笑みが溢れる。
「それに、晴は自分に特徴無いって思ってるみたいだけど、それも違うからな?
晴は自分の為だと弱気だけど、他人の為なら最強になれる。
前に言っただろ?『晴の強さ発揮できるフィールドじゃなかっただけ』だって。
昔からずっとそうだ。お前に救われた奴は絶対たくさんいる。
人の為にこんなに動ける奴、なかなかいねぇよ?」
それに見た目も『地味』じゃねぇから。
俺が周りに気付かせないようにしてただけで、今や『儚げ美人』なんて言われてる事を本人は知らないんだろう。
それから、あの相川すらも仲間に引き込む無自覚なたらし込み力な。
本人は否定するが、晴と関わった誰もが『助けてあげたい』と思う特殊能力。
「とにかく、お前が引け目感じる事なんか何一つねぇんだよ。晴が持ってるものは、俺には一生かかっても手に入れられないものだ。」
だから、どうか分かって欲しい。
「晴の存在に俺は救われる。晴だけが俺の特別だ。」
「蓮…。」
「二度と俺から離れんな。ずっと側にいろ。」
今度は真っ直ぐに強い声で伝える。
「うっ…蓮、ほんと、ごめ…」
「晴、反省してるならキスして?」
泣きっぱなしの晴の大きな瞳が溶けてしまいそうで、俺は態と戯けた。
驚いたのか涙を止めた晴が、俺をマジマジと見る。
「な、何でそんなにキスしたがるんだよ⁉︎」
「…分かんない?」
頷く晴は、俺の気持ちをどこまで推測っているんだろうか。
もう気持ちを隠すつもりは無いが、告白はもっと晴に余裕がある時にしたい。
「キスしてくれたら、教えてやるよ。」
焦りつつ躱されるだろうと揶揄い半分に微笑むと、予想に反して晴の顔が近付いて来た。
これはまさか…ガチでしてくれるパターンか?
「キ、キスって目瞑るものじゃないの?」
凄ぇ戸惑ってるけど、無理。
ガン見する以外の選択肢がねぇ。
「お、俺は目閉じていい…?」
「ん。…赤くなってすげぇ可愛いな、晴。」
ソロリと頬に添えられた晴の手に、心臓が狂ったように音を立てる。
今さっきまで、告白は待とうと思っていた。
だけどーー
このままキスされるなら、もう言ってもいいんじゃないだろうか。
だってお前、好きでも無い奴にキスなんかしないだろ?
顔を少し傾けて、晴の長い睫毛が伏せられる。
そしてーーーー。
●●●
side晴人65~69話辺りの話しです。
実は蓮も心の中では結構大騒ぎしてます。(但し晴に関する事に限る。笑)
しかしこれが表に殆ど出ないと言う…難儀。表情筋、仕事してやってくれ。
『先生、蓮に謝って下さい。』
繋ぎっぱなしのテレビ電話から聞こえる決然とした声に、晴が何の為に戦っていたのかを悟った。
それを嬉しいと思う反面、鬼丸が逆上する気配に焦る。
頼むから、俺の為に危険な目に遭わないでくれ…!
「晴!」
「蓮様⁉︎み、皆んな端に寄って!」
騒めきと共に人垣が割れて俺の前に道が開けた。
その先には驚くクロ達と、俺に気付かず後ろを向いた晴の姿。
間に合った事に気を抜きかけた時、怒号と共に鬼丸が動いた。
咄嗟に走り出した視界には、殴りかかる鬼丸から橋本を庇う晴。
ッ馬鹿!!
何とか突き出した足の先に、鬼丸がもんどり打って転倒する。
俺は内心で冷や汗をかきながら晴を引き寄せた。
「蓮…何?その格好…。」
助けられた奴の第一声としてはどうかと思うが、続く言葉に全て帳消しになった。
「めちゃめちゃカッコイイ…。」
その頬がほんのり赤い。
…これは新しい発見だ。
レザーパンツやらロングコートやら着る機会が無いから気付かなかった。
それともこの青のカラコンがいいのか?
是非とも深掘りして今後に役立てたいが、今は我慢だ。
晴の腰を抱いて何が起きても守れるように体勢を整える。
鼻血を出しながら鬼丸が喚くが、20年前の事件を持ち出すとピタリと動きが止まった。
騒ぎを聞いて駆けつけた校長を糾弾する様子から、やはり動機は当時の復讐だったらしい。
誰でもいいから特進の生徒を利用したかったらしいが、それじゃ過去にお前を嵌めた奴と変わんねぇだろ。
そう思って少し口を挟んだが、鬼丸は無反応だ。
まあ、今までの経験上『お前みたいな恵まれた人間には分かる訳ない!』とか逆ギレされるのが落ちだよな。
どうやら『恵まれた』俺の言葉は他人に届かないらしいから。
だったら、別に発する意味も無い。
後で理事長に経緯を話せば俺の免罪は晴れるし、それでーー
「先生、煙草は俺の鞄に入ってたんだよ。蓮はそれを庇ってくれた。先生が嫌う『特進』の生徒は、そんな風に他人の事守ってくれる人もいるんだよ。」
いつも通り自己完結しようとしていた俺の思考を遮ったのは、晴の声だった。
「俺の大事な人達を、『特進だから』って一括りにして欲しくない!
