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中学生編side蓮

12.衝動

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「私ね、留学する事になったの。」


唐突に遥が言ってきたのは、年に数回開催される三家での集まりでの事。

全員の予定が合ったクリスマス、俺の家で開催されているクリスマスパーティーの最中だった。

業者の手によって豪華に飾られたリビングの一角に俺と遥は2人でいる。

周りはプレゼント交換に夢中…と言うより、誰が1番晴を喜ばせるかの勝負に夢中だ。

毎年金に糸目を付けない俺の親父(中学生にピゲの時計贈ろうとするとかアホだろ)を見かねた美香さんの『常識!』と言う鶴の一声で、べらぼうに高い物はNGになっている。

一同が固唾を飲んで見守る晴の『開封の儀』

因みに、そう呼ばれてる事を本人だけが知らない。

「うわぁ!コラボキャップじゃん!遥パパありがとう!」

満面の笑みの晴に、遥の父親がデレデレする。

「晴ちゃん、次はこっち!こっち開けて!」

対抗したい俺の親父がデカイ箱を晴に献上している。

何度も言うが『氷の医師』の異名はどうした。



そんな騒ぎの中、遥に腕を引かれた俺は誰にも気付かれる事なくその輪から離れた。

そして、冒頭の台詞に至る。


「もう拓哉さんと翔君には報告してるの。霊泉家も海外までは追いかけて来ないだろうから、安心して勉強しておいでって言ってくれたわ。」

「へぇ。ま、頑張れば。」

「……それだけ?」

「あ?他に何かあんのかよ?」

「…もし、行くのが晴だったら…」

「行かせる訳ねぇだろ。何としても阻止するか…俺も一緒に行く。」

独り言のようにポツリと呟いた遥の言葉を拾って当たり前の事を告げる。

「…バカ。」

ここ数年で良く見るようになった、泣きそうで怒り出しそうな複雑な表情。

「お前、情緒どーしたん?」

「ムッカつくわ本当に…誰のせいで…!
良いわよ!私、卒業までしぶとく頑張るから!」

「はぁ?」

燃えたぎる決意の意味が分からん。

「自分にとって本当に大切な存在が分かってから焦ればいいんだわ。」

「ダルいわ。ハッキリ言えよ。」

「蓮にとって私が…」「やっほーい!ネズミーランドのチケットだ!」

ギスギスした雰囲気をブチ破った声に、一瞬にして意識を奪われる。

「翔君ありがと!あれ、でも1枚?」

「ふっふっふっ、勿論ペアだぞ!もう一枚は俺が持ってる!」

ヒラリと自分のチケットを掲げる翔は『開封の儀』の優勝を確信しているような表情だ。

「俺と2人でパークイン!」

「マジで!?翔君一緒に行ってくれるの!?」

目を輝かせる晴に、翔が畳み掛ける。

「勿論、パーク内でかかる費用は全部俺もちだ!
今日もらったキャップ(芸能人コラボ・推定12
万)も、パーカー(某ハイブランド・推定15万)も、スニーカー(日本限定記念モデル・推定20万)も、ダウン(王室御用達・推定45万)も全部この日のコーデに使えるな♡」

「最高!!翔くん大好き!!!」

「おい!ふざけんなコラ!」

「ちょっと…!」と言う遥の声を背に受けながら、俺は迷いなく晴のいる方へ向かう。

辛うじて「晴にはまだ言わないでよ!?」と言うフレーズだけ心に留めた。

「やり方が汚ねぇんだよ!」

怒りに任せて翔に蹴りを入れ、抱きついていた晴を引っぺがす。


「汚くありませーん!悔しかったら自分で金稼ぐ事だな!」

ッんの野郎、モデルで稼いでるからって調子乗ってんじゃねぇぞ。


「一緒に過ごすをプレゼントする…だと?」

「社会人の我々は勝てん…大学生め!」

「悔しいけど、ネズミーで一緒にはしゃぐ体力がないわ…!」

「我が息子ながら恐ろしい子…!!」


年が離れてるくせに喧嘩を始める兄弟。

自分達の高額プレゼントをお膳立てに使われた事に打ちひしがれる大人×4人。

マイペースにホクホクと献上品を眺める我がコミュニティーの姫。

それを顔色一つ変えずニコニコ見守るその父と、『常識とは…?』と能面みたいな顔で呟く母。


そんな感じで、三家のクリスマスは過ぎて行ったのだった。








 






