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高校生編side蓮
20.掛け違い
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「蓮、カラオケ行こうよ!」
教室を出る直前、明るい声に呼び止められた。
振り返ると、同じ特進クラスの黒崎が笑顔でこっちを見ている。
「俺も行く!」「俺もヒマ~!」
ノッて来たのは中学から一緒の赤嶺と、外部組の白田。
高校初の中間テスト直前。
成績が落ちると一般クラス行きになる特進はややピリついた雰囲気だが、俺達4人には正直『堕ちる』心配は無い。
全員が『教科書読めば一発で覚えられる』タイプだから、学年の30位以内に入るなんて簡単だ。
俺は中学の頃から意識して学年3位を取るようにして来た。
『頑張っても1位になれない奴』を演じて、万が一成績を霊泉家に知られても、その関心が向かないようにする為だ。
あまり下だと疑われ兼ねないから、この辺りがリアルで丁度いい。
中学の頃は遥と赤嶺がいたから、意識的に数問間違えれば1位になる事は無かった。
遥のいない高校では加減が分からなかったが、コイツらがいれば今後も3、4位をキープできるだろう。
「あ、待ってセフレから呼び出し入ったごめん!」
特に、この黒崎悠真。
金髪に、大量のピアス。
見た目も言動もチャラついているが、IQは相当高い。
「本日の宿確保~!て訳でごめん、俺行かなきゃ!」
詳しい事は聞いてないが、黒崎の家は家庭崩壊していて帰る家がないらしい。
生きる為に磨いたコミュニケーション能力と整った見た目を活かして数人の女とセフレ関係にあり、
衣食住は彼女達に保証されているようだ。
『話し相手の言う事を先読みできる』能力にかなり特化しているのは、そう言った生活環境が理由かもしれない。
「ねぇねぇ、私もカラオケ行きたいな♡」
「え、マジで!?行こ行こ!!」
手を振って去って行く黒崎に代わって入って来た相川陽菜に、白田のテンションが上がる。
「蓮、早く行こ♡」
腕を引っ張られるが、俺は動かなかった。
「いや、俺帰るから。人待たせてるし。」
その言葉に、相川が眉を顰める。
「それって、朝一緒に来てる一般クラスの男子?」
俺の無言を肯定と受け取ったのか、さらに詰めて来た。
「前から気になってたんだけど、蓮とあの子って何で仲良いの?」
「関係ねーだろ。じゃな。」
それには取り合わず、赤嶺と白田に挨拶して教室を出る。
背後で相川が赤嶺に何か尋ねているのを聞きながら、俺は一般クラスーー晴の元へと向かった。
「晴、帰るぞ」
教室の外から呼びかけると、晴が振り返る。
「じゃーな啓太!」
そして、たった今まで話していた中野に笑顔を向けた。
高校でも剣道を続ける事にした晴は、クラスまで中野と一緒だ。
安全面ではその方がいいのは分かっているが、常にベッタリだと思うと腹は立つ。
「晴、早くしろ。」
席に近付く俺を見て、中野がスルリとその場を抜け出した。
晴はそれには気が付かず、少し気まずそうな顔をしながら鞄を持つ。
最近、良くこの表情をするようになった。
『あの2人タイプ違くない?何で仲良いんだろ?』
『ほんそれ。…ねぇ、蓮様に聞いてみる!?』
『確かに!話すチャンスじゃん!ヤバイ、超緊張するー!!』
その原因と思わしき、声を潜めた女子の会話を俺の耳は正確に捉える。
晴の気まずそうな態度は、噂話の的にされる事への抵抗感だろう。
俺は慣れてるが、晴は目立ったり人の話題に登る事を嫌がる。
