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高校生編side蓮
29.理解
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「やっぱりここか。」
校門でその姿を見つけると、大きく目を見開た女が木村と名乗った。
人気のない場所まで移動すると、まず晴を心配してくる。
お前がやったんだろとも思うが、早く晴の元に戻りたい一心で話を促した。
どうやら中学時代の相川に都合良く使われて、今回も、俺と晴を引き離す為に協力させられたらしい。
「ふざけんなよ」
相川の策略に怒りが沸く。
それに加担しようとしていたコイツも同罪だ。
だが『自分にはそんな資格がない』とでも言うように、懸命に涙を堪える姿に少し冷静になった。
もし晴がこの場にいたら、厳しい視線を向ける俺を諌めるに違いない。
「俺的には不本意だけど、二度と晴に近付かないなら許す。」
仕方ないと溜息を吐きながら言うと、木村は頷いた。
その姿が何故か晴と重なって見えて、思わず言葉が溢れる。
「アンタさ、自分が思ってるより強いって気付いてるか?」
やり方はもっとあっただろうが、あの相川…俺でさえ尻尾を掴み切れなかったあの女に反抗したのは事実だ。
コイツが命令のままに行動していたら、晴はもっと嫌な思いをしていただろう。
柄にもなくアドバイスみたいな事を言うと、木村が涙を流した。
ま、話しはこれで終わりだな。
慰める必要も感じずその場を離れようとして、案外しっかりした声に足を止めた。
「蓮さんって優しいですね。萱島君の言う通りだなぁ。」
そして「独り言」と称して話し出した内容に瞠目する。
ここに来る時に感じたらしい、周りからの悪意ある視線や言葉。
常にそれに晒されている状態で、不安を煽るような事を言われたらーー。
衝撃に頭の中が白くなった。
以前、晴の周りについて考えた時に感じた違和感を思い出す。
俺の周りの『友人』と呼べる人間は、俺と晴が一緒にいる事に肯定的だった。
それは晴も同じだろう。
だけど、その他の親しくない人間はーー?
『タイプ違うのに何で一緒にいるんだろうね。』
度々耳にした会話は、純粋な興味…或いは俺と話すきっかけに利用としている節が強かった。
常に集まる人の視線、聞き耳を立てられる事、口上に登る事。
それは俺にとって日常で、空気のようなものだ。
でも、晴はーー?
小学生での一件以来、自己肯定感が低くなってしまった晴は、それを悪意として捉えてもおかしくない。
むしろ、俺がいない所で本当に心無い言葉を向けられていた可能性もある。
その最たる存在が相川だ。
『中学生の時もそう言う事をする子がいた』と語る木村は、今回もその手を使っていたと言う確信があるんだろう。
用心深い相川は自分の悪事を他人に話さない。
ならば、木村は晴に直接聞いた事になる。
どうしてそれを、晴は俺に話してくれなかったのかーー。
「自分が相手に相応しくないって思ったら、私だったら距離を置いちゃうかも。その相手が大切な人なら特に。」
愕然とする俺に、木村の言葉が突き刺さる。
晴は俺を大切に思ってくれていたんだろうか。
理由も明かさず『相応しくない』自分を俺から遠ざける程に。
『相応しい』存在の相川が俺と付き合う事を信じてしまう程にーー。
馬鹿だな、晴。
お前が俺に相応しくないなんてある訳ないだろ。
むしろそれは俺の方だ。
名前の通り太陽みたいお前に、暗い執着と独占欲の塊みたいな俺は相応しくない。
それでも、欲しくて欲しくて仕方がなくてーー。
晴の事を思うなら、周りを牽制したり裏から手を回す前にやるべき事があったのに。
俺にとって晴が何より大切で、片時も離れたくない存在なんだと。
晴だけが特別で、誰に何を言われたようがそれは変わりようのない事実なんだと。
一緒にいて欲しいと、言葉にして伝えるべきだった。
更衣室で晴が言った『蓮の望むようにしたのに』と言う言葉の意味。
不安な晴に追い討ちをかけるような行動ばかりしていた俺のせいで、晴は俺が自分と離れる事を望んでいると誤解してーー。
『さよなら、蓮』
夏祭りで、決別を口にした晴の顔が過ぎった。
涙を零して、それでも何処か諦めたようなその表情の意味が今なら分かる。
そして『晴の目線で周りを見ろ』と言った翔の言葉もようやく理解した。
とんでもない大馬鹿野郎だ、俺はーー。
「お前、いい性格してるわ。」
俺の言葉に、それを自分の『独り言』だと言って気付かせた木村は笑った。
俺なりの敬意と礼は伝わったのか、しっかりとした足取りで歩き出す。
俺も、行かなければ。
何も気付かず、たくさん傷付けてしまった唯一の元へ。
まだ、間に合うだろうか。
いや、絶対に間に合わせる。
晴、絶対にお前を失いたくないんだ。
焦る心とは裏腹に、晴はなかなか見つからなかった。
『え!切藤の事探して出て行ったけど、会ってないのか?』
中野の言葉に思いあたって、あまり知られていないベンチに向かう。
入学して間もない頃に2人で見つけたその場所に、目的の人物が横たわっている。
は?横たわってる?
