【完結まで残り1話】桜の記憶 幼馴染は俺の事が好きらしい。…2番目に。

あさひてまり

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中学生編side蓮

5.報復と異なる『好き』

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俺達は多少時間はかかったが、それでも主犯を追い詰める事に成功した。

簡単に言うと、ヤツは他にもやらかしていた。

クラスメイトへのイジメ。

晴にイチャモンを付けた時に引き連れていた腰巾着5人は脅すと簡単に主犯を売った。

『違うよ!ミズキちゃんの事話すから!お願いだから僕が万引きした事言わないでぇぇ!』

弱味を握って、証言の動画を撮る。

コイツらも許し難いが、卒業までずっとこの秘密を握られたまま過ごすのはかなりのストレスだろう。

当然の報いだ。


そして、この証言動画は主犯の『ミズキちゃん』にとって致命的なものだ。

どうやら有名な私立中学に入学希望で、自分は優秀だから受からない訳がないと周りを見下しているらしい。

しかしイジメがバレれば入学できる訳もなく、周りからは腫れ物扱いだ。

『この動画、どこのサイトにぶち上げっかなぁ。』

『や、やめてよ!受験が…!』

『は?俺達の大切な幼馴染は吐く程辛い思いしてんだぜ?まさか自分だけ普通の生活送れると思ってねぇよな?』

『まぁまぁ、蓮。そこまでは流石に気の毒だから、晴が安心して学校来れるようになるまでこの人にもお休みいただくのでいいんじゃない?』

遥がやたら優しい声を出すが、騙されてはいけない。

『動画公開か無期限休養か、どっちか選ばせてあげるなんて優しい、あたし。』

逃げられない2択に追い込んだ人間が優しい訳ないだろと心の中で突っ込むみつつ、とうとうしゃがみ込んで泣き出したクソ女を見下ろす。


『『二度と俺(あたし)の晴に近付くんじゃねえよ。』』

見事にハモった俺達を見て、ようやく手を出してはいけない相手に絡んだ事に気付いたようだ。

呆然とする『ミズキちゃん』に答えを迫る。


『『ーーで?答えは?』』







『晴、大丈夫だよ。晴に意地悪した奴は全員見付けて弱味ーーじゃないや。えっと、お願いしたから。もう絶対やらないって約束してくれたよ。」

遥にキッと睨まれて方向転換しつつそう言うと、晴は目を見開いていた。

そして徐々に慣らし、冬には晴は問題無く登校できるようになった。


弱みを握った奴等は俺達を見ると真っ青になって逃げ出すし、主犯のクソ女は『親の仕事の都合』で転校したらしい。



『当然よね。あたしの弟に手を出したんだもん。』

晴のいない所でフンッと息巻く遥にカチンとくる。

『お前のじゃねーよ、俺の弟だから。』

『蓮のは弟の好きと違うでしょ!…え?もしかして気付いてないの?』

は?って顔の俺に気付いて遥が驚愕している。

『はぁ~、これだから男って…お子様。』

心底残念そうな目で見て来るのにイライラしたが、結局その意味は分からなかった。




違う好き?

俺が晴に抱くのは親愛で、遥も一緒だろ?

マジで意味が分からない。






その疑問が解けたのは小三の時だった。

晴の両親は件の事もあり、息子が歳上の子供と上手く交流できるよう習い事をさせようと考えたらしい。


例によって3人で様々な体験教室に行く予定だったが、遥は即座に英会話に決めて。

そこからは晴と2人になって満足だった。

俺は何をやっても30分もすれば長年通ってる奴よりできるようになった。

そして『もっといい先生の元へ』とか言われる。

ウゼェな、晴と一緒にいるのが目的だからそれじゃ意味ねぇんだよ。

『才能は活かす為にある』とか、勝手に決めてんじゃねぇぞ。

成長するにつれて俺は、この突出した能力は周りの目を曇らせる事に気付いていた。

『俺の考え』『俺の気持ち』は相手には関係ないらしい。

何をしても、何を言っても『天才だからね』で全て片付けられる。

俺自身は、晴を通して周りの感情や考えに気を付けるようになっていたが…。

反対に、今度は周りが俺の感情に関心を向けなくなっていた。


特に理解して欲しいとも思わないが、好き勝手に自分の理想を押し付けられるのは苛つく。

『蓮は凄いねぇ!これもっとやりたい?』

そんな時、無邪気に聞いてくる晴を見ると心が落ち着いた。

『別に。』

『そうなの?じゃあやめよ!』

周りがどれだけ引き止めようが、俺にその気が無いと分かると晴はスパッと決断する。

『蓮が楽しい事、何かあるといいね!』

そう笑う晴に触れたくなって、思わず引き寄せた。

『蓮?』

不思議そうに見上げられるが、俺も不思議だ。

何がしたかったんだろう。

取り敢えずその頭を撫でると、緩い癖のあるサラサラな髪の感触が気持ち良い。

『ねぇ、来週はサッカースクール行ってみようよ!』

特に気にした様子のない晴に安心しつつ、何処か残念に思う。

この感情は、一体何だーーー?



