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高校生編side蓮
30.強さ(side啓太有り)
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(side啓太)
文化祭1日目は、本当に色々あった。
切藤に全部聞いたが、相川さんがあんな事するなんて。
女って怖い。
「お~い、弟~!」
そしてここにも怖い姉が1人。
「ハイ、これ明日の衣装。」
「…明日の?」
疑問に思って差し出された袋を開けると、中には晴人が好きな漫画キャラの衣装(東の名探偵)が入っていた。
「ま、待って!どう言う事だよ!」
何故姉が明日の文化祭の衣装を調達しているのか。
「どうって?蓮君からLAIN来たから。」
平然と言ってのける姉に目が点になる。
いや、弟すっ飛ばしてその同級生と色々計画するのはどうなんだ!?
いや、まぁでも正直どうしたもんかと思ってたから衣装は有難い。
明日チャイナドレスが着られる状態じゃなければ、逃げる役が1人減る。
多分、切藤はその事で晴人が責任を感じないようにコレを手配したんだろう。
しかも、晴人が喜ぶように好きなキャラで。
…はぁ、マジで意外すぎるよな。
あの切藤がこんなに献身的で過保護だなんて。
尽くされてる本人に自覚が無いのが何ともアレだけど…。
まぁでも、あの様子からすると仲直りできたっぽくてよかったよな。
暫く前から拗れていた2人の関係を思ってホッとする。
「アイス。」
「はい?」
俄に降って来た言葉を理解できずにいると、舌打ちされた。
「食べたいから買ってきて。」
「…いやいや、自分で」「アンタがゴリゴリのオジに後ろの孔をピーされたあげくピー入れられて、さらに前にもピー入れて一気に引き抜かれて善がり狂ってる薄い本」「すぐ行ってきます!!」
何度でも言おう。
女って、怖い。。。
(side蓮)
文化祭2日目、密かに俺が選んだコスプレに身を包ん晴は機嫌が良さそうで何よりだ。
相川は想定通り欠席している。
まあ、悪事が露呈した後で俺の前にノコノコ現れる訳ないよな。
さて、どうやって引き摺り出すか…。
「切藤!」
焦った様子の中野が駆け寄って来たのは、そんな事を考えていた時だった。
「晴人が警察に事情聴取されてる!」
声を低くして告げられた言葉に、俺は即座に身を翻した。
晴が拘束されている応接室に走りながら聞いた話は違和感満載だった。
部活で緊急ミーティングがあるらしい中野にはそっちでの情報収集を促して、俺は1人応接室の前に立つ。
『だいたいこう言うのは第一発見者が犯人なんだよ。』
聞こえて来たのは晴を疑う警察の声。
今すぐ助けてやりたいが、ここは冷静に動くべきだろう。
スマホで録音して、充分証拠が取れた所で深呼吸する。
晴の前だから、やりすぎて怖がらせないように気を付けなければ。
「失礼します。」
態と礼儀正しく入室すると、真っ直ぐに晴の下へ向かう。
「晴、大丈夫だ。」
そう言って隣に座ると明らかに晴がホッとして、涙が溜まった瞳に心が痛んだ。
覚悟しろよテメェら。
地獄見せてやるからな。
目の前の男達に、俺は憎悪の炎を燃やした。
結果からして、警察側はあっけなく降参した。
まあ、組織にいる以上、上からの圧にはすこぶる弱いからな。
警察の次期トップと師弟関係、及び歳の離れた友人である俺からするとチョロイ相手だ。
交代の警官が来るまでの間、晴と2人きりになれた。
「蓮はあんな堂々としてたのに。それに比べて俺は弱っちいよなぁ…。」
助けた事をへの礼と共に自分を恥じる姿に、そんな訳ねぇだろと反論する。
晴は小学生の時のトラウマから、言い争いや責められる状況が苦手だ。
だけど、だからと言って弱い訳じゃない。
「晴の強さ発揮できるフィールドじゃなかっただけだろ。」
本人は分かってないんだろう。
そのトラウマに抗って、俺の心の為に戦ってくれたあの日。
怪我しながらも誰の事も恨まず、ましてや落ち込む俺を励ましてくれた優しさ。
その事に、どれほど俺が救われたか。
自分の事では諦めてしまっても、他人の為なら立ち上がれる強さが晴にはある。
それは時に心配で、だけど俺の心を強く惹きつけてやまない。
その真っ直ぐな優しさが眩しくて、俺が守ってやりたくて。
昨日の事も含め『迷惑かけてごめん』と謝る晴に、そうじゃないんだと伝えたくて。
「お前の心配するのは俺の特権。」
心からの言葉にキョトンとする晴を、無性に抱きしめたくなった。
その気配が伝わったのか、晴の顔がジワリと赤く染まる。
「…何か思い出した?」
もっと動揺させたくて昨日の行為を匂わせるように言うとさらに真っ赤になる。
堪らなくなって、冗談だと引き寄せた。
スッポリ腕の中に納まる体温が心地よくて愛おしい
。
「蓮、あのさ…。その…相川さんとは、本当に何もないの?」
「何もない。興味も無い。」
少し硬い声音で尋ねられて、食い気味に返してしまった。
あんな女どうでもいいし付き合うなんて有り得ねぇしなんなら「良かった…。」
…は?
