【完結まで残り1話】桜の記憶 幼馴染は俺の事が好きらしい。…2番目に。

あさひてまり

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高校生編side蓮 

21.歪み

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クソ!あの野郎!

心の中で悪態を吐いた相手は勿論晴じゃない。

何なら相川でもない。

ーーやるか?

俺の身体能力なら、2階から余裕で飛び降りる事ができる。

まさに柵に手をかけた瞬間、悪態の相手が中庭に現れた。

チラリと上を見て俺と目が合い、俄に慌てている。

「晴人!ここにいたのか!」

晴の下に走る中野を見て、俺は舌打ちした。

遅ぇんだよ、使えねぇなマジで。

晴の様子がおかしかったあの日、中野を呼び出して相川に気を付けろ、晴と2人にするなと釘を刺しておいたのに。


何とか飛び降りずその場に踏み留まったものの、じっとしていられず階下へ駆け出した。

途中で数人吹っ飛ばしたかもしれないが、どうでもいい。

息を切らして一般クラスの棟に向かうと、廊下に晴の後ろ姿が見えた。

声をかけようとして、異変に気付く。

中野に手首を引っ張られているその足取りは、自分の意思で歩いてるのか分からないような覚束なさだ。

「…晴?」

驚かさないように静かに声をかける。

すると、振り返ったのは中野だった。

足を止めた中野に軽くぶつかった晴の横顔は、心ここに在らずと言った様子だ。

何か考え込むように地面を見つめる晴を見て、中野が俺に首を振る。

『ちょっと待て』

小声でそう言って晴を教室の中に入れると、すぐに取って返した。


「テメェ、俺の忠告なんだと思ってんだよ。」

「ごめんって!大山先生に部活の事で呼ばれててさ、でも念のため伊藤に頼んでおいたんだぜ!」

中野が言うには、遥の親友である伊藤由奈莉に晴を託していたらしい。

「でも晴がトイレ行くって言ったらしくてさ、流石に付いてけないだろ?俺が教室戻った時には、晴人が帰って来ないって心配してて。慌てて探してたら中庭で見つけたんだ。」

つまり、1人になった所を相川に捕まったのか。

いや、それともーー晴が相川を捕まえたーー?

「晴は?」

「伊藤に様子見ててもらってるけど、今は何話したのかは聞かない方がいいな。」

俺が内容を知りたがっているのを察して付け加えると、思案した顔になる。

「俺が行った時には相川さんは普通で、晴人だけ様子がおかしかったんだよな。それに、あの場所だし…。」

中野が何を言わんとしてるのか直ぐに理解した。

2人が居たあの木陰。

あの場所は、高校時代女子に告られた翔がOKした事から『告白が成功する』とされている。

それを知った上でーー?

それは、どちらの意志でーー?

まさか、本当に晴はーー。

「…ねーよ。」

心に湧き上がる考えを否定するが、発した声は自分の思っていた声量とは程遠かった。

「いや、でも分かんないから。相川さんが『さっきの話しよろしく』とか言ってたのも謎だし。
…とにかく、晴人が話す気になるまで待とうぜ。
俺になら言いやすいかもしれないし。」

「は?何でお前?」

「いや、だってさ…万が一晴の方がその…アレしてアレされたとしてさ、相川さんの好きな相手がアレだって知っちゃった可能性もあるだろ?」

オブラートに包みすぎだろ、余計イラつくんだよ。

「晴が相川に告って振られて、その相川が俺に気がある事を知ったって言いてぇ訳?」

「そ、その通りなんだけど…てかやっぱ相川さんてお前の事好きなんだな…ちょ、そんな人殺しそうな目で見るなよ…!晴が告ったって言うのは仮定の話しだから!
でも、そうだとしたらお前には話せないだろ?」

確かにそれはそうだ。

そうだけど、それでも…

「何か分かったら伝えるから。な?」

「…お前は、晴から相川の話し聞いた事あるか?」

労わるような声音になった中野に尋ねると、ゆっくり頷いた。

「ある。ただ、恋愛的な要素は感じなかった…と思う。俺ら基本恋バナとかしないから分からんけど…。」

それが本心なのか俺への配慮なのかは不明だが、幾分マシな気持ちにはなった。

「今日部活だろ?晴は連れて帰るわ。」

「いや、それは本人が決める事だろ。切藤、お前は過保護すぎる。前から思ってたけど、晴人の事お姫様だとでも思ってるのか?
アイツはそんなんじゃないだろ、考えもしっかりあるしーー」

ガンッ


言葉を遮って廊下の壁を蹴り付けた俺に、中野の動きが止まる。

「知った風な口聞くんじゃねぇよ。たかだか数年付き合っただけのお前に何が分かる?」

お前が晴を語るんじゃねぇ。

「『お姫様』だと思ってんなら、囲って外の世界と遮断して、俺がいないと生きていけねぇように依存させればいい。…それができねぇから苦労してんだよこっちは。」


そうしようと、そうしたいと思っていた時期もあった。

だけど、それでは晴は離れて行ってしまう。

何より、晴の晴らしい所を潰してしまいかねない。

それに気が付いたのは、晴に距離を取られて遥と一緒にいた時だ。


それでもなお、時折頭をもたげる重い執着や独占欲を必死に捩じ伏せている。

全てを奪ってしまいたい。

でも、大切にしたい。

攻めぎ合うその二極を抱えてーー。


「ふざけんな、小3から片思いしてんだよこっちは!晴の事は俺が一番良く分かってる!」

サッカークラブで俺を守ってケガした晴を『お姫様』だなんて思う訳ないだろうが!


