【番外編更新中】桜の記憶 幼馴染は俺の事が好きらしい。…2番目に。

あさひてまり

文字の大きさ
137 / 262
中学生編side蓮

6.血族

しおりを挟む
事件から数ヶ月。

本人はあまり気にしてない様子だが、俺は晴の白い肌に残る傷痕を撫でるのが癖になった。


もう二度とあんな事にならないようにーーそのためには、もっと力を持たなければ。

どうしたって目立つならば、周りが恐れるような存在になればいい。

遥と言い争う時のような口の悪さを、全面に発揮し出したのはこの頃。

人目を引く顔面と高い身長、さらに頭脳と運動神経を兼ね備えた俺は、思惑通り学校中から恐れられるようになる。

その一方で、晴には優しく接した。

普段の生活は勿論、運動会のリレーで転び、責任を感じる晴を助ける為につい本気を出したりもして。

『ありがとう、蓮。』

涙目でギュッと抱きついてくるのが可愛くて、ニヤけそうになる。

気持ちを自覚してから、晴が愛おしくて仕方なかった。





「蓮様。お迎えに参りました。」

黒塗りのベンツから降りたスーツの男が俺の前に現れたのはそんな時だった。

サッカーの帰り道、上級者チームのみの練習で晴はいない。

陽子が迎えに来ようとしていたが、大した距離じゃないし昼だからと、俺は歩いて帰る事にしていた。

そんな、数少ない一人の機会を狙ったかのように現れた男が言う。

「貴方様のお祖父様が車内でお待ちです。」

いや、怪しすぎるだろ。




『蓮のじいちゃんとグランマは何処にいるの?』

『え、知らん。』

ある日、晴に聞かれて初めて意識した祖父母の存在。

一度も会った事がないのは、既に死んでるか両親と折り合いが悪いか…まぁ興味ないけど。

そう思って答えたが、『じいちゃん大好き』な晴には衝撃だったようだ。

『じゃあ蓮も俺のじいちゃんの孫になればいいよ!』

いやそれは無理…と思ったが、ハタと気付く。

晴の祖父が俺にとっても祖父になる…それは、婚姻で親族が増える事に似ている気がした。

晴と結婚…最高じゃん。

勿論日本では同性婚はできないと知っていたが、俺は気を良くして頷いた。

それ以来、テレビ電話で晴の祖父と交流するようになった。

幼い頃に会った時は興味が無くて気付かなかったが、晴と雰囲気が良く似た彼は俺にとって居心地のいい存在で。

晴を真似て『じいちゃん』と呼ぶと嬉しそうだったし、グランマも一緒になって俺を孫のように扱ってくれた。


だから、実の祖父の存在なんかどうでも良かったんだがーーー。




「父親から何も聞かされてないんだろう。儂から話そう。」

言葉と共に後部座席から現れたのは、恰幅が良く鋭い目をした着物の老人。

てか、コイツTVで良く見る大物政治家じゃん。

「つまり、俺は為政者の孫って事か?」

「飲み込みが早い。流石は霊泉れいぜい家の血を引く者だ。」

老人ーーー霊泉丈一郎れいぜいじょういちろうがニヤリと嗤った。









「ま、待て!蓮!それで、何を言われたんだ!?」

帰宅後その話をすると、たまたま家にいた父親が目を剥いた。

普段感情を見せない父親のこの反応は珍しい。

「大した事は言われてない。お前は霊泉家に来るべきだとか、養子縁組するとかそんな事。」

一方的にベラベラ捲し立てていた老人を思い出しながら言うと、父親が凍りついた。

「な…!?それは『大した事』だ!」

「普通に断ったけど。」

「……お前が断ってくれて本当に良かった。」

俺なら面倒で『別にいいけど』とでも言いそうだと思ったんだろう。

実際、相手に『全ての権力が手に入る』なんて言われた時は心が動きかけた。


それ程の力があれば、何からでも晴を守れるから。



だけど良く考えたら本末転倒だよな。

「晴に会う時間減るし。」

そう言うと、父親は祈るように組んだ手で目元を押さえた。

「晴ちゃん…!やっぱり我が家の天使だ…!」


『氷の医師』だとか呼ばれてる父親のこの様を世間に公表してやりたい。

晴が絡むとただのデレデレおっさんだ。

「…待て、蓮。晴ちゃんの話しを霊泉の奴にしたのか?」

「する訳ねーじゃん。晴がこれ以上変態オッサンに目ぇ付けられたらどうすんだ。」

「ああ、それは正しい判断だ。『これ以上』っての言うのが気になる所だけど…。」

自覚ねぇのヤベェな。

「じゃあ、何て言って断ったんだ?」

霊泉れいぜい蓮とかダセェから無理って言った。」

そう言った時の相手の呆気にとられた表情を思い出してニヤリとする。