今にも話しかけて来そうな女子から離れるために、さっさと教室を後にした。
2人になってからもどこか浮かない顔の晴に、俺は思案する。
高校に入ってから、俺達の関係を知らない外部生が増えた。
中学からの持ち上がり組からそのうち伝わるだろうと放っていおいたが、内外の壁は思いの外厚いらしい。
入学から2ヶ月近く経過した今も大して広まっておらず、時折さっきのような会話も耳にする。
俺が一言『幼馴染』だと公言すれば、秒速で浸透すると思うが…そうしないのは、俺がその関係から抜け出したいからだ。
そして、晴にこれ以上『幼馴染』と言う意識を植え付けないようにするため。
もし周知の事実になって、事ある毎にそれを強調されたら、晴が俺を意識する確率は格段に下がるだろう。
キスを無かった事にされて、今の関係性を壊したく無いんだと言外に伝えられてはいるが…
『傍にいられたらそれで』なんて、いい加減限界だ。
また話す事すらできない状態になったらと言う恐怖はあるが、最近では、ずっと今のままでいる事も同じくらい苦しいと感じる。
学校内でほとんど晴の姿を見られなくなった上に、新しい交友関係が分からないのがもどかしい。
その鈍感さ故に、自分に懸想する人間に気付かず親切にして気を持たせたりするかもしれない。
そして何より、恋愛の意味で人を好きになってしまうかもしれない…。
そう言った懸念が、俺の不安を駆り立てていた。
「家出て幼女に話しかけられたとこまでは微笑ましい朝の光景だった訳。でも『これ、ゆりぐみさんのさくらちゃんのチューリップだよ』って言われて。会話に3つも花登場すると思わんじゃん。言葉失ってたら『何シカトしてんだよ』みたいな冷めた目で見られて心死んだわ。」
「彼女と関係冷めてるって話してんのに何でお前のクソトーク聞かにゃならんの。」
「冷めてる繋がり?」
「回路ヤバ。おい蓮、今の聞いてた!?」
「白田が幼女と話してる時点で社会的にアウト。」
手元のゲームから顔を上げずに答えると、いつもの3人がゲラゲラ笑う。
最近、中央棟のカフェスペースで過ごすのが俺達の通例になっていて、それを言い出したのは他ならぬ俺だ。
ここは自販機目的と教室移動の近道で、一般クラスの生徒が良く通る。
晴と廊下で行き合う事すらない現状に耐えかねた俺の苦肉の策だが、これがまずまずの成果を上げた。
少し緊張した面持ちの晴を見かける事ができるようになったからだ。
『周りが一軍すぎて無理!』なんて言われて、話しかけるのは嫌がられるから本当に見るだけ。
それでも、心の安寧にはなる。
「蓮、これ回復のやつじゃない?ほら!」
横から細い手が伸びて来て、ドット柄のネイルが画面をチョンとつつく。
画面を覗き込む相川は、時々こうやって俺達に付いて来る。
当然のように隣に座って来るのは面倒だが、利点もあった。
コイツがいれば、こっちを見て大騒ぎしながら通り過ぎる一般クラスの女子に話しかけられる事がない。
黒崎達はそんな女子達との交流を楽しんでいるようだが、俺の目的は晴を見る為だけ。
だから、俺にとって相川の存在は都合が良かった。
相手も自分が優れている事の証明に俺を利用したいのが透けて見えるし、ウィンウィンだろ。
それにしても遅ぇな、晴。
次は音楽室への移動で、いつもならとっくに通り過ぎてる時間だから急な時間割変更かもしれない。
悔しいが諦めてゲームに集中していたら、ふいに視線を感じた。
ーーは?
その先には、こっちを見つめる晴の姿。
おい、近くにいる事に気付かないとか本末転倒だろ!
