【完結】桜の記憶 幼馴染は俺の事が好きらしい。…2番目に。

あさひてまり

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中学生編side蓮

14.京都(※暴力(未遂)表現有り)

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2泊3日の修学旅行は最悪だった。


「あの…切藤君、今いいかな?」


目の前に立つ緊張した様子の女子を見てうんざりする。

「無理。」

にべもなく言い放ってその場を離れた。


「蓮、またかよ~!やっぱ学校一のモテ男は違うな!」

冷やかしてくるクラスメイトの頭を叩く。

うるせぇ、聞こえるだろうが!


そっと人混みの先に視線を走らせるが、アッシュブラウンの後ろ姿が振り返る素振りは無い。


気付いて欲しかったような、ホッとしたようなーー。



遥からの提案を渋々受け入れたものの、やはり晴に近付けないのは辛い。

後ろから見ている今も、その肩に回された友人Aの手を叩き落としたい気持ちでいっぱいだ。

通常時だったらとても我慢できなかっただろうが、こればかりは晴に避けられてる事が幸いした。


「…って、幸いな訳ねぇだろが死ねよ。」

「情緒やばっ。」

思わず溢れた言葉に反応したのは、いつの間にか隣に来ていた遥だ。

「…んだよ、近付いてねぇっての。」

「見てれば分かるって。偉いね、蓮。」

少し背伸びして俺の頭を撫でようとする遥の手をガシッと掴む。

「犬じゃねんだよ。てか女子の何とかしろ。お前が言えばやめんだろ。」

「告白ラッシュ?相手の話すら聞かずに追い返してるんだって?最低じゃん。」

女子の頂点に立つ遥の協力を仰ごうとしたのに逆に説教を食らう。

「『蓮がこっぴどく女子の事振ってる』って噂になるかもよ。」

チラリと目を走らせ方向には晴の姿。

「穏便に済ませた方が賢いと思うけど?」

全くその通りなので返す言葉に詰まる。


もし晴が少しでも俺の事をなら、女子に告られてる事実を知られるのはある意味いい手だ。

動揺して、自分の気持ちに気付く可能性がある。


だけどーーー


現実は残酷なもんだ。



晴が俺の事を好きなのは幼馴染としてで、それ以上の気持ちは無い。


キスした時、嫌悪感ではなく羞恥に見えたのはやっぱり俺の幻だろう。


これだけ避けられていれば、流石に希望的観測だったと気付く。


なんなら、勝手にキスした事で嫌われた可能性すら捨てきれない。


俺が複数の女子に告られてると知ったら、「蓮はモテるな、幸せにな!」とか何とか笑顔で言って俺の元から去って行くだろう。


その事実はギリギリと胸を締め付けて、腹の底で不快に暴れ回った。


それでも諦めると言う選択肢なんて浮かんでも来ないんだから始末に負えない。




修旅中も、せめてその視界に入りたくて晴の班が回るコースは全て把握している。


限られた観光スポットの中、同じ班が何度も遭遇するのは別に珍しい事じゃない。

なのに、俺の瞳に幾度となく映ったのはアッシュブラウンだけ。

そのブルーグレーがこっちを映す事が無い事実に、今更深い後悔に苛まれる。



どうして自分勝手に気持ちをぶつけたのか。

晴の気持ちを考えなかったのかーー。




「とにかく、もうちょっと優しくしてあげなよ。
……明日からもっと増えるだろうから。」

少し間を置き同情顔で付け加えた遥の言葉に辟易する。


明日の自由行動はに行く班が圧倒的に多い。

それは所謂縁結びの神社で、そこで売られている『桜守り』が目当てだ。


この『桜守り』をうちの学校に広めたのは何を隠そう俺の兄だったりするんだが…

その恩恵を受けたのは、実は翔じゃない。



昔々、愛する女からなかなか『イエス』をもらえない男が、日本から持参したそれを手渡してこう言った。

『これを持って僕に逢いに来て欲しい』

それから5年、男の熱意に遂に折れた女はフランスから帰国してこう言う。

だけよ。』


とんだツンデレ発言だが、正確に意味を理解した男が求婚して2人は結ばれる。



あー、マジで無理。


自分の両親の恋バナとかゾワゾワすんだが。


まぁつまり、これは俺の親父と陽子の馴れ初め話なのである。


そして、俺達と同じように修旅で京都に行った翔がそれを(本人的には面白おかしく)周りに話し…

翔と結ばれたい女子(ほぼ学年全員)が目の色を変えて購入し…

奇跡の売上を叩き出した神社から、後日翔に礼状が届く程の事態になった。


我が校の告白の伝統となった『名前入りの桜守りをペアで持つ』のは、こう言った経緯があるんだが…

翔に恩恵があった訳じゃないと態々訂正する程俺は暇じゃないので黙っている。

遥には事実を話したが『結婚した2人の話なら余計に御利益あるじゃない!』と、逆に興奮された。

女ってこう言うの好きだよな。


「あー、クソ兄貴。いらねぇ事しやがって。」


過去の翔に向かって悪態をつくが、明日からのそれに覚悟して臨むしかない。


「そう言えば、蓮は別行動するのよね?」

遥の言う通り、明日の俺の予定は理事長に了解を得て単独行動だ。

「そ。に挨拶してくる。」










静謐な空気が流れるその神社に人影はなく、どこか浮世離れした雰囲気すらあった。

かつて霊泉家を『取り潰し』寸前まで追い込んだ一族の始まりは、この神社らしい。