「晴?」
近付くと、グッタリとしていて顔色が悪い。
「晴⁉︎おい、こっち見ろ!」
猛烈に慌てながらも様子を良く観察すると、寒いはずなのにうっすら汗をかき、眠気と手の震えを訴えてくる。
「お前、飯は?」
「朝から何も…」
「マジかよ。低血糖だな。」
晴を尾行…ではなく、肖像権を守るために追っていた時に断り損ねた配布物のラムネを取り出す。
「指まで食うな!舐めんな!」
甘いと喜びながら俺の指を喰む姿に頭が沸騰しそうだ。
「お前、そのポヤッてる時の無自覚煽り本当やめろ!ってか俺以外の前でその状態なるなよ?」
「はーい」
「……くそ、絶対分かってねぇ。。」
こんな姿、誰一人として見せたくないのに本人は危機感がまるで無いのがムカつくんだよ。
いや待て落ち着け、説教は後だ。
今は身体を温めるのと、ブドウ糖の摂取が先決。
晴を抱き上げてヒーターがある美術室に向かうと、数人の女子が黒板に絵を描いていた。
手伝いを申し出てくれたので、ブドウ糖の入った温かい飲み物を頼む。
軽い低血糖なら、ブドウ糖の摂取後15分程度で回復するはずだ。
ヒーターを作動させ、震える肩に俺のカーディガンを纏わせると横抱きに膝に乗せた。
少しするとバタバタと足音がして、思いの外早くミルクティーが届く。
自分の教室に帰る女子達に礼を言うと、ペットボトルを開けて晴の口許に充てがった。
が、ぼんやりしていて飲む気配がない。
「晴、口開けて?」
自分の口に少し含み、言われるままに口を開けた晴にミルクティーを飲ませる。
口移しに何の抵抗も無く嚥下する様に愉悦が沸きそうになるが、何とか押し留めた。
何度か繰り返すと手の震えが止まり、冷えて紫になっていた爪の血色もだいぶマシになった。
ただ、眠いのは変わらないのか意識は半分夢の中らしい。
「……いい匂い。」
「またそれかよ。」
幸せそうな様子が可愛くて笑う。
自棄になっていた頃、晴の好きな香水が染み付いていた筈のカーディガンは、タバコの臭いに書き換えられてしまった。
周りからはタバコとウッド系に変えた香水の匂いに『こっちの方が蓮っぽいよ。前のもいい匂いだけどちょっと爽やかすぎる』なんて言われて。
それなのに…晴の好きなシトラスを捨てる事はできなかった。
結局処分したのは、晴の苦手なタバコの臭いがするカーディガンの方。
新しいそれが今、晴の身体を包んでいる事に心の底から安堵する。
小さく音を立てて髪の毛にキスして、額にもーー。
「…蓮、ごめんね?」
俺の首筋に顔を埋めながら言った晴に、一瞬息が詰まった。
違う、晴。
悪いのは俺だ。
お前に何も伝えずに、気持ちも考えてやれずにいた俺のせいだ。
謝るのは俺の方。
だけど、今言ってもきっと覚えてないよな。
「おやすみ、晴。もう暫く、暖めさせて?」
耳元で囁いて、指でサラサラの髪を梳く。
俺の体温が晴に移るようにギュッと抱きしめて。
永遠にこのままでいられたらいいのにと。
そう、思ってしまった。
暫くして憲人さんに迎えを頼み、親父にも連絡しておく。
滑ってプールに落ちた事にして、エネルギー不足で低血糖になった事も伝えると憲人さんは眉を下げた。
「重ね重ねごめんね。蓮君がいてくれて良かった。」
家に来なくなった俺を心配して時折料理を持って来てくれていたこの人は、どこまで俺の気持ちを分かってるんだろうか。
いや、バレてるのは確実なんだが…どこまで許容しているのか分からない。
晴を部屋に運んで親父の到着を待っている間、晴は俺のカーディガンを離さなかった。
可愛いんだけど、晴さん…ホンモノこっちにいるんすけど…。
やっぱり匂いだけなのか?
