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高校生編side蓮
31.自主謹慎
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「いい加減にお前のだって認めろ!」
「俺のじゃねぇよ。」
「お前の鞄に入ってたんだ!お前のだろうが!」
ちなみにこの遣り取りは74回目だ。
顔を真っ赤にして怒鳴る鬼丸に流石に辟易する。
てか腹減ったな…一旦休憩にさせるか。
「てかさ、さっきから俺の鞄に入ってたって言ってるけど、何で鞄だって分かる訳?」
「…えっ?」
「おま…センセーが俺からこれ取り上げた時、手に持ってたんだけど。何で鞄に入ってたって決定なの?」
ズボンのポケットの可能性だってあるだろが。
「…そ、それは…その…持ち物検査だから鞄に入ってたと思うのが…普通だろう!…俺は用事で少し出るから、その間にしっかり反省しておけ!」
デカイ音を立てて閉まった生徒指導室のドアを見ながら溜息を吐く。
動揺が分かり易すぎるな…。
「切藤、大丈夫か?ほら、チョコあるぞ。」
同席していた大山先生に差し出された個包装のチョコをありがたく貰う。
「大ちゃんも大変だな、昨日の晴に引き続き今日もこんなんで。」
「そんな他人事みたいな…。でも、昨日は席を外して萱島に申し訳ない事したからな。今日は切藤とずっといるぞ。」
剣道部顧問のこの人を、晴が信頼しているのが分かる気がする。
「てかさ、鬼…田丸センセーに退学決定するような権限あんの?」
言質さえ取れば退学処分に出来ると張り切ってるみたいだけど、普通に無理じゃね?
「いや、正直無いんだけどな…。校長は田丸先生に甘いけど…それでも…。」
「だよな。だって俺だぜ?」
大山先生が苦笑する。
理事長の親戚である俺を積極的に処分するなんて馬鹿いるか?
「もしかしたら、切藤と理事長の関係性を知らないのかもしれないな。表立って伝えられる訳じゃなくて、教師同士の雑談とかで知る感じなんだよ。」
え、でも鬼丸少なくとも5年は在籍してるよな?
「鬼…田丸センセーと仲良いのって誰なん?」
「え…?他の先生と話してるの見た事無いなぁ。
送別会とか飲みの席は何故かいつも俺の隣だけど。くじ引きで決めてるらしいのに、凄い偶然だよなぁ。」
成る程、鬼丸が俺と理事長の関係を知らない可能性が濃厚になってきた。
「なぁ大ちゃん、今度からくじ引き自分が作るって言ってみ。」
人のいい彼に、煙たい人間を押し付ける細工は見破れないだろうと思って助言する。
こうやって考えると、教師も生徒もやってる事はそう変わんねぇな。
その時荒々しい足音がして、俺達は会話を中断した。
「切藤の保護者が来てるそうですが、連絡したのは大山先生ですか?」
「そうです。保護者への連絡は必須でしょう?」
尤もな言葉に忌々しそうな顔をする鬼丸の影で、大山先生がチラリと俺に目配せする。
有難い、マジでナイスプレーだ。
どっちが来るかは分からないが、呼び出された時点であの事は必ず確認しているだろう。
それさえ分かれば、動き方も決まってくる。
「こ、こちらでふ!!!」
聞こえて来たのは激しく上ずった男の声と大勢の騒めき。
あ、これ母親の方だな。
その予想通り、恭しく開けられた扉の向こうからは大輪の薔薇を思わせる圧倒的なオーラ。
「蓮!貴方って子は本当に!」
学校中の教師を護衛の如く従えた陽子が、ドラマチックに嘆いた。
「蓮…」「最初に言っとくけど俺のじゃねーからな。」
『息子と2人にして欲しい』と言う陽子の「懇願」で、室内には俺達だけ。
「分かってるわよ。」
簡素なパイプ椅子すら高級品のように見せる母親は『息子の非行に胸を痛める母』の仮面を秒速で脱ぎ捨てた。
「そうじゃなくて、我が家の大切なprincesseが寒空の下にいたの。」
「晴が…?」
帰ってなかったのかよ、中野達は何やってんだ。
「お友達2人と帰るように説得したから大丈夫よ。…でも、泣いてたわ。」
ブワリと吹き出した怒りの圧は、どちらが発したものだろうか。
「即効終わらせるぞ。調べて来たんだろ?」
「勿論よ。今回の件に霊泉家は関与してないわ。
近しい政治家の汚職が判明して火消しにてんやわんやみたい。こっちに目を向ける余裕は無いでしょうね。」
まだ報道すらされていない情報を入手して来た母親に頷く。
俺が懸念していたのは霊泉家の関与だ。
狂った奴らにしては小火も含めてやる事が小さい気もしていたが、晴に関わる事な以上、念には念を入れなければならない。
だけど、これで随分動き易くなった。
「蓮、犯人に心当たりは?」
「多少は。もうチョイ時間くれ。」
「じゃあ自主謹慎にでもしておく?」
「頼んだ。」
この遣り取りの後、再び入室して来た鬼丸(と見守るその他大勢)を相手に、陽子は迫真の演技を披露した。
「全て私が悪いんです。仕事が忙しくてなかなか息子と話せなくて…。
これを機に蓮には暫く謹慎させて、親子の絆を深めたいと思います。
気付けたのも全て、田丸先生のお陰です。
本当に素晴らしい先生にご指導いただけて息子も私も幸運です。」
「い、いえ!きょ、教師としてと、当然です!