中学に入学して3度目の桜が咲いた頃、俺の機嫌は最悪だった。

最終学年にして、晴とクラスが離れたからだ。

オイ!修学旅行あんだぞクソジジイ!

どこまで関与しているか知らないが、心の中で理事長に悪態を付く。

晴が俺のいない空間で、野郎に囲まれて過ごすと思うと胃が捩れる。


さらに、だ。

「あ?お前、いつから中野になったん?」

3限目が体育の晴と接触しようと廊下に出た俺は、思わず声を荒らげた。

晴が着ている明らかにサイズが合っていないジャージには『中野』の印字。

「忘れたから借りたんだよ。」

そう言う晴の声も良く耳に入っていなかった。

ダボっとした萌え袖姿は文句無しに可愛い。

…ただし、それはだ。

晴が他の野郎の物を見に纏っている事にカッと血が昇った。

「ちょっと来い。」

半ば強引に手を引いて自分のクラスに連れて行く。

「遥、晴にジャージ貸して。」

やいやい言う晴とやり合っていると、何故か3年間同じクラスになった遥は溜息を吐いた。

「はぁぁ。分かったわよ。晴、いいから大人しくこれ着な。」

よし、それでいい…って…

「はぁ⁉︎」

衝撃に思わず声が出た。

「中もソイツの着てんのかよ!」

ジャージと違って肌が直接触れてんだろ!