ちゃんとその人自身を見て欲しい。」
大勢の視線が注がれる苦手な状況の筈なのに、晴は自分の意見を真っ直ぐに語る。
その凛とした姿に、胸が熱くなった。
また、晴に救われたーー。
周りも、ひいては俺自身も蔑ろにする俺の気持ちを、晴はいつも汲み取ってくれる。
他の誰に届かなくても、晴だけは違う。
そんなお前だから、俺はーー。
結局、理事長の登場によりその場は収束した。
そして今、俺と晴は理事長室に2人きり。
それは『晴人君のお陰だね、ちゃんとお礼言うんだよ。』と囁く理事長の気遣いによるもの。
お互いにこれまでの経緯をポツポツと話すと、(端折ったカンナから)聞いていた内容より相当晴が動いていた事が分かった。
「お前、危ない事すんな。」
真剣な俺に対して晴は聞き返して来たり、礼を言ってきたり何処かぼんやりしている。
あげく、『大袈裟』だと?
「お前なぁ…反省してないだろ…。」
どんだけ心配したと思ってんだこの馬鹿ーー。
緊張感なくヘラリと笑うその唇を塞ぐ。
「な、何ですぐキスすんだよ⁉︎⁉︎」
「その方が素直に言う事聞くだろ?」
お前が快楽に弱い事は分かってんだよ。
「晴、もっと舌出して。」
ほらな、今も口では抵抗しながら素直に従ってるし。
震えるピンクの舌を強く吸うと、晴の腕が俺の背中に回った。
「…っ!気持ちいいのか?晴?」
「…ん…気持ちぃ…あっ!」
甘えるような声が堪らないくて、シャツの下から素肌に触れる。
「っあぁ!!」
擽ったさに身を捩るのを押さえつけて左胸の尖りを摘むと、晴の身体がビクッと震えた。
「…っ感度最高かよ…可愛いすぎだろ。
なぁ、晴?反対も触っていい?」
ふるふると首を振りながらダメだと訴えてくる様子に嗜虐心を煽られる。
「ダメなの?じゃあ、こっち側だけ沢山触るな?」
態と片方だけ捏ね回して、爪で強く弾いた。
「っあぁぁん!!」
「…あぁ…可愛い、晴。
ヤベェな、我慢効かねぇかも…。」
もっと触って舐めて噛んで…そうしたら、どんな風に鳴くのか。
確かめたくて、暴きたくて仕方ない。
そろそろ止まらないと、本格的に理性がーー
「蓮、も、無理…勃っちゃう…」
涙目の懇願に、ブツッと何かが音を立てた。
「~~~っ!!お前なぁ!!それは煽ってるだけだからな⁉︎⁉︎」
「えっ⁉︎あっ!!」
動揺する晴を強引に組み敷いて、顔中にキスする。
「ス、ストップ!…蓮、んっ、止まっ…!」
「バカ!乳首弄っただけで勃つなんて言われて、止まれる訳ねーだろ!男子高生なめんな!」
何ならこっちも余裕で勃ったわ!
てかお前な!口では嫌がってるけど身体は全然抵抗してねぇんだよ…!
こんなんもう…我慢とか無理だろーー
修復しようとしている理性を押し退けて、本能に従おうとした時だった。
俺を見つめるブルーグレーの瞳から雫が溢れて呼吸が止まる。
「はっ⁉︎待て!悪い、やり過ぎた…!」
やっっっべぇ、泣かせた…。
急激に頭が冷えて罪悪感が押し寄せる。
「俺が悪かったから!な?
もうしない!…したくなっても我慢するから泣くな!」
身体を起こして向かい合わせに膝に乗せて、あやすように抱きしめた。
唇と指でその雫を受け止めると、さらに嗚咽を漏らす。
それなのに、俺の肩にギュッとしがみ付いて来るのは…何なんだ…。
ちょ、これどーゆー状況⁉︎
どーすんのが正解な訳⁉︎
この世で唯一の弱点と言っても過言では無い晴の涙に、俺は完全にフリーズした。
「うぅ…蓮、ごめんね…。助けてくれてありがとぉ…ぐすっ。」
「…え、このタイミングでそこに戻る?」
止まった思考を動かしたのは、今それ言うか?と言う晴の言葉。
「いつも助けて貰ってばっかりで…俺、今回は蓮の事守りたかったんだけど…結局助けてもらっちゃったし…グスッ…それに、元はと言えば俺のせいだし…ふぅぅ…。」
成る程、無茶を反省してはくれたらしい。
タイミングめちゃめちゃだけど。
それにーー。
「バカ。俺はいつも晴に助けられてる。
お前は自分が意識してない所でいつも俺を救ってくれる。ガキの頃からずっとだ。
今回みたいに危ないのは心配だから止めて欲しいけど…俺のために頑張ってくれたんだろ?