「あ…いや…悪かった切藤。俺はお前の事、少し誤解してたみたいだ。」

ペコリと頭を下げて中野は続ける。

「本当に、心の底から晴人の事好きなんだな。」

その言葉に、怒りが少し薄らぐのを感じた。

「ただ…俺も親友として晴人の意見は尊重したいんだ。だから、部活をどうするかは本人に決めて欲しい。」

それでもなお引かない中野に腹は立つが、その意見には納得する要素がある。

「…分かった。もし部活出るなら、アイツ考え事すると一切周り見えねぇから怪我しないように見てろよ。」

「それで反対してたのか…切藤、お前って結構言葉足らずなんだな…。分かった、今日はほぼミーティングだから心配ない。」

その言葉に安堵して踵を返した。

丁度チャイムが鳴って、中野も教室に入って行く。


俺はとても教室に戻る気にはなれなくて、校舎から見えないベンチへと向かった。

ただ、1人になりたかった。


しかし、全てが最悪の方向に向かう日というのは存在する。


「だからさ、マジなんだって!」

誰もいないだろうと踏んだその場所から聞こえてきたのは、男子数人の会話。

「相川ちゃんに告ってたんだよ!一年の地味な奴が!」

「身の程知れって一発しめとく?」

「いやでも確かソイツ、切藤蓮の幼馴染かなんかだぞ。」

今最も聞きたくい会話に、腹の底からドス黒い感情が湧き上がる。


「はぁ?あのさ、お前ら持ち上がり組って切藤にビビリすぎじゃねぇ?確かに遠目でもオーラはパネェけどさ、俺らのが歳上なんだからそこんとこわからせた方がよくね?」  

「へぇ。何教えてくれんの。」

「ひっ!!なんで!?」

突然現れた俺に色を無くした奴らが、慌てふためく。

「俺の幼馴染にも何かするつもりなんだよな?」

一番イキっていた奴の右肩を掴んで、そこに力を
込めた。

「イッ…!」

「野球部の推薦入学か…このまま利き手の肩壊れたらどうなんだろうな。」

「ま、待って…痛い…痛い痛い痛い!!」

「や、やめろよ切藤!」

「そう言うお前は推薦狙いだろ。高校で後輩虐めてるって伝えてやろうか?」

俺が出した大学名にソイツが青褪める。

「お前は医者だろ?あー、父親のネットワーク使って僻地に飛ばすか。
お前は…取り敢えず中学での事学校中にバラしとく?」

「な…何でそんな事知って…。」

「お前らの家族構成から親の職場から全部把握してるぞ~?俺はそこそこ記憶力いいからな~。」

態と楽しげに、言い聞かせるように言うと全員が慄いた。

「う、嘘だ…!そんな事できる訳…」


「嘘じゃないよ~!特進の…てか、人類のトップ舐めないほうがいいよ!」

急に響いた別の声に、全員の注意が逸れた。

「クロ、何でいんの?」

「蓮が凄い形相で飛び出したっきり戻らないから探しに来たんじゃん!」

そして、固まる奴等に向き直る。

「マジでさ、蓮にとってはそんくらい難しくないんだよ。あとこの人、空手黒帯だからそっちも敵わないからね。親も権力あるし、全てにおいて逆らわない方が利口だと思うけど。」

そう言って笑うクロに、奴等が目を見開く。

「俺のに手ェ出すなよ?
あの話も吹聴すんな。噂が流れたら、お前らが広めたと思う事にするから。」

「そ…そんな理不尽な…」

「は?テメェらが晴にしようとしてた事は理不尽じゃねぇのかよ。」

何も言い返せず震え出した野郎共に、最後の一瞥をくれてやる。

「せいぜい頭使えよ。もし噂になって晴が他の『相川信者』から何かされたら…テメェら二度と学校来れると思うなよ?」





「蓮がマジでキレてる所初めて見た。そんなに大事なん?幼馴染君。」

大事に決まってんだろ。

連れ立って歩く黒崎に、心の中で答える。

晴が相川に告ったって話の計り知れない衝撃を凌駕したのは、晴を絶対に誰にも傷付けさせないと言う思いだった。

それ程までに大切だ。


だからこそ、告白の可能性が上がった今、晴本人にその話を確かめる事が俺にはできない。

事実だと知った時、自分の中の執着心が暴走する事が怖かった。

俺自身が、晴を傷付けてしまう可能性が何よりもーー。




そんな思いから、夏休みに入っても一切連絡を取らなかった。

カフェで始めたバイトを入れまくって、何も考えなくていいようにして。

それなのにふとした拍子に晴を思い出して胸が痛む。

本当に、相川が好きなのかもしれない。

晴の方からも連絡が無い事が、その思考に拍車をかけていた。




『ねね、蓮の地元のお祭り今日なんでしょ?行きたいから案内してよ!18時に駅前な!』

用件のみで切られた通話画面の『黒崎』を睨む。

急すぎだろ、マジでコイツに休みの予定教えるんじゃなかった…。


てか、祭り今日なのか。

無意味とは分かっていても、晴とのトーク画面を確認してしまう。

…だよな、来てる訳ないよな。


重い溜息を吐いてベッドから身を起こす。

仕方ねぇ、誰かといる方が気が紛れるだろうしクロに付き合ってやるか。

そう思って、着替えるべくクローゼットからデニムを取り出した。





この判断が、地獄への入り口になるなんて思いもせずにーー。



●●●
side晴人高校編の3~7話辺りの話です。
夏休み明け、晴と相川の噂が広まらなかったと12話と23話(side相川)で語られてますが…勿論、暗躍あっての事です。笑
































余談ですが、蓮はカリ(FBIでも採用されてるフィリピンの実践的武術)も結構できます。

そっちの意味じゃないヨ。
































































































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