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中学生編side蓮
4.強火
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小学生になった。
俺達が入学したのは、家から子供の足で15分の市立小学校。
俺達と言うのは勿論、晴と遥の事だ。
萱島家は『小学校が近い』と言う理由もあってこの地に引っ越して来ていたから、晴がここに通うのは想定内。
一方、遥は私立を受験すると思っていたから予想外ではあった。
遥がいると、どうしても晴はそっちに頼りがちになる。
『晴、ちゃんと前見て歩きな?』
姉のように言う遥に、素直に頷く晴を見ると面白くなかった。
俺は小学校には通わないと思われていたから、両親は驚いていた。
確かに、知能レベルの低い子供たちとの集団生活はストレスになるだろう。
しかし、そうも言っていられない。
晴が学校に行くなら、側で守ってやらないとならないからだ。
晴と一緒に眠った数日後から、俺は幼稚園にも通うようになっていた。
それはあくまでも晴の側にいるのが目的だったから、反吐が出そうな『お遊戯』とやらには参加してないが。
園長が理解のある人物で、俺は大半の時間を彼の部屋で読書をして過ごしていた。
そして、晴が泣いていると教員が俺を呼びに来たら駆けつける。
隣のクラスにいる遥に先を越される事もあったが、大半は俺の勝利だった。
泣きじゃくっている晴は、俺を見るとホッとして泣き止んだり、時には安心感からさらに泣く。
どちらの場合でも、親達や敵に対して勝ち誇ったような気持ちになった。
晴が必要としてるのは俺だーーー。
それ以外でも俺は変わっていった。
『ようこ、はるのぶんも』
甘い物が大好きな晴を喜ばせる為に、来客からもらった菓子は必ず2つもらう。
そして、その両方を晴に与えた。
最初はそれで満足だったが、どうやら晴は違ったらしい。
『れんも、たべよ?』
俺に気を使ってる…訳ないよな。
これは自分がしたいからそうしてるんだろう。
晴はいつも『俺と一緒に何かする』事を嬉しがった。
菓子を食べるのも、寝るのも、風呂や散歩も。
ニコニコと楽しそうな姿に、俺は何とも言えない気持ちになる。
どう表現したらいいのか分からなくて、そんな時は晴の頭をグリグリと撫で回した。
これが親愛と言う感情なら、晴は俺にとって弟みたいなものなんだろう。
兄が弟を守るのは当然だ。
だから、俺は小学校に通う事を決意した。
よく考えたら自分と実の兄の関係を棚に上げていたが、その時の俺は翔を『敵』の認識していたからまぁ仕方ないだろう。
そんな訳で、俺と晴と遥は3人揃ってピカピカの一年生になったのである。
「なんでお前となんだよ。」
「あたしの台詞なんだけど。」
全然ピカピカしていない小1の会話。
クラス分けがまさかの結果で、俺はピリ付いていた。
晴が2組、俺と遥が5組。
何で守るべき対象と離れて、殴られたとて100倍で返せそうなコイツと同じクラスなんだ。
「学校通う意味ない。」
「ふーん?あたしは勉強も運動も1番取って、晴にすごいねって言われるけどね?」
「お前ムカつくな。」
晴が絡むと遥の挑発に乗ってしまう。
その日も、男子対女子のドッヂボールで俺と遥だけが最後まで生き残り白熱していた。
勝った方が、帰り道で晴に『勝利報告』ができる訳だ。
俺を差し置いて遥が誉められるなんて絶対に許せない。
だが、晴に関して張り合うと急にIQが下がる俺達は重要な事態を見過ごしてしまっていた。
『晴?どうした?』
帰宅時間。
結局決着がつかず担任に無理矢理引き分けにされた俺達が晴の元へ向かうと、様子がおかしい。
いつもの様に喜んで駆け寄って来ず、背負ったランドセルのベルトをギュッと握り締めて俯いている。
『晴、どっか痛いの?』
遥が覗き込んでもフルフルと首を横に振るだけ。
暫く原因を探ろうとしたが頑な態度は崩れず、とにかく帰宅する事にした。
萱島家に駆け込むと珍しく休みの美香さんがいて。
『わぁぁぁぁぁん、お、おかぁさん!』
晴が大泣きしながらその腰にヒシッと抱き着いた。
困惑する晴の両親に昼休みの前までは普通だった事と、帰る頃に様子がおかしくなった事を説明する。
『蓮君も遥ちゃんもありがとう。とにかく、いまは落ち着かせるから明日の朝迎えに来てくれるかな?』
ずっと側についていたかったが、憲人さんの言葉に渋々頷くしかなかった。
それでも気になって仕方なくて、次の日の朝はかなり早く萱島家に着いた。
『蓮君、お迎えに来てくれたのにごめんね。
晴が学校行くの嫌だって泣いてて。』
昨日泣きじゃくって眠った晴は、今朝になっても何一つ話さないまま。
そして、学校に行くのを嫌がっているらしい。
取り敢えずその日は休ませる事になったが…翌日以降も異変が続いた。
晴は幼稚園卒園を期に1人で眠れるようになっていたが(晴のためだからと美香さんに説得されて俺が折れた。)それができなくなってしまったらしい。
要は、母親がいないと眠れない状態に逆戻りだ。
さらに、頑張って学校に行こうとした晴が嘔吐したと聞いた時は胃の奥がザワリとした。
精神的ショックによる退行と、拒否反応による嘔吐。
最近読んだ心理学の本にあった症状と似ている。
あの日、晴に何があったーー?