結局、習い事はサッカーに決まった。

『自分1人が優秀でも成果が出ない』のは俺にとって新鮮だったし、それに…

『蓮!カッコイイ!!』

晴に褒められる事は多かったが、『カッコイイ』と言われたのは初めてで。

いつだか制服姿の翔にそう言っていたのを思い出した。

これはに勝てる可能性があるーー。



そんな動機もあり、純粋に楽しんでいた晴と共にサッカークラブに入った。

ここでも俺は数ヶ月で上級者チームに移る事を提案されたが、それは断らなかった。

晴と離れるのは気に入らないが、チームが違う方が試合での姿を見てもらいやすい。

俺のチームが勝つと見学する晴人が喜ぶから、チームメイトへアドバイスすらする。

ってか、人体の構造的にコッチの方が力入んだろ、みたいな当たり前の知識だが。

チームは格段に強くなり、俺は良くも悪くも注目されるようになった。

一部に妬まれている事は知ってるが、どうせ俺の前で態度に出す度胸なんてない小物達だ。

そう、面倒だから放置していた。





それが、いけなかったーーー。






『晴!!』

駆け込んだロッカールームで、手から出血した晴がグッタリと座り込んでいる。

その腕に抱き締めるのは俺のユニフォーム、周りにはビビリきっている数名の生徒。

何があったのか、想像するのは難しくなかった。


俺が不満の芽を放置したせいで晴がーー。

頭を打った脳震盪で、出血もそこまで多くない。

命に別状は無いと分かっているのに、震えが止まらない。

もし、万が一晴に何かあったらーー。

サァッと血の気が引いて周りから音が消える。




そんな世界に、何の意味がある?





『え、誰か死んだの?』

気付くと病室にいて、意識を取り戻した晴がそんな事を言ってくる。

薄らと残る記憶は、俺の父親が自ら晴の手を縫合していたシーン。

目を離した瞬間に晴がいなくなってしまいそうで、怪我のない方の晴の手を離さない俺に父親は相当困っていた。

結局、無理矢理引き剥がされて、今は処置を終えた晴の枕元にいる。

何があったかは、当事者のチームメイトが洗いざらい話した。

『ごめんね、切藤!ぼく、アドバイスとかしてもらったのに…!萱島が切藤はこのチームの事好きっていってて…僕全然気付かなくて…僕達の事、馬鹿にしてると思っちゃってて…』

泣きながら言ったソイツは気の弱さから巻き込まれたんだろう。

許せはしないが…責める気にもならなかった。


そして気付く。

一年の頃、晴に嫌がらせした相手に対してはこんな気持ちは一切なかった。


それが、今は違う。

俺は知らず知らず、チームメイトそれぞれの性格を理解して、気にかけていたらしい。


そしてーーー晴にはそれが分かっていた。

だから、裏切られた俺が傷付くと思って懸命に戦ったんだろう。



だけどその結果、晴に怪我をさせてしまった。

白い肌に巻かれた包帯を見て胸が痛む。


『もう俺の為に何かしようとしなくていいから』


突き放すようにそう言うと、晴はしっかりした口調で言い返して来る。

『蓮はさ、クールだし大人っぽいからこれくらい大丈夫だって皆んなどっかでそう思ってるんだよ。
でもさ、口とか顔に出さないだけで、いっぱい色んな事思ってるでしょ?
だから、俺が蓮の変わりに言うって決めたんだ!もう決めたの!』

『…俺は自分より、晴が傷付く方が嫌だ。』

『え?俺もそうだよ?一緒だね!』

この時、俺の目は驚愕に見開かれていたと思う。

『俺も、俺より蓮が傷付くほうがヤダよ?
あ!だったらさぁ、俺たちずっと一緒にいればいいんだよ!そしたらさ、最強パワーだから無敵じゃん!
な!蓮!……蓮?わぁっ!!」

顔を覗き込まれて、堪らなくなって抱き締めた。


いつだって晴は、俺の隣にいてくれる。

立ち位置じゃなくて、心の中で。

俺の感情が死んで無いのは、晴がいるからだ。



愛しさも、楽しさも、守りたい気持ちもーー。

晴がいなければ、俺は何も知らずに生きていた。







「晴、俺はーーーーーーーー」



晴が誰よりも大切で、だけどこれは親愛じゃない。


もっと強く、焦がれるような感情。


全てが欲しくて、大切にしたくて。











俺は、晴が好きだ。





●●●
side晴人のタイトルに番号を振りました!
今回のお話は高校生編54~56の回想にあたる所になります。

















蓮、小3で自覚。
次回は晴が全く知らない話で、今後のストーリーに関わる重要な回になります!


































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