返答する時、俺の頭を過ったのは晴だった。

『うーん…何か、レイゼイレンって呼びにくいね?』

舌噛みそう、と眉間に皺を寄せる脳内の晴に思わず笑いそうになったのはここだけの話。



「晴ならそう言うと思って。」

「…晴ちゃんに、好きな物何でも買ってあげるって言っといて…。」

「は?俺が将来買ってやるからいいし。」

「高い物でも構わない。金ならある。」

「オイ、話し聞けよ!」


そんな不毛な言い争いを遮ったのは、第三の人物の登場だった。

「なんか楽しそうじゃん、俺も入れてよ!」

いつの間にか、制服姿の翔がそこに立っている。

「なんだ、親父に呼ばれたから深刻な話しかと思ったのに。」

言いながら、俺の横にドサリと座る。

すると、父親が居住まいを正した。

「いや、当たりだ。深刻な話になる。」

急に変わった空気に、翔が顔を顰めた。

「マジ?もしかして霊泉の事じゃないよね?」

「そのまさかだーー。」


今日の出来事を父親から事細かに聞いた翔は頭を抱えた。

「マジかぁ、接触早くない?…って言うか晴の存在がグッジョブすぎる…!もう少しでも知らないうちに弟が他人になる所だった…!」

「別に晴の事だけで断った訳じゃないけど。」

「「え?」」

俺の言葉に、ソックリな顔で固まる父と兄を見ながら言う。

「この家に不満とか無いし、陽子が泣くのも嫌だし…オイ、触んな!」

何故か翔に頭を撫でられてその手を叩いた。

「うんうん、そっか。」

何だよその顔は…父親まで同じ顔してるし。

「蓮がそう思ってくれて嬉しい。…それなら尚更、霊泉家には気を付けないといけない。
これから話す事は嘘みたいだが全て真実だ。」


そこからの話は、本当に嘘みたいな話だった。

要約すると、頭のおかしい一族の話。


そしてどうにも不愉快だが、俺はその血を引いているらしいーーー。








霊泉れいぜい家。

それはいにしえから続く一族で、家系図を遡ると平安時代の貴族にぶち当たるらしい。

現代日本で、それ程までに古くから続いた身分を証明できるのは『国の象徴』とされるある一族だけ。

霊泉家が権力争いにも屈せず生き残ったと言う事は、つまりそこと深い関係があることを意味する。


では、何故歴史の資料等に名前が残っていないのか。

それは、彼等が決して表舞台に上がる事が無かったからだ。

霊泉家の者は皆、一様に高い神力を持ち、天つ才を持って時の帝を支えてきた。

時には朝敵の暗殺や、呪詛をも行う一族。

嘘か誠か分からぬその存在を、人々はこう呼んだ。

『闇の一族』とーー。







「ストップ、これってラノベか何か?」

たまりかねて口を挟むと、翔が頷く。

「分かる。俺も初めて聞いた時はそう思った。」

しかし父親の表情から、これが真面目な話だと言うのが伝わって来る。

「まぁ、本当に呪詛やら暗殺やらしてたのかは分からない。証明のしようが無いからな。
私は、霊泉家は非常にIQ値が高い一族だったのではないかと考えている。
例えば、お前達にもあるだろう…会話から、相手の言葉を先読みできる事が。」

確かにそれは俺にも経験がある。

IQの高い人間にはそういった経験が少なからずあるそうだが、父親と兄もそうだったらしい。

「それが度重なれば『心が読める人間』の出来上がりだ。他にも、情報を夢の中で精査してある結論に辿り着き、それが当たれば『予知夢』だ。」

成る程、脳科学の無い時代にそういった能力が『神力』とされたのなら納得がいく。

「まぁ、時代と共に『神力』が衰えて…と言うか『IQが高いだけ』だと周りも分かるようになって、全盛期の力は無くしていった。
それでもまだ中枢には顔が効く。」

現に今日会った『祖父』自身が政治家だもんな。

「霊泉家の人間は、自分達が尊い一族だと思っている。何よりも大事なのは霊泉家の名を守り、この先も永遠に続けていく事。」

そして、と父親は一度言葉を切ってから続けた。

「霊泉家当主、霊泉丈一郎は生物学上の私の父親…つまり、お前達の祖父だ。
奴は霊泉家の後継者をさがしている。」

おいおい、つまりーーー


「俺達もその中に入ってるって事?」

俺の言葉に、父親が苦い顔で頷いた。


●●●
side晴人の16話で回想されている運動会の話です。
霊泉家が接触してきたのはその運動会から数ヶ月後。

(↑●●●のすぐ下の文は皆さまへのお知らせです。一言コメントは下にあります!)



