何とか誤解を解こうとして、一瞬反応が遅れた。
良かった?相川と何もなかった事が?
…いや落ち着け、自分の都合のいいように解釈すんな。
これはあれだ、あんな性格悪い女と俺が親しく無くて安心したって意味だよな?
「それ、どう言う意味?」
余裕が無さすぎて、思わず声に出してしまった。
尋ねられた晴が俄に焦り出すのを見て、晴の方も意識せず発した言葉だったんだと悟る。
てか、無意識でそれって…いや…えっ?
「何でもない!何も言ってない!!」
暴れて俺の腕から逃れたその声は震えて、首筋まで真っ赤だ。
「…っ晴!」
聞きたい答えまで、あと一歩かもしれない。
なのに…
「萱島ー!もう始めるぞー!!」
「はーい!……じゃ、じゃあ俺行くから!」
タイミング悪く割り込んで来た教師の声に、晴は全速力で走って行ってしまった。
ポツンと1人残された俺は、頭を抱えてしゃがみ込む。
「…マジで…どっちの意味だよ…。聞くの怖ぇ…。」
また落胆するかもしれないと言う恐怖と、それでも止める事ができない希望。
その言動の全てに過剰反応して、めちゃめちゃに振り回されてるのに…それすらも幸せに感じてしまうんだからもう手に負えない。
そう言う意味でも最強なのに…お前は何も分かってねぇんだよなぁ。
続きを問い詰めたい気持ちはあれど、晴にとって大変な1日だった事を考えてその日は我慢した。
あの後事情聴取は滞り無く行われ、勿論晴は無罪放免となっている。
ただ、晴が部室の鍵当番だった事を知って一抹の不安が残った。
鍵が機能してれば間違いなく晴が疑われていた状況…相川が関与していると見るのが妥当か?
しかしそれにしては身を削りすぎだ。
あの計算高い女が、万が一バレた場合法的な罪に問われるような事をしでかすだろうか。
…何にしろ、晴の周りに警戒しなければ。
翌日の全校集会で小火の件が話された時、俺は1人で体育館の2階にいた。
運動部の大会用に観客席になっているそこは、案外階下の人間にはバレにくい。
全体を見渡して、妙な動きをする奴がいないか目を光らせる。
特に相川ーー昨日の夜、伝手を使ってアイツの父親に上手いこと圧力をかけ無理矢理出席させているーーの動きに注意して。
すると、その顔が斜め前を向き弾かれたように俯いた。
一瞬の事だったが、俺の直感が何かを訴えて来る。
相川の視線の先には生徒会が数人。
そのデータを頭の中から引っ張り出すと、名前と家族構成、志望大学迄は判明した。
そのまま集会の終わりと共に移動して人混みに紛れ、晴が中野と一緒にいる事を確認してから外に出る。
生徒会の奴等は気になるが、相川を捕まえて吐かせた方が早いかもしれない。
しかし徹底的に俺との遭遇を回避する気らしい相川は、その姿を眩ませた。
恐らくだが女子トイレにでも隠れてるんだろう。
「蓮!いたいた!この後C組と一緒に、視聴覚室で例の持ち物検査らしいよ!」
クロが仕入れた情報と共に現れて、一先ず視聴覚室に向かう事にした。
既に登校が教師にも確認されている相川も、ここに来ざるを得ない筈だ。
勝手に帰ったりしたら、何かやましい事があると宣言するようなもんだからな。
「あ!」と声を上げて嬉しそうに走るクロの前方には晴と中野の姿。
どうやら晴の事を気に入ったらしくベタベタ触るのを蹴りで引き離す。
その時晴と目が合って…あからさまに逸らされた。
俯きながら、ほんのり赤くなった耳がその胸中を雄弁に語っている。
ヤベェ、ニヤけそう。
部屋には持ち物検査に対する反発で不満の空気が漂っていたが、俺は気付かない程浮かれていた。
バァン!