それを突き止めなければ晴は回復しない。
家に上がらせて貰い、グッタリした様子で眠る晴の頬を撫でる。
その白い肌に涙の跡があるのを見て、腹の底が煮え立つような感情が湧き上がった。
これは怒りなんて生優しいモノではない。
晴をこんな目に合わせた奴を捻り潰してやる。
同じ苦しみを味わわせて、立ち直れないようなショックを与えて。
絶対に許さない。
憎悪の感情を知ったのは、この時だった。
『なぁ、一昨日もここで本読んでた?』
昼休み、晴のクラスの片隅で本を読む大人しそうな女子に話しかける。
『き、切藤くん…』
『俺の事知ってるんだね、野場さん。』
事前に調べておいた名前を呼ばれた彼女がうっすらと頬を染める。
『俺の幼馴染がさ、この間なんかに巻き込まれたみたいなんだよね。』
チラリと見ると、緊張した様子だ。
恐らく、何か知っている。
『あの…でも…。』
『野場さんが言った事、内緒にするから。
俺達だけの秘密にしよう?』
この頃、俺は自分の顔面が相当人の興味を引く事に気付いていた。
普段は鬱陶しいだけだが、晴の為になるなら利用しない手は無い。
案の定、赤くなった女子がこう答えた。
『2人の秘密なら、いいよ。あのね、五年生の人がアラン君に似てないって沢山言ってた。』
文法どうなってんだよと内心で舌打ちしつつ、詳しく話を聞くと、五年生の集団が晴を囲んでイチャモンを付けていたらしい。
『ハーフの癖に芸能人に似ていない』と言う馬鹿げた理由で。
『そうなんだ。因みに、その5年生って誰だか分かる?』
怒りを抑えて貼り付けた笑顔で聞くと、小声で答えがあった。
『えっと…ミズキちゃん。お家がご近所の。』
成る程な。これは有益な情報だ。
俺は何も言わずに踵を返すと、教室を出た。
後ろから何か言っている声が聞こえてきたが知ったこっちゃない。
もうお前に用はねぇよ。
晴が囲まれてる現場を見ていながらスルーした罪を不問にしてやっただけ有り難く思え。
調べると『ミズキちゃん』はすぐに分かった。
五年生のリーダー格。
さて、コイツをどうしてやろうか。
晴が吐かされた訳だから、物理的に同じ目に合わせるのもいいな。
力では5年生に勝てないが、人体には急所がある。
そこを肘で思い切り突いてやれば、苦しい呼吸に喘ぎながら嘔吐するだろう。
そうだな、それからーーー
『ちょっと、闇背負うのやめてよ。』
仄暗い思考に没頭していた俺は、背後の声に振り返る。
『うるさいな。』
『暴力とか、万が一晴が知ったら嫌われるけどいいの?』
『………』
バレるようなヘマはしないつもりだが、晴に怯えられる可能性を考えると危ない橋は渡れない。
ならば。
『精神的に潰す。』
『ノッた。』
当然のように遥が頷いた。
●●●
同担拒否だけど場合によっては手を組む幼なじみたち。
強火すぎ笑
俺達が入学したのは、家から子供の足で15分の市立小学校。
俺達と言うのは勿論、晴と遥の事だ。
萱島家は『小学校が近い』と言う理由もあってこの地に引っ越して来ていたから、晴がここに通うのは想定内。
一方、遥は私立を受験すると思っていたから予想外ではあった。
遥がいると、どうしても晴はそっちに頼りがちになる。
『晴、ちゃんと前見て歩きな?』
姉のように言う遥に、素直に頷く晴を見ると面白くなかった。
俺は小学校には通わないと思われていたから、両親は驚いていた。
確かに、知能レベルの低い子供たちとの集団生活はストレスになるだろう。
しかし、そうも言っていられない。
晴が学校に行くなら、側で守ってやらないとならないからだ。
晴と一緒に眠った数日後から、俺は幼稚園にも通うようになっていた。
それはあくまでも晴の側にいるのが目的だったから、反吐が出そうな『お遊戯』とやらには参加してないが。
園長が理解のある人物で、俺は大半の時間を彼の部屋で読書をして過ごしていた。
そして、晴が泣いていると教員が俺を呼びに来たら駆けつける。