お、お母様もどうか自分をせ、責めないで下さい!!」
はらはらと涙を溢す陽子に手を握られた鬼丸が、全身を真っ赤にして言う。
おーい、(元)女優の涙なんて簡単に信用していいのかよ。
「それでは、その方向で!期間は2週間でいいですかね?いいですよね!」
夢見心地で陽子に魅入る周囲を尻目に、テキパキと話を進める大山先生。
「じゃあ切藤、もう帰っていいぞ。」
「大ちゃん、マジでありがと。」
校門の前で陽子と共に礼を言うと、一緒に来ていた大山先生は少し笑った。
「萱島と約束したからな。」
「え…?」
「生徒指導室の前で、自分のせいだって田丸先生に必死に訴えてたんだよ。」
どうやら、部停をちらつかせされている所を大山先生が助けてくれたらしい。
その時、何とかすると晴に約束したとか。
「晴が…。先生、ありがとうございます。」
敬語で頭を下げる俺に少し驚きつつ、先生は笑った。
「幼馴染っていいもんだな、絆が強い。」
細かい事はまた理事長と相談すると言う彼に見送られて、俺達は迎えの車に乗り込んだ。
「私が説明してくるわ。」
萱島家の前で陽子が言う。
「は?俺も行くし。」
「大山先生が仰ったでしょ、謹慎が明けるまで念の生徒とは連絡を取らないようにって。」
帰りがけ、唯一言われた誓約はそれだった。
「あんなに協力していただいたんだから、それは守らないと。それに、万が一晴ちゃんが巻き込まれたら嫌でしょう。」
そう言われると悔しいが引き下がるしかない。
「…学校休めてラッキーだから気にすんなって伝えて。」
そう言うと陽子は少し笑って車から降りた。
暫くして出てきた陽子の後には、晴の姿。
思ったより元気そうで安心する。
スモークが貼られた後部座席にいる俺の姿は、晴の方からは見えない。
何かを陽子に渡しているようで、声が聞きたくて窓を少し開ける。
「お願いね。本当は俺が蓮と一緒にいたいけど…せめて俺の分身連れてって。
コイツ、中学からずっと俺と一緒なんだよ。」
「あぁ!可愛い!いい子!なんでその可愛さの100分の1でも蓮は持ち合わせてないのかしら。」
ぶつぶつ言いながらチラリとこっちを見た陽子が、それを手に車内に戻って来る。
車が発進した所で、揶揄うような何かを含んだ目で陽子が振り返った。
「はいこれ、晴ちゃんから。」
それは、中学の時に俺が渡した御守り。
晴、俺と一緒にいてくれるんだな。
さっき聞こえた会話を反芻しながら、首から下げたそれを手で包んだ。
自主謹慎で時間を得た俺は、翌日からやるべき事に取り掛かった。
まずは相川についての調査資料を読む。
母親とソックリな幼い頃の相川の顔は「成長した」では通らない程今とかけ離れている。
つまり、整形って事か。
父親は絶対に娘と妻を社交の場に出さず、その理由が「顔が気に入らないから」だと知る者はごく一部らしい。
何と言うか、相川の選民主義の根底は父親にある気がして来る。
まあ、だからって許すつもりは毛頭無いが。
それから生徒会を調査して気になった奴が1人。
橋本と言う2年年生は『堕天使』で、特進クラスの人間を恨んでいるらしい。
もし鬼丸と共犯の可能性があるとしたら、コイツには手を組む動機がある。
その鬼丸は高校時代、特進のような扱いだった同級生とトラブルを起こして退学していた。
うちの学校に赴任したのは、校長の紹介か…って、
当時の担任だったのかよ。
校長が鬼丸の態度を諌めないのは、この事件に関係あるとしか思えない。
ブブッ
LAINが届いてカンナの名前が表示される。
『証拠入手だって。』