嬉しかった。ありがとな。」
傍にいる事が当たり前で、伝えていなかった大切な言葉。
それと、俺の心からの思いーー。
「晴がいないとシンドイ…。
だから、俺から離れて行くな。」
懇願にも似たそれは、自分でも呆れるほどに震えて。
だけど、ギュッと強くなった晴の腕の力が『離れない』と約束しているようで。
ダサイ所を見せたく無い一心で、込み上げるそれを必死に堪える。
「ごめんな、蓮。俺、蓮の側にいる自信無くしちゃってたんだ…。」
『地味で何の取り柄もない自分は、蓮に相応しく無いんじゃないか。』
そう不安を感じていた所に、夏祭りでの一件が追い討ちをかけた。
仕方なく一緒にいてくれるのに、迷惑をかけたくなくて離れた。
そう語る晴が眉を下げる。
「不安ならちゃんと聞けば良かったんだよね。
俺、自分の事ばっかりで蓮の事信じてなかったんだ…。」
ごめんと呟く晴に、俺は首を横に振る。
「晴は何も悪くない。悪いのは俺の態度だ。
夏祭りの日、あんな言い方してごめんな。
…あの時、相川も合流する予定だったんだ。」
目を見開く晴に、正直に全てを話す。
晴が相川に告ったと言う話を聞いて、髪型を変えたのもアイツの為なのかと勘違いした。
「本当は、めちゃめちゃ似合ってた。
可愛すぎて動揺したし、他の奴に見られんのが嫌でしょうがなかった。」
ボッと赤くなる晴を見て、思わず笑みが溢れる。
「それに、晴は自分に特徴無いって思ってるみたいだけど、それも違うからな?
晴は自分の為だと弱気だけど、他人の為なら最強になれる。
前に言っただろ?『晴の強さ発揮できるフィールドじゃなかっただけ』だって。
昔からずっとそうだ。お前に救われた奴は絶対たくさんいる。
人の為にこんなに動ける奴、なかなかいねぇよ?」
それに見た目も『地味』じゃねぇから。
俺が周りに気付かせないようにしてただけで、今や『儚げ美人』なんて言われてる事を本人は知らないんだろう。
それから、あの相川すらも仲間に引き込む無自覚なたらし込み力な。
本人は否定するが、晴と関わった誰もが『助けてあげたい』と思う特殊能力。
「とにかく、お前が引け目感じる事なんか何一つねぇんだよ。晴が持ってるものは、俺には一生かかっても手に入れられないものだ。」
だから、どうか分かって欲しい。
「晴の存在に俺は救われる。晴だけが俺の特別だ。」
「蓮…。」
「二度と俺から離れんな。ずっと側にいろ。」
今度は真っ直ぐに強い声で伝える。
「うっ…蓮、ほんと、ごめ…」
「晴、反省してるならキスして?」
泣きっぱなしの晴の大きな瞳が溶けてしまいそうで、俺は態と戯けた。
驚いたのか涙を止めた晴が、俺をマジマジと見る。
「な、何でそんなにキスしたがるんだよ⁉︎」
「…分かんない?」
頷く晴は、俺の気持ちをどこまで推測っているんだろうか。
もう気持ちを隠すつもりは無いが、告白はもっと晴に余裕がある時にしたい。
「キスしてくれたら、教えてやるよ。」
焦りつつ躱されるだろうと揶揄い半分に微笑むと、予想に反して晴の顔が近付いて来た。
これはまさか…ガチでしてくれるパターンか?
「キ、キスって目瞑るものじゃないの?」
凄ぇ戸惑ってるけど、無理。
ガン見する以外の選択肢がねぇ。
「お、俺は目閉じていい…?」
「ん。…赤くなってすげぇ可愛いな、晴。」
ソロリと頬に添えられた晴の手に、心臓が狂ったように音を立てる。
今さっきまで、告白は待とうと思っていた。
だけどーー
このままキスされるなら、もう言ってもいいんじゃないだろうか。
だってお前、好きでも無い奴にキスなんかしないだろ?
顔を少し傾けて、晴の長い睫毛が伏せられる。
そしてーーーー。
●●●
side晴人65~69話辺りの話しです。
実は蓮も心の中では結構大騒ぎしてます。(但し晴に関する事に限る。笑)
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