隣のクラスにいる遥に先を越される事もあったが、大半は俺の勝利だった。
泣きじゃくっている晴は、俺を見るとホッとして泣き止んだり、時には安心感からさらに泣く。
どちらの場合でも、親達や敵に対して勝ち誇ったような気持ちになった。
晴が必要としてるのは俺だーーー。
それ以外でも俺は変わっていった。
『ようこ、はるのぶんも』
甘い物が大好きな晴を喜ばせる為に、来客からもらった菓子は必ず2つもらう。
そして、その両方を晴に与えた。
最初はそれで満足だったが、どうやら晴は違ったらしい。
『れんも、たべよ?』
俺に気を使ってる…訳ないよな。
これは自分がしたいからそうしてるんだろう。
晴はいつも『俺と一緒に何かする』事を嬉しがった。
菓子を食べるのも、寝るのも、風呂や散歩も。
ニコニコと楽しそうな姿に、俺は何とも言えない気持ちになる。
どう表現したらいいのか分からなくて、そんな時は晴の頭をグリグリと撫で回した。
これが親愛と言う感情なら、晴は俺にとって弟みたいなものなんだろう。
兄が弟を守るのは当然だ。
だから、俺は小学校に通う事を決意した。
よく考えたら自分と実の兄の関係を棚に上げていたが、その時の俺は翔を『敵』の認識していたからまぁ仕方ないだろう。
そんな訳で、俺と晴と遥は3人揃ってピカピカの一年生になったのである。
「なんでお前となんだよ。」
「あたしの台詞なんだけど。」
全然ピカピカしていない小1の会話。
クラス分けがまさかの結果で、俺はピリ付いていた。
晴が2組、俺と遥が5組。
何で守るべき対象と離れて、殴られたとて100倍で返せそうなコイツと同じクラスなんだ。
「学校通う意味ない。」
「ふーん?あたしは勉強も運動も1番取って、晴にすごいねって言われるけどね?」
「お前ムカつくな。」
晴が絡むと遥の挑発に乗ってしまう。
その日も、男子対女子のドッヂボールで俺と遥だけが最後まで生き残り白熱していた。
勝った方が、帰り道で晴に『勝利報告』ができる訳だ。
俺を差し置いて遥が誉められるなんて絶対に許せない。
だが、晴に関して張り合うと急にIQが下がる俺達は重要な事態を見過ごしてしまっていた。
『晴?どうした?』
帰宅時間。
結局決着がつかず担任に無理矢理引き分けにされた俺達が晴の元へ向かうと、様子がおかしい。
いつもの様に喜んで駆け寄って来ず、背負ったランドセルのベルトをギュッと握り締めて俯いている。
『晴、どっか痛いの?』
遥が覗き込んでもフルフルと首を横に振るだけ。
暫く原因を探ろうとしたが頑な態度は崩れず、とにかく帰宅する事にした。
萱島家に駆け込むと珍しく休みの美香さんがいて。
『わぁぁぁぁぁん、お、おかぁさん!』
晴が大泣きしながらその腰にヒシッと抱き着いた。
困惑する晴の両親に昼休みの前までは普通だった事と、帰る頃に様子がおかしくなった事を説明する。
『蓮君も遥ちゃんもありがとう。とにかく、いまは落ち着かせるから明日の朝迎えに来てくれるかな?』
ずっと側についていたかったが、憲人さんの言葉に渋々頷くしかなかった。
それでも気になって仕方なくて、次の日の朝はかなり早く萱島家に着いた。
『蓮君、お迎えに来てくれたのにごめんね。
晴が学校行くの嫌だって泣いてて。』
昨日泣きじゃくって眠った晴は、今朝になっても何一つ話さないまま。
そして、学校に行くのを嫌がっているらしい。
取り敢えずその日は休ませる事になったが…翌日以降も異変が続いた。
晴は幼稚園卒園を期に1人で眠れるようになっていたが(晴のためだからと美香さんに説得されて俺が折れた。)それができなくなってしまったらしい。
要は、母親がいないと眠れない状態に逆戻りだ。
さらに、頑張って学校に行こうとした晴が嘔吐したと聞いた時は胃の奥がザワリとした。
精神的ショックによる退行と、拒否反応による嘔吐。
最近読んだ心理学の本にあった症状と似ている。
あの日、晴に何があったーー?