『神力』を持っていたとされる霊泉家の事は100%パチだと思っているが、この一族はひょっとすると…。

そう思わせるような、不思議な力を感じる。


まぁ、取り敢えず参拝して帰れば『挨拶』した事になるだろ。


親父から持たされた諭吉を賽銭箱に入れて祈る。

『霊泉家滅びろ。もしもの時は宜しく。』

かなり不遜な願い事だが、目的は達したからいいだろう。

そう思って踵を返した時だった。


誰もいなかったはずの鳥居の脇に、ポツンと5歳くらいの少女が立っているのが目に入った。

紅い着物姿のその少女は、俺が近付くと何かを差し出して来る。

「お婆ちゃまが、貴方にって。」

受け取ると、それは飾り紐のついた御守りだった。

って言ってたよ。」

それを聞いた瞬間、俺は悟った。

ーーー。

気配は感じないが、俺の勘がそう告げている。

「ありがとな。御当主によろしく伝えてくれ。」

綺麗な黒髪を撫でながら言うと、少女は何か楽しいものを見つけたかのように笑った。

そして、懐から扇を取り出して広げると鳥居の方を指し示す。


「ほんに賢いのう。まるで始祖のようじゃな。
憂い子じゃ、振り向かず行くが良い。」


少女の声と表情をしたに呆然としている間に、足が勝手に鳥居の外へ向かう。


我に返って振り返ると、そこには誰もいなかった。





ーーいやいやいやいや!怖いっての!

夢でも見ているかのようだったが、俺の手にはしっかりと御守りが握られていた。

青地に銀糸で複雑な模様が編み込まれたそれには文字が一切なく、中央に金糸のエンブレムのみ。

サイズは小さいが、荘厳な『何か』を感じる。

同色で編まれた飾り紐は長く、首に掛けられるような長さだ。


』と言う事は、このエンブレムは一族の家紋なんだろう。


持つ者の守護を約束するかのような手の中のそれを、じっと見つめる。


誰が持つべきかについては言及されなかった。


本来ならば俺自身か、遥が持つべきなんだろう。


だけど、俺が渡したい相手はもう決まっている。


霊泉家に狙われる可能性が極めて低いと言われているとしても。

絶対に手を出されたく無い相手はただ1人。


問題は、どうやって渡すかーー。


避けられている現実を思い出して、ツキリと胸が痛んだ。








用事を終えて修旅に合流した俺を待っていたのは、遥の予言通り『桜守り』の押し付けラッシュだった。

森の中にある夕食のバーベキュー会場で、次から次へと呼び出される。

てか、京都でバーベキューってどうなん?

食べ盛りの中学生に懐石料理は足りないだろって配慮なのか?

あまりの苦行に、女子から意識を飛ばして理事長に突っ込む。


『ごめん、好きな奴いるんだ。』を繰り返すマシンと化した俺を、離れた場所で遥が見ているのを感じた。

手酷くフッてはいねぇから、監視すんじゃねぇ。


そうアイコンタクトで伝えようとして、ドキリと心臓が跳ねた。

視界に、少し離れて立つ晴が映ったからーー。


前髪で隠れていようが、俺には晴が何処を見ているか正確に判断できる。

その視線の向く先を常に気にして、誘導して、時には阻止して来たのだから。

それこそ、何年もずっとーー。


その焦がれ続けるブルーグレーの瞳が俺を見ている。


話したい。

名前を呼びたい。

昨日、その肩に触れていた忌々しい野郎の痕跡を上書きしたい。


キスした事を謝って、今まで通りでいいから側にいて欲しいと伝えたい。


奔流のように溢れ出す思いに、晴の方に踏み出そうとしてーー目の前にいる女子に阻まれた。

既に存在を忘れていたが、俺にフラれて泣いている。

晴が驚いている気配が伝わって、最悪のシチュエーションに俺は一瞬固まった。




「中野~、俺にもマシュマロちょうだい!」

先に動いたのは晴だった。

フイッと俺から視線を逸らして、仲間の方へ歩いて行く。




晴が俺の存在を認識して、その上で離れていくーー。



それは、心に渦巻く感情を一気に黒く染め上げた。


目の前にいるこの女も、晴の意識を奪った『中野』
もーーー


邪魔だ、消えろ


「蓮!!!!」


俺の手を止めたのは、視界に滑り込んで来た遥だった。

「ねぇ、早くどっか行って!」

俯いて泣いていた、何も気付いていない女子を鋭い声で追い立てている。

ソイツがその剣幕に怯えて走り去ると、遥は俺の頭を叩いた。

「このバカッ!私が見てなかったらヤバかったんだからね!?」

「ムリだ…、キツイ…」

遥を相手に弱音が溢れた。

自分のしようとした事が最低だと分かってはいたが、どうしようもなく心が荒んでいく。


この重い執着と独占欲が、晴を遠ざける原因になったのだと分かっていても止められない。



俺は晴がいないとダメだ。

でも、晴はーーー




宥める遥の声だけが、俺の理性をギリギリで繋ぎ止めていた。



●●●
side晴人中学編の5話の修学旅行、晴は『蓮がいなくてつまんない。モテてるしなんかモヤモヤする』って感じでしたが、蓮側はこんな事になってました。

9話に出てくる御守りはここで入手したものです。




















蓮が遭遇した不思議体験。
この御守りが後々…コホン。。
『桜守り』も出てきましたねぇ、晴は周りと同じように『翔君の恋が叶った』んだと思っていますが、実際は蓮父と蓮母の恋バナでした。


























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