カーディガンにムカついて無理矢理奪う。
ついでにキスしてやろうかと思っていると、親父が部屋に飛び込んで来た。
「こんの馬鹿息子!学校帰れ馬鹿!」
おい、だから『氷の医師』の異名どうしたよ。
馬鹿って2回言ってんじゃん小学生かよ。
どうやら寝込みを襲おうとしていると勘違いされたらしい。
んな訳ねぇだろ…とは言い切れないが、ここを動くつもりは毛頭ない。
結局は憲人さんに諌められて、俺は学校に強制送還となった。
「何で憲人君の言う事はすぐ聞くんだ…。」
と親父が溢していたが、理由は簡単。
晴の父親だから。以上。
実際、雰囲気と目の色が息子に似ている憲人さんに俺は結構弱かったりする。
戻った学校で中野に状況を説明し、晴の担任にも早退した旨を話しておく。
文化祭が終わり家に帰ろうとすると、今度は親父が車で迎えに来ていた。
萱島家に行かせないと言う意地を感じて腹は立つものの、晴の状態を聞けたので良しとしよう。
低血糖も落ち着き、ゆっくり寝て疲れを取れば回復するとの事で胸を撫で下ろす。
家に着くと、憲人さんから『晴が起きたよ、元気です。今から美香さんによるお説教。』とLAINが届いた。
思わず笑って、明日に思いを馳せる。
明日、晴と話そう。
今までの事も、俺の気持ちも全て。
受け入れて貰えるかは分からないが、伝えなければ何も始まらない。
決意した俺は想像だにしていなかった。
翌日、今日以上の事件に晴が巻き込まれる事を…。
●●●
side晴人高校編39~44話辺りの話です。
桃ちゃん泣いてるのに慰めない蓮。
晴の涙以外は女子供でもどうでも良し。笑
蓮父は「娘には指一本触れさせん!」の心持ち。笑
校門でその姿を見つけると、大きく目を見開た女が木村と名乗った。
人気のない場所まで移動すると、まず晴を心配してくる。
お前がやったんだろとも思うが、早く晴の元に戻りたい一心で話を促した。
どうやら中学時代の相川に都合良く使われて、今回も、俺と晴を引き離す為に協力させられたらしい。
「ふざけんなよ」
相川の策略に怒りが沸く。
それに加担しようとしていたコイツも同罪だ。
だが『自分にはそんな資格がない』とでも言うように、懸命に涙を堪える姿に少し冷静になった。
もし晴がこの場にいたら、厳しい視線を向ける俺を諌めるに違いない。
「俺的には不本意だけど、二度と晴に近付かないなら許す。」
仕方ないと溜息を吐きながら言うと、木村は頷いた。
その姿が何故か晴と重なって見えて、思わず言葉が溢れる。
「アンタさ、自分が思ってるより強いって気付いてるか?」
やり方はもっとあっただろうが、あの相川…俺でさえ尻尾を掴み切れなかったあの女に反抗したのは事実だ。
コイツが命令のままに行動していたら、晴はもっと嫌な思いをしていただろう。
柄にもなくアドバイスみたいな事を言うと、木村が涙を流した。
ま、話しはこれで終わりだな。
慰める必要も感じずその場を離れようとして、案外しっかりした声に足を止めた。
「蓮さんって優しいですね。萱島君の言う通りだなぁ。」
そして「独り言」と称して話し出した内容に瞠目する。
ここに来る時に感じたらしい、周りからの悪意ある視線や言葉。
常にそれに晒されている状態で、不安を煽るような事を言われたらーー。
衝撃に頭の中が白くなった。
以前、晴の周りについて考えた時に感じた違和感を思い出す。
俺の周りの『友人』と呼べる人間は、俺と晴が一緒にいる事に肯定的だった。
それは晴も同じだろう。
だけど、その他の親しくない人間はーー?
『タイプ違うのに何で一緒にいるんだろうね。』
度々耳にした会話は、純粋な興味…或いは俺と話すきっかけに利用としている節が強かった。
常に集まる人の視線、聞き耳を立てられる事、口上に登る事。
それは俺にとって日常で、空気のようなものだ。
でも、晴はーー?