それを突き止めなければ晴は回復しない。
家に上がらせて貰い、グッタリした様子で眠る晴の頬を撫でる。
その白い肌に涙の跡があるのを見て、腹の底が煮え立つような感情が湧き上がった。
これは怒りなんて生優しいモノではない。
晴をこんな目に合わせた奴を捻り潰してやる。
同じ苦しみを味わわせて、立ち直れないようなショックを与えて。
絶対に許さない。
憎悪の感情を知ったのは、この時だった。
『なぁ、一昨日もここで本読んでた?』
昼休み、晴のクラスの片隅で本を読む大人しそうな女子に話しかける。
『き、切藤くん…』
『俺の事知ってるんだね、野場さん。』
事前に調べておいた名前を呼ばれた彼女がうっすらと頬を染める。
『俺の幼馴染がさ、この間なんかに巻き込まれたみたいなんだよね。』
チラリと見ると、緊張した様子だ。
恐らく、何か知っている。
『あの…でも…。』
『野場さんが言った事、内緒にするから。
俺達だけの秘密にしよう?』
この頃、俺は自分の顔面が相当人の興味を引く事に気付いていた。
普段は鬱陶しいだけだが、晴の為になるなら利用しない手は無い。
案の定、赤くなった女子がこう答えた。
『2人の秘密なら、いいよ。あのね、五年生の人がアラン君に似てないって沢山言ってた。』
文法どうなってんだよと内心で舌打ちしつつ、詳しく話を聞くと、五年生の集団が晴を囲んでイチャモンを付けていたらしい。
『ハーフの癖に芸能人に似ていない』と言う馬鹿げた理由で。
『そうなんだ。因みに、その5年生って誰だか分かる?』
怒りを抑えて貼り付けた笑顔で聞くと、小声で答えがあった。
『えっと…ミズキちゃん。お家がご近所の。』
成る程な。これは有益な情報だ。
俺は何も言わずに踵を返すと、教室を出た。
後ろから何か言っている声が聞こえてきたが知ったこっちゃない。
もうお前に用はねぇよ。
晴が囲まれてる現場を見ていながらスルーした罪を不問にしてやっただけ有り難く思え。
調べると『ミズキちゃん』はすぐに分かった。
五年生のリーダー格。
さて、コイツをどうしてやろうか。
晴が吐かされた訳だから、物理的に同じ目に合わせるのもいいな。
力では5年生に勝てないが、人体には急所がある。
そこを肘で思い切り突いてやれば、苦しい呼吸に喘ぎながら嘔吐するだろう。
そうだな、それからーーー
『ちょっと、闇背負うのやめてよ。』
仄暗い思考に没頭していた俺は、背後の声に振り返る。
『うるさいな。』
『暴力とか、万が一晴が知ったら嫌われるけどいいの?』
『………』
バレるようなヘマはしないつもりだが、晴に怯えられる可能性を考えると危ない橋は渡れない。
ならば。
『精神的に潰す。』
『ノッた。』
当然のように遥が頷いた。
●●●
同担拒否だけど場合によっては手を組む幼なじみたち。
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