蓮にとって「晴を助けるのは当たり前」だからこその運動会での行動。
晴にとっては、その優しさを改めて意識するきっかけになった出来事でした。

蓮は過去の自分を褒めてあげたらいいよ。笑




































しおりを挟む
感想 100

あなたにおすすめの小説

あなたと過ごせた日々は幸せでした

蒸しケーキ
BL
結婚から五年後、幸せな日々を過ごしていたシューン・トアは、突然義父に「息子と別れてやってくれ」と冷酷に告げられる。そんな言葉にシューンは、何一つ言い返せず、飲み込むしかなかった。そして、夫であるアインス・キールに離婚を切り出すが、アインスがそう簡単にシューンを手離す訳もなく......。

だって、君は210日のポラリス

大庭和香
BL
モテ属性過多男 × モブ要素しかない俺 モテ属性過多の理央は、地味で凡庸な俺を平然と「恋人」と呼ぶ。大学の履修登録も丸かぶりで、いつも一緒。 一方、平凡な小市民の俺は、旅行先で両親が事故死したという連絡を受け、 突然人生の岐路に立たされた。 ――立春から210日、夏休みの終わる頃。 それでも理央は、変わらず俺のそばにいてくれて―― 📌別サイトで読み切りの形で投稿した作品を、連載形式に切り替えて投稿しています。  15,000字程度の予定です。

言い逃げしたら5年後捕まった件について。

なるせ
BL
 「ずっと、好きだよ。」 …長年ずっと一緒にいた幼馴染に告白をした。 もちろん、アイツがオレをそういう目で見てないのは百も承知だし、返事なんて求めてない。 ただ、これからはもう一緒にいないから…想いを伝えるぐらい、許してくれ。  そう思って告白したのが高校三年生の最後の登校日。……あれから5年経ったんだけど…  なんでアイツに馬乗りにされてるわけ!? ーーーーー 美形×平凡っていいですよね、、、、

僕の番

結城れい
BL
白石湊(しらいし みなと)は、大学生のΩだ。αの番がいて同棲までしている。最近湊は、番である森颯真(もり そうま)の衣服を集めることがやめられない。気づかれないように少しずつ集めていくが―― ※他サイトにも掲載

【完結・BL】俺をフッた初恋相手が、転勤して上司になったんだが?【先輩×後輩】

彩華
BL
『俺、そんな目でお前のこと見れない』 高校一年の冬。俺の初恋は、見事に玉砕した。 その後、俺は見事にDTのまま。あっという間に25になり。何の変化もないまま、ごくごくありふれたサラリーマンになった俺。 そんな俺の前に、運命の悪戯か。再び初恋相手は現れて────!?

昔「結婚しよう」と言ってくれた幼馴染は今日、僕以外の人と結婚する

子犬一 はぁて
BL
幼馴染の君は、7歳のとき 「大人になったら結婚してね」と僕に言って笑った。 そして──今日、君は僕じゃない別の人と結婚する。 背の低い、寝る時は親指しゃぶりが癖だった君は、いつの間にか皆に好かれて、彼女もできた。 結婚式で花束を渡す時に胸が痛いんだ。 「こいつ、幼馴染なんだ。センスいいだろ?」 誇らしげに笑う君と、その隣で微笑む綺麗な奥さん。 叶わない恋だってわかってる。 それでも、氷砂糖みたいに君との甘い思い出を、僕だけの宝箱にしまって生きていく。 君の幸せを願うことだけが、僕にできる最後の恋だから。

学校一のイケメンとひとつ屋根の下

おもちDX
BL
高校二年生の瑞は、母親の再婚で連れ子の同級生と家族になるらしい。顔合わせの時、そこにいたのはボソボソと喋る陰気な男の子。しかしよくよく名前を聞いてみれば、学校一のイケメンと名高い逢坂だった! 学校との激しいギャップに驚きつつも距離を縮めようとする瑞だが、逢坂からの印象は最悪なようで……? キラキライケメンなのに家ではジメジメ!?なギャップ男子 × 地味グループ所属の能天気な男の子 立場の全く違う二人が家族となり、やがて特別な感情が芽生えるラブストーリー。 全年齢

こっそりバウムクーヘンエンド小説を投稿したら相手に見つかって押し倒されてた件

神崎 ルナ
BL
バウムクーヘンエンド――片想いの相手の結婚式に招待されて引き出物のバウムクーヘンを手に失恋に浸るという、所謂アンハッピーエンド。 僕の幼なじみは天然が入ったぽんやりしたタイプでずっと目が離せなかった。 だけどその笑顔を見ていると自然と僕も口角が上がり。 子供の頃に勢いに任せて『光くん、好きっ!!』と言ってしまったのは黒歴史だが、そのすぐ後に白詰草の指輪を持って来て『うん、およめさんになってね』と来たのは反則だろう。   ぽやぽやした光のことだから、きっとよく意味が分かってなかったに違いない。 指輪も、僕の左手の中指に収めていたし。 あれから10年近く。 ずっと仲が良い幼なじみの範疇に留まる僕たちの関係は決して崩してはならない。 だけど想いを隠すのは苦しくて――。 こっそりとある小説サイトに想いを吐露してそれで何とか未練を断ち切ろうと思った。 なのにどうして――。 『ねぇ、この小説って海斗が書いたんだよね?』 えっ!?どうしてバレたっ!?というより何故この僕が押し倒されてるんだっ!?(※注 一月十日のアルファポリス規約改定を受け、サブ垢にて公開済みの『バウムクーヘンエンド』をこちらへ移しましたm(__)m サブ垢の『バウムクーヘンエンド』はこちらへ移動が出来次第、非公開となりますm(__)m)

処理中です...