小学生での一件以来、自己肯定感が低くなってしまった晴は、それを悪意として捉えてもおかしくない。
むしろ、俺がいない所で本当に心無い言葉を向けられていた可能性もある。
その最たる存在が相川だ。
『中学生の時もそう言う事をする子がいた』と語る木村は、今回もその手を使っていたと言う確信があるんだろう。
用心深い相川は自分の悪事を他人に話さない。
ならば、木村は晴に直接聞いた事になる。
どうしてそれを、晴は俺に話してくれなかったのかーー。
「自分が相手に相応しくないって思ったら、私だったら距離を置いちゃうかも。その相手が大切な人なら特に。」
愕然とする俺に、木村の言葉が突き刺さる。
晴は俺を大切に思ってくれていたんだろうか。
理由も明かさず『相応しくない』自分を俺から遠ざける程に。
『相応しい』存在の相川が俺と付き合う事を信じてしまう程にーー。
馬鹿だな、晴。
お前が俺に相応しくないなんてある訳ないだろ。
むしろそれは俺の方だ。
名前の通り太陽みたいお前に、暗い執着と独占欲の塊みたいな俺は相応しくない。
それでも、欲しくて欲しくて仕方がなくてーー。
晴の事を思うなら、周りを牽制したり裏から手を回す前にやるべき事があったのに。
俺にとって晴が何より大切で、片時も離れたくない存在なんだと。
晴だけが特別で、誰に何を言われたようがそれは変わりようのない事実なんだと。
一緒にいて欲しいと、言葉にして伝えるべきだった。
更衣室で晴が言った『蓮の望むようにしたのに』と言う言葉の意味。
不安な晴に追い討ちをかけるような行動ばかりしていた俺のせいで、晴は俺が自分と離れる事を望んでいると誤解してーー。
『さよなら、蓮』
夏祭りで、決別を口にした晴の顔が過ぎった。
涙を零して、それでも何処か諦めたようなその表情の意味が今なら分かる。
そして『晴の目線で周りを見ろ』と言った翔の言葉もようやく理解した。
とんでもない大馬鹿野郎だ、俺はーー。
「お前、いい性格してるわ。」
俺の言葉に、それを自分の『独り言』だと言って気付かせた木村は笑った。
俺なりの敬意と礼は伝わったのか、しっかりとした足取りで歩き出す。
俺も、行かなければ。
何も気付かず、たくさん傷付けてしまった唯一の元へ。
まだ、間に合うだろうか。
いや、絶対に間に合わせる。
晴、絶対にお前を失いたくないんだ。
焦る心とは裏腹に、晴はなかなか見つからなかった。
『え!切藤の事探して出て行ったけど、会ってないのか?』
中野の言葉に思いあたって、あまり知られていないベンチに向かう。
入学して間もない頃に2人で見つけたその場所に、目的の人物が横たわっている。
は?横たわってる?
「晴?」
近付くと、グッタリとしていて顔色が悪い。
「晴⁉︎おい、こっち見ろ!」
猛烈に慌てながらも様子を良く観察すると、寒いはずなのにうっすら汗をかき、眠気と手の震えを訴えてくる。
「お前、飯は?」
「朝から何も…」
「マジかよ。低血糖だな。」
晴を尾行…ではなく、肖像権を守るために追っていた時に断り損ねた配布物のラムネを取り出す。
「指まで食うな!舐めんな!」
甘いと喜びながら俺の指を喰む姿に頭が沸騰しそうだ。
「お前、そのポヤッてる時の無自覚煽り本当やめろ!ってか俺以外の前でその状態なるなよ?」
「はーい」
「……くそ、絶対分かってねぇ。。」
こんな姿、誰一人として見せたくないのに本人は危機感がまるで無いのがムカつくんだよ。
いや待て落ち着け、説教は後だ。
今は身体を温めるのと、ブドウ糖の摂取が先決。
晴を抱き上げてヒーターがある美術室に向かうと、数人の女子が黒板に絵を描いていた。
手伝いを申し出てくれたので、ブドウ糖の入った温かい飲み物を頼む。
軽い低血糖なら、ブドウ糖の摂取後15分程度で回復するはずだ。
ヒーターを作動させ、震える肩に俺のカーディガンを纏わせると横抱きに膝に乗せた。
少しするとバタバタと足音がして、思いの外早くミルクティーが届く。
自分の教室に帰る女子達に礼を言うと、ペットボトルを開けて晴の口許に充てがった。