「それ脱げ。中はオレが貸してやる。」

そう言ったのに、面倒臭そうな晴はチャイムの音に慌てて駆け出してしまった。

その背中を見つめているとモヤモヤした感情が湧き起こる。

クラスが離れてから、晴はクラスメイト達と仲良くやっているらしい。

さらに、中学で剣道部は最後にするかもしれないからと朝練や昼練にも精を出している。


つまり、今まで俺と過ごしていた時間に晴がいない事が増えた。

そして、それは他人との交流が増えている事を意味する。

ジャージの件だってそうだ。

これまでだったら、まず俺に借りに来ていただろう。

なのに、晴はそうしなかった。

『中野』の方が、俺よりサイズ感が近いからと言う理由かもしれない。

だけど、それすらも許せない。


晴が俺以外の人間と親しくなる事に、腹の奥底で黒い炎が揺らめく。



「ーーねぇ、私のなら良い訳?」


ふいの言葉に思考から意識を戻すと、遥がこっちを覗き込んでいた。

「まだマシ。お前にとって晴は『弟』だろ。」

本当は俺のを貸したかったが、それだと晴の華奢さが目立つ。

俺の目が届かない所で、他の野郎の目に触れるなんてあり得ない。

「うーん、弟であり、ライバルであり……。
ねぇ、中野っていい奴だよ。委員会一緒になった事あるけど。」

「だから何だよ。」

「ーー晴には晴の付き合いがあるんだからさ、私達晴からちょっと離れた方がいいんじゃない?」

「はぁ?冗談じゃねぇ。お前が離れるのは勝手にすれば?」

「でもほら、霊泉家対策だってあるじゃない?私がいなくなってから万が一にでも晴に注意が向かないようにしておいた方が良くない?」

「…お前さ、クラス替え何かした?」

俺と晴を離そうとする態度に思い当たって聞くと、
遥はグッと何かに詰まったような表情をした。

「何のこと?」

黒かよ。

「ふざけんじゃねぇ。」

「待ってよーー蓮には、私と過ごして欲しいの。」

「あ?」

「留学まで1年しかないでしょ?だから…」「意味分かんねぇ。お前ダルいわ。」「ちょっ!蓮!」

遥が何やら騒いでいたが、どうでも良かった。

何の目的か知らねぇけど、晴と離そうとするなら俺にとっては敵と同じだ。


それからは、晴がいない時は遥を避けるようになる。

LAINも電話も来たが全てスルー。



『私ね、留学するの。』

だから、晴と共に呼び出されて告げられた言葉にも好都合だとしか思わなかった。

事前に知っていた俺と違い晴が動揺している事には気付いたが、それよりも邪魔者がいなくなる事の方が重要で。


話し中、遥の視線を強く感じたがそこにどんな気持ちや想いがあるのか興味すら持たずにーーー。




今にして思えば、俺は晴と離されるかもしれないと周りをシャットアウトした小学生の頃から何も変わっていなかったんだと思う。


大切なのは自分と晴がいる世界だけで、その為に晴が俺に依存すればいいとすら思っていた。


相手の気持ちも周りのそれも考えられない、身を焦がすような執着と独占欲。



だから俺は、この時大きな間違いを起こす事になる。







「てか、皆んないつか結婚したりするんだな。
全然想像もつかないけど。」

咲き誇るソメイヨシノの下、遥の留学の話からその先の未来へと目を細める晴。

戸惑いと希望が篭ったようなその表情は、俺にはどこか眩しい。

それは、遠い先の他愛無い話で終わるはずだった。

ーー次の、晴の言葉を聞くまでは。


「俺の彼女に、幼馴染ですって蓮のこと紹介してやるから楽しみにしてろよ!」


その瞬間、周りの温度が下がった気がした。

ザワッと鳥肌が立つような感覚と、暗く翳る視界。


ーーー晴が描く未来は、俺と2人じゃない。




『蓮は誰かと付き合うの?』

『付き合わねーよ。俺好きな奴いるし。』

俺に告ってくる女が出始めた時、晴に聞かれてそう答えた。

それに対する晴の反応は『ふーん。』と言う平坦なもので…。

分かっていた、晴が俺と同じ意味の『好き』を俺に向けていない事は。

でも、これから囲って依存させて…そうすれば晴は俺のものになると思っていた。


それなのに…


俺以外の誰かとの未来を夢見る晴に、仄暗い感情が止められない。


「てか、遥かに外人の彼氏が…」「聞きたく無い」

最早、晴が何の話をしているかも耳に入っていなかった。


驚く晴を引き寄せて、その唇を塞ぐ。

激情のままに舌を入れて、絡め取って。

「…んぅっ……」

甘い声を上げる晴に、理性はほぼ焼き切れていた。

更に口内を蹂躙して、身体から力が抜けるほど貪る。

解放した時にはその瞳は潤んで、恍惚と俺だけを見ていてーーー。


「ーーー晴。」


快楽を与えた俺の存在を刻み付けるように、その耳元で呼びかけた。








俺以外のものになるなんて、絶対に許さないーー。


●●●
side晴人中学生編1~4辺りの話になります。


























蓮さんが仄暗い(笑)ので箸休めにクリプレ詳細


蓮父→高額って1000万以上のことじゃないの?(金ならある)

蓮母→可愛い子を着飾るのに金額なんて関係ないわ!(鬼の美意識)

遥パパ→晴ちゃんが喜ぶなら幾らでも!(君の笑顔プライスレス)

遥ママ→私も子供の頃これくらの金額の物貰ってたわよ?(生粋のお嬢様)

晴の父さん→ふーん、これって高い物なの?(ブランドに一切の興味無し)

晴の母さん→……お前ら…。


これでも全員かなりリーズナブルな物を選んだつもり。常識人は晴の母さんだけ笑

















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