自分にツッコミつつ、慌てて相川と距離を取った。
俺が女子といた所で晴が気にしないのは分かっているが、万が一付き合ってるとか勘違いされたら死ねる。
そんな俺の内心など知らない晴は、いつものように通り過ぎようとしてーー珍しく、チラリとこっちを見た。
前髪にほとんど隠れていても、俺にはその目線の動きが分かる。
晴の視線は俺ではなく、間違いなく相川に向いていた。
そして、何かを諦めるかのように静かに目を伏せる。
「晴人、チャイムまで後2分!」
急かす中野の声にハッとした表情で走り去るその背中を見ながら、俺は混乱していた。
あの態度は…いやいや、まさかな…。
何度も言うが、晴は俺が女子といた所で『彼女できたの?』何て聞いてくるだけだろう。
と言う事は、あの目線の意味はーー。
否定しつつも、何度か相川について聞かれた事があった事を思い出した。
『蓮のクラスに相川さんって子いるよな?よく話す?』
『相川さんってどこ中出身か知ってる?』
脳内で再生する動画では、その表情に何か特別な思いがある感じはしない。
どうしても知りたいと言う感じでもなく、何となく特進の話題になった時に聞かれるだけだった。
『剣道部の鈴木達がファンで知りたいんだって』と言っていたその言葉に、嘘は無いと思っていたが…。
相川の容姿は白田曰く『可愛いの権化』で、確かに男の好きな要素が詰まっている。
その甘ったるい喋り方を『選民意識の強さを巧妙に隠す演技』のように感じる、俺みたいな人間の方が少ないだろう。
そして、問題なのが晴の好みだ。
過去に一度だけ、晴が興味を示した女子がいた事を思い出す。
それは小5の時で、華奢で色白で『可愛い』と評判のソイツを目で追う素振りがあった。
晴の情緒の幼さを考えると深い意味はなく、単純に『可愛いな』程度だったのかもしれないが俺は焦った。
瞬時にその女子が俺を好きになるように仕向けて成功したが、間に合わず晴の初恋になっていたかもしれないと思うとゾッとする。
そんな因縁の相手に、相川は良く似ている。
言わば、晴の好きなタイプの女子。
それを踏まえてさっきの態度を考えると、疑惑は一気に深まった。
相川は性格に難ありだが、人の良い所ばかり見る晴ではその演技を見抜く事はできないだろう。
俺にとっては堪らなく眩しくて愛おしいその心の在り方は、ああ言う腹黒にとってはいいカモになる。
幸いなのは…いや、幸いと言って良いのかは微妙だが…相川は俺に興味がある。
他の女を避ける為の盾にしていたが、邪険にし過ぎず晴と接触しないように近くで見張る方がいいかもしれない。
万が一にも、晴が本気になってしまわないように。
そう考えて、ほんの少しだが相川との接し方を変えた。
それからは特に何事もなく、杞憂だったかと思い始めた矢先ーー。
教室から見下ろした中庭で、俺は信じられないものを目にする。
それは木陰に2人きりで向かい合う、晴と相川の姿だった。
●●●
side晴人高校生編1・2話辺りで、自己肯定感の低さ故に、周りの噂話を『蓮とつりあわないって言われてる』と思い込んでいた晴。
対して蓮は、事実を正確に聞き取っているため、それに気付かず…。
久しぶりに相川登場ですが、蓮には早々に本性がバレてましたね笑
それでも拒絶しなかったのにはこんな訳があったんですが、これが相川を増長させる事になるとは…。。
教室を出る直前、明るい声に呼び止められた。
振り返ると、同じ特進クラスの黒崎が笑顔でこっちを見ている。
「俺も行く!」「俺もヒマ~!」
ノッて来たのは中学から一緒の赤嶺と、外部組の白田。
高校初の中間テスト直前。
成績が落ちると一般クラス行きになる特進はややピリついた雰囲気だが、俺達4人には正直『堕ちる』心配は無い。
全員が『教科書読めば一発で覚えられる』タイプだから、学年の30位以内に入るなんて簡単だ。
俺は中学の頃から意識して学年3位を取るようにして来た。
『頑張っても1位になれない奴』を演じて、万が一成績を霊泉家に知られても、その関心が向かないようにする為だ。
あまり下だと疑われ兼ねないから、この辺りがリアルで丁度いい。
中学の頃は遥と赤嶺がいたから、意識的に数問間違えれば1位になる事は無かった。
遥のいない高校では加減が分からなかったが、コイツらがいれば今後も3、4位をキープできるだろう。
「あ、待ってセフレから呼び出し入ったごめん!」
特に、この黒崎悠真。
金髪に、大量のピアス。
見た目も言動もチャラついているが、IQは相当高い。
「本日の宿確保~!て訳でごめん、俺行かなきゃ!」
詳しい事は聞いてないが、黒崎の家は家庭崩壊していて帰る家がないらしい。
生きる為に磨いたコミュニケーション能力と整った見た目を活かして数人の女とセフレ関係にあり、
衣食住は彼女達に保証されているようだ。
『話し相手の言う事を先読みできる』能力にかなり特化しているのは、そう言った生活環境が理由かもしれない。
「ねぇねぇ、私もカラオケ行きたいな♡」
「え、マジで!?行こ行こ!!」