ドアを叩く音に意識を戻すと、そこに立っていたのは学年主任の田丸。
『鬼丸』と呼ばれるこの教師は偏った正義感の塊だ。
そして、異常に特進クラスを目の敵にしている。
てか木刀持ってる教師とか頭イカれてんだろ、昭和の不良漫画かっつの。
心の中で悪態を吐きながらふと横を見ると、真っ青になった晴が目に入った。
「晴?どうした?」
「…これ…」
震える手にはタバコの箱ーー。
ーー嵌められた。
一瞬唖然として、直ぐにそう悟った。
「寄越せ。」
言葉が出ない様子の晴から、ひったくるようにしてそれを奪い取る。
安心しろ、お前のじゃない事は分かってる。
そう言ってやりたいが余裕はない。
昨日警察は小火の現場から煙草が見つかったと言っていた。
第一発見者である晴の鞄からからそれが出てくれば、どう考えても被疑者扱いだ。
んな事させるかよーー。
何処のどいつだか知らねぇが、俺が相手だ。
晴を陥れようとした事を、心の底から後悔させてやる。
こう言う場合、犯人の心理としては近くでそれを見ていち早く確認したいか、全く関わりが無いと見せかける為に遠くにいるかの2択だ。
燃え上がる胸の内とは裏腹に冷静な脳内では、犯人の行動パターンを予測する。
前者の場合は真っ先に反応する可能性が高い。
つまり、最初に気付いた奴がーー「何をしている!」
部屋中に響き渡った怒号に、全員の視線が集まった人物。
ーーお前か。
勝ち誇ったような笑みを浮かべる鬼丸を横目で見ながら、相川の表情を探る。
そこには困惑が見て取れて、俺は内心首を捻った。
この件に相川は関係ないのか?
いや、まだ結論付けるのは早い。
とにかく、疑わしいのは相川と鬼丸。
そしてーー後者タイプかもしれない生徒会の中の誰か。
もっと情報が必要だな、一旦捕まるか。
態と鬼丸を挑発して晴を完全に疑いから逃すと、中野に目線を送る。
コクリと頷くのを確認してからクロに視線を移すと、晴を引き止めながら少し笑った。
それに満足して大人しく連行されて行く。
最後に見えた晴の表情だけが心配だ。
晴を頼む。
正確に友人達に伝わったであろうその言葉を、もう一度心の中で呟いた。
●●●
side晴人45~51話辺りの話です。
絢美姉ちゃんと蓮が繋がってる事が恐怖の啓太。笑
文化祭1日目は、本当に色々あった。
切藤に全部聞いたが、相川さんがあんな事するなんて。
女って怖い。
「お~い、弟~!」
そしてここにも怖い姉が1人。
「ハイ、これ明日の衣装。」
「…明日の?」
疑問に思って差し出された袋を開けると、中には晴人が好きな漫画キャラの衣装(東の名探偵)が入っていた。
「ま、待って!どう言う事だよ!」
何故姉が明日の文化祭の衣装を調達しているのか。
「どうって?蓮君からLAIN来たから。」
平然と言ってのける姉に目が点になる。
いや、弟すっ飛ばしてその同級生と色々計画するのはどうなんだ!?
いや、まぁでも正直どうしたもんかと思ってたから衣装は有難い。
明日チャイナドレスが着られる状態じゃなければ、逃げる役が1人減る。
多分、切藤はその事で晴人が責任を感じないようにコレを手配したんだろう。
しかも、晴人が喜ぶように好きなキャラで。
…はぁ、マジで意外すぎるよな。
あの切藤がこんなに献身的で過保護だなんて。
尽くされてる本人に自覚が無いのが何ともアレだけど…。
まぁでも、あの様子からすると仲直りできたっぽくてよかったよな。
暫く前から拗れていた2人の関係を思ってホッとする。
「アイス。」
「はい?」
俄に降って来た言葉を理解できずにいると、舌打ちされた。
「食べたいから買ってきて。」
「…いやいや、自分で」「アンタがゴリゴリのオジに後ろの孔をピーされたあげくピー入れられて、さらに前にもピー入れて一気に引き抜かれて善がり狂ってる薄い本」「すぐ行ってきます!!」
何度でも言おう。
女って、怖い。。。
(side蓮)
文化祭2日目、密かに俺が選んだコスプレに身を包ん晴は機嫌が良さそうで何よりだ。
相川は想定通り欠席している。
まあ、悪事が露呈した後で俺の前にノコノコ現れる訳ないよな。
さて、どうやって引き摺り出すか…。
「切藤!」
焦った様子の中野が駆け寄って来たのは、そんな事を考えていた時だった。
「晴人が警察に事情聴取されてる!」
声を低くして告げられた言葉に、俺は即座に身を翻した。