が、ぼんやりしていて飲む気配がない。
「晴、口開けて?」
自分の口に少し含み、言われるままに口を開けた晴にミルクティーを飲ませる。
口移しに何の抵抗も無く嚥下する様に愉悦が沸きそうになるが、何とか押し留めた。
何度か繰り返すと手の震えが止まり、冷えて紫になっていた爪の血色もだいぶマシになった。
ただ、眠いのは変わらないのか意識は半分夢の中らしい。
「……いい匂い。」
「またそれかよ。」
幸せそうな様子が可愛くて笑う。
自棄になっていた頃、晴の好きな香水が染み付いていた筈のカーディガンは、タバコの臭いに書き換えられてしまった。
周りからはタバコとウッド系に変えた香水の匂いに『こっちの方が蓮っぽいよ。前のもいい匂いだけどちょっと爽やかすぎる』なんて言われて。
それなのに…晴の好きなシトラスを捨てる事はできなかった。
結局処分したのは、晴の苦手なタバコの臭いがするカーディガンの方。
新しいそれが今、晴の身体を包んでいる事に心の底から安堵する。
小さく音を立てて髪の毛にキスして、額にもーー。
「…蓮、ごめんね?」
俺の首筋に顔を埋めながら言った晴に、一瞬息が詰まった。
違う、晴。
悪いのは俺だ。
お前に何も伝えずに、気持ちも考えてやれずにいた俺のせいだ。
謝るのは俺の方。
だけど、今言ってもきっと覚えてないよな。
「おやすみ、晴。もう暫く、暖めさせて?」
耳元で囁いて、指でサラサラの髪を梳く。
俺の体温が晴に移るようにギュッと抱きしめて。
永遠にこのままでいられたらいいのにと。
そう、思ってしまった。
暫くして憲人さんに迎えを頼み、親父にも連絡しておく。
滑ってプールに落ちた事にして、エネルギー不足で低血糖になった事も伝えると憲人さんは眉を下げた。
「重ね重ねごめんね。蓮君がいてくれて良かった。」
家に来なくなった俺を心配して時折料理を持って来てくれていたこの人は、どこまで俺の気持ちを分かってるんだろうか。
いや、バレてるのは確実なんだが…どこまで許容しているのか分からない。
晴を部屋に運んで親父の到着を待っている間、晴は俺のカーディガンを離さなかった。
可愛いんだけど、晴さん…ホンモノこっちにいるんすけど…。
やっぱり匂いだけなのか?
カーディガンにムカついて無理矢理奪う。
ついでにキスしてやろうかと思っていると、親父が部屋に飛び込んで来た。
「こんの馬鹿息子!学校帰れ馬鹿!」
おい、だから『氷の医師』の異名どうしたよ。
馬鹿って2回言ってんじゃん小学生かよ。
どうやら寝込みを襲おうとしていると勘違いされたらしい。
んな訳ねぇだろ…とは言い切れないが、ここを動くつもりは毛頭ない。
結局は憲人さんに諌められて、俺は学校に強制送還となった。
「何で憲人君の言う事はすぐ聞くんだ…。」
と親父が溢していたが、理由は簡単。
晴の父親だから。以上。
実際、雰囲気と目の色が息子に似ている憲人さんに俺は結構弱かったりする。
戻った学校で中野に状況を説明し、晴の担任にも早退した旨を話しておく。
文化祭が終わり家に帰ろうとすると、今度は親父が車で迎えに来ていた。
萱島家に行かせないと言う意地を感じて腹は立つものの、晴の状態を聞けたので良しとしよう。
低血糖も落ち着き、ゆっくり寝て疲れを取れば回復するとの事で胸を撫で下ろす。
家に着くと、憲人さんから『晴が起きたよ、元気です。今から美香さんによるお説教。』とLAINが届いた。
思わず笑って、明日に思いを馳せる。
明日、晴と話そう。
今までの事も、俺の気持ちも全て。
受け入れて貰えるかは分からないが、伝えなければ何も始まらない。
決意した俺は想像だにしていなかった。
翌日、今日以上の事件に晴が巻き込まれる事を…。
●●●
side晴人高校編39~44話辺りの話です。
桃ちゃん泣いてるのに慰めない蓮。
晴の涙以外は女子供でもどうでも良し。笑
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