添付されていたのはライターを持った橋本の写真。
小火はコイツか…てかこの写真どうしたんだよ。
『萱島君がゲット』
『は?何で晴が?』
『ねぇ、これダルイんだけど~(。•ˇ₃ˇ•。)』
他校の人間とは連絡を禁止されてないのを利用して、カンナを経由してクロと連絡を取ってる訳だが…。
その中継役がダルがって、かなり話を端折って来る。
何とか理解できたのは、小火の犯人は橋本で確定、タバコは鬼丸との共犯の可能性有り。
そして動機の一つは、相川への好意。
どうやったのか不明だが、相川本人にそれを聞き出したらしい。
そして明日の放課後、橋本と話すのを晴が希望している、と。
『何考えてんだ!危ねぇだろ!』
『4対1で行くから大丈夫。自主の機会をあげたいみたいだよ、優しいよね。』
理由が晴らしくてそれ以上怒る気になれない。
『明日の放課後俺も行くから、それまで絶対動くなよ。』
了承の返事を確認して溜息を吐く。
危険な目に合わせたくないが、晴が望むならできる限り叶えてやりたい。
だから、全ての責任は俺が引き受ける。
大学推薦の取り消しも懲戒免職も、恨みは全て俺に向ければいい。
翌朝、陽子に頼まれたモデルの仕事を終えてタクシーで帰路につく。
二つ返事で承諾したそれは、謹慎中に学校へ乗り込む事への謝罪の先払いだ。
撮影で着た服から制服に着替えるのを加味しても、時間には充分余裕がある。
…筈だった。
『ごめん、相川ちゃん暴走により予定変更!
萱時君ピンチかも!』
「…ふざけんなっ!」
驚く運転手に万札を押し付けて、俺は学校へと疾走した。
●●●
side晴人52~63話辺りの話です。
晴人達が真相解明に奮闘している裏で、蓮はこんな風に動いてました。
橋本とカンナが出てきておよ?となりましたが偶然です本当に。笑
「俺のじゃねぇよ。」
「お前の鞄に入ってたんだ!お前のだろうが!」
ちなみにこの遣り取りは74回目だ。
顔を真っ赤にして怒鳴る鬼丸に流石に辟易する。
てか腹減ったな…一旦休憩にさせるか。
「てかさ、さっきから俺の鞄に入ってたって言ってるけど、何で鞄だって分かる訳?」
「…えっ?」
「おま…センセーが俺からこれ取り上げた時、手に持ってたんだけど。何で鞄に入ってたって決定なの?」
ズボンのポケットの可能性だってあるだろが。
「…そ、それは…その…持ち物検査だから鞄に入ってたと思うのが…普通だろう!…俺は用事で少し出るから、その間にしっかり反省しておけ!」
デカイ音を立てて閉まった生徒指導室のドアを見ながら溜息を吐く。
動揺が分かり易すぎるな…。
「切藤、大丈夫か?ほら、チョコあるぞ。」
同席していた大山先生に差し出された個包装のチョコをありがたく貰う。
「大ちゃんも大変だな、昨日の晴に引き続き今日もこんなんで。」
「そんな他人事みたいな…。でも、昨日は席を外して萱島に申し訳ない事したからな。今日は切藤とずっといるぞ。」
剣道部顧問のこの人を、晴が信頼しているのが分かる気がする。
「てかさ、鬼…田丸センセーに退学決定するような権限あんの?」
言質さえ取れば退学処分に出来ると張り切ってるみたいだけど、普通に無理じゃね?
「いや、正直無いんだけどな…。校長は田丸先生に甘いけど…それでも…。」
「だよな。だって俺だぜ?」
大山先生が苦笑する。
理事長の親戚である俺を積極的に処分するなんて馬鹿いるか?
「もしかしたら、切藤と理事長の関係性を知らないのかもしれないな。表立って伝えられる訳じゃなくて、教師同士の雑談とかで知る感じなんだよ。」
え、でも鬼丸少なくとも5年は在籍してるよな?