晴が拘束されている応接室に走りながら聞いた話は違和感満載だった。
部活で緊急ミーティングがあるらしい中野にはそっちでの情報収集を促して、俺は1人応接室の前に立つ。
『だいたいこう言うのは第一発見者が犯人なんだよ。』
聞こえて来たのは晴を疑う警察の声。
今すぐ助けてやりたいが、ここは冷静に動くべきだろう。
スマホで録音して、充分証拠が取れた所で深呼吸する。
晴の前だから、やりすぎて怖がらせないように気を付けなければ。
「失礼します。」
態と礼儀正しく入室すると、真っ直ぐに晴の下へ向かう。
「晴、大丈夫だ。」
そう言って隣に座ると明らかに晴がホッとして、涙が溜まった瞳に心が痛んだ。
覚悟しろよテメェら。
地獄見せてやるからな。
目の前の男達に、俺は憎悪の炎を燃やした。
結果からして、警察側はあっけなく降参した。
まあ、組織にいる以上、上からの圧にはすこぶる弱いからな。
警察の次期トップと師弟関係、及び歳の離れた友人である俺からするとチョロイ相手だ。
交代の警官が来るまでの間、晴と2人きりになれた。
「蓮はあんな堂々としてたのに。それに比べて俺は弱っちいよなぁ…。」
助けた事をへの礼と共に自分を恥じる姿に、そんな訳ねぇだろと反論する。
晴は小学生の時のトラウマから、言い争いや責められる状況が苦手だ。
だけど、だからと言って弱い訳じゃない。
「晴の強さ発揮できるフィールドじゃなかっただけだろ。」
本人は分かってないんだろう。
そのトラウマに抗って、俺の心の為に戦ってくれたあの日。
怪我しながらも誰の事も恨まず、ましてや落ち込む俺を励ましてくれた優しさ。
その事に、どれほど俺が救われたか。
自分の事では諦めてしまっても、他人の為なら立ち上がれる強さが晴にはある。
それは時に心配で、だけど俺の心を強く惹きつけてやまない。
その真っ直ぐな優しさが眩しくて、俺が守ってやりたくて。
昨日の事も含め『迷惑かけてごめん』と謝る晴に、そうじゃないんだと伝えたくて。
「お前の心配するのは俺の特権。」
心からの言葉にキョトンとする晴を、無性に抱きしめたくなった。
その気配が伝わったのか、晴の顔がジワリと赤く染まる。
「…何か思い出した?」
もっと動揺させたくて昨日の行為を匂わせるように言うとさらに真っ赤になる。
堪らなくなって、冗談だと引き寄せた。
スッポリ腕の中に納まる体温が心地よくて愛おしい
。
「蓮、あのさ…。その…相川さんとは、本当に何もないの?」
「何もない。興味も無い。」
少し硬い声音で尋ねられて、食い気味に返してしまった。
あんな女どうでもいいし付き合うなんて有り得ねぇしなんなら「良かった…。」
…は?
何とか誤解を解こうとして、一瞬反応が遅れた。
良かった?相川と何もなかった事が?
…いや落ち着け、自分の都合のいいように解釈すんな。
これはあれだ、あんな性格悪い女と俺が親しく無くて安心したって意味だよな?
「それ、どう言う意味?」
余裕が無さすぎて、思わず声に出してしまった。
尋ねられた晴が俄に焦り出すのを見て、晴の方も意識せず発した言葉だったんだと悟る。
てか、無意識でそれって…いや…えっ?
「何でもない!何も言ってない!!」
暴れて俺の腕から逃れたその声は震えて、首筋まで真っ赤だ。
「…っ晴!」
聞きたい答えまで、あと一歩かもしれない。
なのに…
「萱島ー!もう始めるぞー!!」
「はーい!……じゃ、じゃあ俺行くから!」
タイミング悪く割り込んで来た教師の声に、晴は全速力で走って行ってしまった。
ポツンと1人残された俺は、頭を抱えてしゃがみ込む。
「…マジで…どっちの意味だよ…。聞くの怖ぇ…。」
また落胆するかもしれないと言う恐怖と、それでも止める事ができない希望。
その言動の全てに過剰反応して、めちゃめちゃに振り回されてるのに…それすらも幸せに感じてしまうんだからもう手に負えない。
そう言う意味でも最強なのに…お前は何も分かってねぇんだよなぁ。
続きを問い詰めたい気持ちはあれど、晴にとって大変な1日だった事を考えてその日は我慢した。
あの後事情聴取は滞り無く行われ、勿論晴は無罪放免となっている。
ただ、晴が部室の鍵当番だった事を知って一抹の不安が残った。
鍵が機能してれば間違いなく晴が疑われていた状況…相川が関与していると見るのが妥当か?