手を振って去って行く黒崎に代わって入って来た相川陽菜に、白田のテンションが上がる。
「蓮、早く行こ♡」
腕を引っ張られるが、俺は動かなかった。
「いや、俺帰るから。人待たせてるし。」
その言葉に、相川が眉を顰める。
「それって、朝一緒に来てる一般クラスの男子?」
俺の無言を肯定と受け取ったのか、さらに詰めて来た。
「前から気になってたんだけど、蓮とあの子って何で仲良いの?」
「関係ねーだろ。じゃな。」
それには取り合わず、赤嶺と白田に挨拶して教室を出る。
背後で相川が赤嶺に何か尋ねているのを聞きながら、俺は一般クラスーー晴の元へと向かった。
「晴、帰るぞ」
教室の外から呼びかけると、晴が振り返る。
「じゃーな啓太!」
そして、たった今まで話していた中野に笑顔を向けた。
高校でも剣道を続ける事にした晴は、クラスまで中野と一緒だ。
安全面ではその方がいいのは分かっているが、常にベッタリだと思うと腹は立つ。
「晴、早くしろ。」
席に近付く俺を見て、中野がスルリとその場を抜け出した。
晴はそれには気が付かず、少し気まずそうな顔をしながら鞄を持つ。
最近、良くこの表情をするようになった。
『あの2人タイプ違くない?何で仲良いんだろ?』
『ほんそれ。…ねぇ、蓮様に聞いてみる!?』
『確かに!話すチャンスじゃん!ヤバイ、超緊張するー!!』
その原因と思わしき、声を潜めた女子の会話を俺の耳は正確に捉える。
晴の気まずそうな態度は、噂話の的にされる事への抵抗感だろう。
俺は慣れてるが、晴は目立ったり人の話題に登る事を嫌がる。
今にも話しかけて来そうな女子から離れるために、さっさと教室を後にした。
2人になってからもどこか浮かない顔の晴に、俺は思案する。
高校に入ってから、俺達の関係を知らない外部生が増えた。
中学からの持ち上がり組からそのうち伝わるだろうと放っていおいたが、内外の壁は思いの外厚いらしい。
入学から2ヶ月近く経過した今も大して広まっておらず、時折さっきのような会話も耳にする。
俺が一言『幼馴染』だと公言すれば、秒速で浸透すると思うが…そうしないのは、俺がその関係から抜け出したいからだ。
そして、晴にこれ以上『幼馴染』と言う意識を植え付けないようにするため。
もし周知の事実になって、事ある毎にそれを強調されたら、晴が俺を意識する確率は格段に下がるだろう。
キスを無かった事にされて、今の関係性を壊したく無いんだと言外に伝えられてはいるが…
『傍にいられたらそれで』なんて、いい加減限界だ。
また話す事すらできない状態になったらと言う恐怖はあるが、最近では、ずっと今のままでいる事も同じくらい苦しいと感じる。
学校内でほとんど晴の姿を見られなくなった上に、新しい交友関係が分からないのがもどかしい。
その鈍感さ故に、自分に懸想する人間に気付かず親切にして気を持たせたりするかもしれない。
そして何より、恋愛の意味で人を好きになってしまうかもしれない…。
そう言った懸念が、俺の不安を駆り立てていた。
「家出て幼女に話しかけられたとこまでは微笑ましい朝の光景だった訳。でも『これ、ゆりぐみさんのさくらちゃんのチューリップだよ』って言われて。会話に3つも花登場すると思わんじゃん。言葉失ってたら『何シカトしてんだよ』みたいな冷めた目で見られて心死んだわ。」
「彼女と関係冷めてるって話してんのに何でお前のクソトーク聞かにゃならんの。」
「冷めてる繋がり?」
「回路ヤバ。おい蓮、今の聞いてた!?」
「白田が幼女と話してる時点で社会的にアウト。」
手元のゲームから顔を上げずに答えると、いつもの3人がゲラゲラ笑う。
最近、中央棟のカフェスペースで過ごすのが俺達の通例になっていて、それを言い出したのは他ならぬ俺だ。
ここは自販機目的と教室移動の近道で、一般クラスの生徒が良く通る。
晴と廊下で行き合う事すらない現状に耐えかねた俺の苦肉の策だが、これがまずまずの成果を上げた。
少し緊張した面持ちの晴を見かける事ができるようになったからだ。
『周りが一軍すぎて無理!』なんて言われて、話しかけるのは嫌がられるから本当に見るだけ。
それでも、心の安寧にはなる。
「蓮、これ回復のやつじゃない?ほら!」
横から細い手が伸びて来て、ドット柄のネイルが画面をチョンとつつく。
画面を覗き込む相川は、時々こうやって俺達に付いて来る。
当然のように隣に座って来るのは面倒だが、利点もあった。
コイツがいれば、こっちを見て大騒ぎしながら通り過ぎる一般クラスの女子に話しかけられる事がない。
黒崎達はそんな女子達との交流を楽しんでいるようだが、俺の目的は晴を見る為だけ。
だから、俺にとって相川の存在は都合が良かった。
相手も自分が優れている事の証明に俺を利用したいのが透けて見えるし、ウィンウィンだろ。
それにしても遅ぇな、晴。
次は音楽室への移動で、いつもならとっくに通り過ぎてる時間だから急な時間割変更かもしれない。
悔しいが諦めてゲームに集中していたら、ふいに視線を感じた。
ーーは?
