【完結まで残り1話】桜の記憶 幼馴染は俺の事が好きらしい。…2番目に。

あさひてまり

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もう一つのプロローグ

行方

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「ーーーーー!」

自分の叫び声で目を覚ました。

荒い呼吸をしながら身を起こすと、汗で張り付いたTシャツの気持ち悪さに顔を顰める。

ベッドサイドのデジタル時計にはAM3:00の表示。


またこの夢かよーーー。


ここ暫く、毎日のように見る夢の内容は最悪だ。


俺と別れた晴が、他人と結婚する。

思い出すだけでも鳥肌が立つような光景は妙にリアルで。

夢の中だってのに、揺れ動く自分の感情がダイレクトに伝わって来る。

行動も的確だ。

医者ではなく、全く興味が無い俳優になったのは、晴に見て貰える可能性があるから。

そして、晴が他人のものになった世界で自分の命をどう扱うかのかは…間違いない。


「救えねぇな…」

暗い部屋にポツリと落ちた独り言は、自分でも笑える程に情けなかった。

あんな夢を見るなんて、つまりは深層心理だ。

現実で俺が晴を失う可能性を示唆している。

隣に眠る温もりと匂いが無くなってから、繰り返し見るようになったのがその証拠だろう。


まだ深夜だが、もう眠れる気がしない。

大きく溜息を吐いて、出窓からバルコニーに出た。

俺の実家は緩く続く坂道の上にある為、見晴らしがいい。

時間のせいか住宅街の明かりはほとんどなく、草木が風に揺れる音が聞こえる程の静寂に包まれている。

電子タバコを口に咥えて携帯を眺めた。

替えたばかりのコレに登録してあるのは、たったの三件だけだ。

本当に連絡したい相手には繋がらない。

苦々しい思いで煙を吐き出し目を瞑る。


それでも、やらなければならない。


ヴヴヴ

ふいに携帯が振動して着信を告げる。

こんな時間にーーー?

嫌な予感しかしねぇな。

『蓮さん、遅くに申し訳ありません。』

相手は登録してある内の一人である親父の秘書だ。

いつも冷静で穏やかな彼の声からは、少しの焦りが感じられた。

「どうした?」

『実は…晴人さんが消えました。』

「…………………は?」

『申し訳ありません、こちらのミスです。まさかご自身で東京に戻られるとは思わず…。』

「……こっちに戻った所までは追えてんだな?」

『はい。一度マンションに戻られたのをコンシェルジュが確認しております。その後、再び外出したようです。』

それから、と一呼吸置いて続けられた言葉に、俺は実家を飛び出した。


バイクを猛スピードで走らせてるのに、まだ着かない。

大して離れていないはずの距離が、果てしなく感じられる。

ようやくマンションに着くと、脇目も振らずに部屋に駆け込んだ。



センサーでパッと着いた照明に照らされた玄関には、晴のスニーカーがあった。

それは、俺がクリスマスにプレゼントした物だ。

良く見るとシューズボックスが僅かに開いている。

中を確認すると、晴が実家から持って来た靴が無くなっていた。

あれは、ここ暫く履いてなかったはずなのにーー。

廊下を進んで晴人の自室に向かった。

クローゼットから、何かを引っ張り出した形跡がある。

調べると、良く着ている服が数枚見当たらない。

それから、寝る時に着るスウェット。

洗面所のクローゼットからは、下着が数枚消えていた。


そして、最後に辿り着いたリビングは荒れていた。

照明を付けてまず目に飛び込んで来たのは、割れたマグカップ。

同棲の記念に買ったそれを、晴は大層気に入っていた。

それが割れている事に驚きつつ近付いてーーー目を見張った。

そこに残された赤黒い痕。

指先を舐めて湿らせると、それを指でなぞった。

間違いない、血液だ。

背筋が凍って、思わず床に膝をついた。


落ち着け、大丈夫だ。

血の量は数滴、大きな怪我はしてない。

恐らくは、破片を拾おうとして切った傷。


むしろ、この場を放置して出て行った事の方が問題だ。

相当な理由が無ければ、晴はこの状態で出て行ったりしない。

そして、その『相当な理由』には心当たりがある。

ここ数ヶ月、晴に対する俺の態度は酷いものだった。

家に帰らず、連絡も取らず、大学に来たのすら追い返してーーー。


久しぶりに俺達の間に遥の話題が登った日。

あの日から、歯車が狂い出したように思う。

晴は何も悪くない。

全ては俺が中途半端だったせいだ。

そしてーーー

ずっと、晴に大きな隠し事をしていたせい。


愛想を尽かされて当然だ。


ふと、下げた視線にゴミ箱が映った。

何か大きな物が覗くそれを引っ張り出す。

それは、写真立てだった。

同棲前に、桜の木を背景に撮った写真。

撮影した時、晴はハシャいでいた。

これからの生活が楽しみで仕方ないと、楽しそうに笑って。


それを、捨てさせたのは俺だ。

どんな気持ちでこれを投げ入れたのかーー。

どれだけ晴を傷付けたのかーー。


焼け付くように胸が痛んだ。

「晴、ごめんな…。」


俺はきっと、未来永劫この瞬間を思い出して後悔し続けるだろう。

悪夢が現実になる気配に、目の奥が翳っていく。





それでも、今はやるべき事がある。


頭を振って、なんとか理性を呼び起こした。


携帯を取り出して、登録された連絡先を選択する。

朝の5時。

10回目のコールでようやく出た相手は、くぐもった声で文句を言って来た。

それを全て聞き流して告げる。



「晴がいなくなった。」



自分でも驚く程冷たいその声は、静まり返った部屋で粉々に砕け散った。


●●●


























晴人の服から下着からスニーカーまで、枚数と使用頻度しっかり把握してるの怖い。笑

あ、タバコは大人になってから!
バイクのスピードも守りましょうね、蓮!


次回から過去回想になります。
子供時代までタイムスリップ!













































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