しかしそれにしては身を削りすぎだ。
あの計算高い女が、万が一バレた場合法的な罪に問われるような事をしでかすだろうか。
…何にしろ、晴の周りに警戒しなければ。
翌日の全校集会で小火の件が話された時、俺は1人で体育館の2階にいた。
運動部の大会用に観客席になっているそこは、案外階下の人間にはバレにくい。
全体を見渡して、妙な動きをする奴がいないか目を光らせる。
特に相川ーー昨日の夜、伝手を使ってアイツの父親に上手いこと圧力をかけ無理矢理出席させているーーの動きに注意して。
すると、その顔が斜め前を向き弾かれたように俯いた。
一瞬の事だったが、俺の直感が何かを訴えて来る。
相川の視線の先には生徒会が数人。
そのデータを頭の中から引っ張り出すと、名前と家族構成、志望大学迄は判明した。
そのまま集会の終わりと共に移動して人混みに紛れ、晴が中野と一緒にいる事を確認してから外に出る。
生徒会の奴等は気になるが、相川を捕まえて吐かせた方が早いかもしれない。
しかし徹底的に俺との遭遇を回避する気らしい相川は、その姿を眩ませた。
恐らくだが女子トイレにでも隠れてるんだろう。
「蓮!いたいた!この後C組と一緒に、視聴覚室で例の持ち物検査らしいよ!」
クロが仕入れた情報と共に現れて、一先ず視聴覚室に向かう事にした。
既に登校が教師にも確認されている相川も、ここに来ざるを得ない筈だ。
勝手に帰ったりしたら、何かやましい事があると宣言するようなもんだからな。
「あ!」と声を上げて嬉しそうに走るクロの前方には晴と中野の姿。
どうやら晴の事を気に入ったらしくベタベタ触るのを蹴りで引き離す。
その時晴と目が合って…あからさまに逸らされた。
俯きながら、ほんのり赤くなった耳がその胸中を雄弁に語っている。
ヤベェ、ニヤけそう。
部屋には持ち物検査に対する反発で不満の空気が漂っていたが、俺は気付かない程浮かれていた。
バァン!
ドアを叩く音に意識を戻すと、そこに立っていたのは学年主任の田丸。
『鬼丸』と呼ばれるこの教師は偏った正義感の塊だ。
そして、異常に特進クラスを目の敵にしている。
てか木刀持ってる教師とか頭イカれてんだろ、昭和の不良漫画かっつの。
心の中で悪態を吐きながらふと横を見ると、真っ青になった晴が目に入った。
「晴?どうした?」
「…これ…」
震える手にはタバコの箱ーー。
ーー嵌められた。
一瞬唖然として、直ぐにそう悟った。
「寄越せ。」
言葉が出ない様子の晴から、ひったくるようにしてそれを奪い取る。
安心しろ、お前のじゃない事は分かってる。
そう言ってやりたいが余裕はない。
昨日警察は小火の現場から煙草が見つかったと言っていた。
第一発見者である晴の鞄からからそれが出てくれば、どう考えても被疑者扱いだ。
んな事させるかよーー。
何処のどいつだか知らねぇが、俺が相手だ。
晴を陥れようとした事を、心の底から後悔させてやる。
こう言う場合、犯人の心理としては近くでそれを見ていち早く確認したいか、全く関わりが無いと見せかける為に遠くにいるかの2択だ。
燃え上がる胸の内とは裏腹に冷静な脳内では、犯人の行動パターンを予測する。
前者の場合は真っ先に反応する可能性が高い。
つまり、最初に気付いた奴がーー「何をしている!」
部屋中に響き渡った怒号に、全員の視線が集まった人物。
ーーお前か。
勝ち誇ったような笑みを浮かべる鬼丸を横目で見ながら、相川の表情を探る。
そこには困惑が見て取れて、俺は内心首を捻った。
この件に相川は関係ないのか?
いや、まだ結論付けるのは早い。
とにかく、疑わしいのは相川と鬼丸。
そしてーー後者タイプかもしれない生徒会の中の誰か。
もっと情報が必要だな、一旦捕まるか。
態と鬼丸を挑発して晴を完全に疑いから逃すと、中野に目線を送る。
コクリと頷くのを確認してからクロに視線を移すと、晴を引き止めながら少し笑った。
それに満足して大人しく連行されて行く。
最後に見えた晴の表情だけが心配だ。
晴を頼む。
正確に友人達に伝わったであろうその言葉を、もう一度心の中で呟いた。
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