その先には、こっちを見つめる晴の姿。
おい、近くにいる事に気付かないとか本末転倒だろ!
自分にツッコミつつ、慌てて相川と距離を取った。
俺が女子といた所で晴が気にしないのは分かっているが、万が一付き合ってるとか勘違いされたら死ねる。
そんな俺の内心など知らない晴は、いつものように通り過ぎようとしてーー珍しく、チラリとこっちを見た。
前髪にほとんど隠れていても、俺にはその目線の動きが分かる。
晴の視線は俺ではなく、間違いなく相川に向いていた。
そして、何かを諦めるかのように静かに目を伏せる。
「晴人、チャイムまで後2分!」
急かす中野の声にハッとした表情で走り去るその背中を見ながら、俺は混乱していた。
あの態度は…いやいや、まさかな…。
何度も言うが、晴は俺が女子といた所で『彼女できたの?』何て聞いてくるだけだろう。
と言う事は、あの目線の意味はーー。
否定しつつも、何度か相川について聞かれた事があった事を思い出した。
『蓮のクラスに相川さんって子いるよな?よく話す?』
『相川さんってどこ中出身か知ってる?』
脳内で再生する動画では、その表情に何か特別な思いがある感じはしない。
どうしても知りたいと言う感じでもなく、何となく特進の話題になった時に聞かれるだけだった。
『剣道部の鈴木達がファンで知りたいんだって』と言っていたその言葉に、嘘は無いと思っていたが…。
相川の容姿は白田曰く『可愛いの権化』で、確かに男の好きな要素が詰まっている。
その甘ったるい喋り方を『選民意識の強さを巧妙に隠す演技』のように感じる、俺みたいな人間の方が少ないだろう。
そして、問題なのが晴の好みだ。
過去に一度だけ、晴が興味を示した女子がいた事を思い出す。
それは小5の時で、華奢で色白で『可愛い』と評判のソイツを目で追う素振りがあった。
晴の情緒の幼さを考えると深い意味はなく、単純に『可愛いな』程度だったのかもしれないが俺は焦った。
瞬時にその女子が俺を好きになるように仕向けて成功したが、間に合わず晴の初恋になっていたかもしれないと思うとゾッとする。
そんな因縁の相手に、相川は良く似ている。
言わば、晴の好きなタイプの女子。
それを踏まえてさっきの態度を考えると、疑惑は一気に深まった。
相川は性格に難ありだが、人の良い所ばかり見る晴ではその演技を見抜く事はできないだろう。
俺にとっては堪らなく眩しくて愛おしいその心の在り方は、ああ言う腹黒にとってはいいカモになる。
幸いなのは…いや、幸いと言って良いのかは微妙だが…相川は俺に興味がある。
他の女を避ける為の盾にしていたが、邪険にし過ぎず晴と接触しないように近くで見張る方がいいかもしれない。
万が一にも、晴が本気になってしまわないように。
そう考えて、ほんの少しだが相川との接し方を変えた。
それからは特に何事もなく、杞憂だったかと思い始めた矢先ーー。
教室から見下ろした中庭で、俺は信じられないものを目にする。
それは木陰に2人きりで向かい合う、晴と相川の姿だった。
●●●
side晴人高校生編1・2話辺りで、自己肯定感の低さ故に、周りの噂話を『蓮とつりあわないって言われてる』と思い込んでいた晴。
対して蓮は、事実を正確に聞き取っているため、それに気付かず…。
久しぶりに相川登場ですが、蓮には早々に本性がバレてましたね笑
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