「鬼…田丸センセーと仲良いのって誰なん?」
「え…?他の先生と話してるの見た事無いなぁ。
送別会とか飲みの席は何故かいつも俺の隣だけど。くじ引きで決めてるらしいのに、凄い偶然だよなぁ。」
成る程、鬼丸が俺と理事長の関係を知らない可能性が濃厚になってきた。
「なぁ大ちゃん、今度からくじ引き自分が作るって言ってみ。」
人のいい彼に、煙たい人間を押し付ける細工は見破れないだろうと思って助言する。
こうやって考えると、教師も生徒もやってる事はそう変わんねぇな。
その時荒々しい足音がして、俺達は会話を中断した。
「切藤の保護者が来てるそうですが、連絡したのは大山先生ですか?」
「そうです。保護者への連絡は必須でしょう?」
尤もな言葉に忌々しそうな顔をする鬼丸の影で、大山先生がチラリと俺に目配せする。
有難い、マジでナイスプレーだ。
どっちが来るかは分からないが、呼び出された時点であの事は必ず確認しているだろう。
それさえ分かれば、動き方も決まってくる。
「こ、こちらでふ!!!」
聞こえて来たのは激しく上ずった男の声と大勢の騒めき。
あ、これ母親の方だな。
その予想通り、恭しく開けられた扉の向こうからは大輪の薔薇を思わせる圧倒的なオーラ。
「蓮!貴方って子は本当に!」
学校中の教師を護衛の如く従えた陽子が、ドラマチックに嘆いた。
「蓮…」「最初に言っとくけど俺のじゃねーからな。」
『息子と2人にして欲しい』と言う陽子の「懇願」で、室内には俺達だけ。
「分かってるわよ。」
簡素なパイプ椅子すら高級品のように見せる母親は『息子の非行に胸を痛める母』の仮面を秒速で脱ぎ捨てた。
「そうじゃなくて、我が家の大切なprincesseが寒空の下にいたの。」
「晴が…?」
帰ってなかったのかよ、中野達は何やってんだ。
「お友達2人と帰るように説得したから大丈夫よ。…でも、泣いてたわ。」
ブワリと吹き出した怒りの圧は、どちらが発したものだろうか。
「即効終わらせるぞ。調べて来たんだろ?」
「勿論よ。今回の件に霊泉家は関与してないわ。
近しい政治家の汚職が判明して火消しにてんやわんやみたい。こっちに目を向ける余裕は無いでしょうね。」
まだ報道すらされていない情報を入手して来た母親に頷く。
俺が懸念していたのは霊泉家の関与だ。
狂った奴らにしては小火も含めてやる事が小さい気もしていたが、晴に関わる事な以上、念には念を入れなければならない。
だけど、これで随分動き易くなった。
「蓮、犯人に心当たりは?」
「多少は。もうチョイ時間くれ。」
「じゃあ自主謹慎にでもしておく?」
「頼んだ。」
この遣り取りの後、再び入室して来た鬼丸(と見守るその他大勢)を相手に、陽子は迫真の演技を披露した。
「全て私が悪いんです。仕事が忙しくてなかなか息子と話せなくて…。
これを機に蓮には暫く謹慎させて、親子の絆を深めたいと思います。
気付けたのも全て、田丸先生のお陰です。
本当に素晴らしい先生にご指導いただけて息子も私も幸運です。」
「い、いえ!きょ、教師としてと、当然です!
お、お母様もどうか自分をせ、責めないで下さい!!」
はらはらと涙を溢す陽子に手を握られた鬼丸が、全身を真っ赤にして言う。
おーい、(元)女優の涙なんて簡単に信用していいのかよ。
「それでは、その方向で!期間は2週間でいいですかね?いいですよね!」
夢見心地で陽子に魅入る周囲を尻目に、テキパキと話を進める大山先生。
「じゃあ切藤、もう帰っていいぞ。」
「大ちゃん、マジでありがと。」
校門の前で陽子と共に礼を言うと、一緒に来ていた大山先生は少し笑った。
「萱島と約束したからな。」
「え…?」
「生徒指導室の前で、自分のせいだって田丸先生に必死に訴えてたんだよ。」
どうやら、部停をちらつかせされている所を大山先生が助けてくれたらしい。
その時、何とかすると晴に約束したとか。
「晴が…。先生、ありがとうございます。」
敬語で頭を下げる俺に少し驚きつつ、先生は笑った。
「幼馴染っていいもんだな、絆が強い。」
細かい事はまた理事長と相談すると言う彼に見送られて、俺達は迎えの車に乗り込んだ。
「私が説明してくるわ。」
萱島家の前で陽子が言う。
「は?俺も行くし。」
「大山先生が仰ったでしょ、謹慎が明けるまで念の生徒とは連絡を取らないようにって。」
帰りがけ、唯一言われた誓約はそれだった。
「あんなに協力していただいたんだから、それは守らないと。それに、万が一晴ちゃんが巻き込まれたら嫌でしょう。」
そう言われると悔しいが引き下がるしかない。
「…学校休めてラッキーだから気にすんなって伝えて。」
そう言うと陽子は少し笑って車から降りた。
暫くして出てきた陽子の後には、晴の姿。
思ったより元気そうで安心する。
スモークが貼られた後部座席にいる俺の姿は、晴の方からは見えない。
何かを陽子に渡しているようで、声が聞きたくて窓を少し開ける。
「お願いね。本当は俺が蓮と一緒にいたいけど…せめて俺の分身連れてって。
コイツ、中学からずっと俺と一緒なんだよ。」
「あぁ!可愛い!いい子!なんでその可愛さの100分の1でも蓮は持ち合わせてないのかしら。」
ぶつぶつ言いながらチラリとこっちを見た陽子が、それを手に車内に戻って来る。
車が発進した所で、揶揄うような何かを含んだ目で陽子が振り返った。
「はいこれ、晴ちゃんから。」
それは、中学の時に俺が渡した御守り。
晴、俺と一緒にいてくれるんだな。
さっき聞こえた会話を反芻しながら、首から下げたそれを手で包んだ。
自主謹慎で時間を得た俺は、翌日からやるべき事に取り掛かった。
まずは相川についての調査資料を読む。
母親とソックリな幼い頃の相川の顔は「成長した」では通らない程今とかけ離れている。
つまり、整形って事か。
父親は絶対に娘と妻を社交の場に出さず、その理由が「顔が気に入らないから」だと知る者はごく一部らしい。
何と言うか、相川の選民主義の根底は父親にある気がして来る。
まあ、だからって許すつもりは毛頭無いが。
それから生徒会を調査して気になった奴が1人。
橋本と言う2年年生は『堕天使』で、特進クラスの人間を恨んでいるらしい。
もし鬼丸と共犯の可能性があるとしたら、コイツには手を組む動機がある。
その鬼丸は高校時代、特進のような扱いだった同級生とトラブルを起こして退学していた。
うちの学校に赴任したのは、校長の紹介か…って、
当時の担任だったのかよ。
校長が鬼丸の態度を諌めないのは、この事件に関係あるとしか思えない。
ブブッ
LAINが届いてカンナの名前が表示される。
『証拠入手だって。』
添付されていたのはライターを持った橋本の写真。
小火はコイツか…てかこの写真どうしたんだよ。
『萱島君がゲット』
『は?何で晴が?』
『ねぇ、これダルイんだけど~(。•ˇ₃ˇ•。)』
他校の人間とは連絡を禁止されてないのを利用して、カンナを経由してクロと連絡を取ってる訳だが…。
その中継役がダルがって、かなり話を端折って来る。
何とか理解できたのは、小火の犯人は橋本で確定、タバコは鬼丸との共犯の可能性有り。
そして動機の一つは、相川への好意。
どうやったのか不明だが、相川本人にそれを聞き出したらしい。
そして明日の放課後、橋本と話すのを晴が希望している、と。
『何考えてんだ!危ねぇだろ!』
『4対1で行くから大丈夫。自主の機会をあげたいみたいだよ、優しいよね。』
理由が晴らしくてそれ以上怒る気になれない。
『明日の放課後俺も行くから、それまで絶対動くなよ。』
了承の返事を確認して溜息を吐く。
危険な目に合わせたくないが、晴が望むならできる限り叶えてやりたい。
だから、全ての責任は俺が引き受ける。
大学推薦の取り消しも懲戒免職も、恨みは全て俺に向ければいい。
翌朝、陽子に頼まれたモデルの仕事を終えてタクシーで帰路につく。
二つ返事で承諾したそれは、謹慎中に学校へ乗り込む事への謝罪の先払いだ。
撮影で着た服から制服に着替えるのを加味しても、時間には充分余裕がある。
…筈だった。
『ごめん、相川ちゃん暴走により予定変更!
萱時君ピンチかも!』
「…ふざけんなっ!」
驚く運転手に万札を押し付けて、俺は学校へと疾走した。
●●●
side晴人52~63話辺りの話です。
晴人達が真相解明に奮闘している裏で、蓮はこんな風に動いてました。
橋本とカンナが出てきておよ?となりましたが偶